役所の入口まで来たのに、どの窓口へ行けばよいか分からない
財布に残っているのは、あと二千円。
冷蔵庫には、今日と明日の食事しかありません。家賃の支払日は三日後で、電気料金の督促状も届いています。
市役所へ行けば何か相談できるかもしれないと思い、建物の前まで来ました。
けれど、入口の案内板には、福祉、保険、税、住宅、子育て、生活支援と、いくつもの窓口が並んでいます。
「自分はどこへ行けばいいのだろう」
「ただお金がないと言ったら、怒られるのでは」
「もっと困っている人が行く場所ではないのか」
「仕事を探してくださいと言われるだけかもしれない」
受付の人と目が合っても、言葉が出てきません。
生活に困ったとき、最初から制度名を知っている必要はありません。
まず伝えるのは、困っている理由をきれいにまとめた説明ではなく、今の生活で何が足りず、いつまでに何が起きるかです。
総合案内では、この一文をそのまま読めば始められます
どの部署へ行けばよいか分からない場合は、市区町村役場の総合案内や代表電話で、次のように伝えてください。
「生活費が足りず、家賃と電気代を払えない状態です。使える制度が分からないので、生活全般を相談できる窓口につないでください」
もう少し短くても構いません。
「生活に困っていて、今日相談したいです」
自治体によって窓口の名称は異なります。
- 自立相談支援機関
- 生活相談窓口
- くらしの相談窓口
- 生活困窮者相談窓口
- 福祉事務所
- 福祉総合相談
厚生労働省の生活困窮者自立支援制度では、仕事、家賃、住まい、家計など生活に関する困りごとを受け付け、本人の状況に応じた支援を一緒に考える仕組みが設けられています。
最初に伝えるのは「今日困っていること」と「期限」です
窓口では、これまでの人生を最初からすべて説明する必要はありません。
次の四つを伝えれば、話の入口を作れます。
| 伝えること | 言い方の例 |
|---|---|
| 現在の困りごと | 「生活費が足りません」 |
| 困る期限 | 「家賃が三日後、電気の停止予定が来週です」 |
| 現在使えるお金 | 「手元には二千円しかありません」 |
| 次の収入 | 「給与日は未定です」「年金は来月です」 |
話し始める一文は、次の形にすると作りやすくなります。
「○○が足りず、○月○日までに△△ができません。どうすればよいか分からないので相談したいです」
たとえば、次のように置き換えられます。
- 「食費がなく、明日から食べる物がありません」
- 「今月の家賃が払えず、管理会社から連絡が来ています」
- 「電気が止まるという通知が届きました」
- 「仕事を失い、来月の生活費がありません」
- 「借金の返済をすると、家賃と食費が残りません」
今日食べる物や寝る場所がないなら、最初にそう言う
困りごとが多いと、家賃、借金、病気、仕事の話を順番に説明したくなります。
しかし、今日の食事や今夜の居場所がない場合は、その緊急性を最初に伝えてください。
| 現在の状況 | 窓口での最初の一言 |
|---|---|
| 今日食べる物がない | 「今日食べる物がなく、手元のお金もありません」 |
| 今夜泊まる場所がない | 「今夜から泊まれる場所がありません」 |
| 電気やガスが止まっている | 「電気がすでに止まり、家で生活できない状態です」 |
| 家を追い出されそう | 「退去を求める通知が届き、期限が○月○日です」 |
| 薬や受診のお金がない | 「持病の薬が切れますが、支払えるお金がありません」 |
| 暴力などで家へ帰れない | 「身の危険があり、自宅へ戻れません」 |
「何か使える制度はありますか」だけでは、今日中の対応が必要なことが伝わらない場合があります。
今夜、明日、三日後など、期限を具体的にしてください。
困りごと別に、窓口で使える言葉を用意する
| 困りごと | そのまま使える伝え方 |
|---|---|
| 生活費が足りない | 「収入だけでは食費と公共料金を払えず、今月は○円不足しています」 |
| 家賃を払えない | 「家賃を滞納しており、住まいを失う可能性があります。利用できる住居支援を知りたいです」 |
| 仕事を失った | 「失業して収入がなく、次の仕事と生活費の両方について相談したいです」 |
