「今日は日曜日でしょう」と言う母に、思わず強い声が出た
平日の朝、母から電話がかかってきました。
「今日は日曜日だから、病院は休みよね」
実際は水曜日です。午後には、母が以前から予約していた内科の診察があります。
「今日は水曜日だよ。昨日も話したでしょう」
少し強い声で伝えると、母は黙り込んだあと、「そんなに怒らなくてもいいじゃない」と電話を切りました。
こちらには、受診を忘れたら困るという焦りがあります。
けれど、電話を切ったあとには別の不安が残ります。
「曜日を間違えるのは、認知症の始まりなのだろうか」
「前から間違えていたのに、私が気づかなかっただけかもしれない」
「病院へ連れて行くと言えば、怒って拒否されそう」
一度の言い間違いを深刻に受け止めすぎたくはありません。
一方で、「年を取れば誰でもある」と見過ごし、薬や通院、火の始末に影響するところまで進むのも心配です。
見るべきなのは、正しい曜日を答えられるかだけではありません。
間違え方、繰り返し方、生活への影響を一緒に見ていきます。
一度の言い間違いだけでは、認知症かどうかは分からない
曜日や日付は、祝日、連休、仕事を退職した後、外出予定の少ない生活などで分かりにくくなることがあります。
国立長寿医療研究センターは、加齢によるもの忘れでは日時の細かな部分を間違えてもおおよそ合っていることがある一方、認知症では実際と大きく異なる日付や時間を言うことがあると説明しています。認知症は、記憶や見当識などの認知機能が持続的に低下し、日常生活へ支障が出ている状態を指します。
| 様子 | 見守りながら記録したい状態 | 受診を考えたい状態 |
|---|---|---|
| 間違える頻度 | たまに一日ずれる | 同じ日に何度も聞く、毎週のように間違える |
| カレンダーを見た後 | 「あ、水曜日だった」と直せる | 見ても納得できない、すぐ元の曜日へ戻る |
| 間違いの大きさ | 前日や翌日と取り違える | 季節、月、年まで大きく違う |
| 予定への影響 | 声をかければ予定どおり動ける | 通院、約束、支払いを繰り返し逃す |
| ほかの変化 | 生活は以前とほぼ変わらない | 薬、料理、買い物、運転などにもミスが増えた |
この表だけで診断できるわけではありません。
「曜日を間違えた」という一点ではなく、以前と比べて何が変わり、生活のどこに影響しているかを見るための目安です。
カレンダーを見て直せるかより、「その後に行動できるか」を見る
親に日付を尋ね、正解か不正解かを確かめるだけでは、暮らしの状態は分かりません。
たとえば水曜日を火曜日と答えても、カレンダーを見て受診の準備ができるなら、生活への影響は限られているかもしれません。
反対に、日付を正しく答えられても、次のようなことが増えている場合は注意が必要です。
- 通院の予約をしたこと自体を忘れる
- ごみを違う曜日に出すことが続く
- 薬を飲んだことを忘れ、同じ分をもう一度飲もうとする
- 翌月の請求書を、今日払わなければならないと思い込む
- デイサービスのない日に迎えを待ち続ける
- 夜中を朝だと思って外出の準備をする
- 慣れた場所へ行く途中で道が分からなくなる
政府広報オンラインでは、認知症が疑われる初期の言動として、約束の日時や場所を間違える、同じことを何度も尋ねる、料理・片付け・計算・運転などのミスが増えるといった変化を挙げています。複数の変化が重なっている場合は、専門医や相談機関へつなぐ目安になります。
日付の間違いを、親への抜き打ちテストにしない
心配になると、家族は毎日確かめたくなります。
「今日は何月何日?」
「何曜日か分かる?」
「昨日はどこへ行った?」
正解を確認する質問が続くと、親は試されている、できないことを責められていると感じる場合があります。
答えを引き出すより、必要な情報を自然に会話へ入れてください。
| 避けたい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 「今日は何曜日か言ってみて」 | 「今日は水曜日だね。午後は病院の日だよ」 |
| 「また間違えたの?」 | 「カレンダーを一緒に見ようか」 |
| 「昨日も説明したでしょう」 | 「もう一度、紙に書いておくね」 |
| 「認知症になったんじゃない?」 | 「最近、予定が分かりにくそうだから、体調も含めて診てもらおう」 |
| 「分からないなら私が全部決める」 | 「一人で難しいところだけ一緒にやろう」 |
厚生労働省の意思決定支援の考え方では、認知症があっても本人の意思を尊重し、理解しやすい情報の伝え方や環境を工夫しながら、本人が選べるよう支えることが重視されています。
家族が記録するのは、正解数ではなく前後の出来事
