「今日中に払わないと困る」と言われても、その場で振り込まないでください
成人した息子や娘から、突然「借金がある」と打ち明けられた。
金額を聞くと、「たぶん百万円くらい」「何社か分からない」「今月だけ払ってくれれば何とかなる」と、はっきりしない答えが返ってくる。
机の上には、開けられていない請求書が何通もある。スマートフォンには知らない番号から着信が続き、本人は「会社へ連絡されたら仕事を辞めることになる」と青ざめている。
親としては、まず今日の督促を止めてやりたいと思うでしょう。
一方で、腹立たしさもあります。
「なぜ、ここまで黙っていたのか」
「何に使ったのか」
「育て方を間違えたのだろうか」
「助けなければ、この子の人生が壊れるのではないか」
責めたい気持ちと、守りたい気持ちが交互に出てきます。
けれども、全体が分からないまま一社だけ返済しても、別の借金や後払いが残っていれば問題は終わりません。親が支払った翌日に、子どもがまた借りることもあります。
最初に必要なのは、お金ではありません。
今、何が起きているかを隠さず出してもらうことです。
成人した子どもの借金を、親が当然に返すわけではありません
成人した子どもが本人名義で借りたお金について、親であるという理由だけで、親が当然に返済義務を負うものではありません。
ただし、次のような場合は話が変わります。
- 親が保証人または連帯保証人として契約している
- 親が共同で借りる契約をしている
- 親名義で借入れやカード契約をしている
- 親のカードや名義が使われている
- 親自身が債権者へ返済を約束した
保証契約は、主な債務者が支払わないときに、保証人が代わりに支払う義務を負う契約です。連帯保証人は、主な債務者に支払能力があるかどうかにかかわらず、請求を受ける可能性があります。
「名前を貸すだけ」「絶対に迷惑をかけない」と言われても、書類へ署名する前に、借入額、保証する範囲、期間、上限を確かめなければなりません。
最初の夜に確かめるのは、借金の理由ではなく六つの事実です
「何に使ったの」と問い詰めると、本人は言い訳を始めるか、黙り込むことがあります。
使い道を聞くことは必要ですが、先に期限のある事実を扱います。
| 確かめること | 本人に見せてもらうもの |
|---|---|
| 借入先 | カード、契約書、アプリ、メール、請求書 |
| 現在の残高 | 今月の請求額ではなく、未返済の合計残高 |
| 毎月の返済額 | 各社の返済予定表、引き落とし履歴 |
| 滞納の有無 | 督促状、催告書、利用停止通知 |
| 次の期限 | 支払日、回答期限、裁判所への提出期限 |
| 保証人・担保 | 契約書の保証人欄、担保に関する記載 |
本人の「全部で五十万円くらい」という言葉だけで判断しないでください。
クレジットカードのリボ払い、キャッシング、カードローン、スマートフォン決済、後払い、奨学金、家賃、税金、個人からの借金などが別々に残っていることがあります。
本人へ最初に伝える言葉
「今すぐ怒るために聞くのではないよ。ただ、全体が分からないままお金を出すことはできない。今日は、借入先と残高と期限だけを一緒に見せてほしい」
「何に使ったかは、その後に聞く。まず裁判所からの書類がないか、封筒を全部出してほしい」
「全部話してもらえない間は、返済の肩代わりも保証人になることもしない」
この三つを伝えれば、親が助けを拒絶しているのではなく、助け方に条件を付けていることが分かります。
裁判所から届いた封筒は、普通の督促状と分けてください
請求書の中に、裁判所からの「特別送達」と書かれた封筒、支払督促、訴状、口頭弁論期日呼出状などがないかを見ます。
裁判所から届いた書類は、怖くても開けずに放置しないでください。
例えば支払督促は、債務者が受け取ってから二週間以内に異議を申し立てない場合、手続きが進み、強制執行につながる可能性があります。
| 届いている物 | 親子で行うこと |
|---|---|
| 通常の請求書・督促状 | 借入先、残高、期限を一覧にして相談へ持参する |
| 内容証明郵便 | 差出人、請求内容、回答期限を読み、捨てずに保管する |
| 裁判所からの支払督促 | 受取日を記録し、書類一式を持って早めに法律相談へ連絡する |
| 訴状・呼出状 | 期日や答弁書の期限を確かめ、無視せず裁判所や法律相談へ確認する |
| 差押えに関する書類 | 本人だけで判断せず、その日のうちに法律相談先を探す |
親が書類を代わりに読んでも、手続きの当事者は原則として成人した子ども本人です。
本人に隠して親だけで処理するのではなく、一緒に受取日と期限を書き込みます。
借入総額が分からないときは、本人の信用情報も確かめます
子ども本人が借入先を覚えていない、カードを何枚持っているか分からない場合は、通帳やメールだけでは全体を拾えないことがあります。
本人は、信用情報機関へ情報開示を申し込み、自分名義のクレジットやローンの契約内容、残高、支払状況などを確認できます。
