「市役所の人と話したけれど、何だったか忘れた」と親から電話が来た
夕方、親御さんから電話がありました。
「市役所の人から電話が来て、保険料が戻ると言っていた」
詳しく聞いても、相手の名前は覚えていません。口座番号を伝えたか、暗証番号を聞かれたかも、はっきりしない。明日また電話すると言われたそうです。
思わず、「どうしてそんな電話を信じたの」「知らない番号には出ないでと言ったでしょう」と責めたくなるかもしれません。
けれども、親御さんは知らない相手を信じたかったわけではありません。
役所、警察、銀行、電話会社などを名乗られ、期限や逮捕、口座停止といった言葉で急かされると、普段は慎重な人でも判断を崩されます。相手は、考える時間を与えず、家族へ話させないように会話を進めます。
「次は気をつけて」と注意するだけでは、また電話が鳴ったとき、同じ状況が始まります。
必要なのは、親御さんの注意力を試すことではありません。
詐欺電話の相手と、できるだけ会話が始まらない電話環境を作ることです。
今も相手と連絡中なら、予防策より先に止めることがあります
相手から再び電話が来る予定になっている、ATMへ向かうよう指示されている、家へカードを受け取りに来ると言われた。そのような段階では、電話機の設定を考えるより先に、被害を止めます。
| 現在の状態 | すぐに行うこと |
|---|---|
| 電話で話しているだけで、まだ何も伝えていない | 理由を説明せず電話を切る。相手から示された番号へはかけ直さない |
| 氏名、住所、生年月日、口座番号などを伝えた | 警察相談専用電話「#9110」へ連絡し、金融情報を伝えた場合は金融機関にも知らせる |
| 暗証番号、インターネットバンキング情報、認証番号を伝えた | 利用している金融機関へ直ちに連絡し、口座・カード・ネット取引の停止を依頼する |
| 振込みや送金をした | 警察と金融機関へ直ちに連絡し、振込先口座の凍結や必要な届出について尋ねる |
| キャッシュカードや通帳を渡した | 銀行と警察へ直ちに連絡する。受取人を家族だけで追いかけない |
| 現金やカードを受け取りに来る予定 | 現金やカードを用意せず、110番へ連絡する。家族だけで相手と対面しない |
| 電子マネーを購入し、番号を伝えた | 発行会社と警察へ連絡し、レシート、カード、メッセージを残す |
送金後は、時間がたつほど犯人に引き出される可能性が高くなります。
親御さんが「大ごとにしたくない」「まだ詐欺と決まったわけではない」とためらっても、連絡だけは先に行います。
「だまされたと決めるためではなく、お金を止められる可能性があるうちに銀行へ聞こう」
この言い方なら、本人の失敗を責めずに動きやすくなります。
犯人との着信履歴、電話番号、メッセージ、振込明細、ATMの利用票、電子マネーのレシートは削除せず残してください。
詐欺かどうか迷う段階でも、お金、カード、暗証番号、認証番号が関係したら電話を切ります。役所や警察を名乗っていても、相手が教えた番号ではなく、自分で調べた公式番号へかけ直します。
対策の中心を「見破る」から「電話に出ない」へ変えます
詐欺の手口をすべて覚えるのは現実的ではありません。
息子を名乗る電話だけではなく、警察官、検察官、銀行員、自治体職員、通信会社などを名乗る電話があります。着信画面に実在する警察署などの番号を偽装表示したり、SNSやビデオ通話へ誘導して偽物の警察手帳や令状を見せたりする手口も確認されています。
「声がおかしかったら気づく」「警察の番号なら本物」という判断だけでは防ぎにくくなっています。
そこで、電話の内容ではなく、電話の入り口にルールを作ります。
- 電話帳に登録していない番号には、その場で出ない
- 留守番電話に用件が入ってから、必要な相手へかけ直す
- 非通知の着信は受けない
- 海外と通話しない家庭では、国際電話の着信を止める
- お金やカードの話が出た時点で、相手を問わず電話を切る
本当に必要な連絡であれば、相手は用件を残したり、改めて連絡したりできます。