| 病気で働けない | 「病気で働けず、収入が減りました。治療を続けながら使える支援を知りたいです」 |
| 借金がある | 「返済をすると家賃と食費が残りません。生活と借金をまとめて相談したいです」 |
| 税金や保険料を払えない | 「納付書が届いていますが、現在の収入では一括で払えません。支払方法を相談したいです」 |
| 家計が分からなくなった | 「複数の支払いが遅れ、何を優先すべきか分かりません。家計を一緒に見てほしいです」 |
| 家族の生活も苦しい | 「子どもを含む世帯全体の食費と家賃が不足しています」 |
自立相談支援機関では、生活全般の相談に加え、家計の見える化、家賃や公共料金などの滞納への対応、利用可能な制度へのつなぎ、就労や住まいに関する支援などが行われています。
制度名を間違える心配より、生活の状態を正確に伝える
「住居確保給付金を申請すべきなのか」
「生活保護へ行くほどなのか」
「社会福祉協議会でお金を借りればよいのか」
自分で制度を選んでから行こうとすると、調べるだけで疲れてしまいます。
最初は制度名ではなく、次の状態を伝えてください。
- 現在の収入
- 手元の現金と預貯金
- 払えない支出
- 住まいの状態
- 仕事や健康の状態
- 同居する家族
- いつまで生活できるか
制度には、収入、資産、離職時期、世帯人数などの条件があります。
自分で対象外と決めず、「自分の状態で使えるものを一緒に見てほしい」と伝えます。
電話で予約するときは、長い説明をしなくてよい
突然窓口へ行くことに抵抗がある場合は、市区町村の代表電話へ連絡し、場所や受付時間、予約の要否を聞きます。
電話では、次のように話せます。
「生活費と家賃の支払いに困っています。生活全般を相談できる窓口へつないでください」
担当窓口へつながったら、次の三点を聞きます。
- 今日または近日中に相談できるか
- 予約が必要か
- 持参できるとよい物は何か
電話口で詳しい事情を話せない場合は、こう伝えて構いません。
「電話ではうまく説明できないため、直接会って相談したいです」
持ち物は、そろっている物だけで構いません
相談内容に応じて、次の資料があると状況を伝えやすくなります。
| 資料 | 分かること |
|---|---|
| 本人確認書類 | 氏名、住所、生年月日 |
| 通帳や残高が分かる画面 | 預貯金、年金や給与の入金 |
| 給与明細・年金通知 | 現在の収入 |
| 賃貸借契約書 | 家賃、契約者、管理会社 |
| 請求書・督促状 | 未払額、期限、連絡先 |
| 離職票など | 退職日や雇用状況 |
| 保険証・お薬手帳 | 治療や服薬の状況 |
| 借入れの明細 | 返済額、残高、支払日 |
ただし、資料が全部そろうまで相談を待つ必要はありません。
持っていない物は、「ありません」「今は取り出せません」と伝えれば構いません。
特に生活保護について、厚生労働省は、必要な書類がそろっていなくても申請でき、住む所がない人も申請できると案内しています。
窓口で頭が真っ白になりそうなら、一枚のメモを渡す
家では話せると思っていても、職員を前にすると涙が出たり、順番が分からなくなったりすることがあります。
次の形でメモを作り、そのまま渡してください。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 一番困っていること | 家賃6万円を払えない |
| 期限 | 8月5日まで |
| 手元のお金 | 現金2,000円、預金3,500円 |
| 次の収入 | 未定。仕事を退職したばかり |
| 同居家族 | 中学生の子ども一人 |
| ほかの滞納 | 電気料金1万2,000円 |
| 今日知りたいこと | 食費と家賃について使える支援 |
メモの最初に、次の一文を入れてもよいでしょう。
「緊張してうまく話せないため、現在の状況を紙に書いてきました」
詳しく聞かれても、分からないことを作って答えない
相談では、収入、預貯金、家族、仕事、借金、住まいなど、個人的なことを聞かれる場合があります。
制度の対象や必要な支援を考えるために必要な質問もありますが、急に聞かれると責められているように感じるかもしれません。
分からないことは、分からないと答えて構いません。
- 「正確な金額は通帳を見ないと分かりません」
