冷蔵庫が空なのに「まだ大丈夫」と言う親を前に、家族も迷います
実家へ行くと、冷蔵庫には卵と調味料しかない。夏なのにエアコンをつけず、病院でもらった薬は「もったいないから」と一日おきに飲んでいる。
家賃や電気代の督促状も見つかったのに、親はこう言います。
「生活保護だけは嫌だ」
「近所に知られたら恥ずかしい」
「子どもに迷惑をかけるくらいなら我慢する」
それを聞く家族も、簡単には動けません。
生活保護を勧めたら、親の誇りを傷つけるのではないか。子どもの収入を調べられ、自分が扶養するよう求められるのではないか。きょうだいから「親を見捨てるのか」と責められないか。
さらに、自分の家にも住宅ローンや教育費があり、毎月数万円の援助を続ける余裕はない。それでも「親なのだから子どもが支えるべきだ」という気持ちが残ります。
この迷いは、親を大事に思っていないからではありません。
親の生活と自分の家庭を、どちらも壊したくないから決められないのです。
ただし、食事を減らす、受診や服薬を控える、家賃や公共料金の滞納が続く段階では、家族の気持ちがまとまるまで待つことが、親御さんの安全を損なう場合があります。
生活保護を受けると決めてから窓口へ行く必要はありません。「制度の対象になりそうか」「家族には何が求められるか」を聞くだけでも、次の判断材料になります。
相談を考えたいのは「貯金がゼロになった日」だけではありません
親御さんが節約しながら何とか暮らしていると、「まだ申請するほどではない」と感じるかもしれません。
けれど、相談の目安は預金残高だけではありません。今の生活を続けるために、何を削っているかを見ます。
| 生活に表れている変化 | 家族が見落としやすいこと | 早めに聞きたい窓口 |
|---|---|---|
| 食事の回数や量を減らしている | 本人は「食欲がない」と説明することがある | 福祉事務所、自立相談支援機関 |
| 病院へ行かない、薬を減らしている | 医療費だけでなく交通費を惜しんでいる場合がある | 福祉事務所、病院の医療相談窓口 |
| 家賃や公共料金の督促状が届いている | 一つの滞納だけでなく複数の支払いが止まっていることがある | 自立相談支援機関、福祉事務所 |
| 子どもからの援助で毎月をつないでいる | 援助する側の家計も限界に近づいていることがある | 福祉事務所 |
| 借金やカード払いで生活費を補っている | 年金日に返済し、また借りる状態になりやすい | 自立相談支援機関、法律相談 |
| 介護サービスを費用のために断っている | 家族の介護負担まで増えていることがある | 福祉事務所、地域包括支援センター |
厚生労働省は、生活保護を、利用できる資産や能力などを活用してもなお生活に困窮する人に対し、最低限度の生活を保障し、自立を支える制度と案内しています。自立は就職だけを指すのではなく、日常生活や社会生活を維持することも含まれます。
「まだ食べられているか」ではなく、「健康や住まいを保ったまま、来月も暮らせるか」で考えてください。
親へ話す前に、家族が何を怖がっているのかを分けます
生活保護の話題を避けているのは、親御さんだけとは限りません。
家族側の心配も、いくつか混ざっています。
| 家族のためらい | 先に確かめたいこと |
|---|---|
| 子どもが親を扶養するよう強制されそう | 申請と扶養照会の違い、現在できる援助額 |
| きょうだいに責められそう | 親の毎月の不足額と、誰が何円援助しているか |
| 持ち家をすぐ売らされそう | 親が居住している家の扱いを福祉事務所へ聞く |
| 車を必ず手放すと思っている | 利用目的、地域事情、通院や仕事での必要性を伝える |
| 親が近所に知られることを怖がっている | 誰が、どの目的で家庭訪問や調査をするのかを聞く |
| 一度受けたら抜けられない気がする | 収入が増えた場合の申告と保護費の考え方を聞く |
「生活保護を申請させるか」という大きな結論から話すと、親子とも身構えます。
まず、「家賃が払えない」「医療費を削っている」「私たちの援助も来月から続けられない」と、今起きている事実を一つずつ見ます。
別居する子どもへ先に援助を頼むことは、申請の条件ではありません
家族が最もためらいやすいのが、扶養の問題です。
「親が申請したら、子どもの勤務先や収入まで調べられるのでは」
「役所から仕送りを命じられるのでは」
「きょうだい全員に手紙が届くのでは」
扶養義務者による援助は生活保護に優先しますが、扶養を受けられるかどうかは、生活保護を申請するための条件そのものではありません。厚生労働省も、同居していない親族へ先に相談しなければ申請できないわけではないと明記しています。
