残高が減るたび、離れて暮らす子どもの顔が浮かぶ
年金が入った直後なのに、家賃と医療費を払うと通帳には一万円も残らない。
成人した子どもは家庭を持ち、住宅ローンや教育費を抱えています。自分の生活が苦しいと話せば心配をかける。生活保護を申請して、役所から子どもへ連絡されたら、これまで隠してきたこともすべて知られてしまうのではないか。
その心配から、食事や受診を減らしている方がいます。
家族に知られたくない事情は、恥ずかしさだけとは限りません。長年連絡を取っていない、過去に責められた、借金や相続で争っている、居場所を知られると危険がある。家族という言葉だけでは分からない事情があります。
福祉事務所には、「家族がいるか」だけでなく、誰に、なぜ連絡してほしくないのかを伝えてください。
家族に知られる可能性は、同居か別居かで大きく違います
| 家族との関係 | 手続きで考えること | 窓口で伝えること |
|---|---|---|
| 配偶者や子どもと同居し、家計も一緒 | 生活保護は原則として世帯単位で判断されるため、同居家族の収入や資産も調査対象になります。完全に秘密のまま進めることは難しい場合があります。 | 家計を分けている事情、同居していても援助を受けられない理由、暴力や支配の有無 |
| 親や成人した子どもと別居し、交流がある | 援助できる可能性があると判断されれば、扶養照会が行われることがあります。 | 現在の交流状況、家族の年齢・健康・家計、援助を頼めない理由 |
| 長期間連絡を取っていない | 交流が断絶していると判断されれば、扶養照会を行わない場合があります。 | 最後に連絡した時期、連絡を絶った経緯、現在の連絡先を知っているか |
| 借金、相続、過去の対立などで関係が著しく悪い | 扶養を期待できない事情として、個別に検討されます。 | 何が起きたか、連絡すると生活や心身へどのような影響があるか |
| DV、虐待、ストーカーなどの危険がある | 扶養照会により自立や安全を損なう場合は、照会を控える取扱いがあります。 | 居場所を知られてはならないこと、安全な電話・郵便・訪問方法 |
| 家族が高齢、入院中、施設入所中、無収入など | 援助を期待できないと判断され、照会を行わない場合があります。 | 家族の年齢、健康状態、収入、介護状況など分かる範囲の情報 |
「家族へ絶対に連絡されません」とは、申請前に一律には言えません。
一方で、「家族がいる以上、必ず全員へ連絡される」という説明も正確ではありません。福祉事務所が本人から生活歴や関係性を聞き、援助を期待できる相手かどうかを個別に判断します。
扶養照会は、生活保護を申請するための前提条件ではありません
扶養照会とは、福祉事務所が親族に対し、金銭的な援助や日常生活上の支援が可能かを問い合わせることです。
しかし、生活保護法における親族の扶養は、生活保護より優先して行われるものではあるものの、申請の要件ではありません。
次のようなことを先に済ませなければ、申請できないわけではありません。
- 親や成人した子どもへ生活費を頼む
- きょうだい全員へ援助できるか聞く
- 家族から援助を断る書面をもらう
- 親族会議を開く
- 家族の同意書を用意する
厚生労働省も、同居していない親族へ相談してからでなければ申請できないものではないと案内しています。
窓口で「先に子どもへ頼んでください」と言われた場合は、次のように伝えます。
「子どもへ相談してからでないと申請できない制度ではないと理解しています。援助を頼めない事情も含め、今日は生活保護を申請したいです」
家族へ援助を頼めないことと、生活保護を申請できないことは同じではありません。扶養照会を希望しない理由は、申請を諦める理由ではなく、福祉事務所へ伝える事情です。
長年の音信不通や関係悪化は、曖昧にせず具体的に話します
「家族とは仲が悪いです」だけでは、窓口の担当者が関係の深刻さを判断しにくいことがあります。
次のように、出来事と現在の関係を分けて伝えてください。
「長男とは十二年前から連絡を取っておらず、現在の住所も知りません。最後に会った際、今後は連絡しないでほしいと言われました」
「姉とは親の相続をめぐって裁判になり、それ以来七年間連絡していません。姉へ援助を求めれば、再び強い非難を受けるおそれがあります」
