退院の日に請求額を見て、頭が真っ白になってしまったら
退院の説明を聞き、荷物をまとめ、最後に会計窓口で渡された請求書を見る。
金額は十数万円。財布にも口座にも、すぐに用意できるお金はない。
「払えないと言ったら、怒られるのではないか」
「今後、この病院で診てもらえなくなったらどうしよう」
「家族に知られずに何とかできないだろうか」
そんなことを考えているうちに、窓口では「次の方」と呼ばれ、何も言えないまま請求書だけ持ち帰ってしまうことがあります。
医療費の問題は、金額だけではありません。病気への心配、仕事を休んだことによる収入減、家賃や食費、家族への申し訳なさが一度に重なります。
だからこそ、最初から制度名を調べ尽くそうとしなくて構いません。
まず必要なのは、「払えません」とだけ言うことではなく、いつ、いくらなら払えるのかも含めて、病院側と話せる状態にすることです。
病院と自治体のどちらへ行くかは、「困っている場所」で分けます
医療費を払えないとき、「市役所へ行けば何とかなるのか」「まず病院へ話すべきなのか」で迷いやすいものです。
入口は一つではありません。今どこで支払いが止まりそうなのかによって、先に連絡する場所を変えます。
| 今の状況 | 最初に連絡する場所 | 聞くこと |
|---|---|---|
| これから入院・手術を受ける | 病院の入退院窓口、医療相談窓口 | 費用の概算、限度額の扱い、支払時期 |
| 退院時や外来会計で全額を払えない | 病院の会計窓口 | 当日必要な金額、分納や猶予の可否、相談担当者 |
| 請求書が届いたが期限に間に合わない | 請求元の病院 | いつまで待てるか、支払計画を組めるか |
| 高額な保険診療が続いている | 加入している健康保険の窓口 | 高額療養費、限度額適用、世帯合算 |
| 国民健康保険に入り、収入が急に減った | 市区町村の国民健康保険窓口 | 一部負担金の減免や徴収猶予の対象になるか |
| 医療費を払うと家賃や食費がなくなる | 自治体の自立相談支援窓口 | 家計全体の立て直し、利用できる福祉制度 |
| 収入も資産も乏しく、生活自体を維持できない | 住所地を担当する福祉事務所 | 生活保護の申請や医療扶助 |
病院には、会計窓口とは別に「患者サポートセンター」「医療福祉相談室」「地域連携室」などの名前で相談窓口が設けられていることがあります。
医療ソーシャルワーカーは、患者や家族が抱える経済的な問題を把握し、使える行政サービスの案内や関係機関との調整を行う役割を担います。窓口名が分からなければ、「医療費について相談できる担当者につないでください」と受付で伝えれば構いません。
病院では、「全額は無理ですが、払う意思はあります」と伝えます
支払えないことを恥ずかしく感じ、病院からの電話や手紙を避けたくなるかもしれません。
ただ、病院側から見ると、事情が分からないまま連絡が取れない状態と、支払う意思があり相談している状態は同じではありません。
窓口では、次のように話せば十分です。
「本日の請求が12万円ですが、今日用意できるのは2万円です。残りを期限までに一括で払うのは難しいため、支払方法と使える制度を相談したいです。」
うまく説明できないときは、紙に書いて渡しても構いません。
| 病院へ伝える内容 | 記入例 |
|---|---|
| 請求額 | 12万4,000円 |
| 今日払える額 | 2万円 |
| 次に収入が入る日 | 25日の給与日 |
| 毎月払えそうな額 | 月2万円程度 |
| 収入が減った理由 | 入院で勤務日数が減った |
| ほかに困っている支払い | 家賃、国民健康保険料、電気代 |
病院で聞いておきたい五つのこと
- 請求額のうち、保険診療と保険外費用はそれぞれいくらか
- 支払期限はいつか
- 分納や支払猶予を相談できるか
- 医療ソーシャルワーカーや相談員に会えるか
- 高額療養費や無料低額診療事業について案内を受けられるか
分納を希望する場合は、無理に高い金額を約束しない方がよいでしょう。
「来月なら何とかします」と答えても、生活費を差し引いたら払えないのであれば、また連絡を避けたくなります。
家賃、光熱費、食費、通院交通費を残したうえで、続けられる金額を伝えます。
高額療養費は「請求額が高ければ全部下がる制度」ではありません