電話に出ないことは失礼ではありません。知らない電話へすぐ応答しない生活に変えるだけです。
固定電話は、留守番電話だけで終わらせず設定を重ねます
固定電話を使っている親御さんには、次の順番で対策すると分かりやすくなります。
1.常に留守番電話へ切り替える
家にいるときも、電話を直接取らず、相手が名乗るのを聞いてから応答します。
親御さんが着信音を聞くと反射的に受話器を取ってしまう場合は、呼出音の回数を短くし、早めに留守番電話へ切り替わるよう設定します。
家族からの電話は、留守番電話へ切り替わった後に、
「私です。今電話に出られたら取ってください」
と声を入れる方法もあります。
2.電話番号を表示する
番号表示に対応する電話機とサービスを使い、知らない番号を見分けられるようにします。
NTT東日本・西日本では、対象回線について、70歳以上の契約者または70歳以上の方と同居する契約者を対象とした、番号表示・非通知拒否サービスの無償化が案内されています。対象回線や申込条件は契約先へ確かめてください。
「無料になるはずです」と電話をかけてきた相手へ申し込むのではなく、請求書に記載された電話会社の窓口や公式サイトから手続きします。
3.非通知の電話を拒否する
番号を知らせずにかけてきた相手へ、番号を通知してかけ直すよう自動音声で案内するサービスがあります。
親御さんが「非通知でも病院かもしれない」と心配する場合は、病院や介護事業所へ、電話番号を通知してかけてもらえるか先に聞いておきます。
4.国際電話を止める
電話番号の先頭に「+」が付く国際電話を使った詐欺が増えています。
普段、海外との通話を利用しない固定電話では、国際電話の利用休止を申し込めます。警察庁の案内では、国際電話不取扱受付センターの電話番号は0120-210-364です。
「+81」は日本の国番号ですが、番号表示だけで相手が本物だとは判断できません。知らない国際電話には出ず、折り返さないようにします。
5.防犯機能付き電話や録音機器を使う
電話が鳴る前に「防犯のため通話を録音します」と相手へ伝える機能や、通話を自動録音する機能を備えた電話機があります。
自治体や警察によっては、対策機器の貸出しや購入補助を行っている場合があります。市区町村名と「特殊詐欺対策電話 補助」で探すか、最寄りの警察署へ尋ねてください。
携帯電話は、親御さんが普段使う機能を残して設定します
携帯電話を一律に「登録外着信拒否」にすると、病院、宅配業者、介護事業所などからの必要な電話にも出られなくなることがあります。
先に、必要な連絡先を電話帳へ登録します。
- 家族
- かかりつけ医と利用している病院
- 薬局
- ケアマネジャーや介護事業所
- 大家、管理会社
- 利用している銀行や保険会社の公式窓口
その後、端末や通信会社の機能に応じて、次を設定します。
- 非通知の着信拒否
- 連絡先にない番号を消音する機能
- 迷惑電話の警告表示
- 国際電話や不審番号を判定するサービス
- 留守番電話
- SMS内の不審なリンクへの警告
設定が終わったら、家族の携帯、病院として登録した番号、未登録の別の電話から試しにかけます。
画面上でどのように表示されるか、親御さんと一緒に見ておくと、「知らない表示が出たら触らない」という判断がしやすくなります。
電話の横へ置くメモは、詐欺の種類ではなく三つの行動を書きます
電話の横に、詐欺の手口を何十種類も書いても、実際の電話中には読めません。
相手は「今日中」「逮捕される」「口座が止まる」と急かします。長い注意書きを読む余裕を奪うことが、犯人の狙いです。
メモには、次の三つだけを大きく書きます。
- 知らない番号には出ない
- お金・カード・暗証番号の話は電話を切る
- 切ったら○○へ電話する
「○○」には、親御さんが最初に連絡しやすい家族の名前と電話番号を入れます。
家族へ連絡がつかないときのために、警察相談専用電話「#9110」と消費者ホットライン「188」も添えておきます。
電話を切るときの言葉も、一つ決めておくと役立ちます。
「家族に確認して、こちらから公式の窓口へかけ直します」
