親の様子が変わったとき、家族は「どこに電話すればいいのか」で止まります
久しぶりに実家へ行ったら、冷蔵庫に同じ食品がいくつも入っていた。
転んだと言っているけれど、病院へ行くほどなのか分からない。薬が余っている。請求書が未開封のまま積まれている。電話では「大丈夫」と言うのに、会うたびに体が小さくなっている気がする。
こういう場面で、家族はすぐに介護の専門用語を知りたいわけではありません。
知りたいのは、もっと手前のことです。
「これは介護の相談をしていい段階なのか」
「親の住んでいる自治体に聞くのか、自分の住んでいる自治体に聞くのか」
「地域包括支援センターという名前は聞くけれど、何を話せばいいのか」
「いきなり施設の話にされないだろうか」
「仕事を休む前に、何を整えればいいのか」
介護は、始まり方がとても曖昧です。
骨折や入院のように急に始まることもあれば、買い物、服薬、掃除、通院、金銭管理の小さな違和感が積み重なって始まることもあります。
しかも、本人は「まだ大丈夫」と言う。家族は「でも心配」と思う。このすれ違いが、最初のハードルになります。
まず覚えておきたいのは、介護の相談は「要介護認定を受けると決めた人」だけのものではないということです。
まだ介護保険を使うか分からない段階でも、親御さんの生活に心配が出ているなら、相談して構いません。
迷ったときの入口は、親御さんの住所地の地域包括支援センターです
介護の相談で最初に候補になるのが、地域包括支援センターです。
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談、権利擁護、介護予防、地域の支援体制づくりなどを担う機関として、市町村が設置しています。厚生労働省の説明でも、地域包括支援センターは地域包括ケアの中核的な機関とされています。
難しく聞こえますが、家族目線で言えば、「親の生活や介護で、どこに相談していいか分からないときの入口」です。
| 相談したいこと | 地域包括支援センターで話せる例 |
|---|---|
| 親の生活が心配 | 買い物、食事、掃除、服薬、転倒、閉じこもりなど |
| 認知症かもしれない | 受診の進め方、見守り、家族の関わり方 |
| 介護保険を使うべきか分からない | 要介護認定の申請、介護サービスの流れ |
| 家族だけでは限界 | デイサービス、訪問介護、ショートステイ、家族介護者支援 |
| お金や権利が心配 | 成年後見、虐待、消費者被害、財産管理の相談先 |
| どの窓口が合うか分からない | 市区町村、医療、福祉、介護事業所などへのつなぎ |
ここで大事なのは、「自分の家の近く」ではなく、原則として親御さんが住んでいる地域の窓口を探すことです。
遠距離介護の場合、子ども世代は自分の住む市区町村に問い合わせたくなりますが、実際に介護保険や地域サービスにつながるのは、親御さんの住所地の自治体です。
分からなければ、「母は○○市に住んでいます。私は県外に住んでいる子どもです。介護の入口相談をしたいです」と言えば大丈夫です。
地域包括以外にも、状況ごとに向いている窓口があります
介護の相談先は、地域包括支援センターだけではありません。
ただ、窓口が多いからこそ、家族は迷います。
そこで、「親御さんが今どこにいるか」「何に困っているか」で分けます。
| 今の状況 | 最初に連絡しやすい窓口 | 相談内容の例 |
|---|---|---|
| まだ介護サービスを使っていない | 地域包括支援センター、市区町村の介護保険窓口 | 要介護認定、見守り、生活支援、認知症の心配 |
| 介護保険の申請をしたい | 市区町村の介護保険担当課 | 要介護認定申請、必要書類、認定調査 |
| すでにケアマネジャーがいる | 担当ケアマネジャー | サービス変更、通所回数、訪問介護、ショートステイ |
| 入院中・退院が近い | 病院の医療相談室、地域連携室、退院支援担当 | 退院後の生活、介護保険申請、在宅療養、施設相談 |
| 認知症の症状が強い | かかりつけ医、認知症疾患医療センター、地域包括支援センター | 受診、診断、服薬、家族の対応 |
| 悪質商法や契約が心配 | 消費生活センター、地域包括支援センター | 訪問販売、定期購入、不要な契約、解約 |
| 仕事と介護の両立が難しい | 勤務先の人事・労務、地域包括支援センター | 介護休業、介護休暇、働き方の調整、サービス利用 |
