テレビで終活の特集が流れたとき、「うちも、少し考えておいた方がいいんじゃない」と声をかける。
すると親御さんから、「早く死ねということか」「財産の話をしたいだけだろう」と強い言葉が返ってくる。
こちらは、入院や介護が始まったときに困らないよう準備したかっただけです。それでも、その日から通帳や葬儀の話はもちろん、病院のことまで聞きにくくなってしまう。
親御さんの側にも、いくつもの思いがあります。
自分の老いや死を認めたくない。子どもに生活を管理されたくない。施設へ入れられそうで怖い。財産目当てだと思いたくはないが、疑う気持ちも消えない。
一方、子ども世代には、突然の入院、認知症、空き家、相続などへの現実的な心配があります。何もしないままでは困ると分かっているから、つい話を急いでしまいます。
この問題では、終活の必要性を親御さんへ納得させることから始めなくて構いません。
「終活」という大きな言葉をいったん外し、近い将来に家族が困る場面を一つだけ減らす。そこが最初の目標です。
「終活しよう」は、親御さんには違う意味に聞こえることがあります
子どもが考える終活は、通帳の場所を知る、緊急連絡先を決める、医療や葬儀の希望を聞くといった準備です。
ところが、親御さんには次のように聞こえることがあります。
- もう長く生きられないと思われている
- 家や預金を子どもへ渡すよう求められている
- 認知症になる前提で扱われている
- 施設や葬儀を勝手に決められそう
- 自分が家族の負担になっていると言われた
この受け取り方を「考えすぎ」と否定しても、話は進みません。
まず、目的を小さく伝えます。
「財産を分ける話ではありません。もし急に入院したとき、病院から誰に連絡すればよいかだけ聞きたいです」
「家を売る話でも施設の話でもありません。薬と保険証がどこにあるか、家族の誰か一人が分かるようにしたいです」
最初からエンディングノートを差し出すより、「何が起きたときの、どの困りごとを減らしたいのか」を具体的にした方が、親御さんも答えやすくなります。
親御さんに終活をさせることが目的ではありません。いざというとき、本人の希望が分からないまま家族だけで決める場面を一つずつ減らすことが目的です。
最初の会話では、葬儀も相続も同時に扱いません
終活には、お金、住まい、医療、介護、葬儀、墓、遺品など多くの話題があります。
これらを一度に聞かれると、親御さんは「死んだ後のことを全部決めろと言われている」と感じます。
最初の話題は、一つに絞ります。
比較的話しやすいのは、次のような生活に近い項目です。
- 急病のとき、最初に連絡する人
- かかりつけの病院と服用中の薬
- 保険証やお薬手帳の置き場所
- 入院中に自宅の鍵やペットをどうするか
- 携帯電話が使えない場合の連絡方法
一回の会話は、10分から15分ほどで構いません。
「今日はお金も葬儀も聞きません。救急車で運ばれたときに必要なことを、一つだけ教えてください」
親御さんが一つ答えてくれたら、その場で次々と質問しないことも大切です。
「ついでに通帳は」「遺言は」と続けると、最初からそれが目的だったように受け取られます。
「今日はここまでで大丈夫。教えてくれてありがとう」
この終わり方が、次の話をしやすくします。
親御さんの拒み方によって、返す言葉を変えます
同じ「嫌だ」でも、拒む理由は同じではありません。
| 親御さんの言葉 | 考えられる気持ち | 返し方の例 |
|---|---|---|
| 「縁起でもない」 | 死を身近に感じたくない | 「亡くなった後ではなく、入院中の連絡だけ決めたいです」 |
| 「財産を狙っているのか」 | お金や生活を管理されることが怖い | 「金額も暗証番号も聞きません。連絡先と書類の場所だけで構いません」 |
| 「まだ早い」 | 自分は元気だと思っている | 「元気だから自分で決められることを、一つだけ聞かせてください」 |
| 「死んだ後は好きにしろ」 | 考える負担を避けたい | 「全部ではなく、絶対にしてほしくないことだけありますか」 |
| 「書くのは面倒だ」 | ノートの量や形式が負担 | 「口頭で一つ教えてくれれば、私が日付を付けて控えます」 |
| 「子どもに迷惑をかけたくない」 | 弱みや経済状況を見せたくない | 「頼まれたことだけを手伝えるよう、困る場面だけ知っておきたいです」 |
一度断られた後、同じ聞き方を何度も繰り返す必要はありません。
話題、時間、話す人を変える方法があります。子どもから言われると反発する親御さんでも、かかりつけ医や同年代の知人の話なら受け止められる場合があります。
