親の問題が「介護だけ」に見えないとき、入口は一つで構いません
離れて暮らす母へ電話すると、冷蔵庫に同じ食品がいくつも入っていると言う。電気料金の封筒は開けておらず、昨日は浴室で転びかけたらしい。
病院へ連れて行く話なのか、介護保険を申請する話なのか、それともお金の管理を手伝うべきなのか。娘である自分が通帳を預かってよいのかも分かりません。
こうしたとき、最初からすべての窓口を調べる必要はありません。
親御さんの生活には、健康、介護、住まい、お金、家族関係が重なっています。問題を一つに決められない状態そのものを、地域包括支援センターへ伝えられます。
「母の物忘れ、支払いの遅れ、転倒が同時に気になっています。何から対応すればよいか分かりません」
この一言が入口になります。
迷ったら、親御さんの住所を担当する地域包括支援センターへ連絡します
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。介護だけでなく、保健医療、介護予防、生活上の困りごと、権利擁護、家族介護者の負担などを扱います。
本人が要介護認定を受けていなくても、利用中の介護サービスがなくても相談できます。
本人だけでなく、配偶者、子ども、きょうだい、近所の方などから連絡することも可能です。家族が遠方に住んでいる場合も、相談するのは原則として親御さんが暮らす地域のセンターです。
地域によっては、「高齢者あんしんセンター」「地域ケアプラザ」「高齢者支援センター」など、別の名称が使われています。
見つからない場合は、市区町村の代表電話へ次のように聞いてください。
「母が住む地域を担当する地域包括支援センターにつないでください」
どの制度を使うか決まっていなくても相談できます。地域包括支援センターの役割は、本人と家族の話を聞き、必要な窓口や支援へつなぐことです。
悩みごとに、最初に連絡する窓口を分けます
地域包括支援センターは便利な入口ですが、すべての申請や診断、法律判断をそこで完了できるわけではありません。
困っている内容がはっきりしている場合は、次の窓口へ直接連絡しても構いません。
| 困っていること | 最初の相談先 | そこで確かめること |
|---|---|---|
| 介護が必要か分からない、要介護認定を申請したい | 地域包括支援センター、市区町村の介護保険担当課 | 申請方法、認定調査、結果前に利用できる支援 |
| 物忘れ、同じ話、道迷い、性格の変化がある | 地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センター | 受診先、家族の接し方、認知症初期集中支援チーム等の利用 |
| 退院後の生活や在宅医療が心配 | 病院の患者相談窓口、地域連携室、医療ソーシャルワーカー | 退院支援、在宅医療、介護申請、医療費や生活上の問題 |
| 年金だけでは家賃や食費が足りない | 自立相談支援機関、福祉事務所 | 家計、住まい、利用できる給付、生活保護を含む生活維持の方法 |
| 通帳、支払い、福祉サービスの手続きが難しくなった | 地域包括支援センター、市区町村社会福祉協議会 | 日常生活自立支援事業、見守り、成年後見制度を検討する必要性 |
| 訪問販売、定期購入、不要な工事、詐欺が疑われる | 消費生活センター、消費者ホットライン188 | 解約方法、契約書、支払停止の可能性、事業者への伝え方 |
| 相続、借金、保証、成年後見など法律判断が必要 | 法テラス、弁護士会などの法律相談 | 本人や家族の権利、期限、必要書類、依頼した場合の費用 |
| 年金額、未支給年金、遺族年金について知りたい | 年金事務所、ねんきんダイヤル | 加入記録、請求手続き、必要書類、代理相談の条件 |
| 暴力、介護放棄、年金の取り上げなどが疑われる | 地域包括支援センター、市区町村の高齢者虐待担当 | 本人の安全、家族介護者への支援、分離や見守りの必要性 |
この表は、「必ずその窓口だけへ行く」という意味ではありません。
たとえば、認知症の疑いと訪問販売の被害が同時に起きているなら、地域包括支援センターと消費生活センターの両方が関係します。最初に連絡した窓口へ、ほかの問題も隠さず伝えてください。
