冷蔵庫の中は減っていないのに、本人は「食べている」と言うことがあります
久しぶりに実家へ行くと、冷蔵庫に先週の総菜が残っている。
炊飯器のご飯はほとんど減っておらず、台所には未開封のパンがある。親に聞くと、「ちゃんと食べているよ」「年を取れば量は減るものだ」と笑って話す。
けれど、よく見るとズボンが緩くなり、歩く速度も落ちている。以前は楽しみにしていた好物にも、箸があまり伸びない。
そんな様子を見ると、家族にはいくつもの心配が浮かびます。
「食べていないことを隠しているのではないか」
「病気が進んでいるのではないか」
「認知症で食事を忘れているのかもしれない」
「遠くに住んでいる自分が、もっと見に行くべきなのか」
心配のあまり、大きなお皿に盛って「もう少し食べて」と勧めたくなることもあるでしょう。
ただ、食事量が減る理由は一つではありません。病気や薬の影響だけでなく、歯や入れ歯の痛み、飲み込みにくさ、便秘、買い物や調理の負担、味やにおいの感じにくさ、気分の落ち込み、孤独などが重なっている場合があります。
「年齢のせい」と決めつけず、食べられない理由を生活場面ごとに分けていくことが、家族にできる最初の対応です。
今日の食事量より「急に変わったか」「水分まで減ったか」を見ます
一食だけ残したことと、数日かけて食事も水分も減っていることでは、緊急度が違います。
最初に見るのは、普段との変化です。
| 今の状態 | 家族の動き | 伝える・確かめること |
|---|---|---|
| 食べ物をのどに詰まらせた、呼吸が苦しい、返事がおかしい・意識がない | 119番を優先する | いつ、何を食べ、どんな症状が出たかを伝える |
| 突然ろれつが回らない、顔がゆがむ、片側の手足に力が入らない | すぐ119番する | 症状が始まった時刻を伝える |
| 水やお茶もほとんど飲めない、何度も吐く、尿が極端に少ない、ぼんやりしている | 当日中に医療機関へ連絡する。状態が強ければ救急要請を考える | 水分量、尿、発熱、嘔吐・下痢、持病、服薬を伝える |
| 水分で繰り返しむせる、飲み込んだ後に声が濁る、食べ物がのどに残る感じがある | 食事を無理に続けず、かかりつけ医へ早めに連絡する | 何を食べたときにむせるか、食後の咳や発熱があるか |
| 食事量の低下が続く、意図せず痩せた、歩く力や元気が落ちた | 近いうちに受診予約を取る | いつから、どの程度減ったか、体重変化、生活上の変化 |
| 一食だけ少なかったが、水分は取れ、会話・排泄・動きは普段どおり | 次の食事まで記録しながら見る | 胃もたれ、便秘、口の痛み、疲れ、気分などを聞く |
119番を呼ぶか迷う地域では、利用可能であれば救急相談窓口の#7119などへ電話できます。対応地域や受付時間は自治体によって異なります。
「昨日食べなかったから救急」「会話できるから大丈夫」と一つの情報だけで決めず、急な変化、水分、意識、呼吸、飲み込みを合わせて見てください。
最初の3日間は、食事・水分・体重を同じ紙に書きます
親御さんに「食べた?」と聞くだけでは、実際の量が分からないことがあります。
本人はパンを一口食べても「朝食は食べた」と答えるかもしれません。反対に、家族が「半分しか食べていない」と感じても、間食や飲み物で補えている場合があります。
診察や介護相談で伝えられるよう、まず3日分を簡単に記録します。
| 記録すること | 書き方の例 | 見えてくること |
|---|---|---|
| 食べた物と量 | 朝:食パン半枚、ヨーグルト1個/昼:うどん3分の1 | 主食だけか、たんぱく質も取れているか |
| 飲んだ物と量 | 湯飲み3杯、牛乳半杯、みそ汁1杯 | 食事と一緒に水分まで減っていないか |
| 食べにくかった理由 | 硬い、むせる、口が痛い、味がしない、胃がもたれる | 歯科・嚥下・内科のどこへ伝えるか |
| 排尿と便通 | 尿3回、色が濃い/便が4日出ていない | 脱水や便秘が食欲に影響していないか |
