送迎車は来ているのに、玄関で「行かない」と言われる朝
約束の時間になって送迎車が家の前に着いているのに、親は上着も着ず、「今日は行かない」「なんで俺を追い出すんだ」と動かない。準備を手伝う手も、声のトーンも、だんだん余裕をなくしていく。ようやく送り出せた日でも、玄関を閉めたあとに、どっと疲れが出る。
こういう朝を、何度も経験している人がこの記事を開いていると思います。
そして、たぶん口には出せない気持ちを抱えているのではないでしょうか。
「自分が休みたいから行かせているみたいで、後ろめたい」
「無理やり行かせる私は、冷たい人間なんじゃないか」
「でも、今日もこの人と一日中一緒だと思うと、もう持たない」
先に言っておきます。あなたは冷たくありません。そして、親の「行きたくない」も、わがままではありません。認知症のある人が拒否するときは、たいてい、本人なりの切実な理由があります。理由が見えてくると、責め合いから一歩抜け出せます。
この記事では、拒否の理由を見分けて、声かけと段取りを少し変えていく方法を、一緒に考えていきます。
「わがまま」ではなく理由がある。まず拒否のタイプを見分ける
同じ「行きたくない」でも、心の中で起きていることは人によって違います。理由が違えば、効く手も変わります。まず、親御さんがどのタイプに近いかを見てみましょう。
| 拒否のタイプ | 本人の心の中(想像) | 見分けるヒント |
|---|---|---|
| 未知への不安 | どこへ、何をしに連れて行かれるのか分からず怖い | 行き先や目的を何度も聞く、支度の段階からそわそわする |
| プライド・年寄り扱いへの抵抗 | あんな年寄りの集まりに、なぜ自分が。世話になりたくない | 「幼稚園じゃあるまいし」「まだ元気だ」と言う |
| 前回の嫌な記憶 | この前、いやな思いをした(入浴の羞恥、人間関係など) | 楽しく通っていたのに、急に行かなくなった |
| 体調をうまく言えない | だるい・痛い・気分が悪いが、言葉にできない | ふだんと様子が違う、食欲や表情の変化がある |
| 朝の慌ただしさに反応 | 家の空気がピリピリしていて落ち着かない | 準備でバタバタした日ほど拒否が強い |
| 追い出される感覚 | 家族に邪魔者扱いされている気がする | 「俺がいると迷惑なんだろう」といった言葉が出る |
「急に行かなくなった」ときは、とくに前回のトラブルか体調の変化を疑ってみてください。この二つは、本人が言葉にできないまま拒否として出ることが多いからです。
理由が違えば、効く声かけも変わります
タイプの見当がついたら、それに合わせて声かけや段取りを変えます。全部を一度に試さなくて大丈夫です。近いものから一つ、明日ためしてみてください。
| タイプ | 効きやすい声かけ・工夫 |
|---|---|
| 未知への不安 | 「デイ」と説明するより、なじみの職員の名前や写真を見せて「○○さんに会いに行こう」。まずは見学だけから |
| プライド・年寄り扱い | 「介護される場所」ではなく「体を動かす」「できることを増やす」場所と伝える。役割(手伝い・得意なこと)を持たせてもらう |
| 前回の嫌な記憶 | 何があったか事業所に共有して原因を探す。解決が難しければ変更も検討 |
| 体調をうまく言えない | 無理に行かせず様子を見る。続くようならかかりつけ医に相談 |
| 朝の慌ただしさ | 前日や当日朝に、同じ言葉で早めに予告。毎回同じ時間・同じ順番にする。家族が焦らない |
| 追い出される感覚 | 「あなたが通ってくれるおかげで、私も助かっている」と感謝の形で伝える |
声のかけ方も、少し変えるだけで反応が変わります。「デイに行くよ」と正面から言うより、本人が納得できる「今日の用事」に置きかえるほうが、すっと動いてくれることがあります。うそをつくのは気が引けるかもしれませんが、本人が安心して動けることを優先する、という考え方です。
やってはいけないのは、「無理やり」と「問い詰め」です
よかれと思ってやりがちですが、逆効果になりやすい対応があります。ここだけは避けてください。
無理やり車に乗せようとすると、その日の拒否が強まるだけでなく、「あそこは嫌な場所だ」という記憶が残り、次からもっと行きたがらなくなります。否定的な感情は、認知症があっても記憶に残りやすいのです。また、「どうして行かないの!」と問い詰めるのも、本人を追い込んで口を閉ざさせてしまいます。
| 逆効果になりやすい言い方 | 届きやすい言い方 |
|---|---|
| どうして行かないの!みんな待ってるのに | 何か気になることでもある? よかったら聞かせて |
| いいから早く乗って(腕を引く) | (同じ目線で)今日は○○さんが待ってるよ。少しだけ行ってみない? |
| 行かないと私が困るんだけど | あなたが行ってくれると、私もすごく助かるんだ |
接するときは、立ったまま見下ろさず、しゃがんで目線を合わせるだけでも、相手の身構えがほどけることがあります。強い口調は、たいてい拒否を強くします。
家族の言葉より、プロの一言が効くことがあります
不思議なもので、家族がいくら言っても動かないのに、事業所のスタッフや、信頼している他人の一言なら、すんなり受け入れることがあります。家族に言われると「邪魔だと思われている」と感じてしまう人ほど、この傾向があります。
だから、家族だけで抱え込まないでください。頼れる相手がいます。
- デイの生活相談員や職員に、拒否があることを正直に伝える(気が引けても、それは大切な情報です。職員は「行きたくない」という人に慣れています)
- 「特定の職員には安心する」「朝が苦手」など、些細なことも共有すると、送迎や声かけを工夫してくれる