医療費が高額になったとき、最初に確認したいのが高額療養費制度です。
公的医療保険が適用される医療費の自己負担が、同じ月の上限額を超えた場合、超えた額が支給されます。上限は年齢や所得によって異なり、問い合わせ先は加入している健康保険です。
| 対象になり得るもの | 原則として対象外のもの |
|---|---|
| 健康保険が適用された診察・検査・手術・薬の自己負担 | 差額ベッド代 |
| 条件を満たす同じ月の複数医療機関の自己負担 | 入院時の食費や居住費 |
| 同じ医療保険に加入する家族分の世帯合算 | 診断書などの文書料 |
| 長期治療で条件を満たした場合の多数回該当 | 保険適用外の治療やサービス |
高額療養費は、原則として月の初日から末日までを一単位として計算されます。月をまたいで入院した場合、それぞれの月で計算されるため、入院費の合計だけを見ても支給額は判断できません。また、食事代や差額ベッド代などは対象に含まれません。
これから高額な治療を受ける場合は、オンライン資格確認に対応した医療機関でマイナ保険証を利用するか、加入先から限度額適用認定証などの交付を受けることで、保険診療分の窓口支払いを上限額までに抑えられる場合があります。
高額療養費の申請先は、病院ではなく「自分が加入している健康保険」です。病院では制度の説明を受けられても、最終的な対象判定や支給は保険者が行います。
すでに全額を支払った場合も、対象なら後から申請できることがあります。ただし、払い戻しまでの間のお金が足りないときは、病院への支払相談も並行して行います。
加入先によっては、高額療養費の支給見込額をもとにした貸付制度などを設けている場合があります。たとえば協会けんぽでは、高額療養費支給見込額の一定割合を無利子で貸し付ける制度が案内されていますが、利用条件や制度の有無は保険者ごとに異なります。
なお、厚生労働省は高額療養費制度について、2026年8月以降の上限額などの見直しを案内しています。掲載時期や診療月によって金額が変わる可能性があるため、具体的な上限額は加入先の最新案内で確かめてください。
国民健康保険の人は、医療費そのものの減免対象になる場合があります
市区町村の国民健康保険に加入している方で、失業、廃業、災害などにより収入が著しく減った場合、一部負担金の徴収猶予や減免を受けられることがあります。
これは国民健康保険料の減免とは別に、病院窓口で支払う自己負担分について検討される制度です。
国の通知では、災害、事業の休廃止、失業などによって生活が困難になった場合に、申請に基づき一部負担金の徴収猶予や減免を行える仕組みが示されています。実際の基準、期間、必要書類は自治体によって異なります。
国保窓口へ電話するときの言い方
「国民健康保険に加入しています。入院費の自己負担分を払うと生活費がなくなります。失業で収入が減っているのですが、一部負担金の減免または徴収猶予の制度はありますか。」
申請前に病院へ支払ってしまうと扱いが変わる場合もあるため、対象になりそうなときは、支払い前に自治体の国保窓口へ聞いてください。
会社の健康保険、共済組合、後期高齢者医療制度などに加入している方は、市役所の国保窓口ではなく、それぞれの保険者が問い合わせ先になります。保険者名が分からない場合は、資格確認書、マイナポータル、勤務先の担当部署などで確認できます。
無料低額診療事業は、どの病院でも利用できるわけではありません
収入が少なく、必要な診療を受けることが難しい人に対して、無料または低額な料金で診療を行う「無料低額診療事業」があります。
社会福祉法に基づく事業ですが、実施している医療機関は限られています。また、利用基準、減免される範囲、必要書類などは実施医療機関によって異なります。
| 確認したいこと | 問い合わせる相手 |
|---|---|
| その病院が事業を実施しているか | 病院の医療相談窓口 |
| 収入や世帯状況の基準 | 病院の相談員 |
| 過去の請求にも適用されるか | 病院の会計・相談窓口 |
| 薬局代や保険外費用も対象か | 病院と利用する薬局 |
| どの書類が必要か | 実施医療機関 |
近くの病院が実施していない場合でも、病院の相談員や自治体の福祉窓口が、地域の実施医療機関を把握していることがあります。
