役所まで来たのに、入口の前で帰りたくなることがあります
生活費が足りない。家賃や税金の支払いが遅れている。仕事を失い、来月から収入の見込みがない。
家では何度も「役所へ行かなければ」と考えていたのに、庁舎へ入ると急に足が止まります。
明るい窓口には人が並び、番号を呼ぶ声が聞こえる。受付で相談内容を尋ねられたら、後ろの人にも聞こえてしまいそうです。
「お金がないなんて言ったら、だらしないと思われるのでは」
「家族のことまで根掘り葉掘り聞かれそう」
「こんなことで来たのかと言われたら耐えられない」
そんな考えが浮かび、パンフレットだけ取って帰った経験がある方もいるでしょう。
役所での相談が恥ずかしいのは、単に人と話すのが苦手だからとは限りません。今まで一人で何とかしてきた人ほど、「助けを求めるところまで来てしまった」と感じやすいものです。
けれども、窓口で最初から事情をきれいに説明する必要はありません。
最初の一言は、制度を申請するための説明ではなく、話を聞いてくれる場所へつないでもらうための合図です。
最初の一言は「生活のことで困っています」で十分です
総合案内や受付で、制度名まで言う必要はありません。
どの窓口へ行けばよいか分からない場合は、次の一文をそのまま使えます。
「どの窓口か分からないのですが、生活のことで困っていて相談したいです」
続けて聞かれたら、困っていることを一つだけ加えます。
「収入が減って、家賃の支払いに困っています」
「税金の納期限までに、お金を用意できません」
「仕事を失い、来月から生活費がありません」
この段階では、家計の経緯や家族との関係をすべて話さなくても構いません。担当窓口へつながってから、必要な範囲を順番に話せばよいのです。
| 今困っていること | 受付で最初に伝える一言 |
|---|---|
| 生活費が足りない | 「今月の生活費が足りず、利用できる支援があるか相談したいです」 |
| 家賃を払えない | 「家賃の支払いが難しく、住まいを失う可能性があります」 |
| 税金や保険料を滞納している | 「納期限までに払えません。分割や猶予を含め、できる手続きを聞きたいです」 |
| 収入がなくなった | 「仕事を失い、今後の収入の見込みがありません」 |
| 借金と生活費の両方に困っている | 「返済をすると生活費が残りません。家計と借金の相談先を教えてください」 |
| 介護で働けない | 「家族の介護で働く時間が減り、生活が成り立たなくなっています」 |
| 家族に知られず話したい | 「家族に聞かれず相談したい事情があります。別の場所で話せますか」 |
| 何に該当するか分からない | 「困りごとがいくつかあり、どこから話せばよいか分かりません」 |
生活困窮者自立支援制度では、仕事、住まい、家計など生活全般の困りごとを地域の窓口で受け止め、状況に応じた支援を一緒に考える仕組みが設けられています。制度名を知ってから行くのではなく、困っている状態から相談を始められます。
声に出しにくいことは、紙に書いて渡してかまいません
頭では話す内容を考えていても、窓口へ座った途端に言葉が出なくなることがあります。
収入、借金、離婚、家族との不仲、病気などは、初対面の人へ口頭で話しにくい内容です。
その場合は、受付で次のように伝えます。
「声に出して説明するのが難しいので、このメモを読んでもらえますか」
文章を長く書く必要はありません。次の6項目を埋めるだけで、担当者が事情をつかみやすくなります。
| メモに書く項目 | 記入例 |
|---|---|
| 今いちばん困っていること | 家賃を2か月滞納している |
| いつまでに動く必要があるか | 20日までに支払うよう通知が来ている |
| 現在の収入 | パート収入が月6万円ほど |
| 一緒に暮らしている人 | 母と二人暮らし |
| すでに届いている書類 | 家賃の督促状、税金の納付書 |
| 今日聞きたいこと | 利用できる制度と、最初に行う手続き |
金額が正確に分からなければ、「月におよそ8万円」「残高は後で確認します」と書いて構いません。
分からないことを推測で埋めるより、「分からない」「書類を持っていない」と正直に伝えた方が、次に必要なものを教えてもらえます。
ただし、実際に給付や減免などを申請するときは、収入や資産、世帯状況を確認する書類が必要になる場合があります。最初の相談と正式な申請は分けて考えましょう。
周囲に聞かれたくないときは、話し始める前に伝えます
役所の窓口には仕切りがあっても、隣の会話が聞こえることがあります。