また、扶養照会は、確認されたすべての親族へ機械的に行うものではありません。厚生労働省の通知では、生活歴や交流状況などから扶養を期待できるかを調べ、援助が期待できないと判断された人には、基本的に直接の照会を行わない考え方が示されています。長期間の音信不通、著しい関係不良、虐待や暴力など、照会によって本人の自立を妨げる事情も考慮されます。
福祉事務所へ最初に伝えたい事情
- 子ども自身にも住宅費、教育費、医療費などがある
- これまで援助してきたが、今後は同じ金額を続けられない
- 親子やきょうだいの関係が悪く、連絡によって問題が起きる
- 虐待、暴力、借金、金銭要求などの経緯がある
- 長期間連絡を取っていない親族がいる
- 親族へ現在の住所や生活状況を知られたくない事情がある
家族関係の事情は、「身内の恥だから」と隠さずに伝えた方がよい部分です。
誰へ連絡が行く可能性があるのか心配なら、親御さんの名前や詳しい申請内容を話す前でも、「このような家族関係では、扶養に関する調査はどう進みますか」と一般的な扱いを聞けます。
年金を受け取っていても、それだけで対象外とは限りません
高齢の親御さんの場合、「年金をもらっているのだから生活保護は受けられない」と思っていることがあります。
生活保護では、年金などを含む世帯の収入と、その世帯に必要とされる最低生活費を比較し、収入が最低生活費に満たない場合に差額が支給されます。そのため、年金を受け取っていても、金額や家賃、世帯状況などによっては対象になり得ます。
| 親の収入・支出 | 窓口で伝える内容 |
|---|---|
| 老齢年金 | 振込額と振込月 |
| 遺族年金・障害年金 | 受給の有無と月額 |
| 子どもからの仕送り | 毎月か一時的か、今後も続けられるか |
| 家賃 | 契約書上の家賃、共益費、滞納額 |
| 医療・介護費 | 毎月の自己負担と、利用を控えているサービス |
| 借入金 | 残額、毎月の返済額、借入先 |
家族が毎月送っているお金は、実際の援助として収入に扱われることがあります。
そのため、これまでの援助を急に隠したり、通帳上だけ動かしたりせず、「月3万円送ってきたが、子どもの家計も厳しく、来月からは続けられない」と現状をそのまま伝えます。
持ち家があっても、相談や申請はできます
「親名義の家があるから無理だろう」と、窓口へ行く前に諦める家族もいます。
生活に使っていない土地や家屋など、活用できる資産は生活費に充てることが原則です。一方で、親御さんが実際に暮らしている持ち家については、事情によって保有が認められる場合があり、持ち家があることだけで申請できないわけではありません。
家について聞かれたときに伝えたいこと
- 現在、親本人が住んでいるか
- 住宅ローンが残っているか
- 固定資産税や修繕費はいくらかかっているか
- 家の評価や売却可能性について分かる範囲
- 売却すると親がどこに住むことになるか
- 建物の老朽化や生活上の危険がないか
高齢の親を、制度を利用するために今すぐ家から出さなければならないと決めないでください。
一方で、住宅扶助には地域や世帯に応じた範囲があるため、賃貸住宅の家賃が基準を大きく上回る場合などには、今後の住まいについて話し合いが必要になることがあります。生活保護では、家賃に対応する住宅扶助が定められた範囲内で支給されます。
車は原則処分でも、事情を聞かずに結論が出るわけではありません
車についても、「一台でも持っていたら申請できない」と思われがちです。
利用できる資産は生活費へ充てることが原則であり、自動車は原則として処分が求められます。ただし、通勤しながら求職している場合など、一定の事情では保有が認められることがあります。
高齢の親御さんであれば、次のような事情を具体的に伝えます。
- 公共交通機関が少ない地域に住んでいる
- 通院や買い物に車が必要になっている
- 本人ではなく、同居家族の仕事に必要である
- 車の年式や資産価値が低い
- 障害や身体状況に関わる利用である
それらの事情があれば必ず保有できる、という意味ではありません。車種、価値、利用目的、地域事情などによって扱いが変わるため、売却してから相談するのではなく、今の状態で福祉事務所へ伝えます。
生活保護で支えられるのは、現金の生活費だけではありません
親御さんが生活保護を嫌がる理由の一つに、「少しのお金をもらうために、全部管理される」というイメージがあります。
生活保護には、食費や光熱水費などに対応する生活扶助だけでなく、家賃の住宅扶助、医療サービスの医療扶助、介護サービスの介護扶助などがあります。医療扶助と介護扶助の費用は、原則として医療機関や介護事業者へ直接支払われ、本人負担はありません。
| 親が困っている費用 | 関係する扶助 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 食費、衣類、光熱水費 | 生活扶助 | 年齢や世帯人数、地域などで基準が異なる |
