相談時間が半分過ぎても、まだ三年前の話をしている
弁護士へ事情を正確に分かってもらおうとして、出会った経緯、家族との関係、これまで我慢してきたことを順番に話す。
どれも自分にとっては欠かせない話です。ところが、相談時間が残り十分になったところで、「今日は何を一番聞きたいですか」と尋ねられる。
そこで初めて、裁判所へ出す書類の期限が来週であることや、相手から百万円を請求されていることを伝える。結局、具体的な対応まで聞けなかった。
無料法律相談で起きやすい場面です。
法律相談は、話のうまさを評価される場所ではありません。ただ、時間には限りがあります。法テラスの無料法律相談は一回三十分で、同じ問題について原則三回までです。自治体や弁護士会の相談も、時間、対象者、料金、扱う分野がそれぞれ異なります。
短い時間で最も先に伝えるべきなのは、感情の強さではなく、期限と現在地です。
最初の一分は「誰と・何が起き・いつまでに・どうしたい」で話します
相談が始まったら、次の四つを一度に伝えます。
- 誰との問題か
- 何が起きているか
- 回答や手続きの期限はいつか
- 今日、何を判断したいか
たとえば、相続なら次のように話せます。
「三月に父が亡くなり、兄から遺産分割協議書への署名を求められています。預金と不動産の全体が分からず、回答期限を今月末と言われました。署名前に何を調べるべきか知りたいです」
借金なら、こうなります。
「消費者金融三社に合計約百八十万円あり、今月の返済ができません。別の会社から借りて返す前に、取れる方法と今してはいけないことを聞きたいです」
離婚の場合も、結婚生活の最初から話す必要はありません。
「夫と別居中で、生活費が二か月振り込まれていません。子どもと住む家の費用が足りないため、離婚を決める前に生活費を求める方法を知りたいです」
相談の冒頭で必要なのは、完成した説明ではありません。「今起きていること」「最も近い期限」「今日決めたいこと」の三点です。
A4一枚には、五つの欄だけ作ります
長い手紙や詳しい陳述書を作るより、弁護士が状況を見渡せる一枚のメモが役立ちます。
| 欄 | 記載する内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 当事者 | 自分、相手、家族、会社などの関係 | 本人、元夫、子ども一人 |
| 現在の問題 | 何を請求され、何に困っているか | 養育費が六か月未払い |
| 最も近い期限 | 提出日、回答日、退去日、期日 | 八月十日までに回答 |
| すでにしたこと | 支払い、署名、連絡、交渉、届出 | 二回請求。六月以降返信なし |
| 今日聞きたいこと | 優先する質問を三つまで | 請求方法、必要証拠、費用 |
文章は短くて構いません。弁護士が詳しく知りたい部分を質問できるよう、入口を作るためのメモです。
住所、口座番号、子どもの学校名など、相談の判断に不要な個人情報まで複数のメモへ書く必要はありません。紛失が心配な場合は、資料を入れた封筒やファイルに氏名と連絡先を記載しておきます。
時系列は「日付・出来事・証拠・次に起きたこと」の四列にします
法律問題では、本人がどれほど傷ついたかと同時に、いつ何が起きたかが判断材料になります。
時系列は、小説のように詳しく書く必要はありません。
| 日付 | 出来事 | 証拠 | その後 |
|---|---|---|---|
| 4月3日 | 業者と工事契約を締結 | 契約書、見積書 | 同日、申込金十万円を振込 |
| 4月18日 | 予定日を過ぎても工事が始まらない | メール | 「来週開始」と返信 |
| 5月20日 | 解約を申し入れた | 送信メール | 返金できないと言われた |
日付が分からなければ、「四月上旬」「母の入院前」「退職した翌週」でも構いません。確実な日と推測している日を分けてください。
自分に都合の悪い出来事も省かない方が、相談の精度は上がります。
すでに署名した。相手へ怒って強い言葉を送った。一部を支払った。約束の日を自分も守れなかった。こうした事実を後から知ると、最初の助言が変わる場合があります。
「自分に不利かもしれませんが、この連絡も見てください」
そう伝えれば十分です。
資料は量ではなく、「相手の主張」と「期限」が分かるものを先に出します
