待ち合わせ場所に来ない親へ電話すると、「今日は約束していない」と言われます
母親と一緒に眼科へ行くため、午前10時に駅前で待ち合わせをしていました。
前の週に電話で話し、二日前にも「水曜日だからね」と伝えています。
ところが、約束の時間になっても母親は来ません。
電話をかけると、家で洗濯をしていました。
「今日、眼科へ行く約束だったでしょう」と言うと、母親は不機嫌そうに答えます。
「そんな約束はしていない。急に言われても困る」
子どもの側には、伝えた記憶がはっきりあります。つい、「何度も言ったよ」「メモも渡したでしょう」と強い口調になります。
その後、冷蔵庫を見ると、眼科の予定を書いた紙が貼ってありました。
「メモがあるのに、なぜ忘れるのだろう」
「ただのうっかりなのか、認知症の始まりなのか」
「このままでは通院や支払いまで任せられなくなるのではないか」
「指摘すると怒るから、もう何も言えない」
約束忘れが続くと、家族は忘れた一回だけでなく、これから起きるかもしれない問題まで考えて疲れてしまいます。
ただ、判断の手掛かりになるのは、忘れた回数だけではありません。
時間だけを忘れたのか、約束したことそのものが記憶に残っていないのか。ヒントを聞くと思い出すのか。忘れた結果、生活のどこに支障が出ているのかを分けて見ます。
「何時だったか忘れた」と「約束していない」は違う忘れ方です
| 親の様子 | 忘れ方の例 | 見ておきたい点 |
|---|---|---|
| 約束は覚えている | 「病院へ行くのは覚えているけれど、時間を忘れた」 | カレンダーやメモを見ると思い出せるか |
| ヒントで思い出す | 「駅前の眼科だよ」と言うと「ああ、そうだった」と気づく | 思い出した後に予定を立て直せるか |
| 約束したこと自体を忘れる | 「そんな話は聞いていない」と強く否定する | メモを見ても出来事を思い出せないか |
| 日時や場所を取り違える | 翌日だと思う、別の病院へ向かう | 時間・場所の間違いが増えているか |
| 忘れたことへの自覚が乏しい | 家族が伝えなかったことになっている | ほかの出来事でも同じことがあるか |
加齢によるもの忘れでは、出来事の一部を忘れても、手掛かりがあれば思い出せることが多いとされています。認知症によるもの忘れでは、体験した出来事そのものが抜け、ヒントがあっても思い出せないことがあります。
ただし、一回の会話だけで認知症かどうかを家族が判断することはできません。
約束した事実を覚えていない状態が繰り返すか、日常生活への影響が広がっているかを見て、医療機関で評価してもらいます。
忘れた回数より、以前との違いを三つ書き出します
親が昔から予定におおらかな人だった場合、一回の遅刻だけでは変化が分かりません。
半年前や一年前と比べ、次の三つがどう変わったかを書きます。
- 忘れる約束の種類が増えたか
- 忘れた後に自分で立て直せなくなったか
- 忘れたことによる生活上の困りごとが増えたか
| 以前の様子 | 最近の様子 |
|---|---|
| 予定を忘れても電話で思い出した | 電話をしても約束自体を否定する |
| 家族との食事だけ忘れることがあった | 病院、銀行、訪問予定も忘れる |
| カレンダーを見れば自分で出かけられた | 日付を見ても今日の予定だと分からない |
| 遅れそうなときは連絡できた | 約束の時間を過ぎても気づかない |
| 予定を自分で書き直せた | 同じ時間へ別の予定を入れる |
認知症の初期に見られる変化の例には、約束の日時や場所を間違える、同じことを何度も尋ねる、新しいことを覚えにくくなる、料理や計算などのミスが増えることなどがあります。複数の変化が重なっている場合は、早めに医療・福祉の窓口へつなげます。
急に約束が分からなくなった日は、物忘れの進行だけと決めつけません
これまで予定を管理できていた人が、数時間から数日の間に急に混乱した場合は、ゆっくり進む認知症とは別の体調変化も考えます。
次の症状が一緒にある場合は、予定管理の方法を考える前に救急対応を優先してください。
- 急にろれつが回らなくなった
- 顔の片側がゆがんでいる
- 片方の腕や足に力が入らない
- 支えなしでは立てないほどふらつく
- 意識がはっきりせず、呼びかけへの反応がおかしい
- 突然の激しい頭痛や呼吸困難がある
こうした症状は緊急性の高い病気でも現れるため、迷わず119番を考える目安として案内されています。
急な変化があっても救急症状はない場合は、発熱、脱水、転倒、睡眠不足、薬の変更などがなかったかを確認し、かかりつけ医へ伝えます。高齢者では、身体疾患や薬剤の影響による意識の混乱が、認知症のように見える場合もあります。
約束を伝えたつもりでも、本人には届いていないことがあります
家族は「電話で何度も言った」と思っていても、親が十分に聞き取れていなかった可能性があります。
| 伝えた場面 | 起きやすい行き違い |
|---|---|
| テレビを見ている親へ電話で伝えた | 周囲の音で日時を聞き間違える |
| 複数の予定を一度に話した | 最初の予定しか記憶に残らない |
| 「来週のいつもの時間」と伝えた | 具体的な日付や時刻が分からない |
| 家族が早口で説明した | 聞き返すのを遠慮して理解したふりをする |
| 補聴器を外している時間に話した | 聞こえなかったことを本人も認識していない |
加齢性難聴は、家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる一因になります。予定を忘れたように見えるときは、伝えた内容を聞き取れていたかも確かめてください。
来週ではなく、7月30日木曜日の午前10時です。
駅前の眼科へ行きます。
今、一緒にカレンダーへ書いてもいい?
