「空きが出たら連絡します」と言われたまま、三か月が過ぎた
施設へ申し込んだ日の帰り道は、少しだけ肩の力が抜けたかもしれません。
これで入居先が決まったわけではなくても、順番を待てば何とかなる。そう思っていたのに、施設からはなかなか連絡が来ません。
その間にも、親御さんは夜中に何度も起きるようになり、薬の飲み忘れが増えました。ご家族は仕事を早退し、週末には買い物や通院へ付き添います。きょうだいへ連絡しても、「もう申し込んだんだから、待つしかないのでは」と言われる。
しかし、施設へ申込みを済ませたことと、入居までの生活が維持できることは別の問題です。
待っている間に状態が変われば、必要な介護も、施設へ伝える情報も変わります。ご家族が倒れる寸前まで今の暮らしを続ける必要はありません。
特養は、単純な「申込み順」で決まるとは限りません
特別養護老人ホーム、いわゆる特養では、申込みが早かった人から機械的に入所するとは限りません。
施設への入所が必要な程度、要介護度、認知症の状態、独居かどうか、介護するご家族の状況、現在利用しているサービスなどを踏まえ、必要性の高い方が優先されることがあります。具体的な基準や運用方法は、自治体や施設によって異なります。
また、特養への新規入所は原則として要介護3以上が対象です。要介護1または2でも、認知症による生活上の支障が大きい、家族からの支援を期待しにくいなど、在宅生活が難しい事情がある場合には、特例的な入所が認められることがあります。
つまり、「50人待ちだから自分は51番目」「半年待てば必ず入れる」とは言い切れません。
一方で、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどは、空室状況、費用、介護度、医療対応、認知症の状態、保証人の条件などによって判断されます。こちらも待ち人数だけでは、入居時期を正確に読めないことがあります。
施設へ聞くときは、「何人待ちですか」だけではなく、「現在の状態なら、どのような点が入居判断に関係しますか」「状態が変わった場合は、誰へ連絡すればよいですか」まで確認します。
申込み後に状態が変わったら、施設へ伝え直します
入居申込書を書いた時点では歩けていた方が、その後に転倒して移動介助が必要になることがあります。認知症が進み、火の消し忘れや外出後の迷子が増える場合もあります。
施設は、申込時に提出された情報だけでは、その後の変化を自動的に把握できません。
次のような変化があったときは、担当のケアマネジャーと相談し、申込み先へ連絡してください。
- 要介護度が変わった
- 一人での歩行、排泄、入浴、食事が難しくなった
- 服薬管理ができなくなった
- 夜間の徘徊、転倒、火の不始末が増えた
- 入院や救急搬送があった
- 医療処置や経管栄養、酸素療法などが必要になった
- 同居家族が病気になり、介護を続けられなくなった
- 主な介護者が仕事を辞める、休職するほど追い込まれている
- 独居になった、または同居家族が不在になる時間が増えた
電話では、長い事情説明を一度にする必要はありません。
「入所申込み後に本人と家族の状況が変わりました。申込内容の更新が必要か、担当の方に確認したいです」
これで十分です。施設から必要な資料や伝える項目を案内してもらえます。
連絡したからといって、すぐ入居できるとは限りません。しかし、古い情報のまま待ち続けるより、現在の状態を正しく伝えることが、適切な判断につながります。
待機中の介護は、「入居日まで我慢する計画」にしない
入居時期が分からない以上、「あと一か月だけ家族で頑張る」という計画は崩れやすくなります。
待機中の暮らしは、入居までの仮住まいではありません。数か月以上続く可能性も考え、在宅介護の組み合わせを作り直します。
| 困っていること | 検討できる支援 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 日中一人になる | デイサービス、訪問介護、見守り | 利用日数、送迎時間、服薬対応 |
| 夜間の介助が続く | ショートステイ、夜間対応型サービス、定期巡回 | 地域での実施状況、空き、利用条件 |
| 入浴が難しい | 通所介護、訪問入浴、訪問介護 | 本人の体調、住宅環境、自己負担 |
| 家族が休めない | ショートステイ、通所回数の見直し | 緊急枠の有無、連続利用の扱い |