ただし、親戚やきょうだい全員で囲み、「みんな心配している」と説得するのは避けた方がよいでしょう。親御さんには、自分を排除して話が進んでいるように見えるからです。
家族だけでできる準備と、本人にしか決められないことを分けます
親御さんが終活を拒否していても、家族がまったく動けないわけではありません。
一方で、家族だからといって、本人に代わって何でも決められるわけでもありません。
| 家族だけでも進められる準備 | 本人の意思や手続きが必要なこと |
|---|---|
| 家族同士の緊急連絡順を決める | 遺言書を作成する |
| 親御さんの地域の相談窓口を調べる | 医療や介護について本人の希望を決める |
| 自分たちが手伝えること・難しいことを話す | 預金、不動産、保険などを処分する |
| 入院や介護時に聞きたい項目をまとめる | 任意後見契約や財産管理の契約を結ぶ |
| 自分自身の終活情報を先に作る | 葬儀や墓など本人の希望を確定する |
| 家の危険箇所や未払いの兆候を見る | 本人名義で署名、解約、契約をする |
親御さんに無断で通帳を持ち出す、暗証番号を試す、本人名義の書類へ署名するといった行為は避けてください。
また、暗証番号や重要なパスワードを家族のグループLINEへ送るのも安全とはいえません。
最初は番号そのものではなく、「どの金融機関を利用しているか」「重要書類をどこへ保管しているか」「誰へ連絡してほしいか」を聞く方が現実的です。
エンディングノートではなく「一晩入院したときのメモ」から始めます
市販や自治体のエンディングノートには、多くの項目があります。
便利な一方、親御さんによっては、表紙を見ただけで拒否することもあります。
その場合は、終活ノートという名前を使わず、A4用紙一枚の「入院時連絡メモ」にします。
記載するのは、次の程度で十分です。
- 緊急時に最初に連絡する家族
- かかりつけ医と通院先
- 服用中の薬とアレルギー
- 保険証、お薬手帳、診察券の置き場所
- 自宅の鍵について連絡できる人
- ペット、畑、仕事など入院中に対応が必要なこと
- 家族へ知られたくないこと、勝手にしてほしくないこと
完成した書類を作る必要はありません。
「薬は台所の上の引き出し」「連絡は姉に先にして」といった一言でも、緊急時には役立ちます。
保管場所も決めます。本人が持つ一部と、同意を得て家族が持つ一部があれば安心ですが、詳細な財産情報まで無理に複製する必要はありません。
書かない親御さんには、口頭で話した内容を控えてよいか聞きます
文字を書くことや書類の管理が苦手でも、会話なら希望を話せる親御さんはいます。
その場合は、書かせることにこだわりません。
「今言ってくれたことを忘れないよう、日付を付けて私が控えてもいい?」
了承を得たら、親御さんの言葉を変えすぎずに記録します。
- 聞いた日
- 誰が同席していたか
- どのような場面を想定した話か
- 本人が話した希望
- まだ決めていないこと
「自宅で過ごしたい」と言っていても、どのような状態まで自宅を希望するのかは分かりません。
体調や家族の状況によって希望が変わることもあります。記録を一度作って終わりにせず、機会があるときに聞き直します。
なお、家族が記録したメモやエンディングノートと、法律上の方式に従って作る遺言書は同じものではありません。
財産を誰にどのように引き継がせるかを確実に残したい場合は、遺言書としての要件を確かめる必要があります。
医療の話は「延命治療をどうする?」から始めない方が話しやすくなります
医療や介護の希望を聞くとき、いきなり延命治療の有無を尋ねると、親御さんは答えにくくなります。
病気の種類や回復の可能性が分からなければ、今の時点で一つに決められないのが普通です。
先に、その人が生活で大切にしていることを聞きます。
「もし病気になったとき、できるだけ守りたいことは何ですか」
「自分で話せなくなったら、誰に気持ちを代わりに伝えてほしいですか」
「家で過ごしたい気持ちと、家族へ負担をかけたくない気持ちでは、今はどちらが強いですか」
厚生労働省は、望む医療やケアについて本人が前もって考え、家族など信頼できる人や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組を「人生会議」として案内しています。
一度の回答を将来まで固定するものではありません。
持病や治療に関係する希望は、家族だけで判断せず、かかりつけ医へ次のように聞けます。
「本人が元気なうちに、病状が変わった場合の選択肢を知りたいです。今の段階で家族と話しておく項目を教えてください」
遺言や将来の財産管理は、本人が判断できるうちに検討する準備です