| 家族内で介護やお金でもめている | 地域包括支援センター、市区町村、必要に応じて法律相談 | 介護分担、成年後見、経済的虐待、財産管理 |
「どこが正解か」を一発で当てようとしなくても大丈夫です。
最初の窓口で違うと言われても、そこで終わりではありません。多くの場合、「その内容ならこちらへ」と次の窓口を教えてもらえます。
介護の相談は、最初から目的地に直行するというより、駅員さんに乗り換えを聞く感覚に近いです。迷ったら、まず改札で聞く。地域包括支援センターや市区町村は、その改札の役割をしてくれます。
介護保険サービスを使いたいなら、市区町村への要介護認定申請が入口です
デイサービス、訪問介護、ショートステイ、福祉用具など、介護保険サービスを使いたい場合は、要介護認定の申請が必要になります。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、介護保険サービスを利用するには、まず住んでいる市区町村の窓口で要介護認定を申請し、その後、認定調査や主治医意見書、審査判定を経て要介護度が決まる流れが説明されています。
| 流れ | 家族が知っておきたいこと |
|---|---|
| 1. 申請 | 親御さんの住所地の市区町村で要介護認定を申請する |
| 2. 認定調査 | 調査員が自宅や施設などを訪問し、心身の状態を聞き取る |
| 3. 主治医意見書 | 市区町村から主治医へ依頼される。主治医がいない場合は窓口で確認する |
| 4. 審査・判定 | 調査結果や主治医意見書をもとに要介護度が判定される |
| 5. 結果通知 | 原則として申請から30日以内に認定結果が通知される |
| 6. ケアプラン作成 | 要支援なら地域包括支援センター、要介護ならケアマネジャーとサービス計画を作る |
| 7. サービス利用開始 | ケアプランに基づいて事業所と契約し、サービスを使い始める |
ここで家族がつまずきやすいのは、「申請しないと相談できない」と思い込むことです。
実際には、申請前に地域包括支援センターや市区町村へ相談し、「今の状態で申請した方がよいか」「何を準備すればよいか」を聞けます。
親御さんが申請を嫌がる場合も、家族だけで入口相談をすることは可能です。
病院にいる親御さんの相談は、退院前が勝負です
親御さんが入院している場合、介護相談の窓口は少し変わります。
退院後に自宅へ戻るのか、施設を探すのか、介護保険を申請するのか、在宅医療が必要なのか。これらは、退院が決まってから慌てると家族の負担が大きくなります。
病院には、医療相談室、地域連携室、退院支援担当、ソーシャルワーカーなどの相談窓口がある場合があります。
| 退院前に聞くこと | 質問例 |
|---|---|
| 自宅で生活できるか | 一人でトイレ、入浴、食事、服薬はできますか? |
| 介護保険申請が必要か | 退院前に要介護認定の申請をした方がよい状態ですか? |
| 家で必要な準備 | ベッド、手すり、車いす、ポータブルトイレは必要ですか? |
| 通院・訪問診療 | 退院後の受診先や訪問診療はどうなりますか? |
| 家族ができないこと | 仕事があり日中は不在です。どこまで家族対応が必要ですか? |
| 退院日までの段取り | ケアマネジャーや地域包括支援センターにつないでもらえますか? |
退院日が決まってから「家で見てください」と言われると、家族は一気に追い込まれます。
だからこそ、入院中に「退院後の生活が心配です。相談室につないでください」と伝えてください。
遠慮はいりません。退院支援は、家族が根性で何とかするための前座ではありません。
すでにケアマネジャーがいるなら、「困りごとの変化」を最初に伝えます
親御さんがすでに介護サービスを使っている場合、まず相談しやすいのは担当ケアマネジャーです。
ケアマネジャーは、介護サービス計画、つまりケアプランを作る専門職です。介護保険サービスを利用するときは、どのサービスをいつ、どのくらい使うかをケアプランで決める流れになります。
ただし、「何となく大変です」だけだと、必要な変更が伝わりにくいことがあります。
次のように、困りごとの変化を具体的に伝えると話が進みやすくなります。
| 伝えること | 言い方の例 |
|---|---|
| 転倒が増えた | 今月だけで2回転びました。トイレまでの移動が心配です。 |
| 服薬が乱れている | 薬が余っています。飲み忘れがあるようです。 |
| 家族の負担が増えた | 週3回の買い物と通院付き添いが重なり、仕事に影響が出ています。 |
