買ったものは、いつもとそれほど変わらない。
牛乳、卵、野菜、肉、洗剤。それなのに、レジで表示される金額は以前より千円ほど高い。特別なものをかごへ入れた覚えはありません。
家へ帰れば、電気代の請求書が届いている。ガソリン代も上がり、通院の交通費もかかる。節約しているはずなのに、給料日や年金支給日の前になると、口座残高が心細くなります。
「もっと我慢しなければいけないのか」
「自分のお金の使い方が悪いのか」
そう考えて食費を切り詰めても、家計が大きく改善するとは限りません。物価高の苦しさは、一度に大きな出費が起きるのではなく、食料品、日用品、光熱費など、避けにくい支出が少しずつ膨らむことにあります。
家計簿を完璧に付けるより先に、毎月いくら不足し、何が増えたのかを見つけるところから始めます。
以前と同じ暮らしでも、同じ金額では収まらなくなっています
総務省統計局が公表した2026年6月の全国消費者物価指数では、総合指数が前年同月より1.7%上昇し、生鮮食品を除く総合指数も1.6%上昇しています。
ただし、この数字は全国の平均です。
食品を多く買う家庭、車が欠かせない地域、冷暖房を長く使う家庭、医療や介護に費用がかかる家庭では、平均以上に負担が増えたと感じることがあります。
反対に、「平均では数%の上昇だから大したことはない」とも言えません。
毎月25万円で暮らしていた家庭の支出が、複数の値上げによって1万円増えれば、年間では12万円です。収入が同じなら、その分だけ貯金が減るか、ほかの支出を削ることになります。
以前と同じ買い物をしているのに苦しくなった場合、すべてを浪費のせいにしないでください。まず、家計の基準を現在の価格へ更新する必要があります。
物価高への家計対策は、「もっと節約する」ことから始めるのではありません。現在の収入で毎月いくらまで使え、実際にはいくら足りないのかを確かめることが先です。
生活費の不足を「三種類」に分けると、打ち手が変わります
口座残高が減っている理由を、すべて物価高と考えると、効果のある見直しを選べません。
まず、支出の増加を三つに分けます。
| 不足の種類 | よくある例 | 考えること |
|---|---|---|
| 毎月続く値上がり | 食料品、日用品、電気、ガス、ガソリン、サービス料金 | 契約や買い方を変え、継続的な負担を下げる |
| 一時的な大きな支出 | 車検、家電の故障、入院、冠婚葬祭、住宅修繕 | 通常の生活費と分け、今後も毎年起きるかを見る |
| 収入の減少 | 残業減、退職、休職、年金生活への移行、家族の離職 | 支出削減だけで埋まる金額か、収入や制度も見る |
たとえば、今月8万円足りなかったとしても、家電の買い替えに6万円かかっていたなら、毎月の赤字は2万円かもしれません。
一方、家電の購入がなくても毎月5万円不足しているなら、食費の小さな節約だけで埋めるのは難しくなります。
「今月いくら使ったか」だけではなく、来月も続く不足はいくらかを見ます。
直近三か月の明細から、毎月の赤字額を出します
細かな家計簿がなくても、銀行口座、クレジットカード、現金で大きく使った金額を見れば、家計の輪郭はつかめます。
直近三か月について、次の式で計算します。
毎月の赤字額 = 毎月の支出 - 毎月の手取り収入
支出には、次のものを入れます。
- 家賃や住宅ローン
- 電気、ガス、水道
- 通信費、保険料
- 食費、日用品費
- 車、交通費
- 医療、介護、教育費
- カードや借入の返済
年払いの税金、車検、保険料などは、年間の金額を12で割って加えます。
固定資産税が年12万円なら、家計上は毎月1万円を使っているのと同じです。支払月だけ赤字になったように見えても、実際には一年を通した支出です。
収入が月25万円、日常的な支出が27万円、年払いの支出を月割りすると1万円なら、毎月の赤字は3万円です。
この場合、必要なのは「何となく節約する」ことではありません。毎月3万円を、支出削減、収入、制度利用のどこで埋めるかを考えます。
最初に止めるのは、生活ではなく「使っていない支出」です
家計が苦しいとき、真っ先に食費や楽しみを削りたくなります。
しかし、最初に見るのは、払っているのに十分使っていない支出です。
- 視聴していない動画、音楽、新聞などの定額サービス
- 使っていない有料アプリやクラウドサービス
- 同じ役割を持つ複数の保証や会員サービス
- 利用頻度の低いスポーツジム、習い事、会費
