熱が出た夜、電話をかける相手が思い浮かばない
夜中に急に具合が悪くなった。廊下で足を滑らせた。病院から「緊急連絡先を書いてください」と言われた。
そんな場面を想像したとき、電話帳を開いても名前が浮かばないことがあります。
子どもはいない。きょうだいも高齢になった。親戚とは何年も連絡を取っていない。近所の人とは挨拶をする程度で、鍵を預けるほどの関係ではない。
家族がいても、遠方に住んでいる、関係がよくない、病気や仕事を抱えているなど、「いるけれど頼めない」という人もいます。
普段は自分のことを自分でできていても、ふとした瞬間に「倒れたら誰が見つけてくれるのだろう」「入院したら着替えを持ってきてくれる人はいない」「死んだ後、部屋はどうなるのだろう」と考え始めると、眠れなくなることもあるでしょう。
この心細さを、「孤独だから誰か友達を作らなければ」と一つにまとめる必要はありません。実際に足りないのは、親しい一人ではなく、場面ごとの連絡先や手助けであることが多いからです。
| 気になっている場面 | 必要なのは何か | 最初に聞ける場所 |
|---|---|---|
| 急に倒れた、動けなくなった | 救急要請と、自宅の情報を伝える準備 | 119番、利用地域では救急相談窓口、自治体の緊急通報事業 |
| 数日姿を見せなくても誰も気づかない | 定期的に異変を察知する仕組み | 地域包括支援センター、自治体の高齢者担当窓口 |
| 買い物やごみ出しが難しくなった | 日常生活の一部分を補う支援 | 地域包括支援センター、社会福祉協議会 |
| 入院時の連絡先や退院後が心配 | 病院との調整、退院後の生活支援 | 病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター |
| 請求書や通帳の管理に自信がない | 金銭管理や福祉サービス利用の手助け | 市区町村社会福祉協議会、地域包括支援センター |
| 亡くなった後の手続きが気になる | 死後の事務を誰がどこまで担うか | 地域包括支援センター、法律職、公的相談窓口 |
「何でも頼める一人」を探すより、役割ごとの支えを持つ
一人暮らしの備えというと、親戚や友人の中から緊急連絡先を一人決めなければならないように感じます。
けれど、安否確認、病院への付き添い、買い物、金銭管理、死後の手続きを、すべて一人に任せるのは現実的ではありません。親しい人がいたとしても、そこまで頼めるとは限らないでしょう。
備えは、次の五つに分けて考えると負担が小さくなります。
- 急病やけがのときに助けを呼ぶ仕組み
- 異変に気づいてもらう見守り
- 買い物やごみ出しなどの日常生活の手助け
- 医療・介護・お金に関する手続きの支援
- 亡くなった後の連絡や住まいの片付けに関する準備
たとえば、緊急時は通報装置、普段の見守りは配食サービス、生活上の相談は地域包括支援センター、支払いの手助けは社会福祉協議会というように、役割を分けられます。
「頼れる人がいない」という状態を、誰か一人との深い関係だけで解決しようとしないことが出発点です。
最初の電話は、地域包括支援センターでかまいません
どの制度が使えるのか分からないときは、お住まいの地域を担当する地域包括支援センターが入口になります。
地域包括支援センターは市町村が設置し、高齢者の総合相談、介護予防、権利擁護、地域の支援体制づくりなどを担う機関です。すでに介護が必要な人だけの窓口ではなく、今後の一人暮らしが気になり始めた段階でも相談できます。
電話では、制度名を挙げる必要はありません。次のように伝えれば十分です。
「一人暮らしで、いざというときに頼める家族や知人がいません。今は身の回りのことを自分でしていますが、急病時の連絡や見守りについて、地域で利用できる仕組みを知りたいです」
担当するセンターが分からなければ、市区町村の高齢者福祉や介護保険の担当窓口へ「自分の住所を担当する地域包括支援センターを教えてください」と尋ねます。
電話する前に、三つだけ書いておく
- 一番気になっていること:急病、転倒、買い物、入院、お金など
- 現在できていることと、最近難しくなったこと
- 家族や近所の人へ頼める範囲
「身寄りがありません」とだけ伝えるより、「倒れたときに発見が遅れるのが怖い」「退院後に家まで戻れるか心配」など、場面を一つ添えると必要な支援につながりやすくなります。
今夜一人で具合が悪くなったときの動きを決めておく
支援制度を調べるには時間がかかりますが、急病への備えは今日から始められます。
迷わず119番を使う場面
