更新のお知らせを見て、「70代になってもここに住める?」と手が止まる
ポストに入っていた賃貸契約の更新案内。
これまでは更新料と提出書類を確かめるだけだったのに、退職や年金生活を意識し始めると、家賃の数字が急に重く見えます。
「仕事を辞めた後も、毎月この金額を払えるだろうか」
「保証人になっている兄も高齢になってきた」
「もっと年を取ってから引っ越そうとしても、部屋を借りられないのでは」
今は階段を上れます。買い物にも行けます。家賃を滞納したこともありません。
それでも10年後を考えると、今の生活が突然、不安定なものに感じられます。
賃貸だから老後が危険なのではありません。
心配の正体は、住居費が毎月続くこと、年齢とともに引っ越しが大仕事になること、保証人や緊急連絡先を自分以外の人へ頼る場面があることです。
反対にいえば、これらを一つずつ準備すれば、持ち家がなくても住まいの見通しは作れます。
最初に考えるのは、「賃貸のままでよいか」という大きな結論ではありません。
今の部屋に住み続けられる条件と、住み替えるなら何ができるうちに動くかです。
老後の住まいへの心配を、六つに分けます
「この先が何となく怖い」という状態では、何から手を付ければよいか分かりません。
まず、自分が最も気にしていることを分けてみます。
| 気になっていること | 今調べること | 最初の動き |
|---|---|---|
| 年金で家賃を払えるか | 退職後の手取り収入と年間の住居費 | 更新料なども月額へ直し、毎月の収支を出す |
| 高齢になると更新できないのでは | 普通借家か定期借家か、契約期間と終了条件 | 現在の賃貸借契約書を読む |
| 次の部屋を借りられるか | 保証会社、緊急連絡先、収入・預貯金の条件 | 希望地域の不動産会社へ事前に尋ねる |
| 保証人を頼める人がいない | 保証会社、居住支援法人、自治体の住宅相談 | 民間契約を急がず、公的な窓口から探す |
| 階段や浴室がつらくなりそう | エレベーター、段差、通院・買い物までの距離 | 今の家を離れる基準を決める |
| 一人で倒れた後が心配 | 見守り、緊急連絡、介護サービスとのつながり | 住まいと支援体制を一緒に考える |
家賃は払えるけれど階段が心配な人と、体は元気でも退職後の家賃が不足する人では、必要な準備が違います。
全部を一度に解決しようとせず、一番早く暮らしへ影響しそうなことから扱います。
年を取っただけで、今の部屋を自動的に退去するわけではありません
「高齢になると更新を断られる」と聞き、今の部屋も突然出なければならないのではと心配する人がいます。
少なくとも、現在の契約内容を確かめずに「高齢になったら必ず退去」と考える必要はありません。
見るべきなのは、契約が普通建物賃貸借なのか、定期建物賃貸借なのかです。
| 契約の種類 | 主な考え方 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 普通建物賃貸借 | 更新を前提とする一般的な契約 | 更新料、保証人変更、建て替え等の条項 |
| 定期建物賃貸借 | 定められた期間の満了で契約が終了し、継続には再契約が必要 | 契約終了日、再契約の可否、終了通知 |
契約書では、次の項目を見ます。
- 契約の種類と期間
- 次回の更新日
- 更新料、更新事務手数料
- 保証会社の利用と更新費用
- 連帯保証人、緊急連絡先に関する条件
- 長期入院や長期不在時の連絡方法
- 建て替え、取壊し、退去に関する記載
分からない場合は、管理会社へ次のように聞けます。
「現在の契約は普通借家と定期借家のどちらでしょうか。今後も住み続ける場合の更新条件と、現在の保証人が対応できなくなった場合の手続きを教えてください」
家賃だけでなく、住み続ける費用をすべて月額へ直します
年金後の住居費を考えるとき、毎月の家賃だけを見ると実際より低く見えます。
更新時にまとめて払う費用や、保証会社、保険なども月割りにしてください。
| 住まいにかかる費用 | 月額への直し方 |
|---|---|
| 家賃 | 毎月の額をそのまま記入する |
| 共益費・管理費 | 毎月の額を記入する |
| 駐車場・駐輪場 | 退職後も必要かを含めて考える |
| 更新料・更新事務手数料 | 金額を次回更新までの月数で割る |
| 保証会社の更新料 | 年間額を12で割る |
| 火災保険 | 保険料を契約月数で割る |