相談内容を聞かれてから「ここでは話せません」と言うより、受付の段階で希望を伝えた方が落ち着いて話せます。
次の言い方なら、詳しい事情を人前で説明せずに済みます。
- 「周りに聞かれたくない内容です。別の場所で話すことはできますか」
- 「家族に知られず相談したい事情があります」
- 「今日は付き添いがいますが、途中から一人で話したいです」
- 「できれば同性の職員の方に相談したいのですが、可能ですか」
- 「口頭では話しにくいので、最初にメモを読んでください」
個室や相談場所、担当者の希望に必ず対応できるとは限りません。それでも、先に伝えることで、席を離す、声の大きさに配慮する、予約日時を改めるなど、可能な方法を案内してもらえる場合があります。
生活困窮者向けの自立相談支援窓口について、政府広報は相談無料で秘密が守られると案内しています。また、窓口へ行くことが難しい場合は、電話やメールから問い合わせられる地域もあります。
ただし、制度を申請した後は、審査や支援に必要な範囲で関係機関への照会や情報確認が行われることがあります。誰に何を確認する可能性があるのか心配な場合は、書類へ署名する前に尋ねてください。
職員から収入や家族について聞かれても、責められているとは限りません
相談が始まると、職員から細かな質問を受けることがあります。
「貯金はいくらありますか」
「同居している家族はいますか」
「親族から援助を受けられませんか」
「借金はありますか」
弱っているときに続けて聞かれると、取り調べを受けているように感じることもあります。
多くの場合、こうした質問は、世帯の状況、緊急性、使える制度、必要書類などを見分けるためのものです。
| 聞かれやすいこと | 尋ねる主な理由 | すぐ答えられないとき |
|---|---|---|
| 収入や預貯金 | 生活状況や制度の要件を把握するため | 「正確な額は分かりません。次回、通帳を持参してもよいですか」 |
| 同居家族 | 世帯構成や生活費の負担状況を見るため | 「同居していますが、家計は別です。何を説明すればよいですか」 |
| 仕事の状況 | 収入の見込みや就労支援の必要性を見るため | 「退職日は分かりますが、給与の最終額は未確認です」 |
| 家賃や滞納 | 住まいを失う危険や支払い期限を把握するため | 督促状や賃貸借契約書を見せる |
| 借金 | 家計相談や法律相談につなぐ必要があるかを見るため | 「何社あるか整理できていません。届いた書類はあります」 |
| 病気や介護 | 働き方や日常生活への影響、ほかの支援を考えるため | 「診断名を人前で話したくありません。別の場所で話せますか」 |
| 家族からの援助 | 現在の生活状況や家族関係を把握するため | 「連絡できない事情があります。担当者と個別に話したいです」 |
答えたくない内容を、窓口の前で無理に話す必要はありません。
ただし、正式な申請では、判断に必要な事項を伝えなければ手続きを進められない場合があります。そのときは黙って帰るのではなく、「なぜ必要なのか」「どこまで話せばよいのか」「書面で伝えられるか」を尋ねます。
分からないことを「ありません」と言い切ったり、事実と異なる内容を伝えたりするのは避けましょう。「分からないので後日確認します」という答え方もできます。
持ち物は全部そろえなくても、最初の相談は始められます
役所へ行く前に持ち物を調べると、通帳、給与明細、身分証、契約書などが並び、「一つでも足りなければ受け付けてもらえないのでは」と心配になることがあります。
最初の相談では、手元にあるものから持参します。
- 役所や家主、電力会社などから届いた通知や督促状
- 支払期限や金額が分かる請求書
- 本人確認に使えるもの
- 給与明細、年金通知、離職票など収入が分かるもの
- 通帳や口座残高が分かるもの
- 賃貸借契約書
- 借入先から届いた明細や封筒
- 困っていることを書いたメモ
- 筆記用具
すべてを一度に持参する必要があるとは限りません。電話で相談内容を短く伝え、「最初の日に何を持って行けばよいですか」と聞くと、不要な往復を減らせます。
特に今日の食費や寝る場所がないなど、生活が差し迫っているときは、書類探しを終えてから行こうとせず、先に現在の状況を伝えてください。
生活保護について、厚生労働省は必要な書類がすべてそろっていなくても申請でき、住むところがない人も申請できると案内しています。相談・申請窓口は、現在いる地域を担当する福祉事務所です。
差し迫っていることは、遠慮せず最初に言います
