実家から電話が来るたび、夫婦の空気まで重くなっていませんか
夕食を作り始めたところで、親から「薬がない」と電話が来る。休日に買い物へ出ようとすると、今度は病院から呼ばれる。仕事を早退して実家へ寄り、帰宅したら洗濯物も食器も朝のまま残っている。
疲れているところへ、配偶者からこう言われることがあります。
「また実家に行くの?」
「そこまで全部やる必要ある?」
「きょうだいに頼めばいいじゃない」
「うちの生活まで巻き込まないで」
言っていることの一部は分かる。でも、今困っている親を放っておくこともできない。
「少しくらい支えてくれてもいいのに」
「私の親を邪魔者のように言わないでほしい」
「夫婦なのに、どうして一人で背負わなければならないの」
そんな怒りや寂しさが出てくるのは自然です。
一方で、配偶者の側にも、言葉にできていない気持ちがあるかもしれません。
介護がいつまで続くのか分からない。自分たちの貯金が減るのが怖い。子どもとの時間や休日がなくなっている。義理の親との過去の関係に引っかかりがある。頼まれるたびに、次はもっと重いことを求められそうで身構えている。
この状態で「もっと協力して」とだけ伝えても、双方が想像している協力の中身が違うため、話がかみ合いません。
まず必要なのは、配偶者が親の介護をどこまで担うべきかという結論ではなく、今、夫婦の暮らしに何が起きているのかを分けて見ることです。
「協力してくれない」を四つに分けると、頼む内容が見えてきます
配偶者への不満を一つの言葉にまとめると、「何もしてくれない」になります。
けれども、親御さんの身体介助はしないものの、子どもの夕食は作っている人もいます。実家には行かないけれど、介護費用を家計から出すことには同意している人もいます。
反対に、介護そのものは手伝わなくても、あなたが実家へ行くたびに嫌味を言い、必要な出費まで止めようとする人もいます。
まず、どの協力が足りていないのかを分けます。
| 協力の種類 | 具体的な内容 | 不足すると起きやすいこと |
|---|---|---|
| 親への直接的な介護 | 通院、買い物、食事、排せつ、入浴、見守り、実家への訪問 | あなたに介護作業が集中する |
| 自宅の家事・育児 | 食事、洗濯、掃除、子どもの送迎、留守番 | 実家と自宅の二重生活になる |
| 時間や仕事の調整 | 予定変更、緊急時の対応、勤務調整、休暇取得 | 一人だけが仕事や予定を犠牲にする |
| お金と気持ちの支え | 介護費用の話し合い、話を聞く、判断に同席する | 孤立感や夫婦間の不信感が強くなる |
四つすべてを配偶者に求める必要はありません。
たとえば、義理の親の排せつ介助には抵抗があっても、あなたが実家へ行く日の夕食作りならできるかもしれません。病院への付き添いは難しくても、月に一度、子どもの予定を引き受けることならできるかもしれません。
「介護を手伝って」ではなく、「私が親の病院へ行く水曜日は、夕食と子どもの迎えをお願いしたい」と伝えると、話すべき内容がはっきりします。
配偶者が動かない理由は、親への冷たさだけとは限りません
配偶者の態度を見ると、「私の親を大切に思っていない」と感じることがあります。
実際に思いやりのない言い方をされ、傷ついている方もいるでしょう。ただ、動かない理由を一度分けると、話し合える部分が見つかることがあります。
| 配偶者が感じていること | 表に出やすい言葉 | 話し合うポイント |
|---|---|---|
| 介護が際限なく増えるのが怖い | 「一度やったら、ずっと頼まれる」 | 頼む作業、回数、期間を限定する |
| 自分たちの家庭が後回しになっている | 「また実家を優先するの?」 | 夫婦や子どもの予定を守る日を決める |
| 家計への影響が見えない | 「いくら使うつもりなの」 | 介護に出せる月額上限を決める |
| 義理の親との過去に傷がある | 「私は世話になっていない」 | 感謝や恩を理由に直接介護を迫らない |
| 実のきょうだいが動かないことに納得できない | 「なぜ私がやるの?」 | 先にあなたのきょうだいとの分担を整える |
| 介護の方法が分からない | 「何をすればいいか分からない」 | 一つの作業を具体的に頼む |
| 自分の親の介護も心配している | 「こちらの親のときはどうするの」 | 双方の親に使う時間とお金の基準を決める |
理由を理解することと、冷たい態度を我慢することは別です。
「義理の親の介護はできない」と言うことと、疲れて帰った配偶者を責め続けることも同じではありません。
直接介護を断る意思は尊重しつつ、夫婦の暮らしを維持するために必要な話し合いまで拒む場合は、その点を曖昧にしないようにします。
