家賃の支払日まで、あと四日。
冷蔵庫には卵が二つ。通帳の残高は数千円で、次の収入が入る予定はありません。
役所の窓口を検索して電話番号までは開いたものの、発信ボタンを押せない。
「働けるでしょう」と言われるかもしれない。離れて暮らす子どもへ連絡されるのも怖い。車を手放せと言われたら、病院へも行けなくなる。
その一方で、もう自分だけでは来月の生活を組み立てられないことも分かっています。
生活保護の窓口が怖いのは、制度を知らないからだけではありません。収入、預金、家族関係、病気など、これまで人に見せずに守ってきた生活を説明しなければならないからです。
うまく話せなくても構いません。ただ、生活が途切れそうな時期だけは、遠慮して曖昧に伝えない方がよいことがあります。
「話を聞きたい」と「申請したい」は別の意思表示です
福祉事務所へ行くと、最初に現在の生活や、利用できそうな別の制度について話を聞かれることがあります。
相談した結果、家計支援、住居確保給付金、年金や手当など、生活保護とは別の制度を案内される場合もあります。
それで当面の生活を維持できるなら、一つの選択肢です。
しかし、すでに所持金がほとんどない、家賃を払えない、医療にかかれないなど、生活保護を申請したい状態なら、相談だけで帰らず意思を言葉にしてください。
「制度の説明だけでなく、今日は生活保護を申請したいです」
この一言で、情報を聞くための来所なのか、正式な申請を求めているのかが伝わります。
生活保護の申請は国民の権利と厚生労働省が案内しています。窓口へ行く前に、自分で受給条件を満たしていると証明し切る必要はありません。
別の制度を案内された場合も、生活保護の申請を希望しているなら、「その制度も検討しますが、生活保護の申請も行いたいです」と伝えて構いません。
今日食べるものがない場合は、最初の一文で伝えます
窓口では、事情を順番に話そうとして、いちばん切迫したことを後回しにしてしまう方がいます。
次のような状態なら、受付や担当者へ最初に伝えてください。
- 今日、食べるものを買うお金がない
- 今夜泊まる場所がない
- 家賃滞納で退去日が迫っている
- 電気、ガス、水道が止まっている、または停止日が迫っている
- 必要な薬が切れるが、受診や支払いができない
- 乳幼児、高齢者、病気の家族の生活を維持できない
第一声は、短くて構いません。
「手持ちは1,500円で、次の収入予定がありません。今日の食費にも困っています」
「今夜から泊まる場所がありません。生活保護の申請と、今日受けられる支援について話したいです」
利用できる緊急的な支援は地域や状況によって異なります。福祉事務所のほか、自立相談支援機関、社会福祉協議会などへつながる場合があります。
強い胸痛、意識の異常、呼吸困難など、命に関わる症状がある場合は、生活保護の手続きより119番を優先してください。
窓口では、生活が成り立たなくなった理由を聞かれます
初回の面談では、担当者が受給の可否をその場の印象だけで決めるわけではありません。
世帯の生活、収入、資産、健康、仕事、親族からの援助などを把握するため、次のようなことを聞かれます。
- 誰と暮らしているか
- 毎月の収入と、次に収入が入る日
- 現金、預貯金、保険、不動産、自動車などの資産
- 家賃、光熱費、医療費などの支出
- 仕事をしているか、働けない事情があるか
- 年金、失業給付、各種手当を受けているか
- 借金や滞納があるか
- 親族から援助を受けられる状況か
- 病気、障害、介護など生活に影響する事情
質問されると、「疑われている」と感じることもあるでしょう。
しかし、地域や世帯人数によって最低生活費が異なり、収入との差額を算定するためには、現在の生活を把握する必要があります。
分からないことを、その場で推測して答える必要はありません。
「口座がほかにもあったと思いますが、今日は通帳がありません」
「借金の残額は分からないので、明細を確認して後日提出します」
このように、分かる範囲と分からない範囲を分けます。
書類がそろっていなくても、申請を先延ばしにしなくて構いません
窓口へ持って行くと状況を伝えやすいのは、次の資料です。
- 本人確認書類
- 手元にある通帳や残高が分かる画面
- 給与明細、年金通知書、手当の支給通知
- 賃貸借契約書、家賃の請求書、滞納通知
- 保険証や資格確認書、お薬手帳、診断書
- 生命保険、自動車、不動産に関する書類
- 電気、ガス、水道、携帯電話などの請求書
- 借入金、クレジットカード、税金の督促状
- 離職票、解雇通知、勤務先からの連絡
ただし、これらをすべて用意できなければ申請できない、ということではありません。
厚生労働省は、必要な書類がそろっていなくても申請できると案内しています。申請書を作成できない特別な事情がある場合は、申請書がなくても申請できることがあります。
通帳をなくした、身分証明書を持っていない、住所が定まっていないという場合も、その事情をそのまま伝えてください。