| 認知症症状が強くなった | 夜間の電話が増え、同じ話を何度もします。火の元も不安です。 |
| サービスが合っていない | デイサービスを嫌がるようになりました。別の方法を考えたいです。 |
| 介護者が限界 | 母を見ている父が眠れていません。二人とも倒れそうで心配です。 |
ケアマネジャーに連絡するのは、文句を言うためではありません。
親御さんの状態と家族の限界が変わったことを共有し、サービスの組み替えを考えるためです。
仕事を辞める前に、会社と介護窓口の両方に話を置きます
親御さんの介護が始まると、仕事との両立に悩む方も多くなります。
会社に迷惑をかけたくない。急な呼び出しが増えた。通院付き添いで休みが必要。夜の電話で眠れず、仕事の集中力が落ちている。
こうなると、「もう退職するしかないのでは」と考えてしまうことがあります。
でも、介護離職は慎重に考えたい問題です。
厚生労働省は、介護は突発的に問題が起きやすく、期間や方法も多様であるため、仕事との両立が難しくなることがあるとしたうえで、すぐに退職せず、介護休業制度などを活用して仕事を続けながら介護することを案内しています。
| 困っていること | 相談先 | 伝えること |
|---|---|---|
| 急な呼び出しがある | 勤務先の上司、人事・労務 | 親の介護が始まり、急な通院や手続きがある |
| 介護休業・介護休暇を知りたい | 勤務先の人事・労務、都道府県労働局など | 制度の利用条件、申請方法、給与や給付の扱い |
| 介護サービスを増やしたい | 地域包括支援センター、ケアマネジャー | 仕事中に家族が対応できない時間帯 |
| 遠距離介護で頻繁に帰省できない | 地域包括支援センター、ケアマネジャー | 見守り、配食、訪問介護、緊急時連絡の体制 |
| 退職を考えている | 勤務先、地域包括支援センター、家族 | 辞める前に使える制度やサービスがないか |
会社へ話すときは、最初から詳しい病名や家庭事情を全部話す必要はありません。
「親の介護が始まり、今後、通院付き添いや手続きで休みが必要になる可能性があります。利用できる制度を確認したいです」
このくらいで十分です。
退職届を書く前に、相談先を二つ作ってください。
会社側の窓口と、介護側の窓口です。片方だけでは、仕事も介護も支えきれないことがあります。
電話でうまく話せないときは、5つだけメモしてからかけます
相談窓口に電話しようとして、手が止まる方は多いです。
「何から話せばいいのか分からない」
「忙しい窓口に、こんな曖昧なことで電話していいのか」
「自分の説明が下手で、相手に伝わらなかったらどうしよう」
大丈夫です。
最初から上手に説明できる家族の方が少ないです。介護の電話は、プレゼン大会ではありません。詰まっても、言い直しても、途中で泣きそうになっても、相談はできます。
| メモすること | 書き方の例 |
|---|---|
| 誰の相談か | 78歳の母。○○市で一人暮らし。 |
| 何が起きているか | 転倒が増え、薬の飲み忘れもあります。 |
| いつからか | この2か月で急に増えました。 |
| 家族が困っていること | 私は県外在住で、月1回しか行けません。 |
| 聞きたいこと | 介護保険の申請をした方がよいか、どこに頼めばよいか知りたいです。 |
電話の最初は、この一文で十分です。
「親の介護のことで、どこに相談していいか分からず電話しました。まだ介護保険を使うかも分からない段階ですが、話を聞いていただけますか」
この言い方で、入口は開きます。
本人が相談を嫌がるときは、家族だけで先に聞いてもかまいません
介護相談を進めようとすると、親御さん本人が嫌がることがあります。
「そんな年寄り扱いしないで」
「人の世話にはならない」
「家に他人を入れたくない」
「介護なんてまだ早い」
この言葉にぶつかると、家族は動けなくなります。
もちろん、本人の意思は大切です。
ただ、本人が嫌がるからといって、家族が何も相談してはいけないわけではありません。本人への伝え方、申請のタイミング、受診の進め方、家の安全対策などを、家族だけで先に窓口へ相談することはできます。
| 親御さんの反応 | 家族だけで相談したいこと |
|---|---|
| 介護保険を嫌がる | どのタイミングで申請を考えるか、どう説明するか |
| 受診を嫌がる | かかりつけ医への伝え方、認知症相談の入口 |
| 家に人を入れたがらない | 訪問サービス以外の選択肢、デイサービス、見守り |
