親からの電話を切ったあと、夫婦の間だけ空気が重くなる
離れて暮らす母が、また家の中で転びました。
幸い大きなけがはありませんでしたが、一人暮らしを続けてよいのか心配です。
あなたは配偶者へ、「しばらくうちで一緒に暮らせないかな」と話します。
すると、返ってきたのは思っていたより強い言葉でした。
「簡単に同居と言わないで」
「昼間に世話をするのは結局、私でしょう」
「施設も考えた方がいい」
あなたも言い返します。
「自分の親だったら、そんな言い方をする?」
「まだ一人でできることも多いのに、施設なんて早い」
「家族なのだから、少しくらい助けてくれてもいいでしょう」
話しているうちに、転んだ母のことより、夫婦のどちらが冷たいかという争いになっていきます。
反対の立場もあります。
夫が「父を自宅で見たい」と言う一方、実際の食事、洗濯、服薬、通院付き添いは妻が担う前提になっている。妻が難しいと伝えると、「親を見捨てるのか」と責められる。
親を大切にしたい気持ちと、自分たちの生活を守りたい気持ちは、どちらも自然です。
問題は、その二つを「親を取るか、配偶者を取るか」という二択にしてしまうことです。
意見の違いに見えて、実際には「怖い未来」が違うことがあります
夫婦の一方は在宅介護を望み、もう一方は施設や外部サービスを望む。
表面上は介護方法の違いですが、その奥にある心配は別かもしれません。
| 口に出た言葉 | 隠れているかもしれない気持ち |
|---|---|
| 「家族で見るべきだ」 | 親を施設へ入れたら、見捨てたように感じて後悔しそう |
| 「施設へ入ってもらった方がいい」 | 同居後に自分へ介護が集中し、仕事や健康を失うのが怖い |
| 「お金をかけすぎだ」 | 子どもの学費や夫婦の老後資金が足りなくなるのが心配 |
| 「あなたは何も分かっていない」 | 通院や緊急対応を一人で担い、孤立している |
| 「親の希望をかなえてあげたい」 | 元気だった頃の約束を破りたくない |
| 「もう家では無理」 | 夜間対応や排せつ介助で、家族が倒れるところまで来ている |
| 「あなたの親のことでしょう」 | いつの間にか自分が介護の実務担当にされることへ抵抗がある |
言葉だけを反論すると、相手はさらに強い言い方になります。
「どうしてそう考えるの」と問い詰めるより、「一番心配なのは何?」と聞く方が、夫婦で扱える問題へ変わります。
三つの決定を一つに混ぜない
親の介護について夫婦で話すときは、すべてを二人の多数決で決めるわけではありません。
誰が中心になって考える事柄なのかを分けます。
| 決めること | 中心になる人 | 夫婦で共有する理由 |
|---|---|---|
| どこで、どのように暮らしたいか | 親本人 | 本人の希望を実現できる条件と危険を一緒に考えるため |
| 夫婦の家で同居するか | その家で暮らす夫婦 | 生活空間、家事、仕事、子育て、夫婦関係へ直接影響するため |
| 誰が日常介護を担うか | 実際に担う人を含む家族 | 本人の同意なしに役割を割り当てないため |
| どの介護サービスが必要か | 親本人と家族、ケアマネジャーなど | 心身の状態と生活環境に合う支援を組み立てるため |
| 医療上、どの対応が必要か | 親本人と医療者 | 医学的な説明を受け、本人の意向を基に考えるため |
| 夫婦の家計からいくら負担できるか | 夫婦 | 住宅費、教育費、老後資金など共同生活へ影響するため |
親本人の希望は中心に置きます。
ただし、「家で暮らしたい」という希望があっても、配偶者へ同居介護を強制できるという意味ではありません。
本人の希望をかなえるために必要な介護量、住環境、費用、外部支援を出し、その条件を満たせるかを考えます。
今夜決めることと、今夜決めなくてよいことを分ける
転倒、退院、認知症の症状などがきっかけになると、夫婦は一晩で今後すべてを決めようとします。