相手が「電話を切ると手続きできない」「家族には話すな」と言っても、説明を続ける必要はありません。
「電話では決めません。失礼します」
これだけで切って構いません。
警察・役所・銀行を名乗る電話ほど、その場で信用しません
公的な肩書を名乗られると、「失礼があってはいけない」と電話を切りにくくなります。
次の言葉が出たら、相手の身分を問わず一度切ってください。
- 「あなたの口座が犯罪に使われています」
- 「あなたに逮捕状が出ています」
- 「資産を調査するため別口座へ移してください」
- 「キャッシュカードを交換します」
- 「暗証番号を確認します」
- 「還付金があるのでATMへ行ってください」
- 「携帯電話が二時間後に使えなくなります」
- 「未払い料金を電子マネーで支払ってください」
- 「この電話のことを家族に話さないでください」
警察官や検察官が、突然ビデオ通話をかけてきて、金銭を別口座へ移すよう求めることはありません。
着信画面に警察署の番号が出ていても、番号が偽装されている可能性があります。
相手の所属、氏名、内線番号を聞いたうえで電話を切り、自分で警察署の公式番号を調べてかけ直します。着信履歴からそのまま折り返す方法は避けてください。
家族の合言葉だけに頼らず、本人へかけ直します
オレオレ詐欺対策として、家族だけの合言葉を決める方法があります。
役立つ場面はありますが、合言葉だけを最終確認にしない方が安全です。
家族間の会話やSNSから推測される、親御さんがメモを見ながら電話で答えてしまう、といった可能性があるためです。
「子どもや孫が事故を起こした」「電話番号が変わった」と言われたら、いったん電話を切り、以前から登録している本人の番号へかけます。
本人につながらなければ、配偶者、勤務先、ほかの家族など、もともと知っている連絡先で確かめます。
新しい番号を伝えられても、その場では登録しません。
家族側からも、電話番号が変わったときは電話一本だけで済ませず、対面や複数の連絡手段で伝えると安全です。
「自分はだまされない」と言われたら、能力の話にしません
親御さんへ対策を勧めると、
「私はまだ判断できる」
「子ども扱いしないで」
「知らない番号にも出ないと失礼だ」
と拒まれることがあります。
そこで過去の失敗を並べると、電話設定の話が親御さんの能力判定に変わってしまいます。
避けたい言い方:
「最近忘れっぽいから、もう電話に出ないで」
伝えやすい言い方:
「今は警察の番号まで偽って表示されるらしい。誰でも見分けにくいから、うちも知らない電話は留守電にしよう」
または、
「お母さんを信用していないのではなく、相手と話さなくて済むようにしたいんだ」
と伝えます。
設定を勝手に変えると、必要な連絡が取れなくなったり、本人が元へ戻したりします。緊急の危険がない限り、何を止め、どの電話は受けられるようにするかを一緒に決めてください。
親御さんが話してくれたときは、最初に「教えてくれてよかった」と返します
詐欺電話の被害は、本人が恥ずかしさから家族へ言えず、対応が遅れることがあります。
「だまされるなんて信じられない」と責められると、次に不審な電話を受けても隠すようになるかもしれません。
親御さんから「変な電話が来た」と言われたら、まず、
「電話を切って教えてくれてよかった」
と返します。
すでに情報やお金を渡していた場合も、問い詰める前に、
「今から止められることを先にしよう。詳しい話はその後でいい」
と伝えてください。
電話中の細かなやり取りを思い出せなくても、親御さんの落ち度と決めつけません。相手は長時間話し続け、秘密を求め、恐怖を与えて冷静に考えにくい状態を作っています。
電話以外のお金の動きにも、本人の同意を得て備えます
詐欺電話を切っても、別の日にATMや銀行窓口へ誘導されることがあります。
親御さんと話せるうちに、利用している金融機関へ次の点を尋ねてください。
- 振込限度額やATM利用限度額を下げられるか
- インターネットバンキングを使わない場合、停止できるか
