年金日まであと一週間、財布に残っているのは五千円
冷蔵庫には卵と豆腐が少し。血圧の薬は、あと三日分です。
テーブルの上には、電気料金の払込票、携帯電話の請求書、病院でもらった次回予約票が並んでいます。
銀行の残高を何度見ても、全部を払うことはできません。
「電気を先に払うべきか、家賃を少しでも入れるべきか」
「カード代を遅らせたら、もう使えなくなるのでは」
「食費を切り詰めれば、何とか年金日まで持つだろうか」
一つを払えば、別の支払いができなくなります。
考えているうちに何も決められず、請求書を引き出しへ戻してしまうこともあります。
年金日前の不足は、「何を節約するか」だけでは解決しません。
今あるお金で命と生活を守り、待ってもらう支払いには先に連絡し、次の入金日までの道筋を作る必要があります。
年金生活では、月ごとではなく二か月分のお金が動く
公的年金は、原則として偶数月の15日に、その前月までの二か月分が支払われます。15日が土日や祝日の場合は、その直前の平日に支払われます。
二か月分がまとめて入るため、振込直後には残高が多く見えます。
そこから家賃、光熱費、医療費、税金、冠婚葬祭などが少しずつ出ていき、次の支給日前に急に苦しくなる家庭があります。
| 振込直後に起こりやすいこと | 支給日前に起こりやすいこと |
|---|---|
| 二か月分の残高を、今月使える金額のように感じる | 翌月分の食費や固定費が残らない |
| 税金や修理代など、大きな支払いを済ませる | 日常の通院費や薬代が不足する |
| 子どもや孫へ援助する | 自分の公共料金を払えなくなる |
| 遅れていた請求をまとめて払う | 次の年金日まで現金がなくなる |
これは、気持ちが緩んだからと一言で片付けられる問題ではありません。
一か月目と二か月目の支出が分かれていないと、どれだけ慎重に使っても不足しやすくなります。
最初に残すのは、今日から年金日まで生きるためのお金
請求書の金額を見る前に、次の年金日まで何日あるかを書いてください。
その日数分の生活費を先に残します。
- 最低限の食費
- 処方薬や必要な医療費
- 通院や仕事へ行く交通費
- 健康を守るための冷暖房費
- 乳幼児や介護が必要な家族の用品
- 連絡手段として必要な最低限の通信費
たとえば、年金日まで七日あり、手元に七千円あるとします。
全額を請求書へ回すのではなく、食費、薬、交通費を先に見積もります。
| 年金日までに必要なもの | 金額の例 |
|---|---|
| 食費 | 3,500円 |
| 薬代 | 1,500円 |
| 通院交通費 | 800円 |
| 緊急用の予備 | 500円 |
| 支払いへ回せる残り | 700円 |
七百円しか払えない請求があるなら、少額を勝手に振り込む前に、支払先へ扱いを聞きます。
食費や薬代をゼロにして一件だけ全額払っても、翌日からの生活が成り立たなければ、別の問題が起きます。
支払いは「怖い順」ではなく、止まったときの影響で分ける
督促の電話が来た支払いから先に払いたくなることがあります。
けれど、声の強い請求と、生活への影響が大きい支払いは同じとは限りません。
次の表は法律上の優先順位ではなく、次の年金日まで生活を守るための実務的な分け方です。契約内容や滞納期間によって対応は異なるため、各支払先にも状況を伝えてください。
| 分け方 | 主な支出 | 今すること |
|---|---|---|
| 今日の生活に必要 | 食費、薬、通院交通費、介護用品 | 必要日数分を現金として先に残す |
| 止まると生活への影響が大きい | 家賃、電気、ガス、水道、必要な通信 | 請求書の期限を見て、同日中に支払相談をする |
| 期限や納め方を相談する | 税金、国民健康保険料、介護保険料、医療費 | 自治体や医療機関へ、分納・支払方法の扱いを聞く |
| 契約先へ遅れる旨を伝える | カード、ローン、通販の後払い | 無理な日を約束せず、払える日と金額を伝える |
| 今月は止める・延期する | 定額動画、趣味の会費、急がない買い物、贈り物 | 解約日や次回請求を見て手続きをする |
家賃と電気代の両方が払えないなら、自分だけでどちらかを黙って放置しないでください。
それぞれの窓口へ、次の年金日と現在払える金額を伝えます。
今日払うもの・連絡するもの・止めるものを三列にする
紙を三つに区切ります。
| 今日払う | 今日連絡する | 今月止める |
|---|---|---|
| 薬代 | 家賃 | 動画配信 |
| 通院交通費 | 電気料金 | 趣味の通販 |
| 年金日までの食費 | 国民健康保険料 | 孫への予定外の贈り物 |
| 必要な介護用品 | カード代 | 急がない衣類購入 |