短く、具体的に、一度に一つの予定を伝えます。曖昧な表現を避け、相手のペースに合わせることは、認知機能に不安がある人とのコミュニケーションでも勧められています。
予定は、冷蔵庫・手帳・スマホへ分散させず一か所へ集めます
忘れないように複数の場所へ書くと、かえってどれが最新の予定か分からなくなることがあります。
親が普段から目にする場所を一つ決めます。
| 管理方法 | 向いている親 | 使うときの注意 |
|---|---|---|
| 大きな月間カレンダー | 紙を見る習慣がある | 予定を書く場所を一つに固定する |
| 一日ごとの予定ボード | 月間表示では今日を見つけにくい | 朝に日付と予定を一緒に替える |
| 手帳 | 外出時も自分で予定を確かめられる | 家に置き忘れない仕組みが必要 |
| スマートフォンのカレンダー | 通知や画面操作に慣れている | 音を消していないか、充電があるかを見る |
| 家族共有カレンダー | 離れて暮らす家族が予定を入力する | 本人がその画面を日常的に見られるか確かめる |
新しいアプリが便利でも、本人が開かなければ予定表として機能しません。
見た目が簡単で、これまでの生活習慣に近い方法を選びます。
カレンダーには、予定名だけでなく出発までを書きます
「10時・眼科」とだけ書いても、何時に家を出るか、何を持つかが分からず、準備の途中で止まることがあります。
7月30日(木)
9時15分 着替える
9時30分 保険証・薬手帳・財布をバッグへ入れる
9時40分 家を出る
10時00分 駅前眼科
| 書いておくこと | 例 |
|---|---|
| 日付と曜日 | 7月30日木曜日 |
| 開始時刻 | 午前10時 |
| 家を出る時刻 | 午前9時40分 |
| 行き先 | 駅前眼科 |
| 一緒に行く人 | 娘が9時30分に迎えに来る |
| 持ち物 | 保険証、診察券、薬手帳 |
| 終わった後 | 娘と昼食、午後1時ごろ帰宅 |
予定を守るためには、記憶だけでなく、準備を順番に進める力も必要です。
日付は分かっていても出発準備ができない場合は、「覚えているから大丈夫」と考えず、当日の行動まで支えます。
前日と当日の連絡は、確認ではなく次の行動を伝えます
家族が何度も「明日の予定、覚えている?」と聞くと、親は試されているように感じます。
覚えているかを答えさせるのではなく、次にすることを伝えます。
| 避けたい聞き方 | 伝え直す例 |
|---|---|
| 明日の約束、覚えている? | 明日は10時に眼科です。カレンダーの赤い印を一緒に見よう |
| 何時に出るんだった? | 9時40分に家を出ます。9時30分に電話するね |
| 持ち物を忘れないでね | 診察券と薬手帳を、今から玄関のバッグへ入れよう |
| また忘れたら困るよ | 明日の朝、私からもう一度連絡するから大丈夫 |
忘れたことを何度も証明しても、次の約束を守りやすくなるわけではありません。
親の不安や自尊心を傷つけず、今からできる行動へ会話を戻します。認知症への不安を最も強く感じているのが本人である場合もあり、家族の指摘に対する否定や怒りの背景には、忘れていくことへの恐れが隠れていることがあります。
大事な約束と、忘れても立て直せる予定を分けます
すべての予定へ家族が付き添うと、親も家族も生活が続きません。
| 予定の種類 | 家族の関わり方 |
|---|---|
| 手術前の検査、重要な受診 | 家族が予約を共有し、送迎や同行まで決める |