相談内容を順番に話そうとして、本当に急いでいることを最後まで言えない場合があります。
次のような状況では、「生活について相談したいです」だけで終わらせず、今日または近日中に起こることを先に伝えます。
| 差し迫っている状況 | 最初に伝える言葉 |
|---|---|
| 今日食べるものがない | 「今日の食費がなく、家にも食べ物がありません」 |
| 今夜泊まる場所がない | 「今夜泊まる場所がありません」 |
| 退去を求められている | 「退去期限が○日で、住む場所を失う可能性があります」 |
| 電気・ガス・水道が止まりそう | 「○日に停止予定という通知が届いています」 |
| 医療を受けられない | 「治療が必要ですが、受診費用を用意できません」 |
| 家にいることが安全ではない | 「家族に知られず、安全に関わる相談をしたいです」 |
| 子どもや高齢者の生活にも影響がある | 「自分だけでなく、同居する家族の食事や生活にも影響が出ています」 |
緊急性を伝えることは、順番を飛ばしてほしいと要求することではありません。
職員が、その日に必要な対応と、後日でもよい手続きを分けるための情報です。
生活困窮者自立支援制度では、仕事、住まい、家計など複数の問題を一緒に抱える人を対象に、相談者の状況に応じた支援や関係機関へのつなぎが行われます。利用できる内容や要件は地域・世帯状況によって異なるため、「自分は対象外だろう」と窓口へ行く前に決めつける必要はありません。
「相談した」だけで申請したことになるとは限りません
窓口で事情を話したあと、説明を聞いて帰ったものの、「結局、何か申請したのか分からない」ということがあります。
相談、制度案内、書類の受け取り、申請書の提出、審査、決定は、それぞれ別の段階です。
その日に何をしたのか、帰る前に次の点を聞きます。
- 今日は相談だけですか、それとも申請を受け付けてもらいましたか
- 申請日は今日の日付になりますか
- 次に提出する書類は何ですか
- 提出期限はいつですか
- 結果はいつごろ、どの方法で届きますか
- 決定までの生活について相談できることはありますか
利用したい制度が決まっている場合は、希望をはっきり伝えます。
「説明だけでなく、今日申請したいです」
「生活保護を申請したいです」
「まだ制度名は分かりませんが、今日できる手続きを教えてください」
厚生労働省は、生活保護の申請は国民の権利であり、必要となる可能性は誰にでもあるため、ためらわず相談するよう案内しています。また、親族へ相談してからでなければ申請できないわけではないと明記しています。
生活保護を利用できるかどうかは、世帯の収入、資産、生活状況などをもとに福祉事務所が判断します。相談へ行く前に自分だけで可否を決めず、申請を希望する場合はその意思を窓口で伝えてください。
別の窓口へ案内されたら、次の場所と伝える言葉を書いてもらいます
役所では、税金、保険、住まい、福祉、介護などで担当課が分かれています。
一つの窓口だけでは終わらず、「次は3階へ」「こちらは別の部署です」と案内されることもあります。
たらい回しにされたように感じたときは、感情を抑えて我慢するのではなく、次の質問をします。
- 次は何課へ行けばよいですか
- 次の窓口では、最初に何と伝えればよいですか
- こちらで話した内容を、担当窓口へ伝えてもらえますか
- 今日中に行く必要がありますか
- 担当課の電話番号と受付時間を書いてもらえますか
- 次に必要な書類へ印をつけてもらえますか
何度も同じ事情を話すのがつらい場合は、最初に作ったメモを見せながら説明します。
窓口を移るたびに、詳しい事情を一から話す必要はありません。
「先ほど生活相談で話し、この窓口を案内されました。税金の滞納について、今できる手続きを聞きたいです」
この一文で話をつなげられます。
対応に納得できないときは、理由と次の手段を尋ねます
勇気を出して相談したのに、説明が早すぎる、冷たく感じる、話を最後まで聞いてもらえないこともあるかもしれません。
その場で言い返せなくても、自分を責める必要はありません。
まずは、次の言葉で事実を確かめます。
- 「利用できない理由を、もう一度ゆっくり説明してもらえますか」
- 「その理由が書かれた案内はありますか」
- 「ほかに相談できる窓口はありますか」
- 「今日の説明を、家族に見せられるよう紙に書いてもらえますか」
- 「別の担当者にも話を聞いてもらうことはできますか」
帰宅後に混乱しないよう、相談した日、部署名、担当者名、説明された内容、次の期限をメモしておきます。
