年金が入ったはずの通帳を記帳すると、残高が予想より80万円も少ない。
数日前には、同じATMから20万円ずつ何度も引き出されています。
親へ聞こうとしても、「何に使ったか忘れた」「自分のお金なのだから放っておいて」と話が終わってしまう。きょうだいが引き出したのか、誰かにだまされたのか、それとも自分が知らないだけで必要な支払いをしたのか。
腹が立つ一方で、もし認知症や詐欺なら、責めたことで隠されてしまうかもしれません。
この場面で最初に必要なのは、犯人を決めることではありません。
お金が「いつ・どの方法で・どこへ動いたか」を止めずに確かめ、これ以上減る危険があるかを見分けることです。
今もお金が動いている可能性があれば、家族会議より銀行を先にします
通帳を見つけたのが夜でも、次の状態があれば、翌日まで様子を見る問題ではありません。
- 親が持っているはずのキャッシュカードが見当たらない
- 身に覚えのないATM出金が続いている
- 知らない相手への振込や送金がある
- インターネットバンキングの通知が届いている
- 親が暗証番号や認証コードを誰かへ伝えた
- 銀行員、警察官、役所職員を名乗る人へカードを渡した
- これから追加で振り込む約束をしている
親本人と一緒に、口座のある金融機関へ連絡します。
「本人が知らない出金を見つけました。カードやインターネットバンキングを止める必要があるか、至急確認したいです」
カード紛失や不正利用の受付は、通常の窓口と連絡先が異なる場合があります。金融機関の公式サイト、通帳、カード裏面などに記載された連絡先を使い、検索結果に出た広告や、相手から教えられた番号へは電話しないでください。
家族だけで連絡した場合、銀行へ事情を伝えることはできても、口座情報の開示や手続きには、本人確認、本人の意思、委任状などが求められることがあります。
それでも、被害が続く可能性があるなら連絡をためらう必要はありません。銀行から本人に電話してもらえるか、家族として何を準備すればよいかを聞いてください。
カードや送金の不正利用は、話し合いが済むまで待ちません。先に銀行へ被害の拡大を止める方法を聞き、その後で使途を確かめます。
通帳の残高だけではなく、減った日の取引表示を写します
残高が減っていることに気づいたら、通帳を取り上げる前に、該当部分を写真やコピーで残します。
記録するのは、次の内容です。
- 取引日
- 金額
- 入金か出金か
- ATM、振込、口座振替などの取引方法
- 振込先や事業者名として表示された文字
- 取扱店番号やATM番号
- 発見した日時
過去の残高と比べるため、可能なら直近三か月から半年分を見ます。
一回だけ大きく減ったのか、少額の出金が繰り返されているのかでは、考えられる原因が違います。
| 通帳などの表示 | 考えられる動き | 次に見るもの |
|---|---|---|
| ATM、CD | キャッシュカードや通帳による現金引き出し | カードの所在、利用した人、取扱店番号 |
| 振込、振替 | 他人や別口座への送金 | 相手名義、送金理由、振込控え |
| 口座振替 | 保険、通信、通販、施設費などの自動引き落とし | 請求書、契約書、事業者名 |
| デビット、決済サービス名 | 買い物や登録サービスによる即時出金 | レシート、利用履歴、登録端末 |
| 定期解約、振替入金 | 定期預金から普通預金などへの資金移動 | 別口座の残高、解約書類 |
| 証券会社・保険会社名 | 投資商品や保険の購入、保険料 | 契約書、取引報告書、担当者 |
普通預金の残高が減っていても、別口座や定期預金、証券口座へ移しただけという場合があります。
反対に、「ATM」としか記載されていない場合、通帳だけでは誰が現金を受け取ったか分かりません。推測だけで家族を責めず、親の説明、カードの所在、出金場所などを合わせて見ます。
親へは「誰が取ったの」ではなく、一件の取引から聞きます
残高が大きく減っていれば、「誰かに渡したでしょう」「また無駄遣いしたの」と言いたくなることがあります。
しかし、親本人も状況を把握できていない場合、責められたと感じると、通帳や契約書を隠すかもしれません。
話題を一度に広げず、日付と金額を一つ示します。
「責めたいのではなく、これ以上減らないように確かめたいです。6月12日に20万円出ています。何に使ったか、一緒に思い出してもらえますか」
覚えていないと言われたら、選択肢を押しつけるのではなく、当日の行動からたどります。
- その日は病院、銀行、買い物へ行ったか
- 家や設備の修理を頼んだか
- 親族や知人へお金を渡したか
- 電話やSNSで投資、還付金、未払い料金の話をされたか