けれど、急いで決める必要があることは一部です。
| 決定の種類 | 具体例 | 進め方 |
|---|---|---|
| 今日の安全に関わること | 今夜一人にできるか、食事や薬はあるか、転倒後の受診が必要か | 安全を優先し、必要なら医療・介護の窓口へ連絡する |
| 数日以内に決めたいこと | 退院直後の滞在先、見守る人、通院、介護申請 | 短期的な仮方針を作る |
| 試してから決められること | デイサービス、訪問介護、配食、短期宿泊 | 一定期間利用し、親と家族の変化を見る |
| 戻しにくい大きな決定 | 同居、施設入所、家の売却、退職 | 費用、本人の希望、家族の限界をそろえてから判断する |
緊急時の仮住まいと、今後ずっと同居することは別です。
「退院後の二週間だけ、家族宅で過ごす」ことに合意しても、そのまま無期限の同居にする必要はありません。
仮の対応には、必ず終了日と見直し日を付けます。
夫婦の話し合いは、疲れ切った夜に始めない
親から何度も電話があった日の夜や、介護から帰った直後は、二人とも余裕がありません。
そこで「今後どうするの」と始めると、これまでの不満まで一緒に出てきます。
話し合いは、できれば昼間に30分だけ時間を取ります。
- 一回の話題を一つに絞る
- 結論が出なくても30分で終える
- 相手が話している途中で解決策を出さない
- 「普通は」「家族なら」という言葉を使わない
- 過去の夫婦げんかを持ち込まない
- 最後に次の行動を一つだけ決める
最初の話題は、「在宅か施設か」のような大きなものにしません。
「今後一か月、誰が何回実家へ行けるか」
「夜間の電話へ、どこまで対応するか」
「ケアマネジャーとの面談で何を聞くか」
このくらいの大きさにします。
意見を言う前に、二人が見ている事実を同じ紙へ置く
親の実子は、病院や実家で起きていることを詳しく知っています。
一方、配偶者には、夫婦の家計や子どもの生活、自分へ増える家事がよく見えています。
どちらか一方の情報だけでは、介護方針を現実的に考えられません。
| 分野 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 親の状態 | 一人でできること、手助けが必要なこと | 食事はできるが、服薬と入浴に見守りが必要 |
| 現在の支援 | 誰が、いつ、何をしているか | 長女が週3回訪問、長男が月1回通院同行 |
| 危険 | 転倒、火、徘徊、服薬、金銭など | 半年で転倒2回、薬の二重服用が1回 |
| 親の希望 | 本人が繰り返し話していること | 自宅にいたい。入浴は手伝ってほしい |
| 夫婦の生活 | 仕事、子育て、健康、住居の条件 | 共働き。高校生の子どもがいる。空き部屋なし |
| 費用 | 親の収入・資産、介護費、家族が出している額 | 年金月額、現在のサービス費、毎月の援助額 |
| 家族の限界 | 続けられないこと、条件があればできること | 夜間介護はできない。月2回の通院同行は可能 |
ここでは、どちらが正しいかを書きません。
「妻は冷たい」「夫は無責任」ではなく、「同居すると、平日日中の介助者がいない」と書きます。
感情を消す必要はありませんが、方針を決める材料と、相手への評価は分けます。
「家で見るか、施設か」ではなく、同じ一週間を比べる
在宅介護を希望する人は、親が家で穏やかに過ごす姿を思い浮かべます。
施設を希望する人は、家族が夜中まで介護し、仕事へ行けなくなる姿を思い浮かべます。
理想と最悪を比べても、話はまとまりません。
同じ一週間を、それぞれの案で書きます。
| 見る項目 | 在宅を続ける場合 | 施設・高齢者向け住まいの場合 |
|---|---|---|
| 朝 | 誰が起床、着替え、服薬を支えるか | 職員がどこまで支援するか |
| 昼 | 一人になる時間、通所・訪問サービス | 食事、活動、見守りの内容 |