| 退院後すぐ自宅へ戻れない | 老健、ショートステイ、医療機関の退院支援 | 療養目的、受入期間、医療対応 |
| 認知症の症状が強い | 認知症対応型通所介護、グループホーム、医療機関との連携 | 診断、受入条件、行動症状への対応 |
短期入所生活介護、いわゆるショートステイは、本人が短期間施設へ泊まり、食事、入浴、排泄などの介護を受けるサービスです。ご本人の生活を支えるだけでなく、ご家族の身体的・精神的な負担を軽くする役割もあります。
ただし、希望日に必ず利用できるとは限りません。定期利用の方で埋まっていることもあるため、限界になった当日に初めて探すより、担当ケアマネジャーへ早めに候補を聞いておく方が現実的です。
ケアマネジャーへ伝えるときは「家族が限界」だけで終わらせない
介護者の負担は、遠慮せず伝えてよい情報です。ただ、「もう無理です」だけでは、どの支援を増やすべきか判断しにくいことがあります。
次のように、実際に起きていることを添えてください。
- 夜中に3回起こされ、仕事中に居眠りするようになった
- 週3回の通院付き添いで、欠勤が増えている
- 排泄介助で腰を痛め、持ち上げることができない
- 本人を一人にできず、買い物へ行けない
- 介護者が高熱を出したが、代わる家族がいない
第一声は、次のような短いもので構いません。
「施設の空きを待っていますが、今のサービス量では生活を維持できなくなってきました。入居までの間に増やせる支援と、緊急時の受け皿を一緒に考えてください」
一か所だけを待つか、候補を増やすかは条件を分けて考えます
希望する施設が決まっていると、「ほかへ申し込んだら第一希望に入れなくなるのでは」と迷うことがあります。
複数施設への申込みが可能か、辞退した場合の扱いは施設や地域の運用によって異なるため、各施設へ確認が必要です。ただ、入居の必要性が高いのに一か所だけを何となく待ち続けることは、ご家族の負担を長引かせる可能性があります。
候補を増やすときは、施設名を手当たり次第に並べるのではなく、譲れない条件を三つ程度に絞ります。
- 毎月支払える総額の上限
- 認知症や医療処置への対応
- 家族が通える距離、または本人が暮らしてきた地域
- 看取りへの対応
- 個室か多床室か
- 入院時や状態悪化時の扱い
すべての希望を満たす施設が空くまで待てる状況なのか、安全のために一部条件を見直す必要があるのか。ここが判断の分かれ目です。
たとえば「自宅から車で15分以内」が第一条件でも、介護者が毎晩対応して眠れない状態なら、距離を30分まで広げることで選択肢が増えるかもしれません。
反対に、たん吸引など継続的な医療処置が必要な場合は、近さより受入体制を優先しなければならないことがあります。
空室の連絡が来てから、お金を集め始めると間に合わないことがあります
入居の連絡は、家族全員の予定が整うまで待ってくれるとは限りません。返答期限、面談、健康診断、契約、支払い、引っ越しの準備が短期間に重なることがあります。
待っている間に、少なくとも次の資料を一か所へまとめておきます。
- 介護保険被保険者証、負担割合証
- 健康保険証または資格確認に必要なもの
- お薬手帳、処方内容、主治医の連絡先
- 要介護認定結果、ケアプラン
- 直近の診療情報や入退院歴
- 年金額、預貯金、毎月の支出が分かる資料
- 緊急連絡先、身元引受人候補
- 本人の生活歴、食事、睡眠、排泄、苦手なこと
費用は、パンフレットに書かれた月額だけで判断しません。
居住費、食費、介護保険の自己負担、医療費、薬代、日用品、理美容、洗濯、通院の付き添い、管理費などを含めて、毎月いくら必要になるかを施設へ聞きます。入居一時金がある場合は、退去時の返還条件や償却方法も契約前に確かめます。
介護保険施設やショートステイでは、所得や資産などの条件を満たす方について、食費・居住費の負担を軽減する制度があります。自動的に適用されるとは限らないため、市区町村の介護保険窓口で「介護保険負担限度額認定」の対象になるか確認してください。
本人へは「もう家では無理」と結論から伝えない
ご家族にとって老人ホームは、安全を確保するための選択肢です。
しかし本人から見ると、自宅、近所づきあい、仏壇、庭、毎日の習慣を手放す話に聞こえます。「家族に追い出されるのではないか」「入ったら二度と帰れないのではないか」と感じることもあります。