配偶者に求める前に、夫婦として守る線を決めます
介護が始まると、親の予定が中心になり、夫婦の生活は後回しになりがちです。
しかし、親御さんに必要なことをすべて家族で行おうとすると、必要な介護量が増えるほど家庭の限界を超えていきます。
夫婦で最初に決めたいのは、「親のために何でもする」という目標ではありません。自分たちの生活を壊さずに、どこまで引き受けられるかです。
| 決めておきたい境界線 | 具体例 |
|---|---|
| 実家へ行く回数 | 定期訪問は週1回まで。緊急時以外は追加しない |
| 夜間の対応 | 夜中の呼び出しは、救急・転倒などの場合に限る |
| 介護に使うお金 | 夫婦の家計からは月2万円まで。超える場合は家族会議を開く |
| 仕事への影響 | 一人だけが早退せず、きょうだいやサービスも利用する |
| 子どもの予定 | 学校行事や受験期は、実家の用事を別の方法で補う |
| 夫婦の時間 | 月に数日は実家の予定を入れない日を作る |
| 身体介助 | 配偶者には頼まない、または本人ができる範囲だけにする |
境界線を決めると、親御さんを見捨てるようで苦しく感じるかもしれません。
けれども、できないことを先に決めなければ、足りない部分を介護サービスやきょうだいへつなぐこともできません。
家族が無理をして埋めている間は、周囲から「今の介護で回っている」と見えてしまいます。限界を言葉にすることは、必要な支援を増やすための情報でもあります。
「少しは手伝って」より、一つの行動と期限を伝えます
配偶者に協力を頼むときは、これまでの不満を全部まとめて話さない方が伝わりやすくなります。
「あなたは何もしてくれない」では、相手は過去の行動を探して反論します。
「明日の午後、私が病院へ付き添う2時間だけ家にいてほしい」と言えば、できるかできないかを話せます。
| 避けたい頼み方 | 具体的な頼み方 |
|---|---|
| もう少し介護に協力して | 木曜日の通院中、夕食と子どもの迎えをお願いしたい |
| 私の気持ちも考えて | 解決策を出さなくていいから、今夜10分だけ話を聞いてほしい |
| たまには実家へ行って | 来月、私が家の片づけをしている間だけ一緒に来てほしい |
| お金も出して | 家計から介護費へ出せる上限を、今月中に一緒に決めたい |
| 緊急時くらい動いて | 私と連絡がつかないときだけ、病院からの電話を受けてほしい |
最初に切り出す会話例
「親の介護を同じようにやってほしいわけではないんだ。ただ、今は実家の用事と家のことが重なって、私一人では続かなくなっている。親への介護、自宅の家事、お金に分けて、どこなら協力できるか一緒に考えてほしい」
直接介護を拒まれたとき
「身体の世話を無理に頼むつもりはないよ。その代わり、私が実家へ行く日は夕食をお願いするか、月に一度だけ子どもの予定を引き受けてもらえないかな」
自分の親だから自分でやれと言われたとき
「親の対応の中心は私が担うよ。ただ、私が実家へ行くことで家事や家計に影響が出ている部分は、夫婦の生活の問題として一緒に決めたい」
話すとけんかになるとき
「今日は誰が悪いかを決める話ではなく、来週の通院日に家のことをどうするかだけ決めたい。ほかの話は別の日にしよう」
一度の話し合いで、介護が終わるまでの役割を決める必要はありません。まず次の一週間、次の通院日、今月の費用という短い単位から始めます。
義理の親への直接介護より、自宅側の支えを頼む方が続きやすいことがあります
配偶者に頼める仕事は、親御さんの身体に触れる介助だけではありません。
むしろ、義理の親との関係や介護への慣れを考えると、自宅側の役割を担ってもらう方が現実的なことがあります。
| 役割 | 配偶者へ頼める例 | 無理に頼まない方がよい場合 |
|---|---|---|
| 自宅の維持 | 夕食、洗濯、掃除、子どもの対応 | 配偶者も病気や仕事で余裕がない |
| 送迎 | あなたを実家や駅まで送る、荷物を運ぶ | 長距離運転や介護車両の操作に不安がある |
| 情報の整理 | 予定をカレンダーへ入れる、書類をコピーする | 親御さんの個人情報を共有されたくない事情がある |
| お金の話 | 家計から出せる上限を一緒に決める | 親御さんの通帳管理まで当然に任せる |
| 緊急時 | あなたと連絡がつかない場合の連絡先になる | 24時間いつでも対応する役割を負わせる |
| 親への対応 | 本人が希望する範囲で会話や見守りをする | 排せつ、入浴など抵抗の強い介助を迫る |
配偶者が自宅の家事を担えば、あなたは介護へ集中でき、帰宅後にもう一度家事を始めずに済みます。