家族へ先に頼んでからでないと申請できる、という制度ではありません
生活保護をためらう理由として多いのが、離れて暮らす親、子ども、きょうだいへ連絡されることへの心配です。
扶養義務者から援助を受けられる場合、その援助は生活保護より優先されます。
しかし、同居していない家族へ自分から相談し、断られてからでなければ申請できないわけではありません。
申請後は、福祉事務所が家族関係や援助の可能性を調べることがあります。一般に「扶養照会」と呼ばれるものです。
ただし、すべての親族へ機械的に同じ照会をするとは限りません。
次のような事情がある場合は、申請時に具体的に伝えてください。
- 家庭内暴力や虐待から逃げている
- 親族へ居場所を知られると危険がある
- 長期間、音信不通で交流がない
- 過去の借金、相続、暴力などにより著しく関係が悪い
- 援助を求めることで心身の状態や自立が損なわれる
- 親族自身が高齢、病気、生活困窮などで援助できない
厚生労働省の運用では、扶養を期待できないと判断される親族には、扶養照会を行わない場合があります。暴力や虐待の事情がある場合は、単に「連絡されたくない」ではなく、その理由まで伝えることが安全につながります。
「父とは10年以上連絡を取っておらず、過去に暴力がありました。居場所を知られない形で手続きを進めたいです」
話しにくければ、短いメモにして担当者へ渡しても構いません。
働いていることや年金があることだけで、対象外とは決まりません
生活保護は、まったく収入がない人だけの制度ではありません。
働いていても、年金や手当を受けていても、世帯の収入が国の基準で計算される最低生活費に満たない場合は、その差額が保護費として支給される可能性があります。
たとえば、病気で勤務日数が減った、年金だけでは家賃と医療費を賄えない、ひとり親で働いても生活費が不足するといった場合です。
働ける状態であれば、仕事探しや就労について助言を受けることはあります。
ただし、年齢、病気、障害、介護、家族の状況などを見ずに、「働ける年齢だから」という一言だけで生活全体を判断できるものではありません。
通院中で働き方に制限がある場合は、お薬手帳、診断書、通院予定などを持参し、できる仕事と難しい仕事を伝えてください。
持ち家や車があっても、相談する前に処分を決めないでください
預貯金、利用していない土地や家屋など、生活費へ充てられる資産は活用することが原則です。
一方、持ち家があるから申請できないとは限りません。
現在住んでいる家については、処分価値、住宅ローン、世帯の状況などを踏まえ、保有が認められる場合があります。
自動車も処分が原則とされますが、地域の交通事情、障害、通院、通勤、求職、自営業などの事情により、保有が認められる場合があります。
相談前に急いで売却すると、かえって通院や仕事が続けられなくなることもあります。
窓口では用途を具体的に説明してください。
「公共交通機関が少ない地域で、週三回の通院に使っています」
「仕事を続けるために車が必要です。勤務先まで公共交通機関では通えません」
保有が認められるかは個別に判断されます。売るか残すかを、自分だけで先に決める必要はありません。
同居家族がいる場合は、世帯全体の生活が見られます
生活保護は、原則として世帯単位で行われます。
配偶者や子どもなどと一緒に暮らしている場合は、世帯員の収入、資産、生活状況も対象になります。
家計を別にしているつもりでも、食事や住居を共有していれば、同じ世帯として扱われる可能性があります。
反対に、同じ住所でも生活実態が明確に分かれているなど、個別の事情が考慮される場合があります。
同居人との関係が複雑なら、次の点を説明します。
- 誰が家賃や光熱費を払っているか
- 食費や日用品を一緒にしているか
- 互いに収入を渡し合っているか
- 介護、暴力、別居準備など特別な事情があるか
形式上の住所だけでなく、実際にどのように生活しているかを担当者へ伝えてください。
申請後は、家庭訪問や資産・収入の調査があります
申請後、福祉事務所は生活保護を受けられるか判断するため、生活状況や資産、収入などを調べます。
- 担当者による家庭訪問
- 預貯金、生命保険、不動産などの調査
- 年金、給与、各種手当などの収入調査
- 扶養を受けられる可能性の調査
- 働ける状態や求職状況の調査
家庭訪問は、部屋が整っているかを採点するためのものではありません。生活実態や居住状況を把握するために行われます。
片付けができていない、郵便物がたまっている、家電があるという理由だけで、生活に困っていないと決められるものでもありません。
近所へ生活保護の申請を公表する制度ではありませんが、審査に必要な範囲で金融機関や関係先への調査が行われることはあります。
受給できるかの回答は、申請から原則14日以内です
厚生労働省の案内では、生活保護を申請すると、原則として申請日から14日以内に受給の可否が回答されます。