- 無料期間終了後も続いているオプション
- 以前のスマートフォンや回線に残った契約
通帳やカード明細に、毎月同じ金額で出ている支払いへ印を付けます。
一件500円でも、五つあれば月2,500円、年間3万円です。生活の満足度を大きく下げずに止めやすい部分から手を付けます。
ただし、名称を見ても分からない支払いを、いきなり停止しないでください。仕事、写真の保存、見守り、セキュリティーなどに使っている可能性があります。契約先と用途を確かめてから解約します。
固定費は金額が大きいものから、一件ずつ見ます
使っていない契約を止めた後は、毎月自動的に出ていく固定費を見ます。
固定費は一度変更すると効果が続きますが、解約や変更による不利益もあります。全部を一度に変えず、金額の大きいものから一件ずつ扱います。
通信費
スマートフォンの料金は、実際の通信量と通話時間に合っているかを見ます。
低料金のプランへ移っても、店頭サポートが受けにくくなる、携帯会社のメールが変わる、家族割引から外れるといった影響があります。月額料金だけでなく、変更後に困ることも比べてください。
保険料
保障が重複している場合は見直し余地があります。
ただし、年齢や健康状態によっては、解約後に同じ条件で入り直せません。入院、死亡、介護、貯蓄目的など、何に備える保険なのかを確かめずに解約しないでください。
電気・ガス
契約会社や料金プランを変えると安くなる場合がありますが、必ず安くなるわけではありません。
基本料金、使用量に応じた料金、燃料費などの調整、契約期間、解約金、セット契約の条件を比べます。資源エネルギー庁も、切り替え時には料金だけでなく、契約期間や契約解除の条件を確認するよう案内しています。
訪問や電話で「必ず安くなる」と言われても、その場で契約する必要はありません。検針票には契約変更に使われる番号などが記載されているため、契約意思がない相手へ安易に見せない方が安全です。
食費は「食べる量」より、買い方を変えます
食費は毎週使うため、値上がりを強く感じやすい項目です。
だからといって、肉、魚、卵、乳製品、野菜などを一律に減らすと、体調を崩し、別の負担が増えることがあります。
先に見直すのは、食べずに捨てているものと、予定外の買い足しです。
- 冷蔵庫に同じ食品が複数残っていないか
- 特売だからと、使い切れない量を買っていないか
- 献立を決めずに毎日買い物へ行っていないか
- 空腹のまま買い物をして、予定外の品が増えていないか
- 総菜、外食、配達を使う日が重なっていないか
- 飲料、菓子、酒類などが習慣的に増えていないか
買い物へ行く回数を週一回にする必要はありません。高齢の方や少人数世帯では、まとめ買いが廃棄を増やす場合もあります。
ご家庭に合う回数で、「家にあるものを見てから行く」「主菜を三日分だけ決める」「使い切れない特売品は買わない」といったルールを一つ選びます。
同じ商品でも、店、容量、単価が違います。価格だけでなく、使い切れる量かどうかまで含めて判断してください。
車や住まいは効果が大きい分、急いで変えません
車や住居費は家計に占める割合が大きく、見直せれば効果も大きくなります。
一方で、暮らし方そのものが変わります。
車を手放しても、通院、買い物、家族の送迎にタクシーを使えば、思ったほど減らないことがあります。地方では、車が生活を維持する手段になっている家庭もあります。
住み替えも、家賃だけで判断できません。引っ越し費用、敷金・礼金、交通費、医療機関や家族との距離まで見ます。
車や住まいを見直すときは、変更前と変更後の年間費用を比べます。
車の場合:ローン、保険、税金、車検、駐車場、燃料、修理費と、手放した後の交通費を比較します。
住まいの場合:現在の年間住居費、修繕費、引っ越し費用、新居の家賃・管理費、交通費を比較します。
「大きな固定費だから」という理由だけで急いで手放さず、生活が成り立つかまで計算します。
削らない方がよい支出があります
生活費が足りないと、すべてを同じように削りたくなります。
しかし、次の支出は、減らすことで健康や生活が崩れるおそれがあります。
- 必要な通院、薬、医療
- 体調を保つための食事
- 暑さや寒さから身を守る冷暖房
- 仕事、通院、家族連絡に欠かせない通信や交通
- 家賃、住宅ローン、税金、保険料など期限のある支払い
- 介護や見守りなど、安全を支えるサービス