| 体温・体調 | 微熱、咳、だるさ、腹痛、吐き気、眠気 | 感染症や体調悪化が隠れていないか |
| 薬の変化 | 1週間前から新しい薬、飲む時間が変更 | 薬の副作用や飲み間違いを相談する材料 |
| 体重 | 同じ時間帯、同じ程度の服装で測る | 見た目では分かりにくい減少傾向 |
体重は毎食後に測る必要はありません。自宅で安全に測れるなら、同じ条件で定期的に記録します。
介護予防のチェックでは、6か月間に2~3kgの体重減少が低栄養リスクを見る目安の一つとして使われています。ただし、それより少ない減少でも、短期間で急に痩せた、食欲低下や体調変化を伴う場合は早めに伝えてください。
数字をそろえる目的は、家族が親を監視することではありません。「最近少ない気がする」を、医師や支援者と共有できる情報に変えるためです。
「食欲がない」の裏側を7つの生活場面に分けます
| 考えられる背景 | 生活の中で見えるサイン | つなぐ先の例 |
|---|---|---|
| 体の病気・感染症 | 発熱、咳、息切れ、胃もたれ、腹痛、吐き気、下痢、だるさ | かかりつけ医、内科 |
| 薬の影響・飲み間違い | 薬が増えた後から食べない、眠気、吐き気、口の渇き、便秘 | 処方医、薬剤師 |
| 歯・入れ歯・口の問題 | 硬い物を避ける、片側だけで噛む、口内炎、歯痛、入れ歯を外す | 歯科、訪問歯科 |
| 飲み込みの問題 | 水分でむせる、食後に咳、声が濁る、口に食べ物をためる | かかりつけ医から耳鼻咽喉科・リハビリテーション科等へ |
| 胃腸・便通の問題 | 少しで満腹、胃の張り、便秘、腹部不快感、吐き気 | かかりつけ医、消化器内科 |
| 買い物・調理の負担 | 冷蔵庫が空、同じパンばかり、包丁や火を使わなくなった | ケアマネジャー、地域包括支援センター、生活支援 |
| 気分・孤独・認知機能 | 一人だと食べない、配偶者との死別後に減った、食べたことを忘れる | かかりつけ医、地域包括支援センター、もの忘れ相談 |
複数の理由が重なることもあります。
たとえば、入れ歯が合わず肉を避けるようになり、買い物へ行く体力も落ち、一人の食卓が寂しくて一日二食になっている、という形です。
この場合、「栄養のある物を食べて」と言うだけでは変わりません。口の痛み、食材の入手、食事を共にする機会をそれぞれ補う必要があります。
むせや口の痛みがあるときは、料理を軟らかくするだけで終わらせません
噛みにくさや飲み込みにくさは、食事量を直接減らします。
次のような様子があれば、食卓で観察してください。
- お茶や汁物でむせる
- 食事中や食後に咳き込む
- 食後だけ声がガラガラ、ゴロゴロする
- 一口を飲み込むまで時間がかかる
- 頬や口の中に食べ物が残る
- 以前食べていた肉、野菜、漬物などを避ける
- 入れ歯を使わなくなった
- 発熱や肺炎を繰り返している
むせがあるときは、一口量を小さくし、急がせず、上体を起こして食べます。食べている途中で強く咳き込む場合は、さらに口へ入れず、落ち着くまで待ってください。
ただし、「むせるならすべて刻む」「水には濃いとろみを付ける」と自己流で固定するのは避けたいところです。食べ物を細かくしたことで口の中に散らばったり、とろみが濃すぎてのどに残ったり、水分摂取量が減ったりする場合があります。
食事形態、とろみの必要性、姿勢は、飲み込みの状態によって変わります。かかりつけ医や歯科へ伝え、必要に応じて嚥下機能を評価できる医療機関へつないでもらってください。
むせていないから必ず安全とも限りません。飲み込む力が大きく低下すると、誤嚥しても十分にむせないことがあります。食後の声や呼吸、発熱、肺炎の繰り返しも一緒に伝えます。
一度に増やすより、食べる一口の負担を小さくします
食事量が減った親御さんへ大盛りを出すと、見ただけで疲れてしまうことがあります。