それも十分に介護を支える役割です。
親御さんに直接会いに行かないから何もしていない、と決めつけないこと。一方で、家事もお金も気持ちの支えもすべて拒まれているなら、「直接介護をしない」という話だけではありません。夫婦の負担をどう扱うかという問題として伝えます。
実のきょうだいが動かない穴を、配偶者だけで埋めないようにします
自分の兄弟姉妹が介護に関わらず、その分を配偶者へ頼んでいるケースがあります。
遠方に住んでいる、仕事が忙しい、親と折り合いが悪い。きょうだいにも事情はあるでしょう。
ただ、実のきょうだいには何も言えないまま、身近な配偶者だけへ「家族なのだから」と頼み続けると、配偶者の不満は強くなります。
まず、親御さんの介護を次のように分け、きょうだいへも具体的に渡します。
- 通院と病院からの連絡
- 買い物と日用品の補充
- 親への定期電話
- 役所や介護保険の手続き
- 介護費用
- ケアマネジャーとの面談
- 緊急時の連絡
- 主介護者が休む日の交代
遠方のきょうだいでも、親への電話、費用の一部負担、書類の確認、オンラインでの面談参加などはできます。
配偶者へ話すときも、「きょうだいにもこの役割を頼んでいる。そのうえで、私たちの家ではここだけ協力してほしい」と示すと、押しつけられている感覚を減らせます。
夫婦だけで回らない分は、介護サービスを増やす余地があります
配偶者が手伝わないと、ほかに頼る人はいないと思い込みやすくなります。
けれども、親御さんに必要な介護を、あなたと配偶者だけで埋める必要はありません。
すでにケアマネジャーがいる場合は、「家族が対応できる時間」ではなく、「家族が今後も無理なく対応できる時間」を伝えます。
たとえば、次のように具体的に話します。
「週3回実家へ通っていますが、家庭との両立が難しく、今後は週1回が限界です」
「夜間の電話対応が続き、夫婦ともに眠れていません。緊急時の連絡方法と夜の見守りを見直したいです」
「私が通院へ付き添う日は、自宅の子どもの対応ができません。通院支援や別の方法がないか考えたいです」
| 困っていること | 検討する支援の例 |
|---|---|
| 日中一人にできない | デイサービス、訪問介護、見守りサービス |
| 食事の用意が重い | 配食、買い物支援、訪問介護 |
| 夜間や数日間休みたい | ショートステイ、緊急時の受け入れ先 |
| 通院の付き添いが難しい | 介護タクシー、通院支援、医療機関との調整 |
| 服薬や生活管理が難しい | 訪問看護、薬局、ケアマネジャーとの連携 |
| 何を使えるか分からない | 地域包括支援センター、市区町村の介護保険窓口 |
ショートステイは、利用者の生活を支えるだけでなく、家族介護者の身体的・精神的負担を軽くする目的でも提供されています。利用条件や空き状況、費用があるため、ケアマネジャーなどへ早めに希望を伝えます。
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。介護を受ける本人だけでなく、家族介護者も含めて支える必要性が厚生労働省から示されています。配偶者との分担が難しいことも、家庭内の愚痴として隠さず伝えて構いません。
仕事を休む役割も、いつも同じ人でなくてよい場合があります
通院、要介護認定、ケアマネジャーとの面談などは平日に入ることが多く、働いている人には大きな負担です。
介護休暇は、通院の付き添いや介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの短時間の打ち合わせなどにも利用できます。対象家族には配偶者の父母も含まれ、対象家族が一人の場合は年5日、二人以上の場合は年10日まで、原則として一日または時間単位で取得できます。給与が支払われるかどうかは勤務先の規定によります。
また、介護休業は対象家族一人につき通算93日まで、3回に分けて取得できる制度です。厚生労働省は、休業中に一人で介護を抱えるのではなく、介護サービスの手配や家族分担など、仕事と介護を両立する体制を整える期間として活用する考え方を示しています。
ただし、制度上利用できるからといって、配偶者へ休暇取得を強制することはできません。
「私ばかり仕事を休んでいるから、次はあなたが休んで」と決める前に、勤務先の制度、仕事への影響、きょうだいの対応、外部サービスを並べます。
そのうえで、配偶者本人が同意するなら、「ケアマネジャーとの面談だけ参加する」「退院日だけ休暇を取る」といった限定した使い方を考えられます。
配偶者の態度によって、次の一手を変えます
| 配偶者の反応 | 次の進め方 |
|---|---|
| 直接介護は嫌だが、自宅の家事ならできる | 親の介護と自宅の役割を分け、後者を具体的に任せる |