葬儀の希望や写真の保管場所は、後からでも話せる場合があります。
一方、遺言や任意後見契約などには、本人が内容を理解し、自分の意思で決めることが前提となるものがあります。
特に次の事情がある場合は、遺言について一度情報を調べる意味があります。
- 自宅や土地など、分けにくい財産がある
- 相続人同士の関係が良くない
- 相続人ではない人へ財産を残したい
- 介護を担った家族への希望がある
- 事業、賃貸物件、共有不動産などがある
自筆証書遺言は、本人が法律上の方式に沿って作成する必要があります。法務局には自筆証書遺言書を保管する制度がありますが、家族が代わりに書いたり、本人へ無断で申請したりする制度ではありません。
また、任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援を頼む人や任せる内容を公正証書による契約で決めておく仕組みです。
親御さんが拒んでいる段階で契約を急ぐのではなく、まず家族だけで一般的な仕組みを聞くことはできます。
法務局や公証役場へは、次のように伝えます。
「本人はまだ手続きを希望していません。遺言書や任意後見が必要になる場面と、本人に判断力があるうちでなければできないことを家族として知りたいです」
説明を聞いたからといって、親御さんの契約や財産処分が始まるわけではありません。
終活嫌いではなく、判断や生活の変化が出ている場合があります
親御さんが終活を嫌がるだけで、直ちに認知症を疑う必要はありません。
ただし、次のような変化が重なっている場合は、話し方だけの問題として済ませない方がよいでしょう。
- 公共料金や税金の未払いが続いている
- 同じ契約や買い物を繰り返している
- 詐欺と思われる相手へ送金している
- 薬の飲み忘れや重複が増えている
- 火の消し忘れや外出先から戻れないことがある
- 通帳、印鑑、現金が頻繁になくなる
- 同居家族などが本人の年金や預金を自由に使っている
- 以前と比べて判断や会話が大きく変わった
この状態で、家族が「ちゃんと終活して」と迫ると、本人も混乱し、対立だけが強くなる場合があります。
親御さんの住所を担当する地域包括支援センターには、介護が始まっていない段階でも、高齢者の生活、権利擁護、家族の困りごとについて伝えられます。
電話では、最近起きた具体的な出来事を三つほど伝えます。
「終活を拒否していることより、支払い忘れと同じ買い物の繰り返しが気になっています。本人は相談を嫌がっていますが、家族としてできることを教えてください」
家族が連絡しただけで、本人の財産管理や介護サービスが自動的に始まるわけではありません。まず状態を共有し、訪問や受診などをどのように提案するか考えます。
暴力、火災、行方不明、詐欺被害、急病など差し迫った危険がある場合は、終活の話し合いを続けず、状況に応じて110番や119番を優先してください。
きょうだいは、親御さんへ話す前に目的だけ合わせます
きょうだいで考えが違うと、一人は遺言を急ぎ、別の人は介護を心配し、もう一人は「放っておけばいい」と言うことがあります。
そのまま全員で親御さんを囲むと、話題が広がり、親御さんには財産会議のように見えてしまいます。
親御さんへ話す前に、きょうだい間では次の三点だけを合わせます。
- 今回は何を一つ聞くのか
- 誰が話すのか
- 拒否されたら、その日はどこで終えるのか
たとえば、今回は緊急連絡先だけを聞き、財産や相続は扱わないと決めます。
近くに住むきょうだいが日常を見ているなら、その人の話を先に聞きます。遠方のきょうだいには見えない変化がある一方、近くにいる人も疲れや焦りから判断を急いでいることがあるためです。
「親を説得する会議」ではなく、「家族が混乱しないための打ち合わせ」にすると、親御さんへの圧力を減らせます。
今夜は「もし一晩入院したら、誰に連絡する?」だけ聞きます
今夜、エンディングノートを渡す必要はありません。
食事の後や電話の終わりに、次の一文だけ聞いてみてください。
「もし急に一晩入院することになったら、私たち家族以外で、最初に誰へ連絡してほしい?」
親御さんが答えたら、名前と連絡先を控えてよいか聞きます。
嫌がられた場合は、理由を問い詰めず、こう終えて構いません。
「分かりました。今日は聞きません。困らせたいわけではないので、必要になったらまた一つだけ聞かせてください」
一度で終活が始まらなくても、関係を壊さずに会話を終えられたことには意味があります。
親御さんの準備は、ノートを何ページ埋めたかでは測れません。緊急時の連絡先が一人分かる、薬の場所が分かる、してほしくないことを一つ聞ける。その積み重ねで十分です。
