「払えないもの」は、何もしないものではありません。
払えないからこそ、今日連絡するものへ移します。
支払先には、謝り続けるより四つを伝える
電話をかける前に、次の四つを書きます。
- 支払期限と金額
- 現在払える金額
- 次の年金振込日
- 希望する支払方法
たとえば、次のように伝えられます。
「○月分の料金について、現在の手持ちでは期限までの全額支払いが難しく、ご連絡しました。次の年金振込日は8月14日です。その日に全額を支払いたいのですが、支払方法と、それまでに必要な手続きを教えてください」
一部なら払える場合は、次のように続けます。
「本日3,000円、年金振込日に残額を支払う方法は可能でしょうか。勝手に入金せず、扱いを伺いたいです」
分割や期日の変更が認められるかは、支払先や契約状況によって異なります。
電話しただけで認められたと思わず、合意した日、金額、支払方法、担当者名をメモしてください。
年金が入る日を伝えるだけでは足りない場合もあります
「年金が入ったら払います」と言っても、二か月分の年金から家賃、食費、公共料金をすべて払えば、また数日で不足することがあります。
支払いの約束をする前に、次回の年金から出るお金を簡単に並べます。
| 年金が入ったら必要な支出 | 金額の例 |
|---|---|
| 次の二か月分の家賃 | 10万円 |
| 二か月分の食費 | 5万円 |
| 電気・ガス・水道 | 2万5,000円 |
| 医療・薬 | 1万円 |
| 今回の未払分 | 3万円 |
未払分を全額払うと、次の家賃や食費がなくなる場合は、そのことも支払先へ伝えます。
「年金日に全額払うと、次月の家賃を払えなくなるため、二回に分ける方法がないか伺いたいです」
約束を守れない日付を答えるより、生活を維持しながら払える案を出します。
家賃は、年金日まで黙って待たない
家賃を払えないときは、契約書や請求書に記載された管理会社、大家、保証会社などへ連絡します。
伝える内容は、次の四つです。
- 契約者名と部屋番号
- 未払額
- 年金振込日
- 全額または一部を払える日
「年金日前でお金がない」とだけ伝えるより、次のように話します。
「○月分の家賃6万円のうち、現在2万円を準備できます。残りは8月14日の年金振込日に支払いたいと考えています。分けて支払うことが可能か、手続きを教えてください」
管理会社へ連絡した場合も、保証会社へ別に連絡が必要かを聞きます。
電気・ガス・水道は、停止予告の日付を見て連絡する
公共料金を払えない場合は、「何日遅れたら止まる」という一般的な情報ではなく、自分に届いた督促や停止予告を見ます。
| 見る場所 | 書き出す内容 |
|---|---|
| 請求書 | 料金、支払期限、契約者番号 |
| 督促状 | 未払総額、再度の期限 |
| 停止予告 | 停止予定日、回避に必要な支払い |
| 問い合わせ先 | 契約中の会社名、電話番号、受付時間 |
電話では、次のように聞きます。
「次の年金振込日が8月14日です。供給停止を避けるためには、いつまでにいくら支払う必要がありますか。全額が難しい場合に利用できる支払方法も教えてください」
在宅医療機器、冷蔵保存が必要な薬、乳幼児、高齢者がいる場合は、安全に関わる事情として先に伝えます。
税金や保険料は、払込票をしまう前に自治体へ聞く
住民税、固定資産税、国民健康保険料、介護保険料などを払えない場合は、市区町村の担当窓口へ連絡します。
制度や個別事情によって扱いは異なるため、「年金日まで待ってもらえるはず」と決めず、支払い方法を聞いてください。
「現在、年金日前で生活費が不足しています。今回の納付額を期限までに全額払えません。次の年金振込日に払える金額は○円です。分けて納める方法や、必要な手続きを教えてください」
電話するときは、納付書、本人確認書類、年金の振込額が分かる物を手元に置きます。
督促状が届いている場合は、文書の日付、記載された期限、問い合わせ先も伝えてください。
病院代を払えないからと、薬や受診を勝手にやめない
手元のお金が少ないと、通院を一回飛ばしたり、薬を半分に減らしたりしたくなることがあります。
しかし、治療内容を自分の判断だけで変えると、体調を崩し、かえって大きな費用がかかる場合があります。
受診前に病院の会計窓口や医療相談窓口へ、次のように伝えます。
「次の年金日まで手元のお金が少なく、今日の支払いが難しい可能性があります。概算額と、支払い方法について受診前に伺いたいです」
処方薬が高い場合は、薬剤師へ自己判断で服用を減らすのではなく、費用面で困っていることを伝えてください。
カードやローンは、新しい借金で自動的に埋めない