| 夜 | 夕食、服薬、排せつ、夜間連絡 | 夜勤体制、緊急時対応 |
| 通院 | 送迎、付き添い、説明を聞く人 | 通院支援の有無と別料金 |
| 費用 | 介護サービス、配食、住宅改修、家族の交通費 | 家賃・入居費、管理費、食費、介護・医療の別料金 |
| 家族の時間 | 訪問回数、緊急対応、家事、連絡 | 面会、通院、契約・金銭管理 |
| 親が続けられること | 近所付き合い、庭、家事など | 外出、趣味、個室での生活など |
| 難しくなったとき | 介護量が増えた場合の次の案 | 介護量が増えても住み続けられるか |
施設を選んでも、家族の役割がゼロになるわけではありません。
在宅を選んでも、家族だけで介護しなければならないわけではありません。
双方の案に残る家族の仕事まで書くと、現実に近い比較ができます。
「あなたの親でしょう」は冷たい言葉ですが、役割の偏りを知らせていることがあります
配偶者から「自分の親なのだから、自分でやって」と言われれば、突き放された気持ちになります。
ただ、その言葉の前に、配偶者がすでに次のことを担っていなかったかも見てください。
- 実家へ持っていく食事を作っている
- 介護のために増えた家事や子育てを引き受けている
- 親からの電話や訪問に対応している
- 通院の日に仕事や予定を変えている
- 介護費を夫婦の家計から出している
- 介護の愚痴を毎晩聞いている
実子である側は、親の介護を配偶者へ当然のように渡さないことが必要です。
一方、配偶者にも無関係ではありません。介護によって夫婦の時間、家計、住まい、子育てが変わるなら、方針について意見を伝える立場があります。
次のように言葉を変えます。
「親の介護の中心は私が担う。ただ、家計と家の使い方は二人に関わるから、できる範囲を一緒に決めたい」
「あなたに介護を任せるつもりはない。私一人でも続けられない部分を、外部サービスや兄弟へ分けたい」
同居は、「部屋があるか」より日常の担当を決めてから
空いている部屋があるからといって、同居介護が可能とは限りません。
親が家に入れば、食事、洗濯、入浴、通院、留守番、生活音、来客、費用などが夫婦の暮らしへ入ってきます。
| 同居前に決めたいこと | 具体的にする内容 |
|---|---|
| 主な介護担当 | 食事、入浴、服薬、通院を誰が担うか |
| 配偶者が担わないこと | 排せつ介助、夜間対応、平日日中の見守りなど |
| 外部サービス | 訪問介護、通所、短期宿泊などをいつから使うか |
| 費用 | 親の生活費、住宅費、食費、介護費の分け方 |
| 生活空間 | 親の部屋、浴室、台所、夫婦や子どもの私的空間 |
| 期間 | 一時的な同居か、長期か。見直す日はいつか |
| 同居を終える条件 | 夜間介護、認知症症状、家族の体調、仕事への影響など |
「同居してから考える」は、実際に介護する人へ負担を先送りすることがあります。
特に、実子は日中仕事へ出て、配偶者が在宅している場合、「家にいる人が見る」という決め方をしないでください。
在宅勤務、短時間勤務、専業で家にいることは、介護を無条件に引き受ける合意ではありません。
費用の話は、愛情の話と分けて数字にする
親へお金を使うことに反対されると、「自分の親を軽く見られた」と感じるかもしれません。
配偶者は、「このままでは自分たちの老後や子どもの進学費用が足りなくなる」と心配しているのかもしれません。
介護費用は、次の順番で一つの表にします。
| 見るお金 | 書く内容 |
|---|---|
| 親本人の収入 | 年金、家賃収入、その他の定期収入 |
| 親本人の資産 | 預貯金、保険、不動産など分かる範囲 |
| 現在の生活費 | 住居、食費、医療、税金、保険、光熱費 |
| 介護にかかる費用 | サービス費、通院、配食、福祉用具、住み替え |
| 家族が負担している額 | 毎月の援助、交通費、立て替え、休業による収入減 |