主な信用情報機関には、CIC、日本信用情報機構(JICC)、全国銀行個人信用情報センターがあります。登録される取引の範囲が異なるため、借入先に応じて確認します。
親が子どもの情報を無断で取り寄せるのではなく、本人が申し込むか、正式な委任手続きが認められる方法を利用してください。
本人のスマートフォンを勝手に開く、パスワードを使って本人になりすますといった方法は避けます。
信用情報に表れない個人間の借金、税金、家賃、違法業者からの借入れなどもあるため、開示結果だけで「これが全額」とは限りません。
借金の種類によって、急ぐ理由と相談先が変わります
| 借金・未払いの種類 | 特に見ること | 対応の考え方 |
|---|---|---|
| クレジット・消費者金融・銀行ローン | 残高、金利、返済額、滞納、借入件数 | 全体を出したうえで、多重債務相談や法律相談へつなぐ |
| 家賃・公共料金 | 退去、停止、保証会社からの請求に関する期限 | 住まいと生活を守る支払いを優先し、事業者へ早めに連絡する |
| 税金・社会保険料 | 督促、差押え予告、納期限 | 自治体や年金事務所などへ、本人が分納や猶予の可否を尋ねる |
| 友人・交際相手からの借金 | 借用書、振込履歴、返済約束、脅しの有無 | 感情だけで処理せず、記録を残して法律相談を検討する |
| ギャンブル・課金による借金 | 返済後も同じ行動が続く可能性 | 借金の相談と、依存に関する家族相談を並行する |
| SNSの個人間融資・ヤミ金融 | 高額な利息、裸の写真、勤務先や家族への脅し | 相手の指示どおり支払わず、警察や消費生活センターなどへ早急に相談する |
借金を一つにまとめるため、別の業者から新たに借りる方法は慎重に考えなければなりません。
金利が下がっても返済期間が延び、支払総額が増える場合があります。また、返済のために借入れを繰り返す状態では、新しいローンより先に債務相談が必要です。
親が支払う前に「今回だけで終わる根拠」を尋ねます
子どもから「あと三十万円だけあれば終わる」と言われると、払って終わらせたくなります。
けれども、次の質問に答えられないなら、今回で終わる根拠はありません。
- 借入先をすべて出しているか
- 残高は書類やアプリで確かめたか
- 毎月の収入と生活費はいくらか
- 借金をした原因は今も続いていないか
- 返済後にカードや借入枠を再び使わない仕組みがあるか
- 本人が自分で相談を申し込む意思があるか
親が立て替える前に、本人へこう伝えます。
「払えるかどうかを決める前に、あなたが相談窓口へ電話して、返済方法を聞いてほしい。私は一緒に行くことはできる。でも、全体が分からないまま代わりに返すことはしない」
この言葉は、見放すためではありません。
借金を作った本人が、書類を集める、電話をする、説明を聞くという役割を持つためです。
親ができる援助と、引き受けない方がよいことを分けます
| 親ができる援助 | 慎重にしたいこと |
|---|---|
| 封筒や明細を一緒に分類する | 借入総額が不明なまま一社だけ完済する |
| 相談窓口へ同行する | 子どもの代わりに事情を隠して話をまとめる |
| 当面の食料や交通費を現物で支える | 使い道を決めず現金を繰り返し渡す |
| 家計表を一緒に作る | 親の通帳、年金、老後資金を丸ごと差し出す |
| 一定期間、自宅で生活を立て直す条件を話す | 保証人や連帯保証人になる |
| 相談日や支払期限を一緒に確認する | 本人に内緒で債権者へ返済の約束をする |
生活が止まりそうな場合に、食料を渡す、相談へ行く交通費を出すなど、用途を限定した助け方はできます。
それでも現金を渡す場合は、返す必要のない援助なのか、親から子への貸付けなのかを曖昧にしない方がよいでしょう。
貸すのであれば、金額、日付、返済方法を書面に残します。ただし、返済できない状態の子どもへ親が貸し付けても、借入先が親に変わるだけになる可能性があります。
親自身の住宅費、医療費、介護費、老後の生活費を削ってまで支払う方法は避けてください。
親の役割は、借金を消すことではなく、本人が全体を明らかにし、相談し、生活を立て直す過程から逃げないよう支えることです。
子どもが「相談だけは嫌だ」と拒むときは、親のお金の線を先に決めます
本人が明細を出さない。相談へ行かない。それでも「今日払って」と親へ頼む。
この場合は、説得を続けるより、親がしないことを伝えます。
「借入先と残高を見せない間は、お金を出しません」
「保証人にはなりません」
「私たちの年金や家を担保にして返済することはしません」
「相談へ同行すること、食事を支えることはできます」
子どもが怒るかもしれません。「親なのに助けないのか」と言われることもあります。
しかし、本人が事実を出さないまま親だけが返済すれば、借金を隠しても最後は親が払うという形が残ります。