「以前、娘から生活費を借りましたが返せていません。娘にも子どもがおり、これ以上の援助は期待できません」
厚生労働省の運用上、一定期間、例えば十年程度の音信不通で交流が断絶している場合や、借金・相続問題・絶縁などによる著しい関係不良がある場合は、「扶養義務の履行が期待できない者」と判断できる例に挙げられています。
十年に達していなければ必ず照会される、という意味ではありません。期間だけでなく、連絡を取らなくなった経緯や、連絡による影響も個別に見られます。
DVや虐待がある場合は、家族関係より先に安全を伝えます
家族へ知られることが、単なる気まずさではなく危険につながる場合があります。
元配偶者に居場所を知られたくない。親から長年暴力を受けてきた。成人した子どもに通帳や年金を取り上げられている。連絡が行けば、家へ押しかけられるおそれがある。
この場合は、窓口で最初に次のように伝えてください。
「家族への連絡によって暴力や居場所の特定につながるおそれがあります。扶養照会を行わず、連絡先や住所が相手に伝わらない方法で手続きを進めてください」
扶養を求めることで本人の自立を明らかに妨げると認められる場合は、扶養照会を控える取扱いがあります。DVや虐待は、その例として厚生労働省の通知に明記されています。
安全上の事情を口頭で話しにくければ、短いメモを渡しても構いません。
- 連絡してほしくない家族の氏名と関係
- 過去に受けた暴力・脅迫・虐待
- 現在知られてはいけない住所や電話番号
- 安全に連絡を受けられる時間と方法
- 警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談歴
現在暴力を受けている、家に戻れない、家族が追いかけているなど差し迫った危険があれば、生活保護の手続きより110番・119番を優先してください。
同居家族に秘密で申請したいときは、世帯の実態を隠さず話します
同じ家に住む配偶者や親族へ知られず、自分の分だけ生活保護を受けたいと考えることもあります。
生活保護は原則として世帯単位です。同居して生計を一つにしている場合は、同居家族の収入、預貯金、保険、不動産なども含めて判断されます。
そのため、同居家族へ完全に秘密のまま調査や家庭訪問を進めることは難しい場合があります。
ただし、住民票が同じかどうかだけで、必ず同じ世帯と判断されるわけではありません。実際に食費や家賃をどう負担しているか、生活を一緒にしているかなども見られます。
同居していても、次のような事情がある場合は具体的に伝えてください。
- 配偶者から生活費を渡されていない
- 家庭内別居で、食事や家計を完全に分けている
- 介護のため同居しているが、親子の収入は別に管理している
- 暴力や経済的支配があり、通帳を自由に使えない
- 近く別居する予定だが、住居を確保できていない
「夫と同居していますが、生活費を渡されず、私名義の収入も管理されています。夫に知られると危険があるため、安全に申請する方法から相談したいです」
世帯を分けて保護できるかは、福祉事務所が個別の生活実態を確認して判断します。家族を住民票から外す、住所だけを変えるといった方法を先に取るのではなく、実際の暮らしを説明してください。
「相談」と「申請」は同じではありません
窓口へ行っただけで、生活保護の審査が自動的に始まるわけではありません。
相談では、生活状況を聞き、年金、失業給付、生活福祉資金など、ほかに利用できる制度がないかを検討します。
生活保護の正式な判断を求める場合は、申請の意思を明確に伝えます。
「制度の説明を聞くだけではなく、今日、生活保護を申請したいです」
申請後は、家庭訪問などによる生活状況の調査、預貯金・保険・不動産等の資産調査、収入や年金の調査、扶養の可能性の調査などが行われます。
生活保護を受けられるかどうかは、原則として申請日から十四日以内に決定されます。調査に時間を要する特別な理由がある場合は、最長三十日となることがあります。
申請中に食費、住まい、薬がない場合は、決定を待てる状態ではありません。
「申請結果が出るまでの食費がなく、必要な薬も買えません。今日利用できる支援を確認したいです」