| 夫婦で出せる上限 | 共同家計から月いくらまで、いつまで出せるか |
親のお金を子どもが管理する場合は、支出と残高を記録し、可能な範囲で親本人や兄弟にも共有します。
夫婦の一方が、配偶者へ相談せず共同の預金から高額な介護費を出すと、介護の問題だけでなく夫婦の信頼の問題になります。
「必要になったら出す」ではなく、月額と期間の上限を決め、超える見込みが出たら再度話します。
配偶者に頼む前に、親の子ども同士で分担を見直す
親に複数の子どもがいるのに、近くに住む一人とその配偶者へ介護が集中する家庭があります。
遠方の兄弟が介護に参加できない理由はあっても、何も担当できないとは限りません。
| 役割 | 遠方でもできること |
|---|---|
| 通院・医療 | 予約変更、医師へ渡すメモ、診察結果の共有 |
| 手続き | 介護保険、施設資料、郵送書類の管理 |
| 費用 | 交通費、自費サービス、日用品の分担 |
| 定期連絡 | 曜日を決めて親へ電話し、予定や服薬を確認する |
| 休日対応 | 月に一度実家へ行き、主介護者を休ませる |
| 緊急時 | 特定の曜日や時間帯の第1連絡先になる |
配偶者へ「家族だから手伝って」と頼む前に、実子同士で何を分けられるかを見ます。
兄弟には、「できるときに手伝って」ではなく、定期的な一つの担当を頼みます。
親の希望は、夫婦のどちらかに都合のよい言葉だけを拾わない
在宅を望む側は、「本人は家にいたいと言っている」と話します。
施設を望む側は、「家族へ迷惑をかけたくないとも言っていた」と話します。
親の言葉は、その日の体調や聞かれ方によって変わることがあります。
次の内容を、できれば夫婦で誘導せず、親本人へ聞きます。
- 今の暮らしで続けたいこと
- 一人で怖いと感じる時間や場面
- 家族へ頼みたいことと、頼みたくないこと
- 自宅で暮らすためなら利用してもよいサービス
- 家での生活が難しくなったら、どこで過ごしたいか
- 治療や介護について相談してほしい人
本人の意思決定を支える際は、本人を話し合いから外さず、必要な情報を分かりやすく伝え、本人の意思やこれまでの価値観を踏まえてチームで考え、内容を記録することが示されています。
もの忘れがある親には、一度に大きな選択を迫りません。
「家と施設のどちらがいい?」ではなく、「昼間だけデイサービスへ行くのはどう?」「夜に一人なのは怖い?」というように、具体的な場面で聞きます。
ケアマネジャーには、夫婦それぞれの「できないこと」も伝える
ケアマネジャーとの面談で、親の状態だけを話している家庭があります。
しかし、介護を続ける家族の仕事、健康、子育て、住まいも、現実的なケアプランを考える材料です。
居宅介護支援では、ケアマネジャーが本人の心身の状態や生活環境に応じたケアプランを作り、サービス事業者や関係機関との連絡・調整を行います。
面談では、次のように伝えます。
「本人は自宅を希望しています。夫はできる限りかなえたいと考えていますが、妻は同居と夜間介護は引き受けられません。夫は平日日中に仕事があります。家族の誰かが無理をしない在宅案と、住み替え案の両方を教えてください」
夫婦で意見が違うことを隠す必要はありません。
むしろ、「妻が反対している」「夫が無理を言う」と評価するのではなく、双方の条件をその場で伝えます。
- 夫ができること、できないこと
- 妻ができること、できないこと
- 仕事や子育てで家を空ける時間
- 夜間対応の可否
- 家計から出せる費用
- 兄弟が担える役割
- 親本人が望んでいること
ケアマネジャーがいないなら、親の地域の窓口へ夫婦で相談できる
まだ介護認定を申請していない、担当ケアマネジャーがいないという場合は、親の住所地を担当する地域包括支援センターへ連絡できます。
地域包括支援センターは市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護予防、保健医療、権利擁護、地域の支援体制づくりなどを担っています。本人だけでなく、家族介護者を含めて支える取組も進められています。