最初から完食を目標にせず、少ない量でもエネルギーとたんぱく質を取りやすい形に変えます。
| 困っていること | 家庭で試しやすい工夫 |
|---|---|
| 一度に多く食べられない | 小皿に分け、三食に加えて少量の間食を使う |
| 主食だけで終わる | 卵、豆腐、ヨーグルト、牛乳、魚、肉、大豆製品などを少量添える |
| 料理をする体力がない | 冷凍食品、総菜、缶詰、宅配弁当を組み合わせる |
| においで食欲が落ちる | 冷たい料理やにおいの少ない物を試し、換気してから食べる |
| 食卓を見ると気が重い | 大皿ではなく、本人が食べきれそうな量だけ盛る |
| 一人では食べない | 家族との通話、短時間の同席、デイサービスや配食時の見守りを考える |
| 味が分かりにくい | 香り、だし、酸味、食感を活用し、極端な濃い味に頼りすぎない |
食べやすい例としては、小さなおにぎりと卵、うどんと豆腐、ヨーグルトと果物、茶わん蒸し、魚のほぐし身などがあります。
ただし、糖尿病、腎臓病、心不全、食物アレルギー、嚥下障害などで食事・水分の指示を受けている場合は、一般的な工夫をそのまま当てはめないでください。
栄養補助飲料やゼリーは、通常の食事だけで補いにくいときに役立つ場合がありますが、種類によって栄養成分や飲み込みやすさが異なります。持病や薬との関係もあるため、医師、管理栄養士、薬剤師へ目的を伝えて選びます。
「三食きちんと食べさせなければ」と家族が背負いすぎないでください。最初の目標は、食べられない原因を見つけ、水分と少量の食事を安全に保ち、受診や生活支援へつなぐことです。
「どうして食べないの?」より、答えやすい二択で聞きます
食べてほしい気持ちが強いほど、親子の会話が険しくなることがあります。
| 言いたくなる言葉 | 代わりに使える言葉 | 分かりやすくなること |
|---|---|---|
| 「どうして食べないの?」 | 「口が痛いのと、胃が重いのと、どちらが近い?」 | 食欲低下の理由 |
| 「もっと食べないとだめ」 | 「この一口で終わる? 10分後にもう少しにする?」 | 本人が食べられるペース |
| 「昨日も食べていないでしょう」 | 「昨日の朝は、パンとヨーグルトのどちらを食べた?」 | 実際に食べた物 |
| 「好きな物だけでは栄養が足りない」 | 「今入る物を先に食べて、卵か豆腐を少し足せそう?」 | 無理なく足せる食品 |
| 「病院へ行かなきゃ」 | 「食べられない理由を一度聞いてもらおう。私も一緒に説明するよ」 | 受診への抵抗感 |
「何が食べたい?」は、元気なときには答えやすくても、食欲が落ちている人には広すぎる質問です。
「冷たい物と温かい物ならどちら?」「ご飯と麺ならどちら?」のように、二つから選べる形にすると答えやすくなります。
食べなかったことを責めない方が、口の痛みや吐き気、飲み込みにくさなど、本人が隠していた理由を話しやすくなります。
遠くに住む家族は「食べた?」ではなく、具体的な一食を聞きます
離れて暮らしていると、親御さんの返事だけで判断しなければならないことがあります。
「ちゃんと食べたよ」という返答だけで終わらせず、問い方を少し変えます。
- 「朝は何を食べた?」
- 「パンは何枚くらい?」
- 「今日、お茶は湯飲み何杯飲んだ?」
- 「冷蔵庫に卵はまだある?」
- 「昨日と比べて、だるさは増えていない?」
本人の同意が得られるなら、次のような役割も家族で分けられます。
| 立場 | 持てる役割 |
|---|---|
| 親本人 | 食べた物をカレンダーへ一言書く、体重を定期的に測る |
| 近くの家族・親族 | 冷蔵庫、未開封食品、体重、口の状態を訪問時に見る |
| 遠方の家族 | 定時電話、配食や買い物支援の手配、受診メモの作成 |
| ケアマネジャー・訪問職 | 食事場面、生活動作、体重変化、必要なサービスを共有する |
| 地域包括支援センター | 介護認定前も含め、配食・見守り・生活支援など地域の窓口を案内する |
