施設から渡された料金表を、家族のグループLINEへ送る。
月額費用に加えて、入居金、医療費、日用品、洗濯代、理美容代。数字を追っているうちに、「結局、毎月いくら足りないのか」が分からなくなります。
長男だから多く払うのか。近くに住む自分が手続きも支払いも引き受けるのか。遠方のきょうだいは、「必要なら連絡して」と言うだけなのか。
まだ入居先も決まっていないのに、家族の間にはすでに小さなとげが生まれています。
親御さんには安全な場所で過ごしてほしい。けれど、自分の住宅ローンや子どもの教育費、老後資金もあります。
助けたい気持ちと、「なぜ自分ばかり」と思う気持ちは、同時にあって不自然ではありません。
親の施設費用を話し合うとき、最初から「誰がいくら払うか」を決めようとすると揉めやすくなります。
先に出すのは、兄弟の負担額ではありません。親御さん本人のお金でどこまで払え、毎月いくら不足するのかです。
施設の月額を、そのまま兄弟で割らないでください
施設から「月額15万円です」と説明されても、それが毎月の総支払額とは限りません。
介護施設や高齢者向け住宅では、施設の種類や契約内容によって、介護サービス費、家賃・居住費、食費、管理費、日用品などの扱いが異なります。
料金表の一番大きな数字だけを兄弟で割る前に、次の費用を分けます。
| 費用の種類 | 主な内容 | 金額が変わる場面 |
|---|---|---|
| 毎月ほぼ固定の費用 | 家賃・居住費、管理費、食費、基本サービス費 | 部屋の変更、料金改定、食事形態の変更 |
| 介護保険の自己負担 | 施設サービス費、訪問介護、通所介護など | 要介護度、所得による負担割合、利用量の変化 |
| 医療関係 | 診察、薬、歯科、訪問診療、入院費 | 病気、受診回数、入院の有無 |
| 生活に応じて変わる費用 | おむつ、日用品、洗濯、理美容、嗜好品 | 身体状態や施設での購入量 |
| 施設独自の追加費用 | 通院同行、個別対応、レクリエーション、外出支援 | 利用するサービスの内容 |
| 入居時・退去時の費用 | 入居金、敷金、引っ越し、家具、原状回復 | 契約方式、退去理由、居室の状態 |
料金表だけでは分からない場合は、施設へ次のように尋ねます。
「現在の要介護度と所得区分で、通常月、医療費が多い月、入院した月の支払い例をそれぞれ教えてください」
さらに、値上げの条件、要介護度が変わった場合の費用、入院中も発生する料金、退去時の精算方法を重要事項説明書と契約書で見ます。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と、特別養護老人ホームなどの介護保険施設では、費用の構成や利用できる軽減制度が同じではありません。
「知人の親は月10万円だった」という話は、そのまま比較材料にはならないのです。
先に出す数字は「親御さん本人の毎月の不足額」です
施設費用は、まず親御さん本人の収入と資産から、どこまで賄えるかを見ます。
子どもが先に全額を分担すると、親御さんの預貯金がほとんど使われず、子ども世代の生活だけが苦しくなることがあります。
反対に、親御さんの預金をすべて施設費へ回してしまうと、医療費、入院時の差額、衣類、葬儀、家の管理など、後で必要になるお金が残りません。
次の順番で、一か月の不足額を出します。
施設にかかる一か月の総額 - 親御さんの一か月の収入 = 一か月の不足額
親御さんの収入には、年金だけでなく、家賃収入、企業年金、保険からの給付などがあれば含めます。
たとえば、施設関連の総額が月18万円、親御さんの年金などが月13万円なら、表面上の不足は月5万円です。
ただし、預貯金を毎月いくら取り崩すかによって、子どもが負担する額は変わります。
親御さんの預貯金が600万円あり、医療・葬儀・家の管理などのために200万円を残すと決めた場合、施設費に使えるのは400万円です。
毎月5万円を補えば、単純計算では約80か月分になります。ただし、料金改定、医療費、要介護度の変化もあるため、計算どおりに続くとは限りません。
兄弟が分けるのは「施設の請求額」ではなく、親御さんの収入・資産・軽減制度を使った後に残る不足額です。
親御さんの資産を使う範囲は、相続の話と分けて考えます
施設費の話をすると、「預金を使い切ったら、家や相続はどうなるのか」という話が出ることがあります。
親御さんの財産をどの程度残すかは、家族によって考え方が異なります。
ただし、将来の相続財産を残すために、現在の生活費を子どもが負担する形になると、不満が生まれやすくなります。