- カード利用や振込みの通知を本人が受け取れるか
- 家族への連絡制度や代理人届があるか
- 詐欺が疑われるときの連絡先
制度や利用条件は金融機関によって異なります。
家族が本人に黙って通帳やカードを持ち去るのではなく、本人と一緒に窓口へ行き、普段の生活に必要な金額を残しながら設定を変えます。
すでに認知機能が低下し、金銭管理全体が難しくなっている場合は、電話対策だけでは足りません。地域包括支援センター、かかりつけ医、金融機関へ、詐欺電話への対応だけでなく、支払い、通帳管理、契約の状況も伝えます。
遠方の家族は、毎日の監視ではなく連絡条件を決めます
離れて暮らしていると、親御さんが誰と電話したかを毎日確かめたくなります。
しかし、すべての通話を報告してもらう方法は、本人にも家族にも続きません。
連絡する条件を三つ程度に絞ります。
- お金、通帳、カード、暗証番号の話が出た
- 警察、役所、銀行から「今日中」と言われた
- 誰かが家へ受け取りに来ると言われた
この三つのどれかがあれば、相手との電話を切った後、家族へ連絡します。
家族側も、「仕事中だから後で」だけで終わらせず、すぐ出られないときの第二連絡先を決めておきます。
親御さんが通話履歴を一緒に見ることへ同意しているなら、帰省時に未登録番号からの着信が増えていないかを確かめる方法もあります。
監視のためではなく、同じ番号から繰り返し狙われていないかを見る目的を伝えてください。
電話勧誘で商品が届いた場合も、受け取ったままにしません
詐欺とは断定できなくても、電話で強引に海産物、健康食品、通信サービスなどを勧められ、親御さんが契約したつもりはないのに商品や書類が届くことがあります。
その場合は、事業者へすぐ支払ったり、商品を開封したりする前に、契約書面、電話番号、荷物の送り主を残します。
消費者ホットライン「188」へ電話すると、地域の消費生活センター等につながります。
「高齢の母が電話で何を承諾したか覚えておらず、商品が届きました。支払う前に、契約の成立と解約方法を確認したいです」
と伝えてください。
取引の種類や経緯によって対応が異なるため、事業者へ解約料を払う前に相談する方が安全です。
詐欺電話が何度も成功しかけるなら、電話設定だけで終わらせません
何度説明しても、知らない電話へ出る。翌日には家族ルールを忘れてしまう。相手に言われた内容を事実だと思い込み、家族の話を聞かない。
このような状態が繰り返される場合は、単に防犯意識が低いとは限りません。
次の変化も重なっていないかを見てください。
- 同じ説明を短時間に何度も尋ねる
- 請求書の二重払い、支払い忘れがある
- 知らない契約書や商品が増えている
- 通帳やカードを頻繁になくす
- 電話の相手を家族より強く信じる
- 詐欺について話すと強く怒る
- 料理、服薬、運転などにも失敗が増えている
複数の生活変化が続いている場合は、かかりつけ医や地域包括支援センターへ伝えます。
「詐欺電話へ何度も応答し、お金の話を翌日には忘れています。防犯電話の設定だけで足りるか、認知機能と生活支援も含めて見てほしいです」
地域包括支援センターは電話契約を止める場所ではありませんが、医療、介護、消費生活相談、権利擁護など、地域の支援へつなぐ入口になります。
今日は電話機の横で、家族から一度だけ試し電話をします
今夜、すべての対策を終える必要はありません。
まず親御さんの電話を留守番電話へ切り替え、家族の携帯から一度かけます。
着信音が何回鳴るか。留守番電話へ切り替わるか。親御さんが相手の声を聞いてから受話器を取れるか。この三点を一緒に試してください。
次に、電話の横へ次の一文を置きます。
「お金・カード・暗証番号の話が出たら、電話を切って○○へ連絡」
海外との通話が必要ない家庭では、国際電話の利用休止も申し込みます。
詐欺を見破れる親になってもらうことが目標ではありません。
電話に出なくても困らず、出てしまっても途中で切れ、切った後に責められず家族へ話せる。その三段階を作る方が、次の一本を現実に止めやすくなります。