| 賃貸住宅の家賃 | 住宅扶助 | 地域や世帯に応じた範囲がある |
| 診察、治療、薬 | 医療扶助 | 利用できる医療機関や手続きの案内を受ける |
| 介護サービス | 介護扶助 | 要介護認定やケアプランとの関係を確認する |
医療費を理由に受診をやめている場合や、介護サービスを減らして家族が疲弊している場合は、生活費の不足額だけでなく、医療・介護を中断していることも窓口へ伝えてください。
親には「生活保護を受けて」ではなく「今の暮らしを見てもらおう」と切り出します
親御さんへ正面から「生活保護を申請しよう」と言うと、「施しは受けない」「そこまで落ちぶれていない」と拒まれることがあります。
制度への評価を話し合う前に、今の暮らしについて話します。
| 避けたい切り出し方 | 話を続けやすい言い方 |
|---|---|
| 「もう生活保護しかないよ」 | 「今の年金で、家賃と病院代まで払えているか一度一緒に見たい」 |
| 「意地を張らないで」 | 「人に頼りたくない気持ちは分かる。でも食事を減らす状態は心配だよ」 |
| 「私たちも援助できないから」 | 「私たちの家計にも限界があるから、家族以外の支え方を聞いてみたい」 |
| 「役所へ行けば何とかなる」 | 「申請するかは後で決めていいから、対象になりそうかだけ聞いてみない?」 |
| 「家や車を手放せばいい」 | 「家と車をどう扱うかも含めて、勝手に決めず役所に聞こう」 |
親御さんが「生活保護」という言葉だけで拒否する場合は、最初の目的を小さくします。
「電気代の支払いについて聞く」
「医療費を減らせる制度がないか聞く」
「年金で足りない月をどうすればよいか聞く」
窓口で生活保護以外の制度も含めて説明を受け、親御さん自身が選べる形にします。
親が同行しなくても、家族から一般的な相談を始められます
親御さんが役所へ行くことを拒んでいる場合、家族は何もできないわけではありません。
まず家族だけで福祉事務所や自治体の相談窓口へ連絡し、制度の概要、持参する書類、本人への説明方法を聞くことはできます。
ただし、生活保護は親御さん本人の世帯状況や意思に関わる手続きです。具体的な申請や資産・病状などの確認では、本人の申請意思、同席、委任などを求められる場合があります。
家族から電話するときの伝え方
「別居している母の年金だけでは生活が足りず、食事と通院を減らしています。本人は生活保護という言葉に抵抗があり、まだ窓口へ行くことを了承していません。家族だけで、対象の考え方と本人へのつなぎ方を聞くことはできますか。」
福祉事務所の生活保護担当が相談・申請窓口です。福祉事務所を設置していない町村では、町村役場で申請手続きを行える場合があります。
生活保護へ進むか決まっておらず、家計、住まい、借金、介護などをまとめて話したい場合は、生活困窮者自立支援制度の相談窓口も入口になります。支援員が困りごとを受け止め、必要な支援を一緒に組み立てる制度です。
窓口には、全部そろっていなくても行けます
親御さんの通帳や年金通知が見つからないため、「書類がそろうまでは相談できない」と考えることがあります。
厚生労働省は、必要な書類がそろっていなくても生活保護の申請はできると案内しています。申請後の調査では、預貯金、保険、不動産、年金、就労収入、生活状況などが確認されます。
見つかる範囲で持っていきたいもの
- 親御さんの本人確認書類
- すべての通帳や残高が分かるもの
- 年金額が分かる通知書や振込記録
- 賃貸借契約書、家賃の領収書
- 固定資産税の通知書など持ち家に関するもの
- 生命保険、土地、車など資産が分かるもの
- 電気代、医療費、介護費、借金などの請求書
- 家族から送っている金額と期間のメモ
書類が足りなくても、まず次の四つだけは紙に書いておきます。
| 書くこと | 記入例 |
|---|---|
| 毎月の収入 | 年金6万8,000円 |
| 毎月の固定費 | 家賃4万5,000円、光熱費1万円 |
| 現在の預貯金 | 約4万円 |
| 今困っていること | 食費を減らし、通院を中断している |
うまく話せない場合は、その紙を窓口へ渡せば構いません。
きょうだい会議では、「誰が親を引き取るか」から始めません
親の生活保護を考えると、きょうだい間の考え方が分かれることがあります。
「子どもで分担すればいい」
「私は今まで十分援助した」
「生活保護を受けたら親がかわいそう」
「同居している人が面倒を見るべきだ」
こうなると、親御さんの生活より、家族の正しさを争う話になってしまいます。
最初の会議では、誰が正しいかではなく、数字をそろえます。
| 家族で共有すること | 話す内容 |
|---|---|
| 親の毎月の不足額 | 年金から家賃・生活費・医療費を引くといくら足りないか |
| これまでの援助 | 誰が、いつから、月いくら負担しているか |