意識がない、急に息が苦しくなった、胸の強い痛みがある、顔や手足の片側が動きにくい、ろれつが回らない、転倒して動けないなど、緊急性が高いと感じる場合は119番へ連絡します。
救急車を呼ぶべきか迷う場合には、実施地域であれば救急安心センター事業「#7119」で、医師、看護師、救急救命士などから助言を受けられます。全国一律の実施ではないため、自分の地域で利用できるかを平常時に調べておきます。
電話のそばに「救急時の一枚」を置く
- 氏名、生年月日、住所
- 持病とアレルギー
- 現在飲んでいる薬
- かかりつけ医と薬局
- 健康保険証などの保管場所
- 緊急時に連絡してよい人がいる場合は、その氏名と電話番号
- 地域包括支援センターなど、普段相談している窓口
緊急連絡先になる人がいなければ、空欄を無理に埋める必要はありません。「身近な親族・緊急連絡先なし」と書き、普段利用している医療・介護・福祉の窓口を記載します。
玄関の内側など外から見える場所に、病名や個人情報を大きく貼るのは避けます。救急隊が来たときに見つけやすく、普段は他人から見えにくい場所を決めてください。
自治体の緊急通報や見守りがないか聞く
自治体によっては、一人暮らしの高齢者などを対象に、緊急通報装置、定期連絡、配食時の安否確認などを行っています。対象年齢、健康状態、所得、同居家族の有無、費用などは地域ごとに異なります。
インターネットで制度名を探し続けるより、地域包括支援センターへ「緊急通報と見守りの制度はありますか」と直接聞く方が確実です。
見守りは、毎日誰かに電話してもらうことだけではありません
見守られることに抵抗を感じる人もいます。
「監視されたくない」「元気なのに高齢者扱いされたくない」「人が家へ入ってくるのは嫌だ」と感じるのは不自然ではありません。
見守りには、生活へ入り込む度合いが異なる方法があります。
| 見守りの方法 | 暮らしへの入り方 | 向いている状況 | 確かめたい点 |
|---|---|---|---|
| 決まった相手との電話・メッセージ | 低い | 遠方でも連絡を取れる知人がいる | 連絡が取れないとき、誰が何をするか |
| 配食や訪問時の声かけ | 中程度 | 食事の準備にも負担を感じている | 不在や異変時の連絡先、利用回数 |
| 電気・ガス・センサーなどによる見守り | 訪問は少ない | 人の訪問には抵抗がある | 何を異常と判断し、誰へ通知するか |
| 緊急通報装置 | 必要時のみ | 転倒や急病時に電話まで移動できるか心配 | 装置を身につけられるか、駆けつけの範囲 |
| 民生委員や地域活動とのつながり | 地域との関係が生まれる | 制度だけでなく顔の見えるつながりも欲しい | 訪問頻度や、対応できない内容 |
民生委員は地域住民の立場で相談に応じ、必要な援助や関係機関へのつなぎを行う役割を持っています。ただし、介護職員や身元保証人ではなく、買い物、金銭管理、24時間の緊急対応を個人的にすべて担う人ではありません。担当の民生委員を知りたい場合は、市区町村の福祉担当窓口へ尋ねます。
電球交換やごみ出しの困りごとは、小さいうちに話してよい
一人暮らしが難しくなるきっかけは、大きな病気だけではありません。
重い米を運べない。ごみ集積所まで歩くのがつらい。高い場所の電球を替えられない。通院帰りに薬と荷物を持って帰れない。
一つひとつは「人に言うほどではない」と思えても、できないことが重なると、食事、衛生、通院まで崩れてしまいます。
| 困りごと | 考えられる支え | 伝える言葉 |
|---|---|---|
| 買い物へ行けない | 宅配、移動販売、生活支援、訪問介護の対象確認 | 「食料を自分で運ぶのが難しくなりました」 |
| ごみを出せない | 自治体の戸別収集、地域の生活支援 | 「集積所まで運べず、家にごみがたまり始めています」 |
| 掃除や洗濯が追いつかない | 介護保険サービス、自治体・民間の家事支援 | 「床や浴室の掃除で転びそうになります」 |
| 通院が難しい | 介護タクシー、移送支援、訪問診療の相談 | 「病院まで一人で移動することに不安があります」 |
| 食事を作れない日が増えた | 配食、栄養相談、介護サービスの検討 | 「一日一食で済ませる日が増えています」 |
自治体の支援、ボランティア、NPO、民間サービスでは、利用条件や費用、できることが異なります。高い所での作業や現金の預かりなど、事故やトラブルにつながりやすい行為は引き受けてもらえない場合もあります。
「何でもしてくれる人」を探すのではなく、毎週必要なこと、一度だけ頼みたいこと、自分では危険になったことを分けて伝えます。
入院時の「連絡先」と「保証人」は同じ役割とは限りません