関係しそうな書類をすべて紙袋へ入れて持っていくと、相談時間の多くが資料探しで終わります。
最初に見てもらう資料へ付箋を付け、残りは種類ごとに分けます。
| 問題 | 優先して持参するもの |
|---|---|
| 借金 | 借入先、借入時期、残高、毎月の返済額、督促状、裁判所の書類 |
| 離婚・養育費 | 戸籍関係、収入資料、財産の一覧、別居日、相手との連絡、請求書面 |
| 相続 | 亡くなった日、戸籍、遺言書、財産・借金の資料、届いた協議書 |
| 労働 | 雇用契約書、就業規則、給与明細、勤怠記録、解雇通知、会社との連絡 |
| 賃貸・近隣 | 賃貸借契約書、家賃の記録、写真、修繕依頼、退去や更新に関する通知 |
| 消費者トラブル | 契約書、広告、注文画面、支払記録、解約連絡、業者からの返信 |
メールやメッセージは、都合のよい一文だけではなく、前後のやり取りも読める形にします。スクリーンショットには、相手のアカウント、送受信日時、文章が分かる画面を残し、元のデータは削除しません。
録音や写真も、加工したものだけではなく元のファイルを保管してください。
原本しかない書類は、可能ならコピーも用意します。相談先へ預ける必要が生じた場合も、何を渡すかを確かめてから原本を手放します。
質問は「勝てますか」ではなく、次の行動が分かる形にします
「裁判で勝てますか」「慰謝料はいくら取れますか」と聞きたくなるのは自然です。
ただ、短い相談では、資料がそろっていないため確実な見通しを答えられないことがあります。
最初の相談では、次の三種類を優先すると、帰宅後に動きやすくなります。
- 期限:いつまでに、何をする必要があるか
- 証拠:何が足りず、どこから集めるか
- 選択肢:交渉、調停、裁判など、それぞれの負担と順番
そのまま使える質問は、次のとおりです。
「今日から一週間以内に、私が先にすることは何ですか」
「今ある資料で判断できることと、まだ判断できないことを分けてください」
「相手へ連絡する前に、してはいけないことはありますか」
「自分で進める場合と、依頼する場合の違いを教えてください」
「次に相談するときは、何を持ってくれば話が進みますか」
三十分は、説明だけで使い切らないよう配分します
法テラスの無料法律相談は一回三十分です。ほかの無料相談は時間が異なるため、予約時に聞いてください。
三十分の場合は、次の配分を目安にできます。
- 最初の五分:一枚メモを使って問題と期限を伝える
- 次の十分:弁護士からの質問へ答え、資料を見せる
- 次の十分:選択肢、見通し、注意点を聞く
- 最後の五分:次にすること、費用、期限を確認する
途中で説明が長くなったと感じたら、次の一言で軌道を戻せます。
「時間が限られているので、今すぐ必要な対応を先に教えてください」
話している途中で涙が出たり、言葉が止まったりすることもあります。感情を見せないようにする必要はありません。
ただ、「一番困っているのは金銭なのか、安全なのか、子どものことなのか」をメモの先頭へ書いておけば、途中で話せなくなっても相談の中心は伝わります。
無料相談は、誰でも何度でも依頼まで無料という意味ではありません
「無料法律相談」には、法テラス、自治体、弁護士会、司法書士会、特定分野の相談会などがあります。
利用条件は同じではありません。
法テラスの民事法律扶助による無料法律相談は、収入と資産が一定基準以下であることなどが条件です。原則として事前予約が必要で、民事・家事・行政に関する同じ問題について三回まで、一回三十分の相談を受けられます。刑事事件は対象外です。
自治体の無料法律相談では、居住地、相談分野、回数などに条件が設けられていることがあります。弁護士会の法律相談も、無料の分野と有料の分野があり、地域によって異なります。
また、相談料が無料でも、交渉、調停、裁判などを正式に依頼する費用まで自動的に無料になるわけではありません。
依頼を勧められたときは、すぐ契約せず、次を聞いてください。
- 今回の相談だけで終えてよいか
- 依頼する場合の着手金、実費、報酬金
- 途中で終了した場合の費用
- 法テラスの費用立替制度を利用できるか
- 自分で進められる手続きはどこまでか
法テラスの立替制度も、審査を受けたうえで利用する制度です。立て替えられた費用は原則として返済が必要ですが、生活状況などによって猶予や免除が認められる場合があります。