- 担当のケアマネジャーに相談し、サービスの内容や事業所の見直しを一緒に考えてもらう
- 朝の送り出しがどうしても難しいときは、訪問介護(ヘルパー)に支度や誘導を頼める場合もある(手配はケアマネ経由)
「うちの親が迷惑をかけて申し訳ない」と感じる必要はありません。事業所にとっても、本人と家族が穏やかに過ごせることが目標です。拒否は、迷惑ではなく、一緒に考える課題としてとらえてくれます。
「見学だけ」「半日だけ」から、階段を上るように慣らす
最初の一歩が、いちばんの難関です。逆に言えば、一度通えるようになると、その後は案外スムーズになることも多いです。だから、いきなりフル参加を目指さず、小さく刻みます。
| 段階 | 内容の例 |
|---|---|
| 1. 見学だけ | 「どんな所か見に行くだけ」と、場所と人に慣れてもらう |
| 2. 短時間から | 午前だけ、半日だけにする。「合わなければ途中で帰れる」と事前に事業所と約束しておく |
| 3. 家族が付き添う | 最初は一緒に行き、「ここは楽しいね」と前向きな言葉をかける |
| 4. 徐々に延ばす | 慣れてきたら時間や回数を増やしていく |
デイで作った作品を玄関に飾ったり、リハビリの成果を話題にしたりして、「行くと良いことがある」という記憶を残していくのも効きます。焦らず、今日の拒否がずっと続くわけではない、と長い目で見てください。
それでも合わないなら、デイを「選び直す」という手
工夫を重ねても、どうしても合わないことはあります。評判が良くても、家族の目に良さそうでも、本人の感じ方は別です。相性が悪いのは、失敗ではありません。
デイサービスにはいくつかタイプがあり、選び直すと通えるようになることがあります。
| タイプ | 向いていることがある人 |
|---|---|
| 一般的なデイサービス(通所介護) | レクや入浴、食事、交流を楽しめる人 |
| 認知症対応型通所介護(認知症デイ) | 少人数で、認知症に慣れた専門的なケアを受けたい人 |
| 機能訓練特化型・半日型 | レクが苦手、体を動かしたい、短時間がいい人(男性にも合うことがある) |
| 通所リハビリ(デイケア) | リハビリ目的で、医療的な関わりを求める人 |
変更を考えるときは、ケアマネジャーに相談し、候補を見学してみてください。見学では、職員の表情や声かけ、利用者の雰囲気、入浴やレクの様子など、パンフレットでは分からない「空気」を見ておくと、相性を見極めやすくなります。
無理に行かせようとする自分を、責めないでください
ここは、はっきり伝えておきたい部分です。
デイサービスは、本人のためだけのものではありません。介護している人が休み、倒れずに介護を続けるための「休息の時間」でもあります。あなたが数時間でも息をつくことは、わがままではなく、共倒れを防ぐために必要なことです。
「自分が休みたいから行かせている」と後ろめたく感じるなら、それを責める言葉ではなく、感謝の言葉に変えてみてください。「あなたが通ってくれるから、私もがんばれている」。これは、本人の背中を押す言葉にもなります。
それでも毎日がつらく、眠れない・涙が出る・気持ちに余裕がまったくない、という状態が続くなら、介護者自身のケアが必要なサインかもしれません。担当ケアマネや地域包括支援センター、認知症の人と家族の会などに、あなた自身のしんどさを話してみてください。一人で抱える必要は、まったくありません。
立場によって、まず動きやすいことは違います
あなたがどの立場かで、最初の一歩は変わります。
| あなたの立場 | まず動きやすいこと |
|---|---|
| 同居して介護している子ども世代 | 拒否の理由を一つ見立て、事業所に共有。朝の予告と声かけを変える |
| 配偶者(自分も高齢) | 一人で送り出そうとせず、ケアマネや訪問介護、子ども世代を巻き込む |
| 離れて暮らす子ども世代 | ケアマネに現状を聞き、事業所の見直しや訪問サービスの追加を相談 |
今日は、理由をひとつ見立てるだけで十分です
ここまで読んで、「結局どうすれば」とまだ迷っているかもしれません。それでいいです。今日、すべてを解決する必要はありません。
今日できるのは、とても小さなことです。
- 親の「行きたくない」が、どのタイプに近いかを一つ見立てる
- 明日の声かけを、一つだけ変えてみる(行き先を「用事」に言いかえる、写真を見せる、など)
- 担当ケアマネか事業所に、「拒否がある」と一言だけ共有しておく
親がデイを嫌がることは、あなたの介護が下手だからでも、愛情が足りないからでもありません。認知症という病気の中で、本人も不安を抱えているだけです。理由が少し見えれば、明日の朝は、今朝より少しだけ楽になります。
焦らなくて大丈夫です。今日の一歩は、責め合いをやめて、理由を一つ想像してみること。それだけで、十分に前に進んでいます。
出典・確認先メモ
- デイサービスの利用調整や事業所の変更は、担当のケアマネジャーが窓口です。担当がいない場合は、お住まい(または親御さんの住所地)の地域包括支援センターへ。
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」(地域包括支援センター・認知症の相談窓口の案内)
- 認知症の人と家族の会 電話相談:0120-294-456(携帯・PHSは050-5358-6578/通話有料)。介護経験者が相談に応じます。受付時間などは変更される場合があるため、最新情報をご確認ください。
- 急な拒否の背景に体調の変化が疑われるときは、かかりつけ医にご相談ください。効く対応や合う事業所は人によって異なるため、専門職と相談しながら進めるのが確実です。