| 何を頼まれているか分からず逃げている | 一回、一つ、期限付きの小さな依頼に変える |
| 家計への不安が強い | 親の収入、介護費用、夫婦の負担上限を数字で共有する |
| 義理の親との過去の関係を理由に拒んでいる | 直接介護は求めず、夫婦の生活への影響だけを話す |
| あなたのきょうだいへの不満が強い | 先にきょうだいの分担表を作り、配偶者へ見せる |
| 介護の話を出すだけで怒鳴る、無視する | 二人だけで決着させず、夫婦相談や自治体の窓口など第三者を入れる |
| 介護費用を理由なく取り上げる、生活費を制限する | 介護分担とは別の問題として、金銭記録を残し専門窓口へつなぐ |
| 双方の親の介護が重なっている | 夫側・妻側を競わせず、二世帯分の介護量を一枚にして外部支援を増やす |
配偶者が協力しない理由が、疲れや不安なら、役割を小さくすることで変わる可能性があります。
一方で、親御さんの病気を笑う、あなたが実家へ行くことを力ずくで妨げる、必要なお金や連絡手段を取り上げるといった行為は、単なる介護への温度差とは別に考えます。
その場合は、親御さんの介護体制を外へつなぐと同時に、あなた自身の生活についても自治体などの相談窓口を利用してください。
介護費用は「親のお金」と「夫婦のお金」を混ぜたままにしません
親の通院費、介護用品、食費、タクシー代を、毎回自分の財布から出している方もいます。
少額のつもりでも、月にまとめると数万円になり、配偶者から「また家計から出したの」と言われることがあります。
お金の衝突を減らすには、親御さん自身のお金で払う費用と、夫婦が援助する費用を分けます。
| 分ける項目 | 見る内容 |
|---|---|
| 親の収入 | 年金、給与、家賃収入など |
| 親の預貯金 | 残高、今後必要となる医療費や住居費 |
| 毎月の介護費用 | サービス利用料、医療費、日用品、交通費 |
| 子どもが立て替えた費用 | 日付、目的、金額、領収書 |
| きょうだいの負担 | 金額、物品、交通、実務など |
| 夫婦の家計から出す上限 | 月額または臨時支出ごとの上限 |
夫婦の共有財産から援助する場合は、金額が小さいうちから知らせます。
反対に、自分の収入や貯金から出す場合でも、そのために住宅費、教育費、老後資金へ影響するなら、「自分のお金だから自由」とは言い切れないことがあります。
親を助けたい気持ちと、夫婦の将来を守ることを対立させず、「月いくらまでなら続けられるか」を決めます。
今日作るのは、配偶者への不満一覧ではなく三つの役割表です
話をする前に、紙を三つに区切ってください。
1.自分が引き受けること
- 親との主な連絡
- 病状や介護状況の把握
- きょうだいへの連絡
- ケアマネジャーとの調整
2.配偶者へ頼みたいこと
- 実家へ行く日の夕食
- 月に一度の子どもの送迎
- 10分だけ話を聞くこと
- 家計から出せる金額を一緒に決めること
- 緊急時だけ連絡を受けること
3.家族以外へ移すこと
- デイサービスや訪問介護
- 配食や買い物支援
- ショートステイ
- 介護タクシー
- きょうだいの担当
- 地域の見守りや民間サービス
配偶者へ見せるのは、2番目の欄だけではありません。
自分も引き受けること、きょうだいやサービスへ移すことを含めて見せます。そうすることで、「全部こちらへ押しつけられる」という警戒を和らげられます。
介護に同じ気持ちで向き合えなくても、夫婦として同じ役割を担えなくても構いません。
目指すのは、親御さんを思う気持ちまで一致させることではなく、誰か一人が倒れず、親御さんに必要な支援が止まらない形です。
まずは次に実家へ行く一日について、自分がすること、配偶者へ一つだけ頼みたいこと、外へ移せることを書いてみてください。「介護に協力して」という大きな話を、その一日を乗り切る具体的な話へ変えるところから始められます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」:地域包括支援センターの役割と家族介護者支援を確かめる際の資料。
- 厚生労働省「介護休暇」:対象家族、取得日数、通院付き添いや手続きへの利用を確かめる際の資料。
- 厚生労働省「介護休業」:対象家族、通算93日、介護体制を整えるための活用方法を確かめる際の資料。
- 厚生労働省「仕事と介護の両立ポイント」:介護保険サービス、職場の制度、ケアマネジャーを組み合わせる考え方の確認先。
- 介護サービス情報公表システム「短期入所生活介護」:ショートステイの目的、対象、費用を確かめる際の資料。
















