市役所の入口まで来たものの、案内板には知らない課の名前が並んでいる。
福祉課なのか、市民課なのか、保険年金課なのか。番号札を取る場所も分からない。受付の人から「今日はどのようなご用件ですか」と聞かれる場面を想像すると、何と答えればよいのか分からず、そのまま帰りたくなることがあります。
困っていることが一つだけなら、まだ説明しやすいかもしれません。
実際には、仕事を辞めて収入が減り、家賃も遅れそうで、病院代もかかっている。親御さんの介護も始まり、自分でも何が一番の問題なのか分からない。その状態で「ご用件を簡潔に」と言われても、言葉が詰まるのは無理もありません。
市役所へ行く前に、制度名や担当課を調べ切る必要はありません。
困っている人が担当課を知らないのは、珍しいことではありません。最初の役目は、正しい窓口を当てることではなく、今起きていることを受付へ渡すことです。
受付では「担当課が分かりません」から始めて構いません
市役所の総合案内や代表電話では、最初から詳しい事情を話す必要はありません。
まず、次の一文を使います。
「担当課が分からないので、今の状況を聞いて、相談できる窓口を教えてください」
続けて、困っていることを一つだけ伝えます。
「収入が減って、来月の家賃を払えるか分かりません」
「母の物忘れが増え、一人暮らしを続けられるか心配です」
「市役所から封筒が届きましたが、何をすればよいか分かりません」
これで入口としては十分です。
受付で詳しい制度の判断まではできなくても、関係しそうな部署や相談窓口へ案内してもらえます。案内された先が違っていた場合も、あなたの説明が下手だったと決めつける必要はありません。生活の問題は複数の部署にまたがることがあるためです。
受付で伝えるのは、「担当課が分からない」「何に困っているか」「期限や危険があるか」の三つです。制度名や申請書の名前は、職員と話しながら確かめれば構いません。
うまく話すより、「現在・期限・希望」の順に伝えます
窓口で話が長くなってしまうのは、過去の出来事を最初から全部説明しようとするからかもしれません。
これまでの事情も無関係ではありませんが、最初は次の順番にすると伝わりやすくなります。
| 伝える項目 | 内容 | 言い方の例 |
|---|---|---|
| 現在 | 今、何ができなくて困っているか | 「収入がなく、食費と家賃の支払いが難しくなっています」 |
| 期限 | いつまでに何が起きるか | 「家賃の支払日は今月27日です」 |
| 希望 | 今日、何を知りたいか | 「利用できる制度と、先に連絡する場所を教えてほしいです」 |
| 補足 | 病気、介護、家族構成など判断に関わること | 「同居している母の介護があり、すぐ働くことが難しい状態です」 |
たとえば、借金や離婚、家族との不仲など、話しにくい事情がある場合も、受付ですべて話す必要はありません。
「家族やお金に関する話なので、できれば周囲に聞こえにくい場所で相談したいです」と伝えられます。
個室や別の場所を必ず用意できるとは限りませんが、声の大きさや案内方法を配慮してもらえる場合があります。
困りごと別に、そのまま使える「最初の一言」
担当部署の名称は自治体によって異なります。福祉課、生活支援課、くらし相談窓口など、同じような相談でも呼び方は一つではありません。
課の名前を当てるより、相談内容を短く伝えて案内を受ける方が確実です。
| 困っていること | 受付や電話での最初の一言 | 案内される可能性がある窓口 |
|---|---|---|
| 生活費・家賃・仕事 | 「収入が減り、家賃や生活費が足りません。生活全般を相談できる窓口を教えてください」 | 自立相談支援機関、生活支援・福祉関係の窓口など |
| 食費も残っていない | 「手元のお金がほとんどなく、今日からの食事にも困っています」 | 福祉事務所、生活保護担当、生活支援窓口など |
| 税金・保険料を払えない | 「納付書が届きましたが、期限までに全額払えません。利用できる手続きがあるか聞きたいです」 | 税務、納税、国民健康保険、年金関係の担当課など |
| 親御さんの介護・物忘れ | 「高齢の母の生活が心配です。介護が必要か分からない段階から相談できる場所を教えてください」 | 地域包括支援センター、介護保険、高齢者福祉の担当課など |
| 障害・病気で生活が難しい | 「病気のため仕事や日常生活が難しく、利用できる支援を知りたいです」 | 障害福祉、保健、生活支援関係の窓口など |
| 子育て・家庭の問題 | 「子どもと家庭のことで困っています。今すぐ結論を出すのではなく、まず状況を聞いてほしいです」 | こども家庭センター、子育て支援、家庭相談関係の窓口など |
| 訪問販売・定期購入 | 「契約をやめたいのですが、事業者との話が進みません。消費生活相談につないでください」 | 消費生活センター、消費生活相談窓口など |