ただし、無料低額診療事業を探すために、緊急の治療を先延ばしにするのは避けてください。
医療費だけでなく、家賃や食費まで足りないなら自治体へ話します
「病院代さえ分割にできれば何とかなる」という場合は、病院と健康保険への相談が中心です。
一方で、医療費を払えば家賃が払えない、治療のため仕事を休んで収入が途絶えた、電気や水道も止まりそうという場合は、医療費だけを分けて考えることが難しくなっています。
その場合は、市区町村の生活困窮者自立相談支援機関が入口になります。
生活困窮者自立支援制度では、仕事、住まい、家計など生活全体の困りごとを受け止め、状況に合わせた支援計画の作成や、必要な制度・機関へのつなぎを行います。自治体によって実施内容は異なりますが、家族や周囲の人から相談できる場合もあります。
| 窓口 | 主に話す内容 |
|---|---|
| 自立相談支援機関 | 医療費、家賃、仕事、借金、家計を含む生活全体 |
| 国民健康保険窓口 | 高額療養費、一部負担金の減免・猶予、保険資格 |
| 後期高齢者医療の担当窓口 | 75歳以上などの高額療養費、窓口負担割合 |
| 福祉事務所 | 収入や資産だけでは最低限の生活を維持できない状況 |
生活そのものが成り立たないときは、福祉事務所が申請窓口です
収入や預貯金が乏しく、医療費だけでなく食費や住居費もまかなえない場合は、生活保護を含めて福祉事務所へ相談する選択肢があります。
生活保護の相談・申請窓口は、住んでいる地域を担当する福祉事務所です。生活保護の医療扶助が適用された場合、対象となる医療サービスの費用は医療機関へ直接支払われ、原則として本人負担はありません。利用できるかどうかは世帯の収入、資産、生活状況などを踏まえて判断されます。
「生活保護を受けると家や車を必ずすぐ手放す」「家族へ迷惑がかかる」と決めつけて、相談を避ける必要はありません。資産の扱いや扶養照会などは個別事情によって異なるため、今の状況をそのまま伝えて説明を受けます。
窓口では、次のように話せます。
「治療が必要ですが、現在の収入では医療費と生活費を払えません。預貯金も残りわずかです。生活保護を申請できる状況か相談したいです。」
制度の説明だけで終わらず申請を希望するときは、「申請したい」と明確に伝えてください。
支払い期限を過ぎていても、連絡しないままにはしない
病院から督促状が届くと、封筒を開けることさえ怖くなります。
「今さら電話したら責められる」
「払えるお金がないのだから、連絡しても意味がない」
そう感じるかもしれませんが、期限を過ぎていても、現在の収入や支払可能額を伝える意味はあります。
すでに期限を過ぎている場合の順番
- 請求書と督促状を日付順に並べる
- 現在の残額と連絡先を確認する
- 病院へ電話し、支払いが遅れたことを伝える
- 一括で払えない場合は、支払計画を相談する
- 生活費全体も足りなければ、自治体窓口にも連絡する
電話では、長い事情説明より先に用件を伝えます。
「医療費の支払い期限を過ぎており、申し訳ありません。現在も一括では払えません。連絡をしないままにしたくないので、支払方法を相談させてください。」
約束した金額を払えなくなった場合も、再び黙るのではなく、分かった時点で連絡します。
家族が代わりに調べるときは、すぐ立て替える前に内訳を見ます
親や配偶者から「病院代が払えない」と聞くと、家族は急いで振り込もうとするかもしれません。
けれど、請求額の中に高額療養費の対象になる費用があるのか、今後も同じ治療費が続くのかを見ないまま立て替えると、翌月も同じ問題が起こります。
家族が手伝えること
- 請求書、領収書、資格確認書などを一か所に集める
- 病院へ一緒に行き、相談窓口を探す
- 本人の加入する健康保険を調べる
- 収入日と毎月の生活費を紙に書く
- 本人の了承を得て、自治体へ電話する
本人を責める言葉は避けます。
| 避けたい言い方 | 話しやすくする言い方 |
|---|---|
| 「どうしてもっと早く言わなかったの」 | 「言いにくかったんだね。今からできる順番を一緒に見よう」 |
| 「私が払うから、もう気にしないで」 | 「まず請求の内訳と、使える制度がないかを見てから決めよう」 |
| 「市役所へ行けば何とかなるよ」 | 「病院と保険の窓口のどちらから聞くか、一緒に決めよう」 |