| 引っ越しへの備え | 敷金、運送費、荷物処分などの積立額を入れる |
次に、退職後の手取り収入から住居費と生活費を引きます。
| 退職後の月の収支 | 金額 |
|---|---|
| 年金などの手取り収入 | |
| 住居費の月額合計 | |
| 食費・日用品 | |
| 水道光熱・通信 | |
| 医療・介護への備え | |
| 交通費 | |
| 税・保険料 | |
| 家電交換などの積立 | |
| 毎月残る額・不足する額 |
同じ家賃でも、車が必要な場所と、徒歩で病院や買い物へ行ける場所では、暮らし全体の費用が違います。
毎月2万円を預貯金から取り崩す予定なら、その状態を何年続けられるかまで出してください。
家賃を払えなくなってから探すより、まだ収入と体力があるうちに候補を見ておく方が、希望を残しやすくなります。
今の家に住み続けられるかは、家賃以外の条件でも決まります
住居費を払えても、年齢とともに生活しにくくなる部屋があります。
| 見る場所 | 将来起こりやすい困りごと | 住み続ける条件 |
|---|---|---|
| 玄関までの経路 | 階段や急な坂を上れない | 荷物を持って無理なく出入りできる |
| 室内の段差 | 夜間や体調不良時につまずく | 動線を変える、手すりを付ける余地がある |
| 浴室・トイレ | 浴槽をまたげない、介助者が入れない | 安全に使え、必要な介助空間を取れる |
| 病院・薬局 | 運転をやめると通院できない | 徒歩、公共交通、送迎で通える |
| 買い物 | 重い物を運べず、食生活が崩れる | 近隣店舗や宅配を利用できる |
| 緊急時 | 倒れても発見が遅れる | 連絡手段、見守り、近隣とのつながりがある |
今の家に残りたい場合は、「どの状態になったら住み替えを始めるか」を先に決めます。
- 階段を休まず上れなくなったとき
- 浴槽へ一人で入れなくなったとき
- 家賃を払うと毎月赤字になるとき
- 通院や買い物の移動費が大きく増えたとき
- 保証人や緊急連絡先を頼める人がいなくなったとき
- 一人でいることへの心配で眠れなくなったとき
基準を自分で決めておけば、体調を崩した直後に家族から突然引っ越しを迫られるのではなく、自分の意思で準備できます。
住み替えは年齢ではなく、自分で選べるうちに準備します
老後の住み替えに、全員共通の年齢はありません。
ただし、次のことを自分で進められる間の方が、住まいを選びやすいのは確かです。
- 不動産会社や住宅窓口へ行く
- 複数の部屋を見比べる
- 契約書や費用の説明を読む
- 保証人や緊急連絡先について家族と話す
- 家具や荷物を減らす
- 引っ越し後の通院先や買い物先を調べる
今すぐ転居しない場合も、二段階で動けます。
| 段階 | 行うこと |
|---|---|
| まだ問題なく暮らせる時期 | 契約確認、家計試算、候補地域の調査、保証方法の確認 |
| 住みにくさが出始めた時期 | 内見、申込条件の確認、荷物整理、転居日の検討 |
「次に住むなら駅から何分以内、何階まで、家賃はいくらまで」と、今のうちに条件を書いておきます。
高齢者が部屋を借りにくい背景は、年齢だけではありません
高齢になると、すべての賃貸住宅へ入居できなくなるわけではありません。
一方で、貸主が家賃滞納、緊急時の対応、室内での死亡、死亡後の家財処理などを心配し、申込みに慎重になることがあります。国土交通省の資料でも、高齢者の入居に対する貸主側の大きな懸念として、居室内での死亡事故等が挙げられています。
申込み時には、年齢を隠すのではなく、貸主が気にする点へ答えられる情報をそろえます。
- 年金など継続的な収入
- 預貯金と希望家賃
- 利用できる家賃保証会社
- 緊急時に連絡できる人や機関
- 見守りや介護サービスの利用状況
- 家族や支援者との定期的な連絡方法
不動産会社へは、次のように伝えられます。
「年金収入と預貯金があり、家賃保証会社も利用できます。緊急連絡先もあります。高齢者が長く住める物件を探したいです」
保証人がいないときは、高額な身元保証契約を急ぎません
配偶者やきょうだいも高齢になり、子どもや親族へ保証人を頼めない人もいます。
まず管理会社や不動産会社へ、連帯保証人の代わりに家賃保証会社を利用できるか聞きます。