市役所、地域包括支援センター、ケアマネジャーの役割は異なります
高齢者の支援でよく聞く三つの窓口は、似ているようで役割が違います。
市区町村の担当課
要介護認定の申請、介護保険料、保険証、給付、自治体独自の高齢者支援など、行政手続きを扱います。
申請書を提出したい、制度上の対象者か確かめたい場合の窓口です。
地域包括支援センター
何が問題なのか定まっていない段階から、高齢者本人と家族の生活全体を見ます。
介護認定の申請支援、認知症、見守り、金銭管理、虐待、家族の介護負担などを聞き、必要な機関へつなぎます。
ケアマネジャー
主に要介護認定を受け、自宅で介護サービスを利用する方のケアプランを作り、事業所との調整を行います。
すでに担当ケアマネジャーがいる場合は、本人の体調変化、家族の限界、サービスへの不満をまず伝えられます。まだ担当者がいない場合は、地域包括支援センターか市区町村から始めます。
物忘れの相談は、診断名を決めてから行く必要はありません
同じ物を何度も買う。約束を忘れる。昼夜が逆転する。以前はできていた支払いが滞る。
こうした変化があっても、認知症とは限りません。薬の影響、体調不良、うつ状態、聴力の低下などが関係することもあります。
家族が診断名を決めず、起きた出来事を伝えてください。
「この一か月で、同じ食品を三回買い、電気料金の封筒を開けなくなりました。本人は困っていないと言っています」
地域包括支援センターは、必要に応じてかかりつけ医、認知症疾患医療センター、認知症初期集中支援チームなどとの連携を検討します。
突然ろれつが回らない、片側の手足が動かない、意識がおかしいなど、急に生じた症状は認知症相談を待つ状態ではありません。119番などの救急対応を優先します。
通帳を預かる前に、本人がどこまで判断できるかを見ます
親御さんが支払いを忘れるようになると、家族は「通帳とカードを全部預かった方が安全だ」と考えます。
しかし、本人の説明や同意なしに財産を動かすと、親子間の不信や、きょうだい間の争いにつながることがあります。
まず、困っている範囲を分けてください。
- 請求書の内容は理解できるが、支払いを忘れる
- 銀行へ一人で行けない
- 福祉サービスの申込みを理解しにくい
- 高額な契約を繰り返している
- 誰にいくら渡したか分からなくなっている
本人が支援内容を理解して契約できる状態なら、市区町村社会福祉協議会などが窓口となる日常生活自立支援事業を利用できる場合があります。福祉サービスの利用援助や、日常的な金銭管理などを支援する制度です。
契約内容を理解すること自体が難しく、預貯金、不動産、相続など重要な法律行為を継続して支える必要がある場合は、成年後見制度も選択肢になります。
成年後見制度は、家族が自由に財産を管理できるようにする制度ではありません。本人の権利を守るための制度であり、開始後は家族の都合だけで終了できないため、地域包括支援センターや自治体の権利擁護窓口で必要性を確かめてから進めます。
契約被害は、相手へ連絡する前に188へ聞きます
親御さんの家に高額な健康食品が積まれている。屋根工事や給湯器交換の契約書が見つかった。電話で勧められた商品が毎月届いている。
この場合は、事業者へ感情的に抗議する前に、契約資料を保管します。
- 契約日と商品・工事の内容
- 事業者名、住所、電話番号
- 契約金額と支払方法
- 契約書、領収書、広告
- 電話、メール、メッセージの記録
- 商品を開封・使用したか
消費者ホットライン「188」へ電話すると、居住地域の消費生活センターなどにつながります。相談は無料ですが、通話料金はかかります。
「82歳の母が訪問販売で屋根工事を契約しました。契約日は昨日で、まだ工事前です。解約できる可能性と、業者へ何と伝えるべきか聞きたいです」
現金を取りに来る、今すぐ振り込むよう脅されている、家に居座っているなど差し迫った状況では110番を優先します。
虐待かどうか断定できなくても、見た事実を伝えられます
怒鳴り声が聞こえる。体にあざがある。介護を担う家族が、食事や薬を与えなくなっている。本人の年金が家族に使われ、本人には生活費が残っていない。
「家族にも事情がある」「虐待と決めつけてよいのか」と迷うことがあります。
窓口へ伝える段階で、家族が虐待かどうかを判定する必要はありません。