配食サービスを選ぶ場合は、料金や献立だけでなく、本人が容器を開けられるか、食べやすい硬さか、安否確認や不在時の連絡があるかも見てください。
カメラやセンサーで食事を監視するより、本人が受け入れやすい方法から始めます。目的は見張ることではなく、食べられない状態を早く見つけることです。
受診先は「食べない原因」に合わせて分けます
| 気になること | 最初の連絡先 | 持っていく・伝える情報 |
|---|---|---|
| 急な食欲低下、体重減少、発熱、胃腸症状、強いだるさ | かかりつけ医、内科 | 食事・水分記録、体重、体温、便通、持病 |
| 歯痛、口内炎、入れ歯の不具合、噛みにくさ | 歯科、訪問歯科 | 避けるようになった食品、痛む場所、入れ歯 |
| むせ、食後の咳、声の変化、のどに残る感じ | かかりつけ医から嚥下評価ができる診療科へ | むせた食品、動画が安全に撮れる場合は食事中の様子 |
| 薬を変えた後から食べない、眠い、吐き気、便秘 | 処方医、薬剤師 | お薬手帳、飲む時間、飲み忘れ・重複の有無 |
| 買い物・調理ができない、一人では食べない | ケアマネジャー、地域包括支援センター | 冷蔵庫の状況、家族の訪問頻度、困る曜日・時間帯 |
| 栄養の取り方や治療食が分からない | 医療機関の管理栄養士、自治体の栄養相談など | 食事記録、持病、検査結果、薬、本人の好み |
薬が原因かもしれないと思っても、家族の判断で中止や減量はしないでください。お薬手帳と食欲が落ち始めた時期を持って、処方医や薬剤師へ伝えます。
ケアマネジャーがいない場合、親御さんの住所地を担当する地域包括支援センターが入口になります。介護認定前でも、高齢者の生活、介護予防、見守りなどについて相談できます。
今日の目標は、一食を完食させることではなく「昨日との違い」を残すことです
食事量が減った親御さんを前にすると、家族は早く元に戻したくなります。
けれど、今日一日で原因を見つけ、食事量を元通りにしなくても大丈夫です。
今日するなら、次の5つを一枚に書いてください。
- いつから食事量が減ったか
- 今日食べた物と飲んだ物
- 体重がいつからどの程度変わったか
- むせ、口の痛み、発熱、吐き気、便秘、薬の変更があるか
- 明日、最初に連絡する相手は誰か
そして食卓では、「全部食べて」ではなく、「今日は何なら少し入りそう?」と聞いてみてください。
食事量の低下は、家族の料理や介護が足りないせいとは限りません。体の変化、口やのどの問題、暮らしの変化が重なっていることがあります。
食べさせることを一人で背負わず、昨日との違いを記録し、必要な相手へ渡す。
その一枚があれば、漠然とした心配を、次に取る行動へ変えていけます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」:食欲低下、義歯、嚥下、薬、孤独など低栄養の要因と食生活の確認先。
- 国立長寿医療研究センター「高齢者の食欲低下について」:加齢だけではない食欲低下の原因、受診、食卓での対応の確認先。
- 国立長寿医療研究センター「食事中にむせませんか?」:むせ、誤嚥、一口量、食べ方、とろみの注意点の確認先。
- 国立長寿医療研究センター「摂食嚥下障害」:症状、検査、食事形態や姿勢の評価に関する確認先。
- 国立長寿医療研究センター「体重減少の原因は?」:体重減少と病気、歯、嚥下、脱水などの確認先。
- 総務省消防庁「救急車利用リーフレット」:高齢者でためらわず119番すべき症状と救急相談の確認先。
- 厚生労働省「栄養改善マニュアル」:体重減少、食事・口腔・嚥下・買い物等の把握に関する参考。
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」:地域包括支援センター、配食・見守り等の生活支援の確認先。