診察で「いつからですか」と聞かれても、日々の小さな変化は思い出しにくいものです。
一、二週間だけ、気づいた場面を記録してください。
| 記録すること | 記入例 |
|---|---|
| 日時 | 7月29日午前9時 |
| 本人が言ったこと | 「今日は日曜日だから病院は休み」 |
| 実際の日付・予定 | 水曜日。午後2時に内科受診 |
| 伝えた後の反応 | カレンダーを見て納得したが、30分後にもう一度聞いた |
| 生活への影響 | 着替えや診察券の準備ができなかった |
| ほかの変化 | 昨夜あまり眠っていない。朝食は食べた |
| 体調・薬の変化 | 前日から風邪薬を飲み始めた |
家族が離れて暮らしている場合は、電話の内容だけでなく、近所の人、デイサービス、訪問介護などから聞いた具体的な変化も書きます。
「最近おかしい」ではなく、「同じ朝に曜日を三回尋ねた」「薬を二日続けて二重に飲もうとした」と伝えると、医療・介護の担当者が状況を把握しやすくなります。
曜日以外に変わったことがないか、五つの生活場面を見る
日付の間違いが気になったら、家の中を捜査するように細かく調べる必要はありません。
次の生活場面に、以前との違いがないかを見てください。
| 生活場面 | 気づきたい変化 |
|---|---|
| 薬 | 飲み忘れ、二重服用、曜日ごとの薬を取り違える |
| 食事 | 食べたことを忘れる、同じ物ばかり買う、鍋を焦がす |
| お金 | 同じ請求を繰り返し払う、支払期限を理解できない |
| 外出 | 約束のない日に出かける、帰り道が分からなくなる |
| 連絡 | 同じ人へ何度も電話する、電話を受けたことを忘れる |
国立長寿医療研究センターは、認知症かどうかを考えるうえで、もの忘れの内容だけでなく、金銭管理、服薬、買い物、家事などの日常生活に支障が出ているかが重要だと説明しています。
急に曜日が分からなくなった場合は、認知症の進行だけと考えない
昨日までは普段どおりだったのに、今日になって急に日付も場所も分からなくなった。
受け答えがぼんやりしている。昼は眠り込み、夜になると落ち着かない。
このように数時間から数日で急に起きた変化は、ゆっくり進む認知症とは別に、せん妄など体調悪化による混乱も考える必要があります。
せん妄では、時間や場所が急に分からなくなる、注意力が落ちる、一日の中で状態が変動するといったことがあります。感染症、脱水、便秘、睡眠不足、薬の影響、入院や環境の変化などが関係する場合があるため、急な変化は早めに医療機関へ伝えてください。
| 変化の出方 | 家族の動き |
|---|---|
| 数か月かけて少しずつ間違いが増えた | 記録を付け、かかりつけ医やもの忘れ外来へ相談する |
| 数時間から数日で急に分からなくなった | その日のうちに、かかりつけ医や医療機関へ連絡する |
| 発熱、食欲低下、尿の異常、脱水、薬の変更を伴う | 症状と服薬内容を医療機関へ具体的に伝える |
| 意識がもうろうとして呼びかけへの反応が悪い | 緊急性を判断し、迷う場合は救急相談や119番を利用する |
服用中の薬が原因かもしれないと思っても、家族の判断で急に中止せず、お薬手帳や薬の現物を医師・薬剤師へ見せてください。
ろれつや手足の異常があれば、曜日を確かめ続けない
日付が分からないことに加え、次のような症状が急に現れた場合は、脳卒中など緊急の病気も考えられます。
- 顔の片側がゆがむ
- ろれつが回らない
- 片方の腕や足に力が入らない
- 突然、経験したことのない激しい頭痛がある
- 急に立っていられないほどふらつく
- 見える範囲が狭くなる、物が二重に見える
- 呼びかけへの反応が普段と明らかに違う
この場合は、日付を答えさせて様子を見るより、迷わず119番へ連絡してください。厚生労働省も、高齢者に突然の顔のゆがみ、ろれつの異常、片側の脱力、激しい頭痛などがある場合は、救急車を呼ぶ症状として案内しています。
カレンダーは「間違いを指摘する道具」ではなく、次の行動を示す道具にする
家の中へ時計やカレンダーを増やしすぎても、どれを見ればよいか分かりにくくなる場合があります。
本人が普段過ごす場所に、見やすい物を一つ置きます。
- 今日の日付と曜日が大きく見えるカレンダー
- 通院やデイサービスを書いた一週間の予定表
- 終わった予定へ本人と一緒に印を付けるペン
- 朝・昼・夜が分かりやすい時計
- 服薬済みかを確認できる薬箱や記録表
予定表には、家族しか分からない略語ではなく、「午後2時 内科」「午前10時 デイサービス」のように書きます。
予定が変わったら、古い紙を残さず、一つの予定表だけを更新してください。
時計やカレンダーで時間・日にちを分かりやすくする環境調整は、混乱している高齢者を安心させる方法としても用いられます。