- 現金を自宅の別の場所へ移していないか
親が「自分で使った」と説明した場合も、そこで終わらせず、何に、いくら、誰へ支払ったかを聞きます。
ただし、本人が内容を理解し、自分の意思で使ったお金なら、子どもが不満に思う使い方でも、直ちに不正とは限りません。
親のお金は親のものです。
確認する目的は、親の支出をすべて許可制にすることではなく、だまされていないか、生活費が残るか、本人が理解して決めたかを見ることです。
現金が自宅に移されただけでも、そこで安心はできません
高齢の親が、銀行に置くのが心配だとして多額の現金を自宅へ保管していることがあります。
通帳残高が減っていても、お金自体は家の中にあるかもしれません。
ただし、本人を問い詰めながら家中を探すと、信頼関係が崩れます。本人が同意できる状態なら、保管場所を一緒に確かめます。
多額の現金を自宅へ置く場合には、盗難、火災、紛失、本人が場所を忘れる危険があります。
生活費として必要な現金だけを残し、残りを口座へ戻すか、銀行の代理人制度などを利用できないか検討します。
「現金を取り上げたいのではなく、なくしたときに困らないように、生活費と保管するお金を分けたいです」
家族が管理している場合は、使い込みと立替えを記録で分けます
同居するきょうだいや介護を担う家族が、親の通帳やカードを管理していることもあります。
その人が引き出していたからといって、すぐ使い込みとは限りません。
食費、介護用品、通院、施設費、家の修繕などを立て替えている可能性があります。介護を担う側が、自分の財布と親のお金を分け切れず、記録が曖昧になっている場合もあります。
最初に求めるのは、釈明ではなく簡単な収支です。
「責任を追及する前に、親のために使ったお金を確認したいです。出金日、金額、用途、領収書があるかを一緒に並べませんか」
最低限、次の四項目を残します。
- 引き出した日と金額
- 使った目的
- 支払先
- 領収書や請求書の有無
レシートがすべて残っていなくても、施設の請求書、介護用品の購入履歴、通院日などと一致するかを見られます。
一方、親のお金を管理する家族が、記録を見せない、説明のたびに金額が変わる、親を他の家族と会わせないといった場合は、本人と管理者だけで話を終わらせない方がよいでしょう。
本人の同意がない使用は、家族間でも経済的虐待になり得ます
家族が親の生活を支えていたとしても、親のお金を自由に使えるわけではありません。
厚生労働省の高齢者虐待対応マニュアルでは、本人の合意なく、または判断能力の低下に乗じて本人の金銭を本人以外のために使うことなどを、経済的虐待の例として挙げています。
次のような状態があれば、家庭内の金銭トラブルだけで済ませないでください。
- 親の年金を家族の借金返済や遊興費へ使っている
- 親に食費、医療費、介護費を渡していない
- 親が拒んでいるのに、贈与や貸付けを迫っている
- 判断力が低下した親へ、内容を説明せず署名させている
- 通帳やカードを隠し、親本人にも残高を知らせない
- お金の話を外へ伝えないよう脅している
- 他の家族、ケアマネジャー、医療関係者との接触を妨げている
疑われている家族と一対一で激しく言い争うと、証拠を捨てられたり、親への圧力が強くなったりすることがあります。
通帳の記録、親の発言、生活状況を残し、親の住む地域の地域包括支援センターまたは市区町村の高齢者虐待担当へ伝えます。
「虐待かどうかは判断できませんが、親の預金が急に減り、管理している家族が使途を説明しません。親の生活費も不足しています。本人の安全と金銭管理を一緒に見てください」
相談した時点で、家族が直ちに処罰されたり、親が強制的に施設へ入れられたりするわけではありません。まず本人の安全、生活状況、家族の負担などを確認し、必要な支援を検討します。
認知機能の低下が疑われるときは、通帳を取り上げるだけでは足りません
同じお金を何度も引き出す、買ったことを忘れて再び払う、知らない人を親しい知人と思い込む。このような変化があれば、金銭管理だけでなく認知機能や健康状態も見ます。
一度の物忘れだけで認知症とは判断できません。
ただし、次の変化が重なっているなら、かかりつけ医や地域包括支援センターへ伝えてください。
- 通帳やカードを頻繁になくす
- 同じ日に何度も現金を引き出す
- 支払ったことを忘れ、二重に払う
- 新しい契約の内容を説明できない
- 公共料金や医療費を滞納する
- お金が盗まれたという訴えが増えた
家族が暗証番号を聞き、本人になり代わって口座を操作し続ける方法は、長期的な解決にはなりません。
