引き出しを全部開けても、通帳が見つからない
年金が入る通帳を見せてもらおうとしたところ、親御さんがいつもの引き出しを何度も探し始めました。
「この前までは、ここにあった」
寝室へ行き、台所へ戻り、同じ引き出しをもう一度開けます。印鑑について聞くと、「印鑑はあなたに渡したでしょう」と言いますが、受け取った覚えはありません。
先月も似たことがあり、そのときは衣類の間から通帳が見つかりました。
今回も家の中にあるだけかもしれない。それでも、誰かが持ち出していたら。知らないうちにお金を引き出されていたら。親御さんが自分で隠し、隠した場所を忘れているとしたら。
本人を責めれば、今後は何も見せてくれなくなるかもしれません。だからといって、見つかるまで待つだけでは預金を守れない場合があります。
この場面では、認知症かどうかを決めるより先に、紛失した物で取引される可能性を止めることが先です。
「家の中にあるはず」でも、銀行への連絡は先にできます
通帳、キャッシュカード、届出印の紛失に気づいたら、まず取引銀行の紛失・盗難受付窓口へ連絡します。
銀行によって対応は異なりますが、紛失した通帳やカードによる取引を一時的に止める手続きがあります。届出印をなくした場合も、紛失を届けたうえで、印鑑変更などの手続きを行います。
連絡する前に、次の情報を分かる範囲で用意してください。
- 親御さんの氏名、生年月日、住所
- 支店名と口座番号
- なくした物が通帳、印鑑、キャッシュカードのどれか
- 最後に見た日時と場所
- 不審な電話、訪問、ATM利用がなかったか
- インターネットバンキングを利用しているか
口座番号が分からなくても、銀行へ連絡すること自体を諦める必要はありません。どの情報があれば受け付けられるかを聞いてください。
家族だけで電話する場合、銀行は具体的な残高や取引内容を答えられないことがあります。それでも、紛失時の一般的な手続きや、本人を連れて行くときに必要な物は尋ねられます。
最初の一言は、次の内容で構いません。
「高齢の母が通帳と届出印の保管場所を思い出せません。盗難か自宅内の紛失かも分かりません。まず利用停止が必要か、本人と窓口へ行く場合に何を持参すればよいか教えてください」
見つかる可能性があっても、紛失の連絡を先に行えます。後から見つかった場合は、そのまま使用せず、利用を再開できるか取引銀行へ確認してください。
なくした物と預金の動きを分けて確かめます
通帳が見つからないことと、預金がなくなっていることは同じではありません。
慌てて「誰かに盗られた」と決めず、次の順番で状況を分けます。
| 現在の状態 | 優先する対応 |
|---|---|
| 通帳や印鑑だけが見つからず、不審な取引は確認されていない | 銀行へ紛失を届け、再発行・印鑑変更の手続きを聞く |
| キャッシュカードも見つからない | カード利用を止められるよう、銀行へ直ちに連絡する |
| 身に覚えのないATM出金や振込みがある | 銀行へ不正利用を申し出て、警察にも連絡する |
| 暗証番号を書いた紙も一緒になくなった | カード停止と暗証番号変更の必要性を銀行へ尋ねる |
| 家族や知人が通帳を持っている可能性がある | 本人の安全を確保し、返還を求める前に取引履歴と銀行手続きを確認する |
| 医療費や家賃の期限が迫っているが、本人の意思確認が難しい | 請求書を用意し、本人のための支払いとして対応できるか取引銀行へ相談する |
不正な出金が疑われる場合は、通帳の再発行だけで終わらせません。
取引日時、金額、利用されたATMや振込先を銀行へ尋ね、分かる範囲で記録します。キャッシュカード、本人確認書類、携帯電話などもなくなっていないか見てください。
盗難や不正利用が現在進行している場合は110番、緊急ではないものの犯罪の可能性について警察へ聞きたい場合は、最寄りの警察署または警察相談専用電話「#9110」が利用できます。
再発行の前に、本人がどこまで手続きを理解できるかを見ます
通帳や印鑑を再発行・変更する手続きは、原則として口座名義人である親御さん本人が行います。
家族が付き添える場合でも、銀行は本人へ直接、紛失した状況や手続きの意思を尋ねることがあります。
