午前の診察なのに、家へ戻ると夕方になっている
朝八時に親御さんを迎えに行き、着替えを待つ。車へ乗せ、病院の駐車場を探し、受付を済ませる。
診察は十時の予約でも、呼ばれるのは十一時を過ぎることがあります。
医師の説明を聞き、会計を待ち、薬局へ寄って、親御さんを自宅まで送る。自分の家へ戻る頃には、もう夕方です。
診察そのものは十分ほどだったのに、一日が終わっている。
月に一回なら何とかできても、内科、眼科、整形外科と受診が重なると、仕事の休みが足りません。親御さんから「あなたが一緒でないと心配」と言われれば、断りにくさもあります。
付き添いたい気持ちはある。けれど、毎回は続けられない。
この二つは矛盾しません。
通院付き添いの負担を減らすには、家族が行くか、行かないかの二択にせず、家を出るところから帰宅までを分けて考えます。
「付き添い」を六つに分けると、家族でなければできない場面が見えてきます
家族が一日付き添っていても、そのすべてに家族の判断が必要とは限りません。
| 通院で行っていること | 代わりに検討できる方法 |
|---|---|
| 着替え、持ち物、服薬の準備 | 訪問介護、同居家族、前日の電話、持ち物の定位置化 |
| 玄関から車までの移動と乗降 | 通院等乗降介助、福祉タクシー、介護タクシー |
| 病院までの送迎 | 一般タクシー、福祉タクシー、地域の移送支援、家族の交代 |
| 院内の移動、受付、トイレ | 病院スタッフ、条件を満たす訪問介護、保険外の付き添い支援 |
| 医師の説明を聞き、質問する | 本人の同意を得た電話参加、事前の質問メモ、説明書の受け取り |
| 会計、薬の受け取り、帰宅 | 自動精算、処方箋送信、薬局の配送、家族との役割分担 |
例えば、親御さんが一人で診察を受けられるものの、歩行と乗り降りだけが難しいなら、家族が待合室で何時間も待つ必要はないかもしれません。
反対に、移動は一人でできても、医師の説明を理解し、薬の変更を覚えることが難しいなら、必要なのは送迎より診察時の情報共有です。
「通院に付き添えない」とまとめず、「移動・院内介助・医師の説明・会計のうち、どこで家族が必要か」を分けると、代わりの手段を探しやすくなります。
家族が必要な理由を、親御さんの状態から見直します
付き添いを減らしたいと伝えると、「一人で行かせるつもりなのか」と受け取られることがあります。
しかし、支援を変えることは、親御さんを放っておくことではありません。
次のうち、どの理由で付き添っているのかを見ます。
- 歩行や車への乗り降りに介助がいる
- 車いすや酸素など、移動時に扱う物がある
- 認知症などにより、院内で迷う可能性がある
- 聴力や視力の低下で、説明を受け取りにくい
- 医師へ症状をうまく伝えられない
- 薬の変更や次回予約を覚えられない
- 治療方針について本人だけでは判断しにくい
- 病院へ行くこと自体に強い恐怖がある
「高齢だから付き添う」では、必要な支援が分かりません。
「玄関の段差で支えが必要」「診察後に薬の変更を忘れる」という場面まで具体的にすると、ケアマネジャーや病院へ伝えやすくなります。
介護保険の通院介助は、送迎から診察終了まで全部を任せられる制度ではありません
要介護認定を受けている親御さんでは、訪問介護の「通院等乗降介助」などを利用できる場合があります。
ヘルパーが運転する車への乗車・降車を助け、乗車前後の移動や受診手続きなどを行う支援です。
ただし、「家族が仕事で行けない」という理由だけで自動的に利用できるわけではありません。
親御さんの心身の状態から介助が必要であり、ケアプランへ位置付けられることなどが条件になります。
また、介護サービス部分の自己負担とは別に、車の運賃、待機料、機材使用料などがかかる場合があります。
事業者へは、次の内容を分けて聞いてください。
- 自宅の中から介助してもらえるか
- 階段や車いすに対応できるか
- 受付までか、診察終了まで付き添うのか
- 院内での待ち時間はサービスに含まれるか
- 介護保険の自己負担と、全額自己負担になる費用
- 帰りの時間が読めない場合の予約方法
- 当日キャンセルの料金
「介護タクシー」という呼び方だけでは、サービス内容を判断できません。
車両による移送だけなのか、ヘルパーによる介助が付くのか、院内も同行するのかを確かめる必要があります。
院内での付き添いは、病院とケアマネジャーの両方へ聞きます