あるきょうだいは毎月費用を出し、別のきょうだいは負担せず、後に相続だけ同じ割合で受ける。この状態を想像すると、現在の分担を記録しておく意味が分かります。
家族で決めるのは、少なくとも次の三つです。
- 親御さんの預貯金から毎月いくら使うか
- 医療費や葬儀費用として、いくら残すか
- 自宅やその他の資産を今後どう管理するか
親御さんが意思を示せる状態なら、本人を抜きに決めないでください。
「子どもが払うかどうかだけではなく、お父さん・お母さん自身のお金を毎月どこまで使うか、一緒に決めたいです」
親御さんの判断能力に心配があり、通帳管理や施設契約が難しくなっている場合は、家族の一人が独断で管理を始めない方が安全です。
地域包括支援センターや自治体の権利擁護窓口へ、財産管理の方法や成年後見制度などを含めて相談できます。
兄弟で公平にすることは、同じ金額を出すことではありません
兄弟が三人なら三等分。分かりやすい方法ではあります。
しかし、収入、住宅ローン、子どもの教育費、病気、仕事、家族構成が違えば、同額負担が続かないことがあります。
また、施設の近くに住む人だけが、通院、衣類の補充、施設との連絡、入退院対応を担っている場合、お金だけを三等分しても負担は同じになりません。
主な分け方は、次の四つです。
| 分け方 | 考え方 | 向いている家族 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 均等に分ける | 不足額を兄弟の人数で割る | 収入や生活状況が近い | 実務負担が一人に偏ると不満が残る |
| 収入や家計余力で分ける | 手取り収入や自由に使える額を基準にする | 兄弟間の収入差が大きい | 収入をどこまで共有するか決める必要がある |
| お金と実務を組み合わせる | 遠方の人は費用、近距離の人は手続きや面会を多く担う | 住んでいる場所や働き方が異なる | 実務の価値を無視しない記録が必要 |
| 親の資産が減るまで立替える | 一時的に一人が払い、後で精算する | 入居期限が迫っている | 立替えか贈与かを曖昧にしない |
収入比で分ける場合も、年収だけで単純計算するとは限りません。
住宅ローン、扶養家族、治療費、失業など、動かせない支出を考えます。
たとえば、毎月の不足額が6万円で、三人の家計余力がおおよそ5対3対2なら、3万円、1万8,000円、1万2,000円といった分け方が考えられます。
これは正解例ではありません。
大切なのは、負担割合を「長男だから」「近くに住んでいるから」と立場だけで決めず、続けられる数字にすることです。
お金を出さない兄弟にも、具体的な役割を選んでもらいます
施設費を負担できないきょうだいがいる場合、すぐに「何もしない人」と決めつけると話し合いは止まります。
現金以外にも、次の役割があります。
- 施設との定期連絡
- 通院や入退院の付き添い
- 衣類・日用品の補充
- 介護保険や軽減制度の申請
- 自宅、郵便物、公共料金の管理
- 費用一覧と領収書の管理
- 親御さんへの電話や面会
- 家族への月次報告
「できる範囲で手伝って」では、何をすればよいか分からないことがあります。
次のように、選択肢を出します。
「毎月の不足額は4万円です。費用負担、月一回の通院、施設との連絡、支出記録のうち、どれを担当できますか」
ただし、介護や手続きを担当する人が「お金を払わなくてよい」と自動的に決まるわけではありません。
作業時間や交通費を含めて家族で決め、必要なら三か月ごとに見直します。
最初の家族会議では、施設選びと兄弟への不満を同時に扱いません
施設費を話し始めると、過去のことが出てきます。
「親から一番援助を受けたのは誰か」「介護をずっとしてきたのは誰か」「実家をもらうのは誰か」。どれも無関係ではありません。
しかし、入居期限が近いときに全部を扱うと、施設費が決まりません。
最初の話し合いは30分程度に区切り、次の五点だけを扱います。
- 候補施設の一か月の総額
- 親御さんの一か月の収入
- 親御さんの預貯金から使う額
- 軽減制度を使った後の不足見込み
- まず三か月間の仮分担
切り出すときは、次のように伝えます。
「誰が親孝行かを決めたいのではありません。施設の支払いが始まるので、まず三か月だけの不足額と担当を決めたいです」
過去の不満が出たら、その場で否定せず、議題を戻します。
「その話も必要だと思います。ただ、今日は来月の施設費を決めて、相続や過去の援助は別の日に扱わせてください」
一度で将来すべてを決める必要はありません。
入居後に実際の請求額が分かってから、三か月後に見直す方が現実に合います。
決めた分担は、家族LINEだけで終わらせず一枚に残します