認知症の診断があるからといって、本人がすべての銀行手続きをできないと一律に決まるわけではありません。
今回の手続きについて、次の内容を理解し、自分の希望を伝えられるかを見ます。
- 通帳や印鑑をなくした可能性があること
- 古い通帳や印鑑を使えない状態にすること
- 新しい通帳や印鑑へ変更すること
- どの口座の手続きなのか
- 家族にどこまで手伝ってほしいか
難しい銀行用語を説明できる必要はありません。
「古い通帳を止めて、新しいものを作りたい」と本人が理解して選べるなら、本人を中心に手続きを進められる可能性があります。
一方、銀行へ行く目的を何度説明しても理解できない、手続きの途中で全く別の話になってしまう、誰に何を任せるかを判断できない場合は、委任状を書いてもらえば済むとは限りません。
家族が親の名前を書けばよい、とは考えないでください
親子であっても、家族が親御さんの名前を代わりに書いたり、印鑑を作り直して預金を引き出したりしてよいわけではありません。
親御さんのキャッシュカードと暗証番号を使い、家族がATMから生活費を引き出す方法も、銀行との契約や代理権の問題があります。
本人のために使うつもりでも、きょうだいから「勝手に引き出した」と疑われたり、本人の財産と家族のお金が混ざったりする原因になります。
銀行へは、曖昧に「家族が管理したい」と伝えるのではなく、何を代わりに行う必要があるかを説明してください。
「母は日常の買い物はできますが、通帳を何度もなくします。私が残高を自由に動かしたいのではなく、紛失手続きと毎月の生活費の引出しを、どの制度なら代わりにできるか知りたいです」
銀行によっては、本人が判断できるうちに代理人を届け出る制度や、代理人カード、財産管理に関するサービスなどを用意している場合があります。
名称、手続き、代理できる取引、利用条件は銀行ごとに違います。本人が理解し同意できる時期に、取引銀行へ尋ねることが出発点です。
「もう私が預かる」ではなく、本人が残したい自由を聞きます
通帳を何度もなくすと、家族はすべて預かりたくなります。
しかし、本人に説明せず通帳、印鑑、カードを持ち帰ると、親御さんにはお金を奪われたように感じられる場合があります。
実際、預金を守るための管理と、本人の自由を必要以上に取り上げることの境目は簡単ではありません。
親御さんが話を理解できるなら、次の三つを分けて聞いてください。
- 日常の買い物に、自分で使いたい金額
- 家賃、光熱費、医療費など、確実に支払いたい費用
- 家族に手伝ってほしい手続き
たとえば、年金が入る口座の通帳と届出印は決めた場所で保管し、日常の買い物には一定額の現金を使う方法があります。
公共料金や家賃を口座振替にし、本人が毎月窓口へ行かなくても支払いが続くようにする方法も考えられます。
ただし、口座を分ける、限度額を変更する、カードを停止するといった手続きは、本人の同意と銀行の手続きに沿って行います。
「全部こちらで管理する」ではなく、「なくすと困る物だけ、置き場所と扱いを一緒に決めたい」と伝える方が受け入れられやすくなります。
保管場所は「隠す場所」ではなく、本人が戻せる場所にします
防犯を意識するあまり、複雑な隠し場所を作ると、本人も家族も見つけられなくなります。
保管場所は一か所にし、使った後に戻せる位置を選びます。
- 通帳用の箱やケースを一つにする
- 銀行ごとに袋を分け、表へ銀行名を書く
- 新しい通帳と古い通帳を分ける
- 家族が移動したときは、本人と家族へ場所を共有する
- キャッシュカードと暗証番号を書いた紙を一緒に保管しない
- 保管場所そのものを目立つ紙へ大きく書かない
本人が別の場所へ移してしまう場合は、「また隠した」と責めず、なぜ動かすのかを見ます。
泥棒が心配なのか。家族に持っていかれると思っているのか。以前、通帳の場所を誰かに勝手に変えられた経験があるのか。
理由によっては、鍵のかかる保管箱より、本人と家族の信頼を作り直す方が先になることもあります。
お金の管理を手伝うなら、家族の財布と混ぜません
親御さんの買い物や支払いを家族が代行するようになると、少額の立替えが増えます。
「後でまとめればいい」と領収書を捨てていると、何に使ったか分からなくなり、きょうだい間の疑いにつながります。