住宅セーフティネット制度には、高齢者など住宅の確保に配慮が必要な人の入居を拒まない賃貸住宅を登録する仕組みがあります。また、地域の居住支援法人が住宅情報の提供、入居相談、見守りなどを行う場合があります。支援内容や対象地域は法人ごとに異なります。
保証人がいないときに聞く順番
- 現在の管理会社へ、保証人を変更する場合の手続きを聞く
- 希望地域の不動産会社へ、保証会社を利用できる物件を聞く
- 自治体の住宅担当窓口や居住支援協議会を調べる
- 地域の居住支援法人へ、物件探しと入居後の支援を聞く
- 民間の終身サポート等を使う場合は、料金、解約、死後事務の範囲を読む
緊急連絡先と連帯保証人は、同じ役割とは限りません。
家族へ名前を借りる前に、金銭的な責任を負うのか、連絡を受けるだけなのかを契約書で確かめます。
「高齢者向け」と書かれた住まいも、支援内容は同じではありません
| 住まい・制度 | 主な特徴 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 一般の民間賃貸住宅 | 物件や地域の選択肢が多い | 年齢条件、保証会社、段差、更新条件 |
| セーフティネット登録住宅 | 高齢者などの入居を拒まない登録住宅 | 実際の空室、家賃、入居審査、保証条件 |
| 居住支援を伴う住宅 | 安否確認や福祉サービスへのつなぎを行う場合がある | 見守り内容、対応時間、費用、緊急時の動き |
| 公営住宅 | 住宅に困窮する低額所得者向けの住宅 | 収入基準、募集時期、抽選、単身申込条件 |
| UR賃貸住宅 | 保証人不要で申し込める住宅がある | 収入・貯蓄等の申込資格、立地、空室 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | バリアフリーの住まいに安否確認・生活相談が付く | 家賃、共益費、生活支援費、食費、介護費 |
セーフティネット登録住宅は、高齢者など住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅を登録し、情報提供する制度です。登録住宅だから無条件に入居できるという意味ではないため、家賃、審査、保証の条件を個別に見る必要があります。
URには、一定の条件を満たす高齢者向けの住宅や家賃負担の軽減措置が設けられた住宅があります。ただし、対象物件、空室、所得等の条件は住宅ごとに異なります。
高齢者向け住まいには、養護老人ホーム、軽費老人ホームなどを含め、生活状況や経済的事情に応じた複数の種類があります。入居要件は住まいの種類ごとに異なるため、市区町村や地域包括支援センターへ相談する方法があります。
見守りが必要になっても、すぐ施設へ移るとは限りません
老後の住まいを考えると、「一人で暮らせなくなったら老人ホーム」と二択で考えがちです。
実際には、今の賃貸住宅や別の賃貸住宅で、訪問介護、配食、緊急通報、見守りなどを組み合わせられる場合があります。
介護が必要になった後も暮らす可能性があるなら、家賃だけでなく支援者が入れる部屋かを見てください。
- 玄関や廊下が狭すぎないか
- エレベーターがあるか
- 介護ベッドを置く場所があるか
- トイレや浴室へ手すりを設置できるか
- 訪問介護や訪問看護を利用しやすい地域か
- 救急搬送時の動線を確保できるか
住まいだけでは解決できない困りごとが出た場合は、地域包括支援センターなどへ、現在の部屋の状態と生活上の心配を一緒に伝えます。
家族には「将来どうする?」ではなく、小さな役割を頼みます
子どもやきょうだいへ老後の住まいを相談すると、話が大きくなりすぎることがあります。
「いざとなったら一緒に住めばいい」
「まだ元気だから考えなくていい」
「安い部屋に移ればいいでしょう」
こうした会話だけでは、具体的な準備へ進めません。
| 頼みたいこと | 伝え方の例 |
|---|---|
| 緊急連絡先になれるか | 「家賃の保証ではなく、連絡が取れないときの窓口を頼める?」 |
| 内見へ同行できるか | 「階段や浴室を一緒に見てほしい」 |
| 契約書を読む | 「更新と保証会社の部分だけ確認してもらえる?」 |
| 荷物整理を手伝う | 「半年ごとに段ボール数箱だけ一緒に減らしたい」 |
| 入院時の対応 | 「管理会社からの連絡を誰が受けるか決めたい」 |
同居を考えている場合も、「いつか一緒に」ではなく、開始時期、家計、間取り、家族全員の意向まで話します。
家賃を払えなくなってからではなく、赤字が見えた時点で動きます