| 「そんな治療を受けたからでしょう」 | 「治療を続けながら払える方法がないか聞いてみよう」 |
家族が電話できる場合でも、病院や保険者が詳しい個人情報を答えるには、本人の同意や委任状、本人確認が必要になることがあります。先に「家族が同席または代理で相談する場合に何が必要ですか」と聞いておくと、何度も窓口へ行かずに済みます。
窓口へ持っていくものは、完璧にそろわなくても構いません
制度の相談では書類を求められることがありますが、すべてそろうまで連絡を待つ必要はありません。
まず電話し、今手元にあるものを伝えます。
- 病院の請求書、領収書、督促状
- マイナンバーカードまたは資格確認書
- 加入する健康保険が分かるもの
- 通帳や直近の残高が分かるもの
- 給与明細、年金通知、離職票など収入が分かるもの
- 家賃、光熱費、借入返済など毎月の支出メモ
- 認印や本人確認書類など、窓口から案内されたもの
窓口でうまく話せない場合は、次の四行を書いた紙を渡せば入口になります。
|
医療費の請求額:○円 |
不足分を借りて埋める前に、返済後の生活まで見ます
支払期限が近づくと、カードローンやクレジットカードのキャッシングで一時的に埋めようと考えることがあります。
けれど、治療で収入が減っている時期に新しい返済が加わると、翌月の医療費や生活費がさらに足りなくなることがあります。
借り入れを全面的に否定する必要はありませんが、病院への支払相談、高額療養費、加入先の貸付制度、国保の減免、自立相談支援などを確かめる前に、高い利息の借り入れを急ぐのは避けたいところです。
すでに複数の借金があり、医療費を借金で払っている場合は、自立相談支援機関へ「医療費と借金の両方で困っている」と伝えます。家計改善支援や法律相談など、必要な機関へつないでもらえる場合があります。
具合が悪いときは、支払いの見通しが立つまで我慢しないでください
医療費への心配から、急な症状があっても受診をためらうことがあります。
けれど、突然の激しい胸痛、強い息苦しさ、意識がおかしい、顔や手足の片側が動かしにくいなど、緊急性が疑われる症状では、支払い方法を考えてから受診するのではなく、119番への通報を優先します。救急車を呼ぶべきか迷う場合は、実施地域であれば救急安心センター「#7119」へ相談できます。
緊急ではないものの、受診費用が心配な場合は、予約時や受付時に「費用面の相談もしたい」と伝えてください。
お金の問題を治療後まで隠すより、治療の見通しを立てる段階で伝えた方が、病院側も相談窓口へつなぎやすくなります。
今日の一歩は、請求書に三つの数字を書き込むことです
制度をすべて理解してから動く必要はありません。
手元の請求書に、次の三つを書いてみてください。
- 支払期限
- 今用意できる金額
- 毎月なら払えそうな金額
そのうえで、請求元の病院へ電話し、こう伝えます。
「期限までに全額を払えません。支払う意思はありますので、会計と制度について相談できる方につないでください。」
病院へ連絡したあと、資格確認書などで保険者名を見ます。生活費まで不足しているなら、自治体の自立相談支援窓口または福祉事務所へ電話します。
医療費を払えないことは、責められるために隠す話ではありません。
金額と期限を見える形にして、病院、健康保険、自治体へ役割を分けて聞けばよいのです。今日すべてが解決しなくても、「連絡をした」「次に持っていく書類が分かった」というところまで進めば、請求書を一人で抱えていた昨日とは状況が変わっています。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」:高額療養費、限度額適用、制度見直し、加入先別の問い合わせ先。
- 厚生労働省「医療ソーシャルワーカー業務指針」:経済的課題の把握、行政サービスの案内、療養支援に関する確認先。
- 厚生労働省「一部負担金の徴収猶予及び減免」:国民健康保険の一部負担金減免・徴収猶予に関する確認先。
- 厚生労働省「無料低額診療事業等に係る実施状況」:生計が困難な人への無料・低額診療に関する確認先。
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」「生活保護制度」:生活全体の相談、自立相談支援機関、福祉事務所、医療扶助に関する確認先。