このように、切迫している期限を同時に伝えてください。
書類がそろっていなくても、申請を後回しにしません
申請時には、世帯の収入や資産が分かる資料を求められることがあります。
- 本人確認書類
- 預貯金通帳や口座の入出金記録
- 給与明細、年金額が分かる通知
- 賃貸借契約書や家賃の領収書
- 保険、不動産、自動車に関する資料
- 医療費、公共料金、借金などの支出資料
しかし、必要な書類が全部そろっていなくても申請できます。
家族が通帳を持っている、身分証明書をなくした、避難してきたため何も持ち出せなかった場合も、その事情を伝えてください。
「通帳と身分証明書を家族が保管しており、取りに戻ると危険です。現在持っている資料で申請し、不足分の確認方法を教えてください」
書類を取りに戻るために危険な家へ行ったり、家族へ申請を告げたりする必要はありません。
扶養照会が行われても、家族に援助が強制されるわけではありません
扶養照会を受けた家族には、援助できるか、連絡や訪問などの支援が可能かを尋ねる書類が送られることがあります。
一般的な扶養照会は、家族へ直ちに生活費の支払いを命じるものではありません。
家族が住宅ローン、子育て、介護、病気などを抱え、援助できないと回答することもあります。家族が援助できないという理由だけで、申請者が生活保護を受けられなくなるものではありません。
一方、実際に家族から定期的な仕送りを受けている場合は、収入として申告します。
照会を避けたい場合は、単に「恥ずかしいから嫌です」で終わらせず、家族の生活状況と関係性を伝えてください。
「息子は三人の子どもを育て、妻の介護もしています。私への継続的な援助は期待できず、連絡によって親子関係が悪化するおそれがあります」
扶養照会を行うかどうかの最終判断は福祉事務所が行いますが、本人の事情を聞かずに判断するものではありません。
電話・郵便・家庭訪問で家族に知られない方法を先に決めます
別居家族への扶養照会だけでなく、自宅へ届く郵便や電話から知られる可能性もあります。
窓口で、次の点を先に尋ねてください。
- 福祉事務所から電話を受けて安全な時間帯
- 留守番電話へ用件を残してよいか
- 封筒の差出人名はどのように表示されるか
- 郵便を受け取れる安全な住所があるか
- 家庭訪問を受けられる曜日と時間
- 家族が電話へ出た場合、何と伝えるか
「家族が電話に出る可能性があります。留守番電話には用件を残さず、平日の午前中に私の携帯へ連絡してください」
希望した方法に必ず対応できるとは限りませんが、安全やプライバシーに関わる事情は、連絡が始まる前に伝える必要があります。
DVや虐待が関係する場合は、一般的な郵便方法の希望としてではなく、居場所を守るための安全上の事情として説明してください。
家族へ知られないことだけで、食事や受診を諦めないでください
家族へ知られる心配は現実的な問題です。
それでも、残金がほとんどない、家賃を滞納している、必要な治療を受けられない状態で、扶養照会の心配だけを理由に申請を遅らせると、生活の立て直しがさらに難しくなります。
次の状態では、家族連絡の扱いを話し合いながら、申請自体は先へ進めてください。
- 今日か明日の食事を買えない
- 住まいを失う日が迫っている
- 電気、ガス、水道が止まり生活できない
- 薬や受診費を用意できない
- 家族から暴力や金銭の取り上げを受けている
今日は「連絡してほしくない家族」と理由を一文にします
今夜、親族全員の住所や収入を調べる必要はありません。
最初に、最も連絡してほしくない家族を一人だけ決め、その理由を一文にしてください。
「別居する長男とは十二年間音信不通で、連絡すると強い非難を受けるおそれがあるため、扶養照会を希望しません」
危険が関係する場合は、次の形に変えます。
「元夫に現在の居場所を知られると危険です。電話、郵便、扶養照会を含め、安全な連絡方法から相談したいです」
次に、住んでいる地域の福祉事務所を一か所だけ調べ、電話番号と受付時間を保存します。
家族へ知られずに進められるかを自分だけで判断する必要はありません。まず事情を記録してもらい、誰にどのような調査が必要になるのかを聞いてから、申請を進められます。