頼れる人がいない方にとって、特に重く感じるのが入院です。
病院から緊急連絡先、身元引受人、保証人などを尋ねられると、「誰も書けないなら入院させてもらえないのでは」と心配になるでしょう。
厚生労働省は、身元保証人などがいないことだけを理由に、医療機関が入院を拒否することは適切ではない旨を示し、身寄りがない患者への対応に関するガイドラインを公開しています。
ただし、病院側が確認したい内容には、次のような別々の役割が含まれることがあります。
- 本人の容体が変わったときの連絡
- 入院費や持ち物についての連絡
- 退院後の住まいや生活の調整
- 本人が意思を伝えにくくなった場合の情報提供
- 亡くなった場合の連絡や遺体・所持品への対応
名前を書ける人がいないときは、架空の名前や疎遠な親戚を無断で記入せず、「頼める人はいません。どの役割について必要なのか教えてください」と伝えます。
予定入院なら、入院前の相談窓口や医療ソーシャルワーカーへ早めに話します。急な入院であっても、落ち着いた段階で病棟の看護師などへ「退院後も一人暮らしで、頼める家族がいない」と伝えてください。
一人で生活できる状態まで戻っていないのに、自宅へ帰ってから考えようとすると、食事や服薬、通院が途切れることがあります。退院前から、医療と地域の支援をつないでもらうことが必要です。
請求書を開けられなくなったら、お金を取り上げる前に支援を探す
公共料金の請求書を何通もためる。通帳を置いた場所が分からなくなる。訪問販売の契約内容を覚えていない。
こうした変化があっても、本人の財産を近所の人や知人へ簡単に預けるのは避けたいところです。親切な相手であっても、記録が曖昧になると、後から「お金が足りない」「頼んでいない支払いをされた」という行き違いが起こります。
認知症などによって判断能力が十分でなくなり、福祉サービスの利用手続きや日常的なお金の管理に手助けが必要な方には、「日常生活自立支援事業」を利用できる場合があります。
この事業では、本人との契約に基づき、福祉サービス利用の援助、日常的な金銭管理、定期的な訪問などが行われます。本人が契約内容を理解できることなどの要件があり、窓口は市区町村の社会福祉協議会などです。
判断力の低下が進み、契約や財産管理を自分だけで行うことが難しい場合には、別の権利擁護制度を検討することもあります。制度の選択は財産や本人の状態によって異なるため、地域包括支援センターや社会福祉協議会の権利擁護窓口で、現在困っている行為から話します。
知らない契約や請求を受けたとき
訪問販売、電話勧誘、不要な工事、解約できないサービスなどで困ったときは、消費者ホットライン「188」から、地域の消費生活センターなどにつながります。相談は無料ですが、通話料がかかる場合があります。
契約書を捨てず、「いつ、誰が来たか」「いくら払ったか」を紙に書いておくと相談しやすくなります。
身元保証や終身サポートは、不安な日に即決しない
頼れる人がいないと調べていると、入院時の身元保証、生活支援、死後の手続きを一括して引き受ける民間サービスが見つかることがあります。
必要な支援と内容が合えば選択肢になりますが、「今契約しなければ孤独死する」「家族がいない人は入院できない」などと不安を強められ、その場で契約する必要はありません。
消費者庁は、高齢者等終身サポート事業を利用する際には、サービス内容や支払能力などを確かめ、不安がある場合は消費生活センターや地域包括支援センターへ相談するよう案内しています。
契約前に紙で受け取りたい項目
- 入院時、日常生活、死後の手続きのうち、何を行う契約か
- 依頼できないことは何か
- 初期費用、月額費用、依頼のたびに発生する費用
- 預けたお金を誰がどのように管理するか
- 解約条件と、前払い金が残った場合の返金方法
- 事業者が休業・廃業した場合の扱い
- 鍵、通帳、印鑑、重要書類を預ける必要があるか
- 本人の判断力が低下した後、契約内容を誰が点検するか
- 亡くなった事実を誰が把握し、最初に何をするのか
相談当日に印鑑や通帳を持参するよう急かされた場合は、一度持ち帰ります。契約書の意味が分からない部分を残したまま署名せず、公的窓口や消費生活センターなど、契約相手とは別の立場の人にも見てもらいます。
知人に緊急連絡先を頼むなら、できる範囲を先に決める
昔の同僚、離れて暮らす親戚、近所の知人など、連絡先だけなら頼めそうな人がいる場合もあります。
そのとき、「何かあったら全部お願いします」と頼むと、相手も引き受けにくくなります。
