予約は取ったものの、何を持って行けばよいのか分からない。
契約書、請求書、相手とのメッセージ、役所から届いた通知。机の上には書類が広がっているのに、自分が何を相談したいのかは、かえって見えにくくなっています。
「最初から全部説明できるだろうか」
「こちらにも悪いところがあると言われたらどうしよう」
「無料なのに、こんな込み入った話をしてよいのか」
法律相談の前に言葉がまとまらないのは、準備不足だからとは限りません。起きた出来事と、腹立たしさ、怖さ、家族への心配が頭の中で一緒になっているためです。
弁護士に話すための立派な文章を作る必要はありません。
必要なのは、事情をきれいに説明することではなく、いつまでに、何について判断しなければならないのかを伝えられる状態にすることです。
最初に確かめたいのは「何が無料なのか」です
「無料法律相談」と呼ばれる窓口には、自治体、法テラス、弁護士会、法律事務所などがあります。ただし、利用条件、対象分野、相談時間、予約方法は同じではありません。
| 相談先 | 予約前に確かめたいこと | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 自治体の法律相談 | 対象となる住民、相談分野、予約日、相談時間、利用回数 | 継続対応や書類作成までは扱わない場合があります |
| 法テラスの無料法律相談 | 収入・資産などの利用条件、相談場所、相談方法、対象分野 | 無料相談の対象には条件があり、刑事事件は一般法律相談援助の対象外です |
| 弁護士会の法律相談センター | 相談料、相談分野、時間、電話・対面・オンラインの別 | すべての相談が無料とは限りません |
| 法律事務所の初回無料相談 | 無料になる時間、対象分野、2回目以降の料金 | 相談後に依頼する場合は、別途費用が発生するのが一般的です |
法テラスの無料法律相談は、収入や資産が一定基準以下であることなどが条件です。原則として事前予約が必要で、相談は1回30分、同一の問題について3回までと案内されています。基準は家族人数や居住地域などで異なるため、ご自身で対象外と決めつけず、予約時に確かめてください。
一方、弁護士会の法律相談センターは、地域や相談内容によって料金が異なります。無料相談が用意されている分野もありますが、通常の相談は有料の場合があるため、予約画面や電話で金額を確かめます。
予約時には、次のように聞けば十分です。
「〇〇について相談したいのですが、相談料、相談時間、持ち物、対象となる条件を教えてください」
ご家族が代わりに行く場合は、予約の段階でそのことも伝えます。本人の意思確認や委任状を求められることがあり、窓口によって代理相談の扱いが異なるためです。
訴状や通知に日付があるなら、メモ作りより先に期限を伝えます
通常の相談であれば、数日かけて資料をそろえても差し支えないことがあります。
ただし、次のような書類が届いている場合は、「きれいに準備してから予約しよう」と待たないでください。
- 裁判所から届いた訴状、支払督促、調停や審判の呼出状
- 勤務先からの解雇通知、雇止め通知、懲戒処分の通知
- 家主や管理会社からの退去、契約解除、滞納に関する通知
- 金融機関や債権回収会社から届いた期限付きの請求書
- 契約の取消しや解約について、回答期限が記載された書類
- 相続、行政処分、異議申立てなど、対応できる期間が限られる問題
書類の表題が分からなくても構いません。
予約先には、次のように伝えます。
「裁判所から書類が届いており、〇月〇日と書かれています。何の期限か分からないため、早く相談できる日があるか確認したいです」
予約日が期限より後になる場合は、そのまま予約日を待ってよいかも尋ねます。窓口が手続きの個別判断を電話で答えられない場合でも、急ぎであることを伝えれば、別の相談先を案内してもらえることがあります。
相手から脅されている、押しかけられている、暴力を受けているなど、今まさに身の危険があるときは、通常の法律相談を待つ場面ではありません。安全な場所へ移り、緊急の場合は110番、けがや急病がある場合は119番を優先してください。
相談用のメモは、一枚に収まる「五つの箱」で作れます
法律相談で最も時間を使いやすいのは、出来事を思い出しながら最初から話す部分です。
相談時間が30分なら、詳しい事情をすべて話したところで終わってしまうこともあります。
そこで、相談用メモの最初の一枚を、次の五つに分けます。
| 書く項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 何に困っているか | 退去を求められている/相続の話が進まない/未払い賃金を請求したい |
| 相手は誰か | 勤務先、元配偶者、きょうだい、貸主、契約した会社 |
| いつまでに対応が必要か | 通知には8月10日までと記載/次の支払日は7月31日 |
| どうなればよいか | すぐ退去せず話し合いたい/請求できるか知りたい/連絡を止めたい |
| 今日聞きたいこと | 放置してよいか/最初に送る書面は何か/依頼しない場合に自分でできること |