ごみ出しや通院は、記憶だけに任せない仕組みへ変える
日付の間違いが生活へ影響し始めたら、「覚えていてね」と繰り返すだけでは足りません。
| 困っていること | 仕組みの例 |
|---|---|
| ごみの日を間違える | 前日の夕方に家族が連絡し、玄関へ出す袋は一つだけにする |
| 通院日を忘れる | 家族も同じ予定を登録し、前日と当日に連絡する |
| 薬を重ねて飲む | 一回分ずつ分け、飲んだ時間を記録する。必要なら薬局へ相談する |
| デイサービスの曜日を間違える | 迎えが来る日の札を、朝に見える場所へ出す |
| 支払期限を取り違える | 重要な支払いを家族と共有し、口座振替なども検討する |
本人ができることまで家族が奪うのではなく、間違えると危険や損失につながる部分から支えます。
親を病院へ誘うときは、「認知症の検査」と正面から迫らない方法もある
親へ「認知症かもしれないから病院へ行こう」と言うと、強く拒否されることがあります。
本人にとっては、能力を否定された、家族に見放されると感じる言葉かもしれません。
実際に困っている体調や生活場面から切り出します。
| 親の様子 | 切り出し方の例 |
|---|---|
| 日付を何度も尋ねる | 「最近、予定が分かりにくそうだから、体調や薬も含めて先生に聞いてみよう」 |
| 本人も忘れっぽさを気にしている | 「治せる原因がないか、一度調べてもらうと安心できそうだね」 |
| 持病で通院している | 「次の診察で、最近の眠りや物忘れも一緒に話してみない?」 |
| 病院を嫌がる | 「私が心配なので、先生に話を聞いてもらうのに付き合ってほしい」 |
認知症を早く見つける意味は、診断名を付けることだけではありません。治療できる別の病気を見つける、進行を緩やかにする治療を検討する、本人が今後の暮らしを自分で考える、家族が早めに支援を知るといった利点があります。
最初の相談先は、かかりつけ医でもよい
認知症かどうかを自分たちで判断してから、専門病院を探す必要はありません。
持病を診てもらっているかかりつけ医がいれば、最初に生活の変化を伝えます。
必要に応じて、もの忘れ外来、脳神経内科、精神科、老年内科、認知症疾患医療センターなどへ紹介してもらえます。かかりつけ医がいない場合は、地域包括支援センターへ受診先を尋ねることもできます。
予約の電話では、次のように伝えてください。
「母が日付や曜日を繰り返し間違え、通院や服薬にも影響が出ています。急な変化ではなく、二か月ほど前から少しずつ増えています。本人と家族で受診したいのですが、どのように予約すればよいですか」
診察へ持っていくのは、親の失敗一覧ではない
受診時に必要なのは、親を責める材料ではありません。
医師が変化の経過と生活への影響を知るための情報です。
- 間違いが増えた時期と具体例
- 本人がカレンダーを見た後の反応
- 通院、服薬、買い物、料理などへの影響
- 発熱、痛み、排尿、便秘、食欲、睡眠の変化
- 現在使っている薬と、最近追加・変更した薬
- 転倒や頭を打ったことの有無
- 本人が困っていること、続けたい生活
初診時には、マイナ保険証などの受診に必要な物、お薬手帳、紹介状や過去の検査結果があれば持参します。国立長寿医療研究センターは、できれば家族と一緒に受診し、予約の要否を事前に医療機関へ確かめるよう案内しています。
本人の前で話しにくいことは、予約時に伝え方を聞く
本人の前で、「同じことを何度も聞く」「薬を二重に飲もうとした」と話すと、傷つけたり怒らせたりしそうで言いにくいことがあります。
予約時に、家族のメモを事前に渡せるか、本人と別に短く話せる時間があるかを聞いてください。
メモには、評価や決めつけを書かず、具体的な出来事を記します。
「認知症がかなり進んでいると思う」ではなく、次のように書きます。
「7月20日、朝食後に『まだ朝食を食べていない』と二回言った」
「7月25日、翌週の受診日に一人で病院へ行こうとした」
本人にも結果や治療について知る権利があります。本人が理解しやすい形で説明を受け、今後について一緒に考えられるよう、家族だけで診断や生活方針を決めないでください。
本人が受診を拒む場合、家族だけで相談してよい
何度誘っても、「私はぼけていない」「病院へ行く必要はない」と拒まれることがあります。
その場合は、本人を無理に車へ乗せようとせず、まず家族だけで地域包括支援センターへ相談できます。
地域包括支援センターは、認知症の診断前でも、本人だけでなく家族からの相談を受け、必要に応じて医療機関や認知症初期集中支援チームなどと連携します。
電話では、次のように伝えます。
「一人暮らしの母が曜日を繰り返し間違え、薬と通院にも影響が出ています。本人は受診を拒んでいます。家族として、どのように声をかけ、どこへつなげればよいか相談したいです」