本人:「入院したときなどに、病院から連絡を受ける人がいなくて困っています。お金の保証や介護をお願いしたいわけではありません。緊急時に病院から連絡があったら、地域包括支援センターの連絡先が書かれたメモを確認してもらうところまで頼めないでしょうか」
知人:「遠くには住んでいるけれど、電話を受けるだけならできると思う」
本人:「できないことがあれば、最初から言ってください。連絡先として名前を書いてよいかも、その都度確かめます」
頼む内容は、電話を受けるだけなのか、病院へ行くのか、合鍵を預かるのかで負担が大きく変わります。
相手の同意なく連絡先へ記入しないこと、金銭の保証や医療上の判断まで自動的に頼んだことにしないことが、関係を長く保つためにも必要です。
離れて暮らす親族が調べている場合も、全部を背負わなくていい
叔父や叔母、きょうだい、疎遠だった親について、「一人暮らしらしいが、この先どうなるのだろう」と調べている人もいるでしょう。
親族だからといって、毎週通うことや、入院費・生活費をすべて負担することまで直ちに引き受ける必要はありません。
まず本人に、現在困っていることを聞きます。
親族:「一人暮らしをやめた方がいいと言いたいわけではないよ。病気になったときや買い物が難しくなったときに、近くで頼れる窓口があるかだけ一緒に調べない?」
本人:「まだ自分でできるから、余計なことはしなくていい」
親族:「分かった。今すぐサービスを使わなくても、地域包括支援センターの電話番号だけ冷蔵庫の近くに置かせてくれる?」
本人が支援を嫌がるときは、「高齢だから危ない」と決めつけず、何を心配しているのかを聞きます。費用、知らない人の訪問、生活への干渉、施設へ入れられる不安など、拒む理由によって必要な説明は変わります。
親族が先に地域包括支援センターへ状況を話せる場合もあります。ただし、個別の支援や契約には本人の意思や本人確認が必要になることがあるため、「親族として何ができ、何は本人の同意が必要か」を窓口へ尋ねてください。
今の状態に合わせて、動く場所を三つに分ける
| 現在の状態 | 優先する行動 | 連絡先の例 |
|---|---|---|
| 今まさに倒れた、息苦しい、動けない | 制度を調べず、救急要請を優先する | 119番 |
| 転倒が増えた、食事が取れない、請求書がたまっている | 近日中に生活状況を伝え、必要な支援につなぐ | 地域包括支援センター、かかりつけ医、社会福祉協議会 |
| 今は生活できているが、将来と緊急時が心配 | 地域の制度を知り、緊急時の一枚を作る | 地域包括支援センター、自治体の高齢者担当窓口 |
今は元気だから相談できない、ということはありません。むしろ、自分で希望を伝えられるうちに、「人に家へ入られるのは嫌」「できるだけ今の家で暮らしたい」「お金の管理だけは早めに助けてほしい」と話しておく方が、本人の望む支え方を選びやすくなります。
今日作るのは、人間関係ではなく三行の連絡先です
長年頼れる人がいなかったのに、今日中に親しい人を作ることはできません。無理に近所の人へ合鍵を渡したり、よく分からないサービスへ申し込んだりする必要もありません。
今日は紙に、次の三行を書いてください。
- 緊急時:119番、利用できる地域なら#7119
- 生活の困りごと:担当の地域包括支援センター
- 契約の困りごと:消費者ホットライン188
地域包括支援センターの番号が分からなければ、市区町村の代表番号へ電話し、担当窓口を聞くところまでで十分です。
その電話で、「見守りはまだいりません」と判断することもあるでしょう。それでも、困ったときにかける番号を知っていることは、一人で抱え続ける状態とは違います。
頼れる人がいないことは、これまでの生き方が間違っていたという意味ではありません。家族構成や人間関係は人によって異なり、年齢とともに頼める相手が減ることもあります。
必要なのは、誰か一人に人生を預けることではなく、助けが必要になった場面でつながる道を一本ずつ作ることです。まずは電話番号を一つ書く。その小さな準備から、一人暮らしを続けるための支えは始められます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム・地域包括支援センターについて」
- 厚生労働省「民生委員・児童委員について」
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
- 厚生労働省「身寄りがない人への対応について」
- 総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)」
- 消費者庁「高齢者等終身サポート事業の利用に関する注意点」「消費者ホットライン188」