「どうなればよいか」が分からなければ、無理に結論を作らなくても構いません。
「争いたいのか、話し合いたいのかも決められていません。今ある選択肢を教えてください」
これも十分な相談内容です。
弁護士は、相談者の話を聞かずに勝手に裁判を始めるわけではありません。相談では、まず法的な問題点、考えられる手段、期限や費用を確かめ、その後どうするかをご本人が決めます。
最初の一枚には「結論」ではなく、「困りごと・相手・期限・希望・質問」を書きます。詳しい経緯や証拠は、二枚目以降に回して構いません。
時系列は、記憶ではなく書類の日付から埋めます
「三年前くらいだったと思う」「春ごろに言われた」と記憶だけで並べようとすると、途中で分からなくなります。
まず、契約書、メール、通帳、通知書などに書かれた日付を拾います。
| 日付 | 起きたこと | 分かる資料 |
|---|---|---|
| 4月3日 | 相手と契約した | 契約書、申込画面 |
| 4月18日 | 説明と違うことに気づいた | 商品写真、広告画面 |
| 4月20日 | 電話で解約を求めた | 通話履歴、自分のメモ |
| 5月1日 | 解約できないとメールが届いた | 相手からのメール |
すべての日付が正確でなくても大丈夫です。分からない箇所には「4月中旬ごろ」「正確な日は不明」と書きます。
推測を事実のように埋めるより、分からないことを分からないまま示した方が、弁護士は判断しやすくなります。
ご自身に不利だと思う出来事も外さないでください。
たとえば、支払いを一度約束した、相手へ強い言葉を送った、契約書を読まずに署名した、といった事情です。後から相手の資料で判明すると、前提から検討し直すことになります。
責められないように話を整えるのではなく、今後の不利益を減らすために事実を渡す、と考えてください。
持参する書類は、問題ごとに一つの袋へまとめます
法テラスでは、裁判所や事件の相手方から届いた訴状、呼出状、請求書などを準備し、相談内容をまとめた手控えメモを用意するよう案内しています。
具体的な持ち物は相談内容で変わります。次の一覧から、関係するものだけを選んでください。
どの相談にも共通しやすいもの
- 相談用の一枚メモ
- 出来事を日付順に並べた時系列
- 相談相手と関係者の氏名、会社名、住所など
- 相手から最後に届いた通知、メール、手紙
- 予約確認のメールや受付番号
- 本人確認書類など、予約先から指定されたもの
- 筆記用具と、持ち帰った書類を入れる袋
離婚・家族の問題
- 婚姻、別居、離婚協議の経緯が分かるメモ
- 収入、生活費、住宅ローン、財産の概略
- 相手と交わした合意書、メール、メッセージ
- 暴言や暴力が問題なら、写真、診断書、録音、日記など手元にある記録
借金・請求の問題
- 借入先、借入時期、残高、毎月の返済額をまとめた一覧
- 督促状、請求書、利用明細、裁判所からの書類
- 収入と毎月の生活費が分かる資料
- 保証人や担保の有無
相続の問題
- 亡くなった方との関係が分かる簡単な家族図
- 亡くなった日、遺言書の有無
- 預貯金、不動産、保険、借金など、分かる範囲の財産一覧
- ほかの相続人との話し合いや連絡の記録
仕事の問題
- 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則
- 給与明細、勤怠記録、シフト表
- 解雇、退職勧奨、配置転換、懲戒などの通知
- 上司や会社とのメール、チャット、録音など
契約・住まい・消費者トラブル
- 契約書、申込書、重要事項説明書
- 広告、商品ページ、見積書、請求書、領収書
- 解約を申し出た日時と相手の回答
- 住まいの問題なら、賃貸借契約書、写真、修繕履歴、通知書
書類は古い順か新しい順のどちらかに統一し、付箋に「契約書」「相手の通知」「裁判所」と書くだけでも探しやすくなります。
大量のメールや写真をすべて印刷する必要はありません。重要と思うものを数点選び、残りはスマートフォンやUSBなどで見られる状態にします。データの持込み方法や録音の可否は窓口ごとに異なるため、事前に尋ねてください。
最初の三分で伝えることを決めておくと、話が脇道へそれません
相談が始まったら、最初から長い経緯を説明するより、次の順番で伝えます。
「〇〇のことで相談に来ました。相手は〇〇です。〇月〇日までに対応が必要です。今日は、取れる方法と、今してはいけないことを聞きたいです」
たとえば、相続であれば次のようになります。
「父が亡くなり、兄が一人で預金を管理しています。遺産の内容が分からないまま書類への署名を求められています。返事は来週までと言われました。署名する前に確かめることを教えてください」
労働問題なら、こうです。
「会社から今月末で辞めてほしいと言われました。書面はまだ受け取っていません。退職届へ署名する前に、何を確認すべきか知りたいです」
途中で感情がこみ上げたり、話が前後したりしても問題ありません。