| 薬や治療に関わる通院 | 医療機関と連絡方法を相談し、当日も確認する |
| 銀行・契約・行政手続き | 内容を事前に共有し、必要に応じて同行する |
| 美容院、趣味の集まり | 前日に知らせ、忘れた場合は再予約で立て直す |
| 家族との食事 | 当日にも電話し、場所を一つに固定する |
| 近所の人との約束 | 相手へ家族の連絡先を伝えるか本人と話し合う |
忘れたときの影響が大きい予定から、家族や支援者の助けを増やします。
すべてを本人から取り上げるのではなく、やり直せる予定は本人へ任せる余地も残します。
約束忘れの周りに、別の変化がないかも見ます
- 同じ電話を一日に何度もかける
- 薬を飲んだことを忘れる
- 公共料金や買い物の支払いを重ねる
- 曜日や時間帯を大きく取り違える
- 慣れた病院や店へ行けなくなる
- 料理の手順や家電の操作が分からなくなる
- 身だしなみや掃除に関心がなくなる
- 以前より怒りっぽい、疑い深い、ふさぎ込む
認知症は、もの忘れだけを指すものではありません。時間や場所の認識、判断、計画して行動する力などが低下し、日常生活や社会生活へ支障が出る状態です。
反対に、気分の落ち込み、体調不良、聞こえにくさなどが、予定管理へ影響している場合もあります。認知症に似た状態を生じる病気もあるため、家族だけで病名を決めずに評価を受けます。
受診時には「物忘れがひどい」ではなく、約束の場面を持っていきます
診察で「最近、忘れっぽいです」とだけ話しても、生活への影響が伝わりにくいことがあります。
| 持っていく情報 | 具体例 |
|---|---|
| 忘れた約束 | 眼科の予約、家族との待ち合わせ |
| 伝えた方法 | 電話、紙のメモ、カレンダー |
| 親の反応 | 約束したこと自体を否定した |
| 頻度 | 三か月前は月一回、今月は週二回 |
| 生活への影響 | 受診できなかった、相手を長時間待たせた |
| ほかの変化 | 同じ質問、支払い、料理、道迷い |
| 体調・服薬 | 発熱、転倒、薬の追加、睡眠の変化 |
| 本人が困っていること | 予定が多いと混乱する、聞き取りにくい |
三か月ほど前から、病院や家族との約束を忘れることが増えました。
時間を忘れるだけでなく、約束したこと自体を覚えていない日があります。
最近は週に二回ほどあり、眼科の受診も一度できませんでした。
起きたことを記録してきたので、原因を調べてほしいです。
認知症が心配な場合は、かかりつけ医、もの忘れ外来、認知症疾患医療センターなどが相談先になります。軽い段階から適切な評価を受けることで、原因に応じた治療や生活支援を考えられます。
「認知症の検査へ行こう」と言うと拒まれる場合があります
本人が受診を嫌がるときは、忘れたことを認めさせてから病院へ連れて行こうとしない方が話しやすくなります。
| 避けたい言い方 | 伝え直す例 |
|---|---|
| 認知症かもしれないから検査するよ | 予定が重なると疲れるようだから、体調と薬を一度見てもらおう |
| 最近おかしいよ | 眼科の予定が分からなくなったことが心配だった |
| みんな迷惑している | お母さんが一人で困らない方法を一緒に考えたい |
| 忘れていることを証明するから | 今の暮らしを続けるために、原因を確かめたい |
認知症だと決めているわけではないよ。
最近、予定が重なると分かりにくくなることがあるから、耳の聞こえや薬、体調も含めて先生に見てもらいたい。
今の生活を続ける方法を一緒に聞きに行かない?