電話では、次のように話せます。
「父の介護方針について、夫婦で意見が合いません。父は自宅を希望していますが、家族だけでは夜間対応ができず、同居も難しい状態です。在宅で使える支援と、住み替えを考える目安を一緒に整理したいです」
どちらの意見が正しいかを判定してもらう場ではありません。
二人だけでは見えなくなっている選択肢や、必要な介護量を第三者と確かめる場として使います。
結論が出ないときは、二週間から一か月の仮方針を作る
在宅介護が可能か、施設が合うかは、話し合いだけでは分からないことがあります。
そこで、戻せる範囲で試します。
| 試す内容 | 見ること | 見直す日 |
|---|---|---|
| 通所サービスを週2回利用する | 親の反応、入浴、食事、家族の時間がどう変わるか | 利用開始から3週間後 |
| 朝夕の訪問支援を入れる | 服薬、食事、転倒への心配が減るか | 一か月後 |
| 短期宿泊を利用する | 親が外泊に慣れるか、家族が休めるか | 利用後一週間以内 |
| 家族宅で短期間過ごす | 同居時の生活動線と家族負担 | 開始前に終了日を決める |
| 施設を見学する | 親が嫌がる理由、費用、生活内容 | 2か所見学後 |
試した結果は、「親が嫌がったから失敗」「配偶者が疲れたから冷たい」と評価しません。
食事、睡眠、転倒、仕事への影響、夫婦の会話、親の表情など、起きた変化を記録します。
仮方針には、やめる条件も書いておく
在宅介護を試すと決めると、「一度始めたら最後まで続けなければ」と感じる人がいます。
開始時に、見直す条件を決めておきます。
- 夜間に一人で外へ出ることが続く
- 転倒や服薬ミスが繰り返される
- 介護する人が眠れない状態になる
- 夫婦のどちらかが仕事を続けられなくなる
- 子どもの生活や安全へ影響が出る
- 怒鳴る、物を投げる、無理に押さえる場面が起きる
- 親本人が今の支援方法を強く苦痛に感じる
- 予定した費用を継続的に超える
これらは、親を施設へ入れるための口実ではありません。
同じ介護方針を続けることが、本人と家族の双方にとって難しくなったと気づくための線です。
相手を動かす言葉より、自分が引き受けられる範囲を伝える
夫婦げんかでは、相手に考えを変えさせようとして言葉が強くなります。
| 対立が深まりやすい言葉 | 代わりに伝えたい言葉 |
|---|---|
| 「自分の親なら同じことを言える?」 | 「親を見捨てるように感じて、私は怖くなっている」 |
| 「施設へ入れたいだけでしょう」 | 「施設を考える理由を、介護量と生活の面から聞きたい」 |
| 「家族なのだから手伝って」 | 「私が中心になる。あなたが引き受けられないことも先に教えてほしい」 |
| 「あなたは親のことしか見ていない」 | 「私たちの生活がどう変わるかも、同じ表で見たい」 |
| 「もう勝手に決める」 | 「今日は結論を出さず、相談先へ聞くことだけ決めたい」 |
| 「絶対に同居は無理」 | 「同居で心配なのは、平日の介護と私的な空間がなくなること」 |
相手の方針を否定する前に、自分ができないことを具体的にします。
「在宅介護には反対」ではなく、「毎日の夕食と夜間対応は引き受けられない」なら、外部支援で補えるかを考えられます。
「施設は嫌だ」ではなく、「本人が一度も見ないまま入所を決めることには反対」なら、見学や短期利用から始められます。
夫婦だけで話すほど傷つけ合うなら、二人だけで解決しない
話すたびに怒鳴り合いになる。相手が数日間口をきかない。親の介護を理由に、過去の夫婦関係まで責め合う。
その状態では、介護方針だけを冷静に決めるのは難しくなります。
次の人へ、話し合いの同席や情報整理を頼めるか聞いてください。