だからといって、安全上の問題を隠す必要はありません。
話すときは、入居の賛否を一度で決めようとせず、困っている場面を一つに絞ります。
避けたい伝え方:
「もう一人では無理だから、施設に入って」
伝えやすい言い方:
「夜に転んだとき、朝まで誰も気づけないのが心配なんだ。家で過ごす方法と、施設で過ごす方法を両方聞いてみたい」
本人が拒否したときは、「嫌なら入らなくていい」と終わらせるのでも、「もう決めたから」と押し切るのでもなく、何を怖がっているのかを聞きます。
- 費用が心配なのか
- 知らない人との共同生活が嫌なのか
- 自宅へ戻れなくなると思っているのか
- 家族に見放されたと感じているのか
- 認知症への自覚がなく、必要性が分からないのか
家族だけでは話が進まない場合、ケアマネジャー、主治医、地域包括支援センターの職員など、本人が受け入れやすい人から説明してもらう方法があります。
この状態なら、予定している施設だけを待たないでください
通常の待機でよいのは、現在の介護サービスを使いながら、本人の食事、服薬、排泄、移動、安全が保たれ、ご家族にも休息が取れている場合です。
次の状態では、入居予定施設からの連絡を待つだけでは足りません。
- 転倒や徘徊が続き、一人にできない
- 食事や水分をほとんど取れない
- 薬の重複服用や飲み忘れが繰り返される
- 火の不始末があり、火災の危険がある
- 介護者が眠れず、運転や仕事に支障が出ている
- 介護者が本人へ怒鳴る、手を上げそうになる
- 介護者の入院、急病、出産などで介護者が不在になる
- 退院期限が迫っているが、帰宅後の介護体制がない
この場合は、担当ケアマネジャーへ「緊急で介護体制の変更が必要」と伝えます。ケアマネジャーがいない場合や、どこへ連絡すればよいか分からない場合は、本人の住所地を担当する地域包括支援センターまたは市区町村の介護保険窓口が入口になります。
地域包括支援センターでは、高齢者本人だけでなく、ご家族からの相談も受け付けています。まだ施設を決めていない、何を頼めるか分からない段階でも構いません。
電話では、次のように伝えられます。
「老人ホームを申し込んでいますが、待機中に本人の状態が変わり、家族だけでは安全を保てません。今使える介護サービスと、緊急時の受け皿を教えてください」
呼びかけに反応しない、呼吸が苦しそう、急に片側の手足が動かない、大きなけがや出血があるなど、命や身体に関わる変化があるときは、施設や相談窓口への連絡より119番を優先してください。
入居の連絡が来たときに、慌てて決めないための質問
待ち続けた施設から連絡が来ると、「断ったら次はない」と焦りやすくなります。
けれども、空室が出たことと、その施設で生活を続けられることは同じではありません。少なくとも次の点は、契約前に確かめます。
- 月々の総額には何が含まれ、何が別料金か
- 現在の介護度、認知症、医療処置に対応できるか
- 状態が悪化した場合も住み続けられるか
- 入院が長引いた場合、居室や費用はどうなるか
- 夜間の職員体制はどうなっているか
- 通院の付き添いは誰が行い、費用はいくらか
- 退去を求められる条件は何か
- 面会、外出、外泊にはどのような決まりがあるか
- 契約を断った場合、申込みや待機の扱いはどうなるか
分からない項目が残っているときは、その場で署名せず、契約書と重要事項説明書を持ち帰れるか聞いてください。
「家族で確認したいので、返答期限を教えてください」と伝えることは、失礼ではありません。
今日するのは、施設への一本の電話で構いません
入居待ちを一日で終わらせることはできません。
しかし、待っている間の暮らしを変えることはできます。
今日、申込み先の施設へ電話し、次の二点だけ聞いてください。
- 申込内容や本人の状態を更新する必要があるか
- 状態が変わったときの連絡先と、伝える資料は何か
その後、担当ケアマネジャーへ「入居までの介護計画を見直したい」と伝えます。
施設を待つことと、ご家族が耐え続けることは同じではありません。第一希望を残したままでも、ショートステイを使う、別の候補を探す、介護サービスを増やすといった準備はできます。
まずは、止まったままの待機を、状況が変わるたびに見直せる待機へ変える。そこからで十分です。