| 配偶者や家族からの暴力 | 「家族から暴力や脅しを受けています。安全に関わる相談として、周囲に聞かれない場所で話したいです」 | 配偶者暴力相談支援センター、女性相談支援、福祉関係の窓口など |
複数の問題が重なっている場合は、全部を別々に説明しなくても構いません。
「お金、住まい、家族の問題が重なっています。どこから話せばよいか自分でも分からないので、生活全体を扱う窓口につないでください」
この伝え方なら、「何課へ行けばよいか分からない」という困りごと自体を、窓口へ渡せます。
「相談したい」と「申請したい」は、分けて伝えます
市役所へ行けば、職員が自動的に必要な申請を始めてくれるとは限りません。
制度について話を聞くだけの相談と、正式な申請手続きは別だからです。
まだ制度を利用するか決めていない場合は、次のように伝えます。
「申請するかはまだ決めていません。対象になりそうな制度と、利用した場合の流れを教えてください」
一方、申請する意思がある場合は、曖昧にせず伝えてください。
「生活保護について説明を聞くだけではなく、今日は申請したいです」
「この給付の申請を希望しています。足りない書類があれば、何が必要か教えてください」
申請できるかどうかの審査と、申請書を出したいという意思を伝えることは別です。自分が制度の対象になるか分からなくても、申請方法を尋ねることはできます。
反対に、説明を聞いただけで即座に申請や契約をしなければならないわけでもありません。
「今日は持ち帰って考えます。申請期限と、次回持参するものだけ教えてください」と区切って構いません。
封筒を開けられなかったら、そのまま窓口へ持っていきます
市役所から届いた封筒を見ると、督促や難しい手続きのように感じて、開けられないことがあります。
何日も机の端に置いたままになり、期限が近づくほど、ますます見られなくなる。これは内容を軽く考えているからではなく、開けた後に何をすればよいのか分からない怖さがあるからでしょう。
封筒を開けて内容を理解してからでなければ、窓口へ行けないわけではありません。
「この封筒が届きましたが、一人では内容を理解できません。何をいつまでにすればよいか教えてください」と伝え、そのまま見せます。
持参すると話が早くなりやすいものは次のとおりです。
- 市役所、裁判所、家主、電力会社などから届いた封筒や通知書
- 支払い期限や金額が分かる請求書・納付書
- 本人確認書類
- 保険証、資格確認書、年金関係の書類など、相談に関係しそうなもの
- 直近の収入が分かる給与明細や年金通知
- 家賃や公共料金など、現在困っている支出が分かるもの
- 服用中の薬や通院先のメモなど、健康状態を伝える必要がある場合の情報
最初から全部をそろえる必要はありません。
書類が足りなければ、窓口で「次回までに何を用意するか」を教えてもらいます。分からない書類を自己判断で捨てず、封筒ごと持参する方が安全です。
頭が真っ白になる方は、四行だけスマートフォンに入れておきます
家では説明できたのに、窓口の椅子へ座った途端、何も思い出せなくなることがあります。
そのときのために、長い文章ではなく、次の四行をスマートフォンのメモへ入れてください。
- 困っていること:来月の家賃と生活費が足りない
- 期限:家賃の支払日は27日
- 現在の状況:先月退職、母と二人暮らし
- 今日聞きたいこと:利用できる制度と次にする手続き
窓口では、次のように見せます。
「緊張すると話せなくなるので、このメモを読んでもらえますか」
泣いてしまったり、話の順番が前後したりしても、相談を受ける資格がなくなるわけではありません。
職員の質問にすぐ答えられないときは、「今は分かりません。家に帰って確認してもよいですか」と伝えればよいのです。
聞こえにくい、話しにくい場合は、必要な伝え方を最初に頼みます
耳が聞こえにくい、文字を読むのに時間がかかる、人が多い場所では話を理解しにくいなどの事情がある場合、我慢して通常のやり取りへ合わせる必要はありません。
受付で、具体的に希望を伝えます。
- 「聞こえにくいので、正面からゆっくり話してください」
- 「口頭だけでは覚えられないので、手続き名と期限を書いてください」
- 「筆談でお願いできますか」
- 「一度に多く説明されると分からなくなるので、一つずつ教えてください」
- 「家族にも説明したいので、持ち帰れる案内をください」
必要な配慮は人によって違います。「分かりやすくしてください」だけではなく、どうしてもらうと理解しやすいかを一つ伝えると、対応方法を話し合いやすくなります。
別の課へ回されたら、「次に何と言えばよいか」まで聞きます
窓口を何か所も案内されると、「たらい回しにされている」と感じることがあります。
実際に連携が不十分な場合もありますが、税、介護、生活費、医療など、制度ごとに担当部署が分かれているため、複数の窓口が関わらざるを得ないこともあります。