支払えないからと、通院をやめたり、冷暖房を使わなかったりする前に、利用できる制度や支払い方法を確かめてください。
保険料、税金、公共料金などは、支払いが難しい事情を伝えることで、分割や猶予などの手続きが用意されている場合があります。必ず利用できるわけではありませんが、期限前に請求元へ連絡することが入口になります。
家族には「節約して」ではなく、不足額を伝えます
家族の一人だけが家計を見ていると、「電気を消して」「買い物を減らして」と何度も言うことになります。
言われる側には、細かいことを責められているように聞こえるかもしれません。
家族へ伝えるときは、節約のお願いより先に、現在の不足額を示します。
「食費が高いから気を付けて」ではなく、
「三か月平均で、収入より毎月2万5,000円多く使っている。このままだと一年で30万円貯金が減る。まず月1万円分を一緒に見直したい」
この方が、何のために変えるのかが伝わります。
一度の話し合いで家計全体を変える必要はありません。
今月は通信費と外食、来月は保険というように、一回の議題を二つまでに絞ります。過去の浪費を責める話になったら、次のように戻します。
「誰が悪かったかではなく、来月の不足をどう埋めるかだけ決めたい」
支出だけで埋まらない赤字は、収入と制度も一緒に見ます
毎月5万円不足している家計で、不要な契約が月3,000円しか見つからないこともあります。
この場合、節約の努力が足りないのではありません。支出だけでは埋められない規模になっています。
働ける方であれば、勤務時間、仕事の変更、副業なども選択肢になります。ただし、「簡単に高収入」「初期費用を払えば稼げる」といった話へ、焦って申し込まないでください。
年金生活の方は、実際の年金額、ほかの収入、利用している控除や制度を確かめます。
家計全体を第三者と見たい場合は、金融経済教育推進機構J-FLECで、家計管理などについて無料の電話相談や個別相談の無料体験が案内されています。特定の商品を契約するためではなく、家計の数字を見直す入口として利用できます。
収入、仕事、家賃、借金など複数の問題が重なっている場合は、自治体の自立相談支援機関で、家計改善、就労、住まいなどの支援につながる場合があります。
電話では、次のように伝えれば十分です。
「物価高で毎月の生活費が約3万円不足しています。節約だけでは埋まらず、家計と使える制度を一緒に見てほしいです」
話を聞いたからといって、すぐに貸付や契約が始まるわけではありません。最初は、現在の家計と利用できる可能性がある支援を分ける時間です。
借入で毎月の赤字を隠しているなら、節約より先に止めます
クレジットカードの分割払いやリボ払い、カードローンで生活費を補うと、今月は乗り切れても、翌月以降の返済が増えます。
次の状態があれば、通常の家計見直しより早い対応が必要です。
- 生活費をリボ払いやキャッシングで補っている
- 別の借入で返済を続けている
- 家賃、住宅ローン、公共料金を滞納している
- 税金や保険料の督促状が届いている
- 食費や必要な薬を買えない
- 電気、ガス、水道の停止予告が届いている
- 退去や差押えなど、期限の書かれた通知が届いている
この場合は、家計簿を完成させてから連絡する必要はありません。
請求書や通知書を手元に置き、支払先へ次のように伝えます。
「期限までに全額を支払うことが難しい状況です。利用できる手続きや、今しなければならないことを教えてください」
契約の内容が分からない、強引な勧誘で契約した、解約できないといった消費者トラブルがある場合は、消費者ホットライン188から地域の消費生活相談窓口につながります。
今夜は三つの明細を横に並べるところまでで構いません
家計を一晩ですべて立て直す必要はありません。
今夜用意するのは、次の三つです。
- 最新の銀行口座の明細
- 最新のクレジットカード明細
- 電気、ガス、通信のうち、最も高い請求書
それぞれについて、三か月前より増えた金額へ印を付けます。
次に、毎月続く支出の中から「使っていないもの」を一件だけ選びます。
解約するかどうかは、用途と条件を確かめてからで構いません。今夜決めるのは、食事を減らすことでも、車を手放すことでもありません。
毎月の不足額と、最初に見直す一件を見つける。
そこまで分かれば、「何もかも高くてどうしよう」という状態から、次に扱う問題を一つ選べる状態へ進めます。


