「虐待かは分かりませんが、父の腕にあざがあり、同居家族が薬を渡していないと本人から聞きました」
見たこと、聞いたこと、いつ起きたかを地域包括支援センターや市区町村の担当へ伝えてください。
高齢者虐待への対応では、本人の保護だけでなく、介護を担う家族が限界に達していないかも扱います。家族を罰するかどうかだけを決める窓口ではありません。
年金だけで生活できないときは、介護相談だけで終えません
高齢者の生活問題は、介護サービスだけでは解決しないことがあります。
家賃を滞納している。食費がない。医療費を払えず受診を控えている。電気やガスが止まりそう。この場合は、地域包括支援センターへ伝えると同時に、自治体の自立相談支援機関や福祉事務所も候補になります。
「母の介護だけでなく、今月の家賃と食費が足りません。使える制度をまとめて確認したいです」
最低限の生活を維持できない状態では、生活保護を含めた支援を福祉事務所へ相談できます。必要書類が全部そろうまで連絡を待つ必要はありません。
年金の金額や未支給年金、遺族年金そのものについては、地域包括支援センターでは決定できません。年金事務所やねんきんダイヤルへつないでもらうか、直接問い合わせます。
遠方の家族は「心配です」より、変化と日付を伝えます
親御さんの近くに住んでいないと、日常の状態を直接確かめられません。
そのため、電話では漠然とした心配だけでなく、分かっている事実を並べます。
「母は82歳で、〇〇市△△町に一人で住んでいます。要介護認定はありません。六月から同じ話が増え、七月十日に電気料金の未払いが分かりました。昨日は浴室で転びかけたと話しています。娘は県外在住です」
伝える項目は、次の五つです。
- 本人の年齢と居住地
- 一人暮らしか、同居家族がいるか
- 最近起きた具体的な変化
- 介護認定、通院、利用中サービスの有無
- 今日・今週中に対応が必要な危険や期限
本人の同意がない場合、家族であっても窓口から個別の支援内容を詳しく教えてもらえないことがあります。
それでも、家族から情報を伝え、一般的な対応や本人への声のかけ方を聞くことはできます。
本人が相談を拒むときは、「生活を取り上げる話」にしません
親御さんへ「地域包括支援センターに相談する」と伝えると、「施設へ入れられる」「通帳を取り上げられる」と警戒されることがあります。
本人の困っている場面へ戻して話してください。
「介護が必要だと決める話ではないよ。お風呂で転ばず、家で暮らし続ける方法を聞きたい」
「通帳を預かりたいのではなく、支払いを忘れたときに使える手助けがあるか聞きたい」
本人が拒んでいても、家族だけで先に窓口へ相談できます。
ただし、暴力、詐欺、重大な金銭被害、火の不始末、行方不明など安全に関わる問題では、本人の納得を待ち続けない方がよい場合があります。その線引きを家族だけで決めず、起きた事実を窓口へ伝えてください。
「担当外です」と言われたら、次の窓口名まで聞きます
勇気を出して電話したのに、「それはここではありません」と言われると、もう一度説明する気力がなくなることがあります。
そこで電話を切る前に、次の三つを聞いてください。
「担当する窓口の正式名称と電話番号を教えてください」
「そちらから転送や引継ぎはできますか」
「次の窓口では、最初に何と伝えればよいですか」
自治体によって組織名や担当範囲は異なります。最初の窓口を間違えたことは失敗ではありません。次へつながる情報を受け取れれば、その電話には意味があります。
今日は親御さんの住所で、地域包括支援センターを一か所だけ探します
今夜、介護、認知症、年金、法律の窓口をすべて調べる必要はありません。
親御さんが住む市区町村名と「地域包括支援センター」を検索し、住所を担当するセンターを一か所だけ見つけてください。
電話番号と受付時間を保存し、明日伝える一文を用意します。
「一人暮らしの母について、物忘れ、支払いの遅れ、転倒が重なっています。介護認定はなく、家族は遠方です。最初に何を確認すればよいか相談したいです」
最初の電話で、すべての問題が解決するわけではありません。
それでも、家族だけで問題名を決める状態から、地域の支援者と優先順位を決める状態へ移れます。今日は、その一本を選ぶところまでで十分です。