- 「借入先が複数あり、今日はすべて把握できていません」
- 「家族から援助を受けられるかは分かりません」
- 「病名は分かりますが、薬の名前は覚えていません」
正確に見せようとして推測の金額を言うより、次回持参する資料を聞いてください。
家族へ頼れない事情も、言いにくいまま隠さない
「ご家族には頼れませんか」と聞かれるのが怖くて、相談をためらう人もいます。
家族がいても、援助してもらえるとは限りません。
- 家族も生活が苦しい
- 長く連絡を取っていない
- 暴力や虐待があり、連絡できない
- 居場所を知られたくない
- 援助を頼むと関係が悪化する
- 親族が高齢または病気である
事情がある場合は、短くても伝えてください。
「親族はいますが、長年連絡を取っておらず、援助を頼める関係ではありません」
「家族から暴力を受けていたため、連絡を取ることはできません」
生活保護の申請について、厚生労働省は、同居していない親族に相談してからでなければ申請できないということはないと明記しています。
生活保護を希望するなら、「相談」だけでなく「申請したい」と伝える
収入や預貯金を使っても、食費、家賃、医療費など最低限の生活を維持できない場合は、生活保護の対象になる可能性があります。
生活保護の相談・申請窓口は、現在住んでいる地域を担当する福祉事務所です。保護の可否や支給額は、世帯の収入、資産、生活状況などを踏まえて決まります。
制度の説明だけでなく、申請を希望している場合は、言葉を曖昧にしないでください。
「生活保護について聞きたいです」ではなく、次のように伝えます。
「現在の収入と預貯金では生活できないため、生活保護を申請したいです」
書類が足りない場合は、こう続けます。
「今日は必要書類がすべてそろっていませんが、申請を希望しています。今提出できる物と、後から必要になる物を教えてください」
申請したから必ず利用できるとは限りませんが、申請を希望していることは明確に伝えられます。
家賃が払えない場合は、住まいを失う前に伝える
離職や本人の責任によらない収入減などがあり、収入・資産などの要件を満たす場合は、住居確保給付金の対象になる可能性があります。
申請や相談は、地域の自立相談支援機関で受け付けています。支給額や対象要件は、世帯状況や自治体によって異なります。
窓口では、次のように話します。
「収入が減り、今月の家賃を払えません。住まいを失う前に使える制度と、管理会社への対応を相談したいです」
すでに督促状や退去に関する書面がある場合は、封筒ごと持参してください。
お金を借りたい場合も、必要額と返せる見込みを伝える
低所得世帯、高齢者世帯、障害者世帯などを対象とする公的な貸付制度として、生活福祉資金があります。
相談窓口は、原則として住んでいる地域の市区町村社会福祉協議会です。貸付けには種類や要件、審査があり、相談すればその場で必ず借りられるものではありません。
「お金を貸してください」だけでなく、次のように伝えます。
「病気で今月の収入が減り、食費と電気料金で三万円不足しています。来月から仕事へ戻る予定ですが、それまで利用できる貸付けや別の支援があるか相談したいです」
毎月不足している場合は、貸付けだけでなく、家計改善支援も一緒に聞いてください。
窓口を案内し直されたら、たらい回しと決める前に次を聞く
最初に訪ねた部署で、「ここでは担当できません」と言われることがあります。
そのときは、そのまま帰らずに次の三つを聞いてください。
- 担当する窓口の正式名称
- 同じ建物内か、別の場所か
- 今日中に相談できるか
次の言葉を使えます。
「今日の食費もなく、帰って別の日に出直すことが難しい状態です。今日つながれる担当窓口を教えていただけますか」
別の機関を案内された場合は、所在地と電話番号を書いてもらい、紹介元の窓口名もメモします。
電話をかけ直すときは、次のように伝えます。
「市役所の○○課から、こちらへ相談するよう案内されました。生活費と家賃に困っています」
説明だけで終わったと感じたら、次にすることを具体的に聞く
制度の説明を受けても、自分が次に何をすればよいか分からないことがあります。
帰る前に、次の質問をしてください。
- 「私が対象になる可能性がある制度はどれですか」
- 「今日申し込めるものはありますか」
- 「次回までに持ってくる物は何ですか」