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センターの職員
- 主治医や医療ソーシャルワーカー
- 利用中の介護事業所の担当者
- 家族関係の相談窓口やカウンセラー
第三者へは、「夫を説得してほしい」「妻が間違っていると言ってほしい」と依頼しません。
「本人の希望、必要な介護量、夫婦が担える範囲を一緒に整理してほしい」と伝えます。
支援チームで話す際は、本人の参加を考え、集めた情報や根拠を共有し、話し合った内容を記録しながら見直すことが意思決定支援の考え方として示されています。
医療や看取りの方針まで違う場合は、日常介護と別の日に話す
在宅か施設かという話の途中で、「延命治療はどうする」「最後はどこで過ごす」といった話まで始めると、夫婦も親も受け止めきれないことがあります。
医療や人生の最終段階については、本人が大切にしたいことや望む医療・ケアを、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する「人生会議」という考え方があります。気持ちは変わることもあるため、一度の話し合いで固定せず、何度でも見直します。
日常の介護分担を決める話と、医療・看取りの話は別の時間を取り、必要なら主治医や医療職へ説明を頼みます。
今日そろえるのは、夫婦の意見ではなく「できないこと」です
今夜、在宅か施設かを決めなくて構いません。
夫婦それぞれが紙を一枚ずつ用意し、次の三つを書きます。
- 親のためにできること
- 条件があればできること
- 続けて引き受けることはできないこと
たとえば、こう書けます。
| 区分 | 記入例 |
|---|---|
| できること | 月2回の通院同行、週末の買い物 |
| 条件があればできること | 短期間の同居。ただし平日は通所・訪問支援を利用する |
| できないこと | 夜間の見守り、毎日の排せつ介助、仕事を辞めること |
書き終えたら、相手の「できないこと」を説得して変えようとせず、共通してできることへ丸を付けます。
そのうえで、次のどれかを一つだけ進めてください。
- ケアマネジャーへ夫婦同席の面談を頼む
- 地域包括支援センターへ家族だけで相談する
- 二週間の仮方針と見直し日を決める
- 親本人へ、今いちばん困っていることを一つ聞く
- 兄弟へ定期的な担当を一つ頼む
親の介護方針がまとまらないのは、夫婦のどちらかに思いやりがないからとは限りません。親を守ろうとしている人と、夫婦の暮らしを守ろうとしている人が、違う危険を見ていることがあります。両方を同じ紙に置くことから始めてください。
よい介護方針は、最も献身的に見える案ではありません。
親本人が納得でき、介護する家族が倒れず、夫婦のどちらかへ無断で負担が集中しない案です。
一度で正解を出せなくても、期限を決めて試し、起きたことを見て変えられます。
今日は相手を納得させる日ではなく、二人だけで背負わないための相談先を一つ決める日にしてください。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム・地域包括支援センターについて」:高齢者の総合相談、介護予防、権利擁護、家族介護者支援に関する確認先。
- 厚生労働省「家族介護に直面している方への支援を知りたい」:親の住所地を担当する地域包括支援センターと相談支援に関する確認先。
- 介護サービス情報公表システム「居宅介護支援」:ケアマネジャーによるケアプラン作成と、サービス事業者・関係機関との連絡調整に関する確認先。
- 厚生労働省「意思決定支援について総合的に学ぼう」:本人の参加、支援チームでの情報共有、記録、見直しに関する確認先。
- 厚生労働省「人生会議ポータルサイト」:本人が望む医療やケアについて、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取組の確認先。
