本人が契約内容を理解できる状態なら、銀行の代理人制度や、社会福祉協議会が窓口となる日常生活自立支援事業を検討できます。
日常生活自立支援事業では、対象となる方について、福祉サービスの利用援助に伴う日常的な金銭管理などを、本人との契約に基づいて支援します。
判断能力が不十分で、預金管理や契約を自分で行うことが難しい場合は、成年後見制度が選択肢になります。
どの制度が合うかは、本人の理解力、必要な支援の範囲、資産、家族関係によって異なります。
「本人がどこまで契約を理解できるか分かりません。日常生活自立支援事業と成年後見制度のどちらを検討する段階か教えてください」
詐欺や悪質商法が疑われる場合は、取引方法で連絡先を分けます
親が誰かへお金を渡していた場合、何の方法で支払ったかを確かめてください。
銀行口座へ振り込んだ場合
警察と振込先の金融機関へ早く連絡します。
振込を利用した詐欺では、振込先口座に資金が残っていれば、振り込め詐欺救済法に基づく被害回復分配金の対象となる可能性があります。
ただし、全額が戻るとは限らず、相手がすでに引き出している場合は支払いを受けられないことがあります。
キャッシュカードや通帳を渡した場合
取引銀行へ連絡し、カード、通帳、インターネットバンキングの停止や再発行が必要かを聞きます。警察にも被害を届けます。
補償の有無や金額は、取引方法、カードや暗証番号の管理状況、銀行への連絡時期などによって異なります。
訪問販売や電話勧誘で契約した場合
契約書、領収書、商品、相手の名刺を捨てず、消費者ホットライン188へ連絡します。
契約内容や経過によって、解約、クーリング・オフなどを検討できる場合があります。
電話では、次のように伝えられます。
「高齢の親が契約し、口座から高額な支払いがされています。本人は内容を説明できません。契約日、金額、事業者名が分かる書類があります」
今まさに相手が自宅へ来ている、カードを持ち去ろうとしている、親や家族が脅されている場合は110番を優先してください。
取引履歴を家族だけで取り寄せられるとは限りません
親の口座だからといって、子どもが自由に明細を取得できるわけではありません。
銀行手続きは原則として口座名義人本人の意思確認が必要であり、家族が行う場合には、委任状、本人確認書類、続柄を示す書類などを求められることがあります。必要書類や対応は金融機関によって異なります。
親が一緒に手続きできるなら、本人から次のように伝えてもらいます。
「自分で覚えていない出金があります。家族と一緒に、取引内容と今後の安全対策を確認したいです」
本人が入院中、寝たきり、意思表示が難しいなどの事情がある場合は、家族が暗証番号を使うのではなく、銀行へ状況を説明します。
全国銀行協会も、本人の意思確認ができない状態で生活費、医療費、介護費などの払出しが必要な場合は、まず取引銀行へ相談するよう案内しています。
家族で管理を始めるなら、親が使えるお金まで奪わないようにします
被害を防ぎたいあまり、親から通帳、カード、現金をすべて取り上げてしまうことがあります。
しかし、本人の合意なく必要な生活費まで制限すれば、守るための管理が、別の権利侵害になる可能性があります。
本人が理解して話し合える状態なら、管理方法を一緒に決めます。
- 毎月、生活用口座へ移す金額
- 本人が自由に使える現金
- 一定額以上を使うときの連絡方法
- 通帳を見る家族と見る頻度
- 支出記録を置く場所
- 他のきょうだいへ共有する範囲
「毎月三万円は自由に使えるようにして、十万円を超える支払いだけ一緒に確かめる方法はどうですか」
家族の一人だけへ管理を任せる場合も、月に一度、残高と主な支出を本人や他の家族へ共有すると、管理する側を疑いから守ることにもつながります。
今夜は、減った金額ではなく最後の三件を撮影します
今夜、親へすべてを白状させたり、きょうだいへ犯人を問いただしたりする必要はありません。
まず通帳の残高が大きく減る直前から、最後の三件の取引を撮影してください。
取引日、金額、取引方法、表示名が読めるように残します。
そのうち一件でも本人が知らないATM出金や振込であり、カードや暗証番号が安全か分からない場合は、銀行の公式連絡先を確認します。
親へ話す最初の一文は、これで構いません。
「残高が減ったことを責めるつもりはありません。この三件だけ、あなたが使ったお金か一緒に確かめさせてください」
一件ずつ見れば、必要な支出だったのか、詐欺なのか、家族の管理に問題があるのかを分けられます。
今夜の目的は、すべての使途を解明することではありません。これ以上お金が動く危険があるかを見つけ、必要なら止めるところまでです。


