病院へ到着した後も、受付から診察室までの移動、トイレ、検査室への移動などに介助が必要な方がいます。
院内介助は、基本的には病院側のスタッフによる対応が考えられます。ただし、病院の人員や設備、親御さんに必要な見守りの内容によって、対応できる範囲は異なります。
まず、受診先の患者相談窓口、地域連携室、受付などへ聞いてください。
「母は院内を一人で移動できず、トイレにも介助が必要です。家族が毎回同行できない場合、病院内でどこまで支援を受けられますか」
病院で継続した対応が難しい場合でも、親御さんに院内介助が必要な心身状態があり、ケアプラン上の必要性が認められるなどの条件を満たせば、訪問介護として扱える場合があります。
一律に利用できるわけではなく、自治体の運用や個別のケアマネジメントも関係します。
ケアマネジャーへは、
「送迎だけでなく、院内で迷うことと、トイレ介助が必要なことが負担です。病院側で対応できる範囲を確認したうえで、ケアプランに通院介助を位置付けられるか検討してほしいです」
と、必要な場面を伝えます。
診察室へ家族が入る目的は、本人の代わりに全部答えることではありません
親御さんの診察で、家族が医師の質問へすべて答えていることがあります。
短時間で説明するためには効率的でも、親御さんが自分の症状や希望を話す機会がなくなることがあります。
家族が同行する日は、本人が話しにくい部分を補う役割に絞ります。
受診前に、次の三点を短くまとめてください。
- 前回受診後に変わった症状
- 薬を飲めているか、副作用と思われる変化があるか
- 今回、医師へ聞きたいこと
「最近どうですか」と聞かれて、親御さんが「特に変わりません」と答えても、転倒や食欲低下があったなら、その事実だけを補います。
「本人は変わらないと言っていますが、今月は二回転び、夕食を残す日が増えています」
家族の意見と、親御さん本人の言葉を分けて伝えると、医師も状況を把握しやすくなります。
診察だけ電話で参加できないか、受診先へ事前に尋ねます
送迎をほかの人へ頼めても、治療方針や薬の説明は家族も聞きたい場合があります。
病院によっては、本人の同意と病院側の運用を踏まえ、診察時に家族が電話で説明を聞いたり、質問を伝えたりできることがあります。
すべての医療機関で対応できるわけではないため、当日突然電話を渡すのではなく、予約時に尋ねてください。
「本人は家族への情報共有に同意しています。家族が送迎には同行できませんが、診察の時間だけ電話で説明を聞くことはできますか」
電話参加が難しい場合は、本人に渡せる説明書、診療後の連絡方法、事前質問を受け付けられるかを聞きます。
遠方の家族は、予約、質問メモ、受診後の記録などを担当できます。
現地へ行けないから何もできない、ということではありません。
毎回通院する以外の方法が、親御さんの状態に合うこともあります
病気や身体の状態によって通院が難しくなっている場合は、現在の主治医へ訪問診療の対象となり得るか尋ねる方法があります。
訪問診療は、家族の送迎が大変という理由だけで選ぶものではありません。疾病や傷病のため通院が困難な方に対し、医師が計画的に自宅などを訪れて診療する仕組みです。
急な体調変化を受けて医師が自宅へ出向く往診とは、役割が異なります。
「歩行が難しくなり、通院のたびに本人の体調が悪化します。今後も外来通院を続けるべきか、訪問診療を検討できる状態か教えてください」
このように、通院の困難さを主治医へ伝えます。
一部の診療をオンラインで行える医療機関もありますが、オンライン診療は対面診療と適切に組み合わせることが基本です。症状や診療内容によっては利用できず、医師が適切でないと判断する場合もあります。
検査や処置が必要な受診を、家族の都合だけでオンラインへ置き換えることはできません。
月に三回の通院を、一人の家族へ固定しないことです
通院付き添いは、近くに住む人へ集まりやすい負担です。
遠方のきょうだいからは、車で病院へ連れて行くだけに見えるかもしれません。
実際には、予約、薬、会計、帰宅後の食事まで含め、半日から一日かかることがあります。
家族で分けるときは、付き添う回数だけでなく、工程を分担します。
- 近居する家族:玄関から病院までの移動
- 遠方の家族:予約変更、事前質問、受診記録の共有
- 別のきょうだい:薬の受け取りや配送手配
- 家族全員:タクシーや保険外サービスの費用分担
兄弟へ頼むときは、
「付き添いを手伝って」
ではなく、