親御さんのお金を扱う場合は、少なくとも次を残してください。
- 引き出した日と金額
- 支払った相手と目的
- 領収書や請求書
- 親御さんへ渡した現金の額
- 家族が立て替えた額と精算日
- 通帳、印鑑、カードを保管している人
専用の封筒やファイルを用意し、一か月ごとにまとめるだけでも違います。
きょうだいには、毎日の細かな買い物を逐一許可してもらう必要はありません。ただし、定期的に残高と大きな支出を共有すれば、「誰かが勝手に使っているのでは」という疑いを減らせます。
「母のために使ったから問題ない」ではなく、「母のために何へ使ったか説明できる」状態にしておくことが、本人と家族の双方を守ります。
本人が契約内容を理解できるなら、日常生活自立支援事業も候補です
親御さんだけでは銀行手続きや支払いが難しくなっているものの、支援内容を説明すれば理解し、利用するかどうかを決められる場合があります。
この段階では、社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業を利用できる可能性があります。
この事業では、契約に基づき、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などを行います。
地域や支援計画によって異なりますが、次のような支援が検討されます。
- 預金の払戻しや預入れに関する援助
- 公共料金や医療費などの支払い
- 日常生活に必要な現金の受渡し
- 定期的な訪問による生活状況の把握
ただし、不動産の売却、投資、相続手続きなど、財産全体を幅広く代理する制度ではありません。
また、本人が事業の契約内容を理解できることが利用の前提になります。利用料や具体的な支援範囲は地域によって異なるため、親御さんの住所地の社会福祉協議会へ尋ねてください。
「母は通帳を何度もなくし、支払日も忘れます。一方で、支援内容を説明すれば自分で希望を言えます。日常的な金銭管理の支援対象になるか聞きたいです」
相談しただけで、直ちに通帳を預ける契約が始まるわけではありません。本人の生活状況や希望を見たうえで、利用できるかが検討されます。
本人が重要な金融手続きを理解できない状態なら、代理権を整える必要があります
通帳の紛失だけでなく、預金の用途、契約、支払いそのものを理解することが難しくなっている場合、家族の声かけや保管方法だけでは限界があります。
銀行取引は、原則として本人の意思確認が必要です。
家族であるという理由だけでは、本人の預金を自由に引き出したり、解約したりできません。
継続的に本人の財産管理や法律行為を支える必要がある場合は、成年後見制度の利用が候補になります。
成年後見制度では、本人の判断能力の状態に応じて、家庭裁判所が後見人等を選びます。選ばれた人は、与えられた権限の範囲で本人の預金管理や契約を行います。
家族が申立てをしても、希望した家族が必ず後見人等に選ばれるとは限りません。また、制度が始まると、通帳を再発行できたからという理由だけで家族の希望により簡単に終了できるものではありません。
「銀行に言われたから、すぐ後見を申し立てる」と決める前に、次の点を整理します。
- 本人が現在どの取引を理解できないのか
- 必要なのは一度の再発行か、継続的な財産管理か
- 医療費、生活費、施設費など、支払い期限があるか
- 銀行独自の代理人制度を利用できないか
- 日常生活自立支援事業で補える範囲か
制度の窓口が分からない場合は、地域包括支援センター、市区町村の成年後見制度に関する中核機関、社会福祉協議会などへ現在の困りごとを伝えます。
支払期限が迫っていても、家族が無断で引き出す前に銀行へ話します
入院費や施設費、家賃の期限が迫っているのに、親御さんが意思を伝えられない場合があります。
成年後見の手続きが終わるまで支払いを待てないこともあるでしょう。
全国銀行協会は、預金者本人の意思確認ができない場合でも、本人の生活費、入院費、介護施設費などが必要なときは、まず取引銀行へ相談するよう案内しています。
実際に家族からの払出しや振込みに応じるか、どの書類が必要かは、金融機関と個別事情によって異なります。