年金日までの数日をしのぐため、カードのキャッシングや消費者金融を使いたくなることがあります。
けれど、次の年金から借入れを返せば、その次の二か月分の生活費が減ります。
借りる前に、次の三点を書いてください。
- 借りる金額
- 利息や手数料を含む返済額
- 返済後、次の年金日まで残る生活費
返済すると家賃や食費が再び不足するなら、今回だけのつなぎではありません。
すでに複数のカードやローンの返済がある場合は、一社だけを新しい借入れで払わず、家計全体と債務をまとめて支援窓口へ伝えてください。
子どもへ頼むなら、「いくらでもいい」ではなく不足額を示す
子どもへ心配をかけたくないと、年金日前の不足を隠している人もいます。
一方、苦しくなった日に「少し貸して」とだけ言えば、子どもも何が起きているか分かりません。
頼む場合は、次のように範囲を決めます。
「年金日まで七日あり、薬と食費で六千円足りません。電気料金は支払日を相談します。今回は六千円を借り、年金が入った日に返したいです」
毎回不足しているなら、返済の約束を繰り返すより、通帳と請求書を一緒に見てもらう方がよい場合があります。
| 家族へ頼めること | 内容 |
|---|---|
| 一時的な立て替え | 金額、用途、返済日を決める |
| 買い物の手伝い | 現金ではなく必要な食品や薬を購入してもらう |
| 支払先への連絡 | 本人のそばで、話す内容をメモしてもらう |
| 家計の見直し | 二か月分の支出を一緒に分ける |
| 地域窓口への同行 | 請求書や通帳を持って一緒に相談する |
子どもが毎回援助できるとは限りません。
援助できないことを、見捨てられたことと同じにせず、公的な窓口にも並行してつながります。
食費も薬代も残らないなら、自立相談支援機関へその日に伝える
生活困窮者自立支援制度では、家賃を払えない、仕事や生活に困っているなど、生活全般の相談を受け付けています。
家計改善支援では、収入・支出や滞納を見えるようにし、利用できる制度や関係機関へのつなぎ、必要に応じた貸付けのあっせんなどを行います。
窓口では、きれいに説明する必要はありません。
次のように伝えてください。
「年金日まで一週間ありますが、手元に五千円しかありません。家賃、電気代、薬代の全部を払えず、何を先にすればよいか分かりません。来月も同じ状態になる可能性があるため、家計と使える制度を一緒に見てほしいです」
持っていける範囲で、次の物を用意します。
- 通帳や年金振込通知書
- 家賃や公共料金の請求書
- 税金・保険料の納付書
- 病院や薬局の領収書
- カードや借入れの明細
- 手元の現金と年金日を書いたメモ
全部そろっていなくても、相談を先延ばしにする必要はありません。
年金日までの一時的な生活費は、貸付対象になる場合があります
低所得世帯などで、緊急かつ一時的に生活の維持が難しくなった場合は、社会福祉協議会が扱う生活福祉資金の「緊急小口資金」の対象となる可能性があります。
通常の緊急小口資金は、貸付上限が10万円以内、無利子、保証人不要とされています。ただし、審査があり、申請すれば必ず即日借りられる制度ではありません。
厚生労働省の取扱いでは、年金などの公的給付が始まるまでに必要な生活費や、公共料金の支払いなどにより一時的に生活が苦しくなった場合も、審査時に確認する事情として挙げられています。
貸付けは返す必要があるお金です。
二か月ごとに毎回不足している場合は、借りることだけでなく、返済後も生活できるかを社会福祉協議会や自立相談支援機関と見てください。
年金が少ない方は、支援給付金の対象になっていないか見る
年金生活者支援給付金は、公的年金などの収入やその他の所得が一定基準以下の年金受給者を支援する制度です。
老齢年金生活者支援給付金では、65歳以上で老齢基礎年金を受けていること、世帯全員が市町村民税非課税であること、所得要件を満たすことなどが支給要件です。
対象となる可能性があるのに手続きが済んでいない場合は、日本年金機構から届いた書類を見直すか、年金事務所へ次のように聞いてください。
「老齢基礎年金を受け取っていますが、生活費が不足しています。年金生活者支援給付金の対象になっているかと、必要な手続きを確認したいです」
給付金だけで毎月の不足が解消するとは限りませんが、受け取れる制度を見落としたままにしないことも必要です。
年金を受け取っていても、最低限の生活が成り立たない場合があります
年金収入や預貯金などを活用しても、食費、住居、医療、光熱費を含む最低限の生活を維持できない場合は、生活保護の相談対象となる可能性があります。
生活保護は、年金などの収入があれば一律に利用できない制度ではありません。世帯の最低生活費と収入・資産などを基に判断され、相談・申請窓口は住んでいる地域を担当する福祉事務所です。