「来月は内科と眼科で二日休む必要があります。内科の付き添い、眼科の予約変更、タクシー代の負担のどれかを担当してほしいです」
と、選べる役割を示します。
仕事を休む場合は、有給休暇だけでなく介護休暇も確かめます
対象となる家族が、法律上の「要介護状態」にあるなどの要件を満たす場合、通院の付き添いに介護休暇を利用できることがあります。
介護休暇は年次有給休暇とは別の制度で、対象家族が一人の場合は年五日、二人以上の場合は年十日まで取得でき、原則として一日または時間単位で利用できます。
休暇中に賃金が支払われるかは、勤務先の規定によります。
人事や上司へは、親御さんの病名を細かく説明するより、利用したい制度と時間を伝えます。
「要介護状態の父の通院付き添いが必要です。介護休暇を時間単位で利用したいので、申請方法と賃金の扱いを教えてください」
通院回数が多く、介護休暇だけでは足りない場合は、勤務時間の調整、残業の制限、介護サービスの導入などを組み合わせます。
介護休業は、通院のたびに長期間自分が介護するためだけでなく、仕事と介護を両立できる体制を整える期間として使う考え方があります。
親御さんが「家族以外は嫌」と言うときは、何が嫌なのかを聞きます
介護タクシーやヘルパーを提案しても、親御さんが拒むことがあります。
知らない人に身体を触られるのが嫌なのか。お金がかかるのが心配なのか。家族に見放されたように感じるのか。
理由によって、伝え方は変わります。
「もう付き添えないから、これからは一人で行って」
ではなく、
「診察の説明を聞くことは続けたい。ただ、毎回の送迎まで一人で担うと仕事を続けられないので、次回だけ車への乗り降りを手伝う人に来てもらい、一緒に試したい」
と伝えます。
最初から一日すべてを任せず、家族も同席した状態で送迎だけ試す方法があります。
それでも本人が拒む場合は、「家族以外を使わないなら、どの診療へ家族の同行を残すか」を一緒に決めてください。
家族が無理を続けることだけを解決策にしないことです。
受診を先延ばしにしてはいけない状態は、通常の付き添い調整と分けます
定期受診の日程や送迎方法は、数日かけて組み直せます。
一方、次のような急な症状がある場合は、次回予約や介護タクシーを待たず、医療機関や119番へ連絡することを優先します。
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い
- 突然、片側の手足が動かしにくくなった
- 強い胸の痛みや呼吸困難がある
- 転倒して頭を打ち、様子が普段と違う
- 水分が取れず、ぐったりしている
- 薬を飲めない状態が続き、症状が悪化している
判断に迷う地域では、救急相談窓口が設けられている場合がありますが、利用できる番号や時間帯は地域によって異なります。
ケアマネジャーには「付き添いが大変」より、一回の流れを伝えます
支援を変えたいと思っても、何と話せばよいか分からず、次回の面談まで我慢する家族がいます。
次のように伝えてください。
「母の通院が月二回あり、一回につき家を出てから帰宅まで四時間かかります。歩行介助、院内での見守り、医師の説明を聞くことが必要です。家族が毎回仕事を休めないため、送迎だけ、院内介助だけなど、分けて利用できる支援を検討したいです」
まだ介護認定を受けていない場合は、親御さんの居住地を担当する地域包括支援センターへ同じ内容を伝えます。
地域包括支援センターでは、介護保険の申請や地域で使える移動支援について案内を受けられます。
ただし、地域包括支援センターが直接送迎や付き添いをする場所とは限りません。親御さんに合う制度や事業者へつなぐ総合窓口として利用します。
次回の予約票を見て、家族が必要な場面を一つだけ外します
今日、通院予定をすべて組み直す必要はありません。
次回の予約票を開き、次の中から家族以外へ任せられそうなものを一つ選んでください。
- 自宅から病院までの送迎
- 受付から診察室までの移動
- 会計と薬の受け取り
- 予約変更と事前質問の連絡
- 診察説明の電話共有
選んだら、ケアマネジャーか病院へ、次の一文を伝えます。
「家族が毎回すべてを担うことが難しくなりました。次回は〇〇の部分だけ、家族以外の支援へ替えられるか教えてください」
一日分の付き添いを一度に手放す必要はありません。
送迎だけ。薬だけ。診察時の電話だけ。
家族が本当に必要な場面を残し、それ以外を少しずつ外へ渡すことで、付き添いは続けられる形へ変えられます。