そのときは、メモを見せて「うまく話せないので、先にこれを見てもらえますか」と伝えれば、そこから質問してもらえます。
聞きたいことは「法律上どうか」だけで終わらせません
「勝てますか」「相手が悪いですよね」と聞きたくなるのは自然です。
ただ、限られた資料と時間では、結果を断定できないことがあります。結論だけでなく、次の判断材料を聞くと、相談後に動きやすくなります。
- この問題で、法律上の争点になる部分はどこですか
- 対応できる期限はありますか
- 今の段階で、してはいけないことはありますか
- 自分でできる対応と、弁護士へ依頼した方がよい対応はどこで分かれますか
- 不足している証拠や書類は何ですか
- 相手へ連絡するなら、何をどこまで伝えればよいですか
- 話し合い、調停、裁判には、それぞれどのような負担がありますか
- 何もしない場合、どのような可能性がありますか
- 次に相談するときまでに、何を用意すればよいですか
全部を聞く時間がなければ、質問へ番号を付けます。
第一優先は期限、第二優先は今してはいけないこと、第三優先は次に集める書類。
この三つが分かれば、その場で最終決断ができなくても、少なくとも悪化を避ける行動は選べます。
依頼を勧められたら、その場で返事をする前に費用の全体像を聞きます
相談の結果、相手との交渉、書類作成、調停、裁判などを弁護士へ依頼する選択肢が出ることがあります。
無料相談を受けたからといって、その弁護士へ依頼しなければならないわけではありません。法テラスも、相談を担当した弁護士や司法書士へ必ず依頼する必要はないと案内しています。
依頼を考える場合は、次の点を尋ねます。
- 依頼する仕事の範囲はどこまでか
- 着手金、報酬金、手数料はいくらか
- 裁判所へ納める費用、郵送費、交通費などの実費は別か
- 途中で終了した場合の費用はどうなるか
- 追加費用が発生するのはどのような場合か
- 支払時期と分割払いの可否
- 今後、誰がどの方法で連絡をくれるか
弁護士費用には、法律相談料、着手金、報酬金、手数料、日当、実費などがあり、金額は事件の内容や事務所によって異なります。日弁連も、依頼時には総額でどの程度の費用が必要になるかを確かめるよう案内しています。
費用の説明を聞いてもその場で理解できなければ、次のように伝えて構いません。
「今日は依頼を決めず、費用と対応範囲を書面で持ち帰って考えたいです」
ご家族が付き添うときは「代わりに全部話す」より役割を決めます
高齢の親御さんや、緊張の強い配偶者に付き添う場合、ご家族が最初から最後まで話してしまうことがあります。
ただし、弁護士が確かめたいのは、ご本人が何を望んでいるのか、どこまで理解し同意しているのかという点です。
付き添う前に、役割を一つ決めておきます。
- 聞き漏らしがないようメモを取る
- 本人が忘れた日付だけ補足する
- 費用や次の手順を最後に復唱する
- 本人が疲れたときに休憩を申し出る
本人が同席できず、ご家族だけで相談する場合は、代理相談が可能か予約先へ確かめます。
法テラスでは、相談前に本人の意思を口頭で確認したうえで代理相談が可能な場合があり、意思確認が難しい場合には委任状などを求めることがあります。電話等による代理相談は原則としてできないと案内されているため、事前確認が欠かせません。
本人に内緒で進めたい事情がある場合も、まず窓口へ事情を伝えてください。暴力、虐待、財産の使い込みなどが疑われるケースでは、本人へ先に知らせることで状況が悪化することもあるため、一律に家族で話し合えばよいとは限りません。
相談が終わる前に、次の行動を一文で確かめます
法律相談では、話を聞いている間は分かったつもりでも、帰宅すると順番が分からなくなることがあります。
終了の五分ほど前になったら、次のように尋ねます。
「今日の話を踏まえて、私が最初にすることは何ですか」
続けて、次の三点を確認します。
- いつまでにするのか
- どの書類を用意するのか
- うまくいかなかった場合、次にどこへ連絡するのか
弁護士の説明を自分の言葉で言い直してもよいでしょう。
「今日は署名せず、まず相手へ資料の開示を求める。その回答を持って、期限前にもう一度相談する、という理解で合っていますか」
理解が違っていれば、その場で直してもらえます。
今夜は、届いた書類の中から「期限が書かれた一枚」を探します
相談に必要な書類を、今夜すべてそろえる必要はありません。
まず、相手、裁判所、勤務先、役所などから届いた書類の中で、日付や回答期限が書かれているものを一枚探してください。
その一枚を透明な袋や封筒の一番上に入れ、余白へ次の三つだけ書きます。
- 誰から届いたか
- いつまでと書かれているか
- 自分では何が分からないか
期限が近い場合は、翌営業日に予約先へ電話し、「この日付までの対応が必要か分からない」と伝えます。
相談まで日にちがあるなら、その次に契約書やメッセージを足していけば十分です。
完璧な説明ができるようになってから法律相談へ行くのではありません。何が分からないのかを持って行き、判断に必要なものを一緒に見つけるための時間です。