口頭で「半分ずつ出そう」と決めても、後から認識がずれることがあります。
何が施設費に含まれるのか。医療費や入院費は誰が出すのか。親御さんの預金が減ったらどうするのか。
簡単なものでよいので、次の内容を残してください。
- 施設名と契約開始日
- 親御さんの収入から毎月充てる額
- 預貯金から取り崩す額
- 兄弟それぞれの月額負担
- 振込日と振込先
- 医療費、日用品、入院費など臨時費用の扱い
- 通院や施設連絡の担当
- 領収書と明細の保管場所
- 分担を見直す日
一人がまとめて施設へ支払い、他の兄弟がその人へ送金する場合は、何月分の施設費なのかを振込名やメッセージへ残します。
親御さんのお金と、管理する家族の生活費は混ぜないでください。
専用の記録を作り、施設の請求書、通帳の入出金、家族からの送金を対応させます。
これは、きょうだいを疑うためではありません。後から説明できる状態を作り、管理している人を守るためでもあります。
「立替え」と「負担する」は、言葉を分けてください
入居を急いでいると、施設の近くに住む一人が入居金や初月費用を払うことがあります。
その場では「後で何とかする」と言っても、時間がたつと、他の兄弟は「出してくれた」と受け取り、支払った人は「貸した」と考えていることがあります。
立替える場合は、次の点を短く残します。
- 支払った日と金額
- 何の費用か
- 誰が最終的に負担するか
- 親御さんの預金から返すのか
- 兄弟からいつ、いくら返すのか
- 返せない場合に再度話し合う日
「私が入居金30万円を一時的に支払います。贈与ではなく立替えとして、親の定期預金を解約した後に精算する予定です」
この一文があるだけでも、後の食い違いを減らせます。
多額の金銭を長期間立替える場合や、将来の相続時に精算する予定なら、家族内のメモだけで十分か、法律や税務の専門家へ確かめた方が安全です。
施設の契約者・保証人になる前に、どこまで責任を負うか読みます
施設費用の家族分担と、施設との契約上の支払責任は別の問題です。
兄弟だからという理由だけで、施設から当然に同じ金額を請求されるとは限りません。
誰が契約者になり、誰が連帯保証人や身元引受人になるかは、契約書の内容に関わります。
署名する前に、次の点を施設へ尋ねてください。
- 契約者は親御さん本人か、家族か
- 身元引受人と連帯保証人の役割は同じか
- 未払いが生じた場合、誰に請求されるか
- 保証する金額や期間に定めがあるか
- 入院、死亡、退去時に求められる対応
- 保証人を変更できるか
- 家族以外の保証サービスを利用できるか
一人が「手続き上の連絡先だけだと思っていた」のに、未払い費用まで負担する契約になっていたということがないよう、分からない用語はその場で説明を受けます。
「家族内の費用分担はまだ決まっていません。この署名によって私が負う金銭的な責任を、該当する条項に印を付けて説明してください」
その日に契約するよう急かされても、持ち帰って兄弟で読んで構いません。
施設費が高いときは、兄弟の負担を増やす前に制度を確かめます
介護保険サービスの自己負担は、原則として費用の一割で、一定以上の所得がある方は二割または三割です。
施設に入る場合は、それに加えて居住費、食費、日常生活費などがかかります。
ただし、所得や資産などの条件に合えば、次の軽減を利用できる可能性があります。
高額介護サービス費
介護保険サービスの一か月の自己負担額が、所得区分ごとの上限を超えた場合、超えた分が支給される制度です。
食費、居住費、日常生活費などは、原則として対象外です。
特定入所者介護サービス費・負担限度額認定
所得や預貯金などが一定以下の方が、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、ショートステイなどを利用する場合、食費や居住費の負担を軽くする制度です。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の家賃などが、同じ制度の対象になるとは限りません。
市区町村への申請が必要で、本人だけでなく、配偶者の課税状況や預貯金などが確認されることがあります。
食費・居住費の負担限度額などは改定される場合があります。2026年8月にも一部の基準等が変わるため、申請時点の条件を市区町村と施設へ確かめてください。
高額医療・高額介護合算制度
同じ医療保険の世帯で、医療保険と介護保険の自己負担が重なった場合、年間の限度額を超えた分が支給される可能性があります。
このほか、社会福祉法人による利用者負担軽減制度や、自治体独自の助成が利用できる場合もあります。