「年金をもらっているのに相談するのは恥ずかしい」と思う必要はありません。
次のような状態なら、年金日まで我慢するのではなく、現在の状況をそのまま伝えてください。
- 食べる物がほとんどない
- 薬や受診を諦めている
- 電気やガスが止まりそう
- 家賃滞納が続いている
- 借金で生活費を補い続けている
- 頼れる家族がおらず、預貯金も残っていない
年金が入った日は、まず二か月目の生活費を別にする
次回の年金が入ったら、未払分を一気に全部払う前に、これから二か月の生活費を分けます。
おすすめは、月ではなく四つの箱へ分ける方法です。
| 箱 | 入れるお金 |
|---|---|
| 一か月目の生活費 | 食費、日用品、交通、医療 |
| 二か月目の生活費 | 次回年金日前まで使わない分 |
| 固定費 | 家賃、光熱費、通信、保険料 |
| 未払・臨時支出 | 支払先と合意した滞納分、税金、修理など |
銀行口座を四つ作らなくても構いません。
封筒、通帳のメモ、紙の家計表などで、「二か月目に残す金額」を見えなくしておくだけでも違います。
年金日から一週間で確認するのは、残高ではなく次の支払日です
年金が入った直後は、残高が増えた安心から、遅れていた支払いをまとめて済ませたくなります。
支払う前に、次の年金日までに来る請求を日付順に書きます。
| 日付 | 支払い | 金額 | 取り分け済みか |
|---|---|---|---|
| 8月27日 | 家賃 | 5万円 | 済 |
| 9月5日 | 電気・ガス | 1万5,000円 | 済 |
| 9月12日 | 通院・薬 | 5,000円 | 済 |
| 9月27日 | 翌月家賃 | 5万円 | 未 |
支給月の家賃だけでなく、支給のない月の家賃まで先に取り分けます。
「残高があるか」ではなく、「次の請求分を除いて、使えるお金はいくらか」を見てください。
二か月ごとの不足が続くなら、節約だけの問題ではありません
食費を減らしても、毎回年金日前にお金がなくなる場合は、収入と固定費の差が大きい可能性があります。
- 家賃が年金収入に対して重い
- 車の維持費が続いている
- 保険料や通信契約が複数ある
- 子どもへの定期的な援助がある
- カードやローンの返済が生活費を圧迫している
- 医療・介護費が毎月増えている
- 通販や訪問販売の支払いが続いている
一日百円の節約を積み重ねる前に、月数千円から数万円出ている固定費を見ます。
ただし、冷暖房や薬、必要な食事を削ってまで帳尻を合わせないでください。
暮らしを守れないほど不足しているなら、家計の見直しと制度利用を同時に進める段階です。
今日することは、全部の請求を払うことではありません
紙へ、次の五つを書いてください。
- 次の年金日
- 現在使える現金と預金
- 年金日までの日数
- 食費・薬・交通に必要な金額
- 期限が来る請求書
次に、請求を三つに分けます。
- 今日の生活に必要なので、お金を残すもの
- 今日、支払先へ連絡するもの
- 今月は止めるもの
一件だけ、電話をしてください。
最初の言葉は、これで構いません。
「次の年金日まで生活費が足りず、今回の支払いを期限までに全額用意できません。現在払える金額と、年金日に払える金額をお伝えしたいです」
年金日前にお金が足りないとき、すべての請求へ少しずつ払うより、まず食事・薬・住まいを守り、払えない相手へ連絡する方が生活を立て直しやすくなります。
今日だけしのげればよい不足なのか、二か月ごとに繰り返している不足なのかで、次の動きは変わります。
今回だけなら、支払日の調整でつなげるかもしれません。
毎回なら、あなたの我慢が足りないのではなく、年金と固定費の組み合わせを作り直す必要があります。
まずは食費と薬代を残し、期限が最も近い請求先へ一本連絡するところから始めてください。
出典・確認先メモ
- 日本年金機構「年金はいつ支払われますか」:公的年金の原則的な支払月、支払日、対象月を確かめる際の確認先。
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:生活全般の相談、家計改善、住まい・就労支援へつながる際の確認先。
- 厚生労働省「生活福祉資金貸付条件等一覧」:通常の緊急小口資金の上限、利子、保証人などを確かめる際の確認先。
- 日本年金機構「年金生活者支援給付金の対象となるのはどんな人ですか」:老齢年金生活者支援給付金の支給要件を確かめる際の確認先。
- 厚生労働省「生活保護制度」:最低限の生活を維持できない場合の制度概要と、福祉事務所の相談窓口を確かめる際の確認先。


