本人の住所地を担当する地域包括支援センターが分からない場合は、市区町村の高齢者福祉担当窓口へ尋ねてください。
離れて暮らす家族は、電話の受け答えだけで判断しない
電話では普通に話せていても、実際には冷蔵庫の中が同じ食品でいっぱいになっていたり、郵便物がたまっていたりする場合があります。
反対に、電話で曜日を一度間違えただけで、生活全体が崩れているとは限りません。
帰省や訪問の際は、次の場所をさりげなく見てください。
- カレンダーに古い予定が残っていないか
- 薬が曜日どおり減っているか
- 冷蔵庫に傷んだ食品がないか
- 未開封の請求書や督促状がないか
- 同じ日用品を大量に買っていないか
- ガスや暖房器具を安全に使えているか
- 通院やデイサービスへ予定どおり行けているか
親の家を勝手に調べるのではなく、「薬を一緒に整理しようか」「次の通院日をカレンダーへ書こう」と声をかけながら見ます。
同居する配偶者がかばっている場合は、負担も聞く
父が曜日を間違えていても、母が予定をすべて管理し、外からは問題なく暮らしているように見えることがあります。
支える配偶者へは、本人の間違いだけでなく、次のことを聞いてください。
- 同じ説明を一日に何回しているか
- 薬や支払いを代わりに管理しているか
- 夜間に起こされることがあるか
- 一人で留守番させることへ不安があるか
- 支える側が眠れているか、外出できているか
「お母さんが見ているから大丈夫」で終わらせると、配偶者だけに負担が集中します。
日付の間違いが軽いうちでも、夫婦の暮らしがどこまで支えを必要としているかを地域包括支援センターやケアマネジャーへ伝えてください。
車の運転や火の扱いに影響しているなら、家族だけで様子を見続けない
曜日の間違いが、運転や火の扱いへつながっている場合は、事故を防ぐ対応を先に考えます。
- 通院日ではない日に車で出かけようとする
- 夜中を朝だと思い運転の準備をする
- 鍋を火にかけたまま日付を確かめに別室へ行く
- 薬を飲んだことを忘れ、車を運転する
本人へ「危ないから全部禁止」と一方的に伝えるだけでは、隠れて行動することもあります。
実際に起きた出来事を医師や地域包括支援センターへ共有し、移動手段や見守りも含めて考えてください。
今日するのは、親に正しい曜日を覚えさせることではありません
まず、親が日付や曜日を間違えた一場面だけを書いてください。
「水曜日を日曜日と言った」だけではなく、その後に何が起きたかまで続けます。
「カレンダーを見て一度は納得したが、30分後にまた日曜日だと言い、受診の準備ができなかった」
次に、次の三つを見ます。
- 急に始まった変化か
- 日付以外にも変化があるか
- 薬、通院、外出など生活へ影響しているか
急に始まったなら、その日の体調と服薬を見て医療機関へ連絡します。
少しずつ増えているなら、記録を持ってかかりつけ医へ伝えます。
本人が受診を拒むなら、家族だけで地域包括支援センターへ連絡してください。
親が曜日を間違えたとき、家族の役目は正解を言わせることではありません。いつから、どのように間違え、暮らしの何が難しくなっているかを見つけ、本人が生活を続けるための支えにつなぐことです。
一度の間違いに慌てなくて構いません。
ただし、同じ場面が繰り返されているなら、「また間違えた」で終わらせず、一行ずつ記録してください。
今日は診断を決める日ではなく、次に医師や相談員へ伝えられる具体的な出来事を一つ残す日です。
出典・確認先メモ
- 国立長寿医療研究センター「認知症とMCI」「もの忘れと認知症を知ろう」:加齢によるもの忘れと認知症の違い、見当識、日常生活への影響に関する確認先。
- 政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」:日時・場所の間違い、繰り返す質問、判断力の変化などの初期サインに関する確認先。
- 厚生労働省「認知症に関する相談先」:地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センター、もの忘れ外来に関する確認先。
- 国立長寿医療研究センター「よくある質問」:受診する診療科、初診時の持ち物、家族のみでの相談に関する確認先。
- 健康長寿ネット「せん妄」・厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」:急な混乱、体調・薬との関係に関する確認先。
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」:顔のゆがみ、ろれつ、片側の脱力、激しい頭痛など、緊急性の高い症状に関する確認先。