調査に時間を要する特別な事情がある場合は、最長30日とされています。
申請時には、次のことを尋ねてください。
「本日が申請日になるという理解でよいですか」
「結果は、いつごろ、どのような方法で通知されますか」
「決定までの食費がありません。今日から利用できる支援はありますか」
提出した申請書や受け取った書類は、写真やコピーで残します。担当部署、担当者名、申請日も控えておくと、その後の連絡がしやすくなります。
窓口で「先に家族へ聞いて」と言われたときの返し方
相談の中で、「親族に頼れませんか」「まず仕事を探してください」「車を売ってから来てください」と言われることがあります。
制度の要件を調べるために質問されている場合もあるため、その言葉だけで申請を拒否されたとは限りません。
ただ、申請したい意思があるなら、曖昧に帰らず、次のように伝えてください。
「家族からの援助が可能かは調査していただいて構いません。ただ、現在生活できないため、今日は申請したいです」
「車の扱いは調査の中で判断していただきたいです。申請書を提出したいです」
「働ける範囲では仕事を探しますが、今の収入では生活できません。申請を希望します」
それでも申請書を受け取れない、申請意思が扱われないと感じた場合は、日時、窓口、担当者、言われた内容を残します。
そのうえで、福祉事務所の責任者や自治体の生活保護担当部署へ、「申請したいと伝えたが、申請書の提出に至らなかった」と説明してください。法律上の対応が必要だと感じる場合は、法テラスや弁護士などへ経緯を伝える方法もあります。
借金は隠さず、生活保護とは別に扱います
カードローン、家賃滞納、税金、知人からの借入れがあると、「借金があると申請できないのでは」と考える方がいます。
借金があること自体を隠す必要はありません。請求書や督促状があれば持参してください。
ただし、生活保護費は最低限度の生活を維持するためのもので、借金の返済方法は別に考える必要があります。
返済できない借金がある場合は、福祉事務所だけでなく、法テラス、弁護士、司法書士などへ債務整理の方法を聞くことがあります。
相談しただけで、すぐ自己破産や正式な手続きが始まるわけではありません。
電話では、次のように伝えられます。
「生活費が足りず生活保護を申請しています。借金の返済もできないため、どのような方法があるか先に説明を聞きたいです」
生活保護以外の制度を使う場合も、生活が持つかを基準にします
生活保護に至る前の支援として、生活困窮者自立支援制度があります。
地域の自立相談支援機関では、仕事、家計、住まいなどの悩みを受け、状況に応じた支援計画を考えます。
一定の要件を満たす方には、住居確保給付金などを案内されることもあります。
ただし、制度を紹介されたときは、給付の開始まで現在の生活を維持できるかを見てください。
家賃支援を申請しても、今日の食費や医療費がないのであれば、それだけで問題が解決するとは限りません。
「その制度の結果が出るまで生活費がありません。生活保護の申請も必要だと考えています」
別制度と生活保護を対立させず、今の生活を切らさない方法を窓口と考えます。
家族が代わりに調べている場合は、本人の怖さを先に聞きます
親御さんや配偶者が生活に困っているのに、役所へ行くことを拒む場合があります。
家族から見ると、残高も家賃滞納も明らかで、「なぜ相談しないのか」と腹が立つこともあるでしょう。
本人は、家族へ迷惑をかけたくない、財産を取り上げられそう、近所に知られそう、役所で責められそうと考えているかもしれません。
いきなり申請を迫らず、何が怖いのかを一つ聞きます。
「生活保護を受けるかは今決めなくていい。家族への連絡が怖いのか、家を手放すのが怖いのか、どちらが近い?」
家族が福祉事務所へ事前に問い合わせたり、本人の同意を得て面談へ同行したりすることもできます。
本人が病気や障害などで来所できない場合は、その事情を福祉事務所へ伝え、訪問や申請方法について聞いてください。
今日は、福祉事務所の電話番号と最初の一文だけ用意します
今日中に、制度をすべて理解する必要はありません。
お住まいの地域を担当する福祉事務所を調べ、電話番号を連絡先へ登録してください。福祉事務所を設置していない町村では、町村役場でも申請手続きを行える場合があります。
電話の最初の一文は、次の形で構いません。
「生活費が足りず、生活保護を申請できるか相談したいです。手持ちは〇円で、次の収入予定は〇日です」
すでに生活が限界なら、言い方を変えます。
「今日の食費がなく、生活保護を申請したいです。必要書類はそろっていませんが、今日伺えますか」
電話した時点で、受給を決めたことにはなりません。
それでも、自分だけで残高と支払日を見続ける状態からは離れられます。次に必要なのは、立派な説明ではなく、現在の金額と「申請したい」という意思を一度伝えることです。