- 「家賃や電気の支払先には何と伝えればよいですか」
- 「次はいつ、誰へ連絡すればよいですか」
メモには、次の四つを残します。
| 残すこと | 記入例 |
|---|---|
| 相談日 | 7月28日 |
| 窓口・担当者 | 生活相談課・○○さん |
| 次にすること | 通帳と賃貸借契約書を持参 |
| 次の連絡日 | 7月30日午前10時 |
断られたように感じても、事実と希望をもう一度分けて伝える
窓口で「この制度の対象ではありません」と言われることがあります。
それは、その制度だけが使えないという意味かもしれません。
次のように聞き返してください。
「この制度が使えないことは分かりました。ただ、食費と家賃が足りない状態は変わりません。ほかに相談できる制度や窓口はありますか」
生活保護の申請を希望している場合は、改めて意思を伝えます。
「制度の説明を聞いたうえで、生活保護の申請を希望します」
話した日時、窓口、担当者名、言われた内容はメモしておいてください。
家族が代わりに調べている場合は、本人を責める材料にしない
離れて暮らす親、配偶者、きょうだいの生活が苦しそうで、家族が窓口を探している場合もあります。
家族から先に自治体へ電話し、利用できる窓口や本人同行の要否を聞くことはできます。
電話では、次のように伝えます。
「一人暮らしの母が、年金日前に食費と公共料金を払えない状態です。本人は窓口へ行くことをためらっています。家族として、どこへどのようにつなげればよいか相談したいです」
本人と話すときは、制度を調べたことを責める材料にしません。
「どうして今まで黙っていたの」ではなく、次のように伝えます。
「困っている理由を問い詰めたいわけではないよ。今月の食費と家賃をどうするか、一緒に窓口で聞きたい」
個別の申請や情報提供では、本人の意思確認や同意が必要になる場合があります。まず受付方法を窓口へ聞いてください。
一度の相談で全部解決しなくても、失敗ではありません
最初の相談では、状況の聞き取りと必要な資料の案内だけで終わることもあります。
その後、別の窓口や支援機関へつながり、申請、家計表の作成、支払先との調整などへ進む場合があります。
相談した日に現金が支給されるとは限りません。
だからこそ、今日の食事、今夜の居場所、停止が迫る公共料金など、急ぐことは最初にはっきり伝える必要があります。
窓口を出る前に、「今日から次回までをどう過ごすか」を聞いてください。
今日するのは、自分に合う制度を決めることではありません
紙かスマートフォンのメモへ、次の一文を書いてください。
「生活費が足りず、○月○日までに○○を払えません。使える制度が分からないので、生活全般を相談できる窓口につないでください」
空欄には、家賃、電気代、食費、薬代など、最も期限が近いものを入れます。
次に、市区町村役場の代表電話へ連絡するか、総合案内でその文章を見せてください。
自治体の窓口で求められるのは、上手な説明ではありません。「今日何に困り、いつまで持たないか」が伝われば、話を始められます。
生活が苦しくなった理由を、一度で全部説明しなくても構いません。
うまく話せなければ、メモを渡す。制度名が分からなければ、生活全般を扱う窓口につないでもらう。書類が足りなければ、今ある物だけを持っていく。
最初の一言は、これだけで十分です。
「生活に困っています。今日、相談したいです」
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:生活全般の相談、自立相談支援、家計改善、住居・就労支援に関する確認先。
- 厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」:必要書類がそろわない場合や、親族へ先に相談できない場合の申請に関する確認先。
- 厚生労働省「生活保護制度」:制度の概要、相談・申請窓口、申請後の調査に関する確認先。
- 厚生労働省「住居確保給付金」:対象の考え方、申請窓口、支給期間などに関する確認先。
- 全国社会福祉協議会「福祉の貸付制度」:生活福祉資金と市区町村社会福祉協議会の相談窓口に関する確認先。
- 厚生労働省「すまこま。」:住まいや生活に困っている方が、地域の居住・生活支援を探す際の確認先。