親が境界を決めることは、子どもを見放すことではありません。これ以上、親子ともに問題へ巻き込まれないための対応です。
債権者から親へ電話が来ても、支払う約束はしないでください
子どもが親の電話番号や実家の住所を連絡先として登録していると、債権者から親へ電話や郵便が届くことがあります。
電話が来たら、相手の会社名、担当者名、連絡先を記録します。
そして、親が保証人や契約者でない場合は、次のように伝えます。
「本人の借入れについて、私は保証人でも契約者でもありません。私から支払う約束はできません。本人への連絡方法については、本人と確認してください」
慌てて子どもの勤務先、現在地、収入、家族構成を詳しく話す必要はありません。
正規の貸金業者による取立てでは、債務者や保証人以外の第三者へ、みだりに返済を要求することは禁止されています。
親へ繰り返し支払いを迫る、脅す、近所や勤務先へ借金を言いふらすなどの行為があれば、日時、番号、会話を記録し、日本貸金業協会、金融庁が案内する窓口、警察などへ伝えます。
返済が難しいときに考えられる手段は一つではありません
借金の解決というと、自己破産だけを思い浮かべる方がいます。
実際には、収入、財産、借入総額、住宅の有無などにより、任意整理、特定調停、個人再生、自己破産などが検討されます。
| 方法 | 一般的な特徴 |
|---|---|
| 任意整理 | 弁護士や司法書士などが債権者と交渉し、返済条件の変更を目指す。必ず合意できるとは限らない |
| 特定調停 | 簡易裁判所が債務者と債権者の話し合いを仲介する |
| 個人再生 | 裁判所を通じて債務を減額し、再生計画に沿った返済を目指す。利用には条件がある |
| 自己破産 | 返済困難な場合に裁判所へ申し立て、免責を得ることを目指す。財産や借入原因など個別事情の確認が必要 |
どの方法が合うかは、借金額だけでは決まりません。
親が一つを選んで押しつけるより、本人が書類を持って相談し、利点と不利益を聞いて決めます。
相談時の第一声
「成人した子どもに複数の借金があることが分かりました。親が保証人かは確認中です。本人の借入先、残高、滞納、裁判所の書類をまとめています。親が返済する前に、本人が取れる方法を知りたいです」
本人がまだ電話できない場合は、親だけで一般的な進め方を尋ねても構いません。ただし、正式な債務整理や契約内容の開示では、原則として本人の意思や手続きが必要になります。
借金の原因が残っているなら、完済だけでは再発を防げません
収入減、病気、離婚、失業などが重なり、生活費のために借りた場合は、返済方法と生活の立て直しを一緒に考えます。
一方で、ギャンブル、オンラインゲーム、買い物、投資などを繰り返し、返済してもまた借りている場合は、借金の処理だけでは足りないことがあります。
- 使った金額を何度も隠す
- 返済のために別の業者から借りる
- 親が返した後、すぐ借入れを再開する
- 損失を取り戻そうとして、さらに賭ける
- カードや借入れを止めると激しく怒る
- 仕事、住まい、食事より支出を優先する
この場合は、多重債務相談と並行して、精神保健福祉センターなどの家族相談を利用する方法があります。
新しい借入れを抑える貸付自粛制度もありますが、成人の場合は原則として本人からの申告が必要です。親が本人になりすまして申し込むことはできません。
親は、本人の同意が得られない段階でも、家族としての接し方やお金を渡す範囲について相談できます。
「死んだ方がまし」と言われたら、借金の話をいったん止めます
追い詰められた子どもが、「もう終わりだ」「消えたい」「死んだ方が楽だ」と口にすることがあります。
そのときは、「借りた自分が悪い」「脅しているだけ」と片づけないでください。
借金額や返済方法の話はいったん止め、今、自分を傷つけるつもりがあるか、具体的な方法を考えているかを尋ねます。
今すぐ危険がある、連絡が途切れた、薬や刃物を持っているなど切迫した状態では、本人を一人にせず、110番や119番へ連絡します。
借金は解決方法を探せます。命を失ってからやり直すことはできません。
今日は「いくら必要?」ではなく「裁判所からの封筒はある?」と聞いてください
子どもの借金を知った直後は、親も落ち着いて考えられません。
今夜、すべての原因や返済方法を決める必要はありません。
最初の質問を一つだけにします。
「裁判所から届いた封筒はある?」
なければ、次に借入先の分かる封筒、カード、アプリの画面を一か所へ集めます。
そして、親も一つ決めてください。
「全体が分かるまで、返済も保証も約束しない」
怒りや情けなさが消えてから動く必要はありません。その気持ちがあるままでも、書類を集め、期限を見て、相談の予約はできます。
親の貯金で借金を見えなくするのではなく、本人が問題を見られる状態を作る。
それが、成人した子どもを突き放さず、親の暮らしも守る最初の助け方です。
