次の物を用意して、取引銀行へ相談してください。
- 医療費、施設費、家賃などの請求書
- 支払期限が分かる書類
- 本人との関係が分かる書類
- 本人の状態を説明できる資料
- 家族の本人確認書類
- 成年後見などの申立てをしている場合は、その状況が分かる資料
「本人の預金を家族へ渡してほしいのではなく、この請求書を本人の口座から支払う方法があるか確認したいです」
このように、使い道と支払先を具体的に伝えます。
銀行が必ず応じるとは限りませんが、家族が無断でカードを使う前に、本人の利益のための支払いとして取り扱えるかを聞くことが先です。
通帳をなくす以外の変化も増えているなら、医療面も見ます
通帳や印鑑を一度なくしただけで、認知症とは判断できません。
保管場所を変えた、引っ越しや入院があった、家族が片付けた、視力が落ちて見つけられないといった理由もあります。
ただし、次の変化が重なっている場合は、お金の保管方法だけでなく、かかりつけ医へ生活全体の変化を伝えてください。
- 同じ通帳を何度も探している
- 印鑑を誰かに渡したという思い込みがある
- 同じ請求書を二度払う
- 支払い期限を過ぎても気づかない
- 必要のない現金を繰り返し引き出す
- 知らない契約や商品が増えている
- キャッシュカードの暗証番号が分からない
- 薬、通院日、火の元の管理にも失敗が増えた
受診時には、「物忘れがあります」とだけ伝えず、金銭管理で起きた出来事を説明します。
「三か月で通帳を四回なくし、同じ電気料金を二度払いました。薬の飲み忘れもあります。認知機能だけでなく、薬や体調も含めて見てほしいです」
本人が受診を嫌がる場合は、家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターへ、伝え方と支援方法を尋ねることもできます。
家族や知人が持ち出している疑いは、親子げんかで終わらせません
通帳がなくなるたび、特定の家族が実家へ来ている。本人が知らない出金がある。通帳を保管している家族が、残高や使い道を説明しない。
そのような場合は、本人の物忘れだけで片付けないでください。
本人の財産が、本人の意思や利益に反して使われている可能性があります。
疑いがある段階で相手を犯人と決めつける必要はありませんが、次の資料を残します。
- 身に覚えのない出金の日時と金額
- 通帳やカードがなくなった時期
- 本人と家族の説明
- 請求書、領収書、ATM利用明細
- 通帳やカードを扱っていた人
銀行へ不正利用の可能性を伝え、必要に応じて警察にも連絡します。
相手が同居家族や介護をしている人であっても、本人の財産を無断で使うことが許されるわけではありません。一方で、介護費を立て替えていた、本人から頼まれて引き出していたなど、事情がある場合もあります。
本人の安全や財産への侵害が疑われ、家族内だけでは確認できないときは、市区町村の高齢者福祉担当または地域包括支援センターへ相談します。
「通帳を管理している家族が出金内容を説明せず、本人も金額を把握できていません。経済的な権利侵害がないか、安全確認を含めて相談したいです」
脅し、暴力、通帳の強奪などが現在起きている場合は、家族だけで取り返そうとせず110番を優先してください。
今日は、取引銀行へ「紛失・代理・支払い」の三点を聞きます
家中の捜索を続ける前に、親御さんが利用している銀行を一つ選び、公式の紛失受付窓口へ連絡してください。
聞くことは三つです。
- 紛失した通帳、印鑑、カードを今すぐ止める必要があるか
- 本人と再発行手続きをする場合、何を持参すればよいか
- 今後、家族が支払いを手伝うために利用できる代理人制度があるか
支払期限が迫っている請求書があれば、四つ目として、本人のための支払いをどのように相談できるか尋ねます。
その後で、親御さんと保管場所を一か所だけ決めます。
通帳をすべて取り上げるか、このまま本人へ任せるか。その二択で決めなくても構いません。
本人ができる部分は残し、失いやすい物だけ仕組みで守る。それでも取引の意味を理解できなくなっていると分かった段階で、日常生活自立支援事業や成年後見制度へ支援を広げていけばよいのです。