別の課を案内されたら、場所だけでなく、次の三つを聞いてください。
- 担当課の正式名称
- その課で何を相談するのか
- 持っていく書類や、引き継がれる内容
使える言葉は次のとおりです。
「次の窓口では、何と伝えれば話がつながりますか」
「今お話しした内容は、次の担当者にも伝わりますか。それとも、もう一度最初から説明しますか」
「この窓口では扱えない理由と、次に相談する部署名を書いてもらえますか」
同じ説明を何度もすることがつらい場合は、窓口名、担当者名、日時、言われたことを短く残します。
それでもどこにもつながらない場合は、総合案内へ戻り、「二つの課を案内されましたが、どちらでも扱えないと言われました。生活全体を受け止める窓口はありますか」と伝えます。
親御さんや配偶者の代わりに行く場合、最初から手続き完了を目指さない
ご家族の代わりに市役所へ行っても、本人ではないという理由で、個人情報や詳しい手続き内容を教えてもらえない場合があります。
家族なのに何もできないのか、と腹立たしく感じるかもしれません。しかし、本人の情報や権利を守るために、本人確認や委任状が必要になる手続きがあります。
初回は、個別情報を聞き出すことより、次を確かめる場と考えると進めやすくなります。
- 本人の困りごとは、どの窓口が担当するか
- 家族から一般的な相談ができるか
- 本人が来庁できない場合、電話、訪問、郵送などの方法があるか
- 委任状や本人確認書類が必要か
- 本人の同意をどのような形で確認するか
窓口では、次のように伝えます。
「父本人の情報をすぐ教えてほしいのではありません。父が一人で手続きできないため、家族として何を準備すればよいか知りたいです」
高齢の親御さんの生活や介護については、ご家族から地域包括支援センターへ相談できる場合があります。生活困窮者自立支援制度の窓口も、本人だけでなく家族や周囲の方からの相談を受け付けると案内されています。
ただし、正式な申請、契約、医療情報の開示などは、本人の意思や個別の要件が必要です。最初の電話で、代理相談の範囲を尋ねてください。
期限があるときは、事情より先に日付を言います
市役所への相談を急いだ方がよいのは、すでに困っているからだけではありません。時間が過ぎることで選択肢が減る問題があるからです。
次のような事実がある場合は、受付の最初に伝えます。
- 今日食べるものや寝る場所がない
- 家賃滞納による退去の期限が迫っている
- 電気、ガス、水道の停止予定日が書かれている
- 税金や保険料の督促、差押えに関する通知がある
- 給付、申請、不服申立てなどの期限が近い
- 家族からの暴力やつきまといがある
- 子どもや高齢者の安全が保てない
「詳しい事情の前に、期限があります。明日が支払期限です」
「今夜泊まる場所がありません」
「家に戻ると暴力を受けるおそれがあります」
このように、現在の危険や期限を先に示します。
市役所で解決しない問題は、窓口を変える必要があります
市役所は生活に関わる多くの相談を扱いますが、すべての問題を市役所だけで解決できるわけではありません。
たとえば、商品や定期購入などの契約トラブルは、消費生活センターが扱います。近くの窓口が分からなければ、消費者ホットライン「188」から地域の相談窓口の案内を受けられます。
事件かどうか分からないものの、ストーカー、迷惑行為、犯罪被害など警察へ相談したい場合は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」があります。今すぐ警察官に来てほしい状況では110番です。
国の行政機関の仕事や手続きに関する苦情、意見、どこへ申し出ればよいか分からない問題は、総務省の行政相談が扱う場合があります。ただし、市役所の福祉制度への申請そのものを代行する窓口ではありません。
別の機関を案内されたときは、「そこでは何を話せばよいですか」「市役所で受け取る書類はありますか」まで聞いておくと、次の電話がしやすくなります。
今日することは、市役所の代表番号へ一文伝えるところまでです
制度を調べ、書類をそろえ、家族へ説明し、市役所へ行く。そのすべてを今日終わらせようとすると、電話をかける前に疲れてしまいます。
まず、お住まいの市区町村の公式サイトで代表電話番号を開きます。
電話がつながったら、次の一文だけ伝えてください。
「担当課が分かりません。〇〇に困っているので、最初に話を聞いてもらえる窓口へつないでください」
「〇〇」には、生活費、家賃、親の介護、市役所から届いた封筒など、今一番困っていることを入れます。
うまく話せなければ、「緊張しているので、質問してもらえますか」と付け足せばよいのです。
その電話で問題がすべて解決しなくても、担当窓口の名前が一つ分かれば、次に進めます。市役所へ相談するために、先に役所の言葉を覚える必要はありません。今の生活で起きていることを、普段の言葉のまま渡すところから始められます。