役所の手続きが分かりにくい、どこへ申し出ればよいか分からない、説明や対応に納得できないといった場合は、総務省の行政相談も選択肢になります。行政相談は無料で、特別な様式や添付書類を必要とせず、相談者の秘密は守られると案内されています。
ただし、行政相談へ連絡しただけで、自治体への申請期限や支払期限が延びるわけではありません。期限がある手続きは担当課への連絡も並行して行います。
本人が行けないときは、家族から入口を尋ねることもできます
親や配偶者が生活に困っているのに、本人が役所へ行くことを嫌がる場合があります。
「恥をかきたくない」
「家のお金を知られたくない」
「役所へ行ったら生活を全部指図されそう」
家族が無理に連れて行こうとすると、本人がさらに拒否することもあります。
生活困窮者向けの相談窓口では、本人だけでなく、家族や周囲の人からの相談も受け付けると政府広報で案内されています。まず家族が一般的な相談をし、本人へどう声をかけるかを尋ねる方法もあります。
家族から電話するときは、次のように伝えます。
「同居する父の生活費について家族から相談したいのですが、本人が来所を嫌がっています。家族だけで最初の相談はできますか」
「本人の手続きに必要な委任状や本人確認書類を教えてください」
一般的な制度案内は家族へ説明してもらえても、本人の個人情報を開示することや、本人名義で申請することは別です。手続きによっては本人の同意、委任状、本人確認書類などが必要になります。
家族が代わりに全部決めるのではなく、本人に次のように尋ねてみてください。
- 電話だけ家族にしてほしいか
- 一緒に窓口まで来てほしいか
- 相談中も同席してほしいか
- お金の話だけは一人で話したいか
- 持ち物の準備だけ手伝ってほしいか
本人が安全に関わる事情を抱えている場合や、判断する力に不安がある場合は、家族だけで抱えず、その状況も含めて窓口へ伝えます。
帰る前に「次にすること」を一つに絞ります
役所でたくさんの説明を受けると、帰宅するころには何から手をつければよいか分からなくなることがあります。
パンフレットを何冊も渡されても、全部読む必要はありません。
窓口を離れる前に、次の六つを一枚の紙へ書きます。
| 書き残すこと | 記入例 |
|---|---|
| 相談した部署 | 生活支援課 |
| 相談した日 | 7月15日 |
| 次にすること | 家賃の督促状と通帳を持参する |
| 期限 | 7月20日まで |
| 次の連絡先 | 生活支援課の電話番号 |
| 次回伝える一言 | 「前回相談した家賃滞納の件で来ました」 |
次の行動が二つ以上ある場合は、「最初にどちらをすべきですか」と担当者へ聞いてください。
役所で一度に生活を立て直す必要はありません。
今日は支払いの相談。次回は家計の状況を確認。そのあとに仕事や住まいについて考える。問題を小さく分けることで、動き続けやすくなります。
今日できる一歩は、窓口で話す一文を紙に書くことです
役所へ相談することは、自分の失敗を報告しに行くことではありません。
今の暮らしを続けるために、利用できる仕組みと次の手順を確かめに行くことです。
それでも恥ずかしさが消えないなら、無理に堂々とする必要はありません。
声が小さくても、説明が途中で止まっても、涙が出ても構いません。紙を一枚渡すだけでも、相談は始められます。
今夜は、次の一文だけを書いて、財布やかばんへ入れておいてください。
「どの窓口か分からないのですが、生活のことで困っていて相談したいです」
明日は役所へ行けなくても、開庁時間を調べる、電話番号を登録する、届いた通知を一か所へ集めるところまでで十分です。
恥ずかしさがなくなってから動くのではなく、恥ずかしさを抱えたままでも使える一言を持っておく。それが、暮らしを止めないための最初の準備になります。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:生活、仕事、住まい、家計などの相談支援と地域の窓口に関する確認先。
- 政府広報オンライン「様々な事情で暮らしにお困りのかたのための相談窓口があります!」:家族からの相談、相談方法、秘密の取扱いなどに関する確認先。
- 厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」:相談・申請窓口、書類がそろっていない場合、親族との関係などに関する確認先。
- 政府広報オンライン「国の行政に関する苦情、意見・要望は『行政相談』をご利用ください」:役所の手続きや対応に関する行政相談の確認先。