本人が客観的な情報を受け止められる状態なら、家族と一緒に受診し、検査結果や今後の方針を共有する方法があります。
親が受診しないときは、家族だけで地域包括支援センターへ話せます
本人が「病院へ行く必要はない」と言っても、家族が何もできないわけではありません。
親の住所を担当する地域包括支援センターへ、実際に起きたことを伝えます。
80歳の父が、病院や家族との約束を忘れることが増えています。
最近は、約束したこと自体を否定することがあります。
本人は受診を嫌がっています。
受診の勧め方と、予定管理を支える方法について家族だけで相談したいです。
地域包括支援センターは、認知症や介護に関する相談を受け、必要に応じて認知症疾患医療センター、認知症初期集中支援チーム、介護・福祉サービスなどと連携します。
「診断を付けてもらう場所」だけではなく、現在の暮らしをどう支えるかを一緒に考える窓口として利用できます。
離れて暮らす家族は、電話を増やすより連絡担当を一人にします
きょうだい全員が親へ予定を伝えると、説明の時刻や内容が少しずつ違い、かえって混乱することがあります。
| 家族で決めること | 具体例 |
|---|---|
| 予定を入力する人 | 長女が共有カレンダーへ入れる |
| 親へ伝える人 | 同居する配偶者が紙のカレンダーへ書く |
| 前日の連絡 | 次男が午後7時に電話する |
| 当日の付き添い | 予定ごとに担当を決める |
| 変更の連絡 | 一人の担当者からだけ親へ伝える |
| 記録の保管 | 家族共有のメモへ事実だけを書く |
親へ伝える回数を増やすより、予定の情報源を一つにそろえる方が分かりやすくなります。
一人の家族が毎回電話、送迎、予約変更まで抱えないよう、現地で行うことと遠方からできることを分けます。
忘れた相手への謝罪まで、親一人へ背負わせなくて構いません
美容院、友人、訪問サービスなどの約束を忘れると、親は恥ずかしさから相手を避けるようになることがあります。
本人の同意を得られる範囲で、重要な相手へ家族の連絡先を伝えます。
最近、母が予定を取り違えることがあります。
予約時間に来ない場合は、こちらへ連絡をいただけると助かります。
本人ができることは続けたいので、毎回ではなく必要なときだけお願いします。
すべての約束を家族が管理するのではなく、忘れたときに立て直せる連絡経路を作ります。
家族も「また忘れた」に疲れていることを隠さなくてよいのです
同じ予定を何度も伝え、相手へ謝り、予約を取り直す生活が続けば、家族が苛立つのは不自然なことではありません。
穏やかに接するよう言われても、毎回そのとおりにできない日もあります。
- 約束の調整を一人で抱えている
- 仕事中にも何度も電話をかけている
- きょうだいが状況を理解していない
- 親に強く言った後で罪悪感を抱く
- 受診を拒否され、何も進まない
家族の負担も、地域包括支援センターへ伝えて構いません。認知症の本人だけでなく、家族介護者を支えることも認知症施策の一部として位置付けられています。
親への対応を上手にするためだけでなく、家族が生活を壊さずに支え続ける方法を一緒に考えます。
今日するのは、親へ記憶テストをすることではありません
今日は、最近忘れた約束を三件だけ紙へ書いてください。
- どのような約束だったか
- いつ、どの方法で伝えたか
- 親が忘れたとき、どのように答えたか
- ヒントで思い出せたか
- 生活にどのような支障が出たか
次に、今後の予定を一つのカレンダーへ集めます。
最も近い予定には、開始時刻だけでなく、家を出る時刻、持ち物、同行する人まで書いてください。
約束を忘れる親へ必要なのは、「もっとしっかりして」という注意ではありません。
忘れても予定へ戻れる目印と、家族だけで抱え込まない支えです。
約束したこと自体を忘れる状態が繰り返す、ほかの生活場面にも変化がある場合は、記録が十分にそろうのを待たず、かかりつけ医や地域包括支援センターへ伝えて構いません。
まずは「覚えている?」と尋ねる代わりに、次の予定を一緒にカレンダーへ書くところから始めてください。
出典・確認先メモ
- 国立長寿医療研究センター:加齢によるもの忘れと認知症によるもの忘れの違い、約束したこと自体を忘れる場合の考え方。
- 政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」:約束の日時・場所の間違いなど、認知症の初期に見られる変化。
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」:地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センター、もの忘れ外来等の相談先。
- 厚生労働省・国立長寿医療研究センター:本人の不安や自尊心に配慮した接し方、短く具体的な伝え方。
- 厚生労働省「聞こえにくさ感じていませんか?」:加齢性難聴がコミュニケーションへ及ぼす影響。
- 厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」:急な言葉・運動・意識の異常など、救急要請を考える症状。