毎月の不足を預貯金から埋め続けていると、気づいたときには引っ越し費用まで足りなくなることがあります。
次の状態が出たら、住居費を見直す時期です。
- 家賃を払うと、食費や医療費を削らなければならない
- 毎月決まった額を貯金から取り崩している
- 更新料や保証料を一度に払えない
- 借入やカードで家賃をつないでいる
- 家賃の支払日が近づくと郵便や電話を避ける
- すでに滞納や退去に関する通知がある
滞納してから安い部屋を探そうとしても、初期費用や審査で動きにくくなります。
まだ支払いができている段階で、管理会社、自治体の住宅窓口、生活困窮者向けの相談窓口などへ状況を伝えてください。
退去に関する通知が届いている場合は、封筒を閉じたままにせず、通知の日付、支払額、連絡期限を見ます。
住み替え候補は、安い部屋ではなく「生活が続く部屋」で選びます
家賃を下げるために郊外へ移ったものの、病院やスーパーが遠くなり、交通費が増えることがあります。
部屋を小さくした結果、介護ベッドや必要な家具を置けないこともあります。
老後の内見チェックリスト
- 玄関まで階段を使わずに行けるか
- エレベーターが止まった場合の移動方法があるか
- 室内や浴室に大きな段差がないか
- トイレや浴室へ手すりを付けられるか
- 寝室からトイレまで遠すぎないか
- 病院、薬局、スーパーへ車なしで行けるか
- 宅配や配食を受け取りやすいか
- 夏と冬の室温を保ちやすいか
- 訪問介護や救急搬送の人が入りやすいか
- 家賃以外の共益費、保証料、更新費を払えるか
- 契約期間と退去条件を理解できたか
元気な日の歩き方ではなく、買い物袋を持った日、膝が痛い日、体調が悪い日を想像して見ます。
家賃が少し高くても、病院と買い物が近く、車を手放せるなら、生活全体では負担が軽くなる場合があります。
三か月で「今の家に残る条件」と「次の候補」を作ります
| 時期 | 行うこと |
|---|---|
| 1か月目 | 契約書、更新費用、保証人、年金見込額、年間住居費を確かめる |
| 2か月目 | 今の家で将来困りそうな動線を見て、家賃上限と住み替え条件を決める |
| 3か月目 | 一般賃貸、セーフティネット住宅、公営住宅などから候補を二つ調べる |
候補は、今すぐ空室がある物件でなくても構いません。
どの地域に、どのような住まいがあり、誰へ連絡すればよいかを知っておくことが目的です。
今日することは、引っ越し先を決めることではありません
今日は、現在の賃貸借契約書を出してください。
そして紙へ、次の五つを書きます。
- 契約の種類と次の更新日
- 家賃以外を含む月の住居費
- 現在の保証人と緊急連絡先
- 今の家で将来つらくなりそうな場所
- 住み替える場合の家賃上限と希望地域
一つでも分からなければ、そこが最初の問い合わせ先です。
契約の種類は管理会社へ。保証人がいない場合の方法は不動産会社や居住支援法人へ。公営住宅等は自治体の住宅窓口へ。見守りや介護を含む住まいは、地域包括支援センター等へ聞けます。
電話では、次のように伝えられます。
「現在は賃貸住宅に住んでおり、すぐに退去する予定はありません。ただ、老後に保証人を頼める人がおらず、階段も気になっています。高齢者が利用できる住宅や住み替え支援について、今から調べておきたいです」
賃貸暮らしの老後は、何歳になったら住めなくなるという一本の線で決まるものではありません。
今の家へ住み続ける方法もあれば、元気なうちに小さな部屋へ移る方法、見守りのある住まいを選ぶ方法もあります。
今日、老後の住まいを決めきらなくて大丈夫です。
今の契約を知り、月の住居費を出し、次に聞く窓口を一つ決める。それだけでも、漠然とした心配を、準備できる住まいの問題へ変えられます。
出典・確認先メモ
- 国土交通省「住宅セーフティネット制度」:セーフティネット登録住宅、居住支援法人、家賃債務保証等に関する確認先。
- 国土交通省「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給」:高齢者の入居に対して貸主が抱える懸念に関する資料。
- UR都市機構「高齢者向け優良賃貸住宅」:高齢者向け住宅の設備、所得要件、家賃軽減等に関する確認先。
- 厚生労働省「高齢者向け住まい」:養護老人ホーム、軽費老人ホーム等の住まいと、市区町村・地域包括支援センターへの相談に関する確認先。


