予約時には、相談分野と相手の名前も伝えます
予約の電話では詳しい経緯をすべて話す必要はありませんが、相談分野は伝えてください。
「賃貸住宅の退去請求について相談したいです」
「父の相続で、兄と意見が分かれています」
相談を受ける弁護士が、すでに相手や関係者から相談・依頼を受けている場合は、利益相反を避けるため対応できないことがあります。
その確認のため、予約時に相手方の氏名や会社名を尋ねられる場合があります。詳しい相談内容を相手へ伝えるためではありません。
予約時には、次の点も聞いておくと当日慌てません。
- 相談時間
- 無料となる条件
- 相談できる分野
- 持参する書類
- 家族の同席や代理相談の可否
- 電話・オンライン相談の可否
裁判所から届いた封筒は、相談日まで閉じたままにしません
裁判所の名前が入った封筒を見ると、怖くて開けられないことがあります。
けれど、訴状、呼出状、支払督促などには、提出期限や期日が記載されています。
特に支払督促は、受け取ってから二週間以内に異議を申し立てなければ、仮執行宣言が付され、強制執行へ進む可能性があります。
書類を受け取ったら、まず次の箇所を見てください。
- 書類の名称
- 裁判所名と事件番号
- 受け取った日
- 提出期限
- 出頭する日時
- 同封されている回答用紙
無料相談の予約が期限後になる場合は、予約日を待たず、書類を発行した裁判所へ「何の手続きで、提出期限はいつか」を問い合わせ、同時に法テラスや弁護士会へ期限が迫っていることを伝えます。
「裁判所から支払督促が届き、受け取ったのは昨日です。異議を出す期限があるため、早い相談枠を探しています」
裁判所は手続きの案内はできますが、どの主張をすべきかという個別の法律判断は行いません。その部分を法律相談で聞きます。
家族の代理相談は、本人の意思と委任の方法を先に確かめます
高齢の親御さん、入院中の配偶者、外出が難しいきょうだいに代わって、家族が相談したい場合があります。
法テラスでは、事前に本人の意思を口頭で確認したうえで代理相談が可能な場合があります。口頭での確認が難しいときは、委任状などを求められることがあります。
ただし、窓口や相談方法によって扱いが異なり、家族だから無条件に代理できるわけではありません。
予約時に次のように伝えてください。
「父本人は入院中で外出できません。娘が代理で相談したいのですが、本人への意思確認と委任状はどのようにすればよいですか」
本人の相談なのか、家族自身の相談なのかも分けます。
たとえば、親御さんの借金について法的な手続きを依頼するのは親御さん本人です。一方で、「家族として返済を求められている」「自分が保証人になっている」という問題は、家族自身の相談になります。
暴力や監視がある場合は、相手への連絡より安全を先に置きます
DV、ストーカー、虐待、脅迫などが関係する場合、相談前の準備を相手に見つかることで危険が高まることがあります。
相手へ「弁護士に相談する」と予告したり、二人きりで話し合ったりする前に、安全な連絡方法と避難先を考えてください。
スマートフォンを見られている可能性があれば、家族や公共施設など別の端末から連絡します。書類も、自宅以外で保管した方がよい場合があります。
差し迫った危険があるときは110番です。緊急ではないものの、つきまとい、脅し、身の危険などを警察へ相談したい場合は、警察相談専用電話「#9110」を利用できます。
今日は予約前に、最も近い期限を一つ読み上げられる状態にします
今夜、何年分もの経緯を完成させる必要はありません。
相手、会社、役所、裁判所から届いた書類の中から、日付が書かれているものを一つ開きます。
書類の名称と期限を確かめ、予約先へ伝える一文を作ってください。
「貸金請求の訴状が届き、答弁書の提出期限は八月五日です。返済義務と、期限までにすることを相談したいです」
まだ書類が届いていない問題なら、次の形で構いません。
「退職を求められていますが、書面はまだありません。返事をする前に、残すべき記録と確認事項を知りたいです」
無料相談の準備は、自分の正しさを証明する作業ではありません。
期限を見落とさず、次の一手を選ぶための準備です。今日は、最も近い期限と優先質問三つが分かれば、予約の電話をかけられるところまで進んでいます。