ケアマネジャーや施設の相談員へは、制度名をすべて覚えず、次のように尋ねれば十分です。
「親の年金だけでは施設費が足りません。現在の所得、預金、施設の種類で使える負担軽減を、申請が必要なものも含めて教えてください」
制度を使うことは、家族が責任を放棄することではありません。
利用できる公的制度を使った後で、なお不足する額を兄弟で考える方が、長く続けやすくなります。
兄弟が負担を拒んでも、すぐに「法律で払わせる」とは考えません
民法上、直系血族と兄弟姉妹には相互に扶養義務があります。
ただし、「子どもが三人なら施設費を三等分しなければならない」と一律に決まっているわけではありません。
家庭裁判所の扶養請求調停では、扶養を必要とする人の意向だけでなく、各扶養義務者の収入、生活状況などを踏まえて話し合いが進められます。
つまり、法律上の扶養義務があることと、施設費を同額ずつ払うことは同じではありません。
きょうだいが負担を拒んだときは、まず次の内容を書面で伝えます。
- 施設費の総額
- 親御さんの収入と資産から出す額
- 制度利用後の不足額
- 現在、自分が負担している金額と作業
- 相手へ求める金額または役割
- 返事が必要な期限
「毎月の施設費は18万円で、親の年金と預金から15万円を出します。残る3万円について、月1万円の負担か、通院と施設連絡の担当をお願いできないか、〇日までに返事をください」
「親なんだから払うのが当然」とだけ伝えるより、何にいくら足りないかが分かります。
それでも話し合いができない、多額の立替えが続く、家族間の対立が強い場合は、法テラスや弁護士などへ、扶養義務、契約責任、立替金の扱いを確認します。
家庭裁判所の調停は選択肢の一つですが、家族関係や費用の緊急性もあるため、いきなり申立てるのではなく、必要な資料と見通しを聞いてから考えます。
子どもが施設費を払うときは、税金より先に使途を記録します
扶養義務者の間で、通常必要と認められる生活費を、必要な都度その用途へ直接充てる場合は、贈与税の課税対象とならないことがあります。
直系血族や兄弟姉妹は、税務上の扶養義務者に含まれます。
ただし、何年分もの費用を一括で親御さんへ渡し、使われずに預金として残る場合などは、扱いが異なる可能性があります。
施設へ直接振り込む、何月分の施設費か残す、請求書と領収書を保管するといった方法で、生活費として使ったことが分かるようにします。
高額な入居一時金を子どもが支払う場合や、不動産売却・相続時に精算する場合は、個別事情によって税務上の判断が変わります。支払う前に税務署や税理士へ確認してください。
支払いが難しくなったら、滞納する前に施設へ話します
施設費が払えなくなりそうでも、「家族の問題だから」と黙って滞納するのは避けてください。
親御さんの年金が減った、医療費が増えた、負担していた子どもが失業したなど、支払えない理由を施設の相談員へ伝えます。
「来月から今の金額を継続するのが難しい状態です。未払いになる前に、利用できる制度、費用を下げられる契約、別の施設を含めて相談したいです」
相談したからといって、すぐに退去を決める必要はありません。
居室変更、サービス内容の見直し、低額な施設への移動、自治体の制度などを検討できる場合があります。
ただし、食事や介護が必要な親御さんを、費用だけを理由に準備なく自宅へ戻すのは危険です。
現在の施設、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の介護保険担当などへ状況を共有し、生活を途切れさせない移行方法を考えます。
今夜は、施設の見積書に「親・制度・不足」の三本線を引きます
今夜、兄弟の負担割合まで決める必要はありません。
施設から受け取った見積書を開き、次の三つに印を付けてください。
- 親御さんの年金から毎月出せる額
- 預貯金や軽減制度で補える可能性がある額
- それでも残る毎月の不足額
その不足額が出たら、家族のグループLINEへ次の一文を下書きします。
「施設の総額を割るのではなく、親のお金と制度を使った後の不足額について話したいです。今週30分、通話できる日を教えてください」
送るのは明日でも構いません。
「誰が悪いか」という話を、「毎月いくら足りず、誰が何なら続けられるか」という話へ戻せれば、家族会議は少し進めやすくなります。
親御さんの暮らしを守ることと、子ども世代の生活を守ることは、どちらか一方を犠牲にする話ではありません。続けられる分担を作ることが、結果として親御さんの生活を長く支えることにつながります。
