| 家族の話を聞かない | 第三者に入ってもらう方法、地域包括支援センターの関わり方 |
| 困っていないと言う | 転倒、服薬、食事、火の元など安全面から相談する |
親御さんを説得しきってから相談する必要はありません。
むしろ、説得で家族が疲れ切る前に、相談先を一つ持っておく方が安全です。
相談後は、「誰が次に動くか」だけ決めれば十分です
介護相談をした後、すべてが一気に解決するわけではありません。
むしろ、次の連絡先、申請、面談、書類、家族への共有など、やることが増えたように感じることもあります。
そのときは、全部を今日やろうとしないでください。
相談後に決めるのは、次の3つで十分です。
- 次に連絡する相手は誰か
- 次に集める書類や情報は何か
- 次に動く担当は家族の誰か
| 相談後に出やすい宿題 | 家族の動き方 |
|---|---|
| 要介護認定を申請する | 親の住所地の市区町村窓口、必要書類、主治医を確認する |
| ケアマネジャーを探す | 地域包括支援センターや市区町村に候補を聞く |
| 病院の相談室へつなぐ | 退院前に家で必要な支援を聞く |
| 家族で分担する | 通院、買い物、書類、電話担当を分ける |
| サービス事業所を探す | 介護サービス情報公表システムや自治体情報を参考にする |
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、全国の介護サービス事業所や生活関連情報を検索できます。サービスを選ぶ段階では、こうした公的な情報も参考になります。
ただし、事業所選びを家族だけで抱え込む必要はありません。
本人の状態、家族の限界、費用、距離、空き状況を見ながら、ケアマネジャーや地域包括支援センターと一緒に考えていきます。
今日できる一歩は、親の困りごとを一文にすることです
介護の相談窓口は、ひとつだけではありません。
地域包括支援センター、市区町村の介護保険窓口、病院の相談室、ケアマネジャー、認知症の医療機関、消費生活センター、勤務先の人事・労務。
窓口が多いと、それだけで気持ちが疲れます。
でも、最初から全部を正しく選ばなくて大丈夫です。
まずは、親御さんの困りごとを一文にしてください。
- 母が一人暮らしで、転倒と薬の飲み忘れが心配です。
- 父の退院が近いのですが、自宅で介護できるか分かりません。
- 認知症かもしれない母が、同じ物を何度も買っています。
- 遠方の親の介護が始まり、何から動けばいいか分かりません。
- 仕事を続けながら介護できるか不安です。
この一文ができたら、親御さんの住所地の地域包括支援センター、または市区町村の介護保険窓口に電話します。
入院中なら病院の相談室へ。すでにサービス利用中ならケアマネジャーへ。仕事との両立が限界なら、勤務先の人事・労務にも話を置きます。
介護は、家族だけでいきなり正解を出すものではありません。
最初の電話は、完璧な解決策をもらうためではなく、次にどこへ進めばいいかを一緒に見つけるための電話です。
親御さんの介護が心配になった時点で、もう入口に立っています。
今日できることは、窓口を全部調べることではありません。親御さんの困りごとを一文にして、ひとつだけ電話番号を控えることです。
そこからで大丈夫です。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」:地域包括支援センターの役割、家族介護者支援、地域包括ケアの考え方を確認できます。
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービス利用までの流れ」:要介護認定の申請、認定調査、主治医意見書、ケアプラン作成、サービス利用開始までの流れを確認できます。
- 厚生労働省「仕事と介護の両立」:介護離職を防ぐための考え方や、介護休業制度などの情報を確認できます。
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」:介護サービス事業所などの情報を探す際に参考になります。
- 介護保険の申請方法、相談窓口名、地域包括支援センターの担当区域、利用できる地域サービス、介護休業制度の社内手続きは地域や勤務先により異なります。実際に利用する際は、市区町村、地域包括支援センター、病院相談室、ケアマネジャー、勤務先の人事・労務担当などで最新情報をご確認ください。