| 今後できる援助 | 無理なく継続できる金額や実務 |
| すでに起きている危険 | 食事不足、滞納、受診中断、借金など |
| 窓口へ聞く人 | 一人を連絡役に決める |
「平等に出すこと」を先に決める必要はありません。
援助できないきょうだいがいる場合も、窓口への同行、書類集め、親への電話、介護関係者との連絡など、お金以外に担えることがあります。
一方で、家族援助を続けることで自分の子どもの生活費や住宅費が払えなくなるなら、その限界を曖昧にしないでください。
親を支えるために、子どもの世帯まで生活困窮に入る形は長く続きません。
親が申請を拒むときも、危険が迫っている場合は様子を見続けません
本人の意思を尊重することは必要です。
しかし、次のような状態では、「本人が嫌がるから」と家族だけで抱えず、福祉事務所、地域包括支援センター、医療機関などへ状況を伝えてください。
- 食べ物がなく、数日間十分な食事を取れていない
- 電気、ガス、水道が止まっている、または停止日が迫っている
- 家賃滞納により退去を求められている
- 医療費を理由に必要な受診や服薬を中断している
- 借金、訪問販売、詐欺などでお金が急速に減っている
- 認知機能の低下が疑われ、収支を把握できていない
- 自分を傷つける発言や、生きることを諦める発言がある
親御さんに認知症などが疑われる場合、生活保護の手続きだけでなく、医療、介護、金銭管理を含めた支援が必要になることがあります。地域包括支援センターへ「お金が足りないことに加えて、判断力の低下も心配」と伝えます。
生命の危険がある、意識状態がおかしい、深刻な体調不良がある場合は、制度相談より救急要請を優先してください。
生活保護の申請は、家族の失敗を認める手続きではありません
家族が長く援助してきたほど、「ここで生活保護を使ったら、これまで頑張った意味がない」と感じることがあります。
けれど、生活保護は、家族が冷たいか温かいかを判定する制度ではありません。
親御さんの収入や資産を使っても、最低限の生活を維持できない部分を公的に支える仕組みです。
申請後は、生活状況、資産、年金などの収入、扶養の可能性、働ける状態かどうかなどが調査されます。保護が始まった後も収入申告やケースワーカーの訪問などがあります。
負担に感じる部分があるなら、申請前に聞いてよいのです。
- 家庭訪問では何を見るのか
- 家族にはどのような連絡があり得るのか
- 通帳や資産はどこまで調べるのか
- 医療機関へはどのような手続きでかかるのか
- 年金額が変わったらどう申告するのか
- 生活が立て直せた場合はどうなるのか
分からないまま怖がるより、手続きの中身を聞いたうえで親御さんと考えた方が、話は具体的になります。
今日の一歩は、親を説得することではなく「家族援助の限界」を書くことです
親御さんが生活保護を受けるかどうかを、今日決めなくても構いません。
まず紙を一枚用意し、次の三つを書いてください。
- 親の年金や収入から、毎月いくら不足しているか
- 家族がこれまで月いくら援助してきたか
- 今後も無理なく続けられる援助はいくらか
「今まで3万円送っていたから、これからも3万円」という考え方ではなく、自分の家賃、住宅ローン、教育費、医療費、老後資金を残したうえで出せる金額を見ます。
続けられる援助がゼロであっても、それを隠す必要はありません。
そのメモを手元に置き、福祉事務所へこう電話します。
「高齢の親が年金だけでは暮らせず、家族の援助も続けられません。本人は申請をためらっています。家族だけで、生活保護の対象の考え方と本人へのつなぎ方を聞きたいです。」
その電話は、親を役所へ引き渡すためのものではありません。
家族の中だけで抱えてきた生活費の問題を、公的な窓口にも一緒に持ってもらうためのものです。
親の生活を守ることと、自分の家庭を守ることは、反対の選択ではありません。家族だけでは支え切れないと認めることが、親子の暮らしを長く保つための最初の一歩になることがあります。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」:書類がそろっていない場合、別居親族への事前相談、持ち家や自動車がある場合の考え方に関する確認先。
- 厚生労働省「生活保護制度」:相談・申請窓口、収入と最低生活費の比較、各種扶助、申請後の調査に関する確認先。
- 厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」:扶養照会、音信不通、関係不良、虐待などがある場合の取り扱いに関する確認先。
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:生活保護を含め、家計、住居、仕事などをまとめて相談したい場合の確認先。














